2023-07-13

若い世代の“フィジタル”なライフスタイルをつくる「ウェアラブルNFT」

過渡期を経て本物が残るデジタルファッションの未来
ゲームなどのデジタル空間で纏うファッションアイテムの販売が好調です。中でもNFTを通じた唯一性を持つデジタルファッション「ウェアラブルNFT」の価格は高騰しており、リアルアイテムと連動した取り組みなども登場して、その価値と将来性が注目されています。

界隈のムーブメントなども含めたウェアラブルNFTの現状と将来性について、国内初のデジタルファッションレーベル「1Block」を手掛ける1SEC(ワンセック)の宮地さんに伺いました。


着る、撮る、遊ぶ。身近に浸透するデジタルファッション

——仮想世界とNFTマーケットに新たな価値を投じてきた「デジタル×ファッション」。ゲーム内のキャラクターに着せるスキンや、VRアバターの見た目をチェンジする衣装、ARアプリで試着できるデジタルデータのドレスなどが、メタバース内での自己表現を拡張するアイテムとして人気を呼んでいます。変遷を簡単に教えてください。

デジタルデータのドレスなどをはじめとする“非物理的なファッション”は2020年頃から人気を集め、欧州を中心に拡大してきました。バーチャルならではの魅力あるクリエーティブが人々の心を捉えたことはもちろん、大量生産・大量消費などの社会課題を抱えるファッション領域において、サステナビリティの実現に寄与する試みとしても歓迎されています。

2020年頃からさまざまなアーティストやブランドがNFTを次々発表。並行して、自己表現の一手段として、革新的なデジタルファッションを求める人が増加  ※2021年11月「これからのファッションを考える研究会」経済産業省による

GUCCIは2021年5月にNFTに基づく映像作品をクリスティーズ主催のオークションに出品。入札開始価格は2万ドル

2021年10月に発表されたDolce & GabbanaによるNFTコレクション「Collezione Genesi」は、9点が総額約6億円で落札

私たちが2021年に発表したバーチャルスニーカー「AIR SMOKE 1(エアスモークワン)」も、発売開始からわずか9分で、5イーサリアム(発売当時で約124万円)で落札されています。

国内初のバーチャルスニーカーブランド「AIR SMOKE ZERO」のデビュー作「AIR SMOKE 1」。ファンは多く、関連するDiscordコミュニティ参加者は1万人を超える

——デジタルファッションにはどのようなタイプがあるのでしょうか。

①「DRESSX」や「METADRIP」、「GUCCI」の公式アプリなど、AR技術を通じて自分が纏っているように見せるもの
②「VRChat」「Fortnite」「ZEPETO」といったゲームやSNSなど特定のプラットフォーム上で、アバターやキャラクターに着せるものの、2つがこれまでの主流でした。

それぞれにNFTが付与されたもの(ウェアラブルNFT)と、そうでないものがあり、複数のプラットフォーム上を横断する形で着用できるデータもあります。「Fortnite」などは2019年の時点でスキン(ゲーム内で着用する衣装やアイテム)の年間売上高が37億ドルに上り、運営するEpic Gamesはその頃から最大級のアパレル企業の一つと言われていました。

2020年に米国でスタートしたDRESSXは、デジタルオンリーの衣服、NFTファッションアイテム、ARルックを扱うメタクローゼット

左は2020年に実施された『あつまれ どうぶつの森』とジェラート ピケのコラボ。右は2021年のFortniteとBALENCIAGAのコラボ。どちらもデジタルデータとリアルアイテムの両方をリリース
※画像左は ジェラート ピケ 公式Instagramより ※画像右は Fortnite 公式サイトより

さらに最近、この流れにデジタルアイテムとリアルアイテムとの連動が加わりました。Tシャツを購入するとNFCなどの物理タグが付いてきてNFTが貰えたり、NFTを購入すると店舗でフィジカル、つまりリアルなアイテムが受け取れたりするもので、“フィジタル(フィジカル×デジタル)”とも呼ばれています。

実物のTシャツに付いているタグから情報を取得。ウォレットへの接続が可能で、最初にタップした人にNFTが付与される

2022年のRTFKT x RIMOWAコラボ。スーツケースのNFTを購入すると、実物のスーツケースも入手可能になるフィジタルなプロダクト。店舗などでのAR体験も提供

アンリアレイジは2023年3月にDecentraland内のアバターに着用できるウェアラブルNFTを発表。購入すると、リアルワンピースのフルオーダーメイドの権利などを獲得できる ※画像はCoincheck公式サイトより

データだけで完結していたデジタルファッションに物理的なアイテムがクロスオーバーすることで、リアルとデジタルの境目はますますシームレスになり、新しい価値を生む流れが拡大しています。


若い層の価値観はすでにNFTネイティブ

——ARやNFTコレクションを通じた販促なども手掛けられています。詳細を教えてください。

2022年12月に、私たちがプロデュースするコレクティブなNFTアイテム「MetaSamurai(メタサムライ)」とBEAMSとのコラボ企画を実施しました。

期間中、BEAMSで貰えるカードや店頭のデコレーションと一緒にARのMetaSamuraiを撮影して、Twitterに投稿すると、抽選で〈BEAMS CULTUART X MetaSamurai〉のNFTが貰える、というキャンペーンです。

デジタルフィギュアコレクション「MetaSamurai」。希少性の高いコラボシリーズのほか、他のNFTピースと融合することで、カスタマイズが可能なシリーズなどもある

ファッションを軸に、コレクティブなNFTを活用したO2O施策。BEAMSのエッセンスの一つである“アメカジ”が取り入れられたデザイン
※画像はBEAMS公式サイトより

結果はBEAMSファンを中心に好評で、キャンペーン中3,000件以上の投稿があり、Twitterのトレンドにも数回登場しました。「ベアブリックっぽくて可愛い」という人、「高額取引されているNFTが貰えるかも」という人、動機はさまざまでしたが、気軽に参加できることもあり、来店促進にも繋がっています

——NFTのユーザーについてお聞きします。今、国内でウェアラブルNFTやウォレットを持っているのは、どのような人々でしょうか。

アートやデジタル関連への感度が高い先駆的な人々ばかりだと思われがちですが、そうでもなくなってきています。前述の「NFT付きTシャツ」のようなアイテムが登場したり、スポーツやアニメのファンに対して運営側がコレクション可能なNFTをプレゼントする、といったケースが増えている影響もあって、一般にもリーチし始めていますね


先行する北米の若い世代、特に10代などと話していても、「NFTでファッションを買いたい」という人は多いですね。彼らはリアルな服にはあまり興味がなくて、「普段着はタイムレス、シーズンレスなTシャツやスウェットでいい」と言います。デジタルファッションのほうがゲームやSNSで友だちと盛り上がれるし、サステナブルだし、洗濯の必要もないし(笑)、将来価値が上がるかもしれない。

環境から見ても、NFTはNIKEにだって売っているし、マーケットプレイスにはスマホからアクセスできる。そんな風に、北米の10代はすでに“NFTネイティブ”で、直感的にその価値を選択しています。今後、「Apple Vision Pro」による空間コンピューティングのような概念が普及して、彼らが大人になる頃にはフィジタルはより多くの人のライフスタイルに定着しているでしょう。

2023年6月に発表され発売が待たれるApple Vision Pro。視界の中に、現実世界と、バーチャルなコンポーネントやマテリアルを同時に捉えられる

暗号資産(仮想通貨)の保有者数を見ても、日本では総人口の4%に相当する499.8万人、世界では4億2,000万人で、うち72%が34歳未満という調査があり、今後もポテンシャルは大きいでしょう(※)。
※2023年5月「Cryptocurrency Ownership Data」Triple-Aによる

ちなみに、我々Web3.0関連ビジネスの周辺では、NFTの売買や暗号資産の送金が日常的に行われています。海外送金の場合、現金ですと数日かかることが多いですが、暗号資産の場合は数秒で完了するなど、利便性の高さは、一度経験すると手放せません

——暗号資産を介さず、現金やクレジットカードで買えるNFTも増えています。この影響をどうご覧になっていますか。

手数料がかかり、暗号資産のメリットである売買のスピード感などが失われます。ただ「今のところ購入しやすい」という点では、NFT保有のすそ野を広げる一助になると思います。

暗号資産については、一定期間の変動のみを切り取られて、ダウントレンドだと評されることもありますが、ビットコインでの支払いに対応する企業は増えています。Web3.0関連ビジネスと経済は拡張しており、あらゆる価値のデジタル化が止まることはありません

2015年から2023年の間にビットコインの価格は173,000%上昇。2019年から2025年にかけての暗号資産市場全体の年間平均成長率は56.4%に上ると予測されている ※2023年5月「Cryptocurrency Ownership Data」Triple-Aによる

身近な企業でも暗号資産による支払いが可能になっている
※2023年5月「Cryptocurrency Ownership Data」Triple-Aによる


ウェアラブルNFTで、日本の伝統文化をグローバルに発信

——今後、ファッションとNFTの世界はどのように成長、拡大していくでしょうか。

NFTは未だ過渡期にあり、メタバースに関連するビジネスなども明暗を分けてきました。一連の流れがインターネットの黎明期と似ているように、デジタルファッションのシーンも、90年代のストリートカルチャーの様相を呈してきました。

ストリートブランドの歴史を振り返ると、2010年代などは全てが右肩上がりではなかったかもしれませんが、近年また「Supreme(シュプリーム)」が世代を問わず人気を獲得するなど、再ブレイクの手応えをつかむブランドは増えています。「粗雑なものが淘汰されて本物が残る」ことは、Web3.0の世界でも証明されていくでしょう。国策としてもWeb3.0には前向きなので、ルール面も都度更新されていくはずです。

——どのようなプロダクトが増えていくでしょうか。

先鋭的なクリエーターやブランドによるプロダクトはもちろん、NFTを地方創生や伝統の継承に繋げる取り組みが増えると考えており、我々もトライしていきたいと思います。先述のO2O施策のようにリアルとバーチャルをシームレスに行き来するフィジタルの機能と、我が国の特性を同時に活かせるからです。

例えば「西陣織を纏ったMetaSamuraiをNFTでグローバルに発信し、保有者には京都に行くと、職人の仕事を間近で見学できる権利を合わせてプレゼントする」といった施策が考えられます。SNSによってプロダクトの魅力を拡散し、国内の伝統に実際に触れてもらう機会も提供できるでしょう。工芸品やテキスタイルだけでなく、城などの観光地や、相撲や歌舞伎といったテーマも、NFTに乗せて発信できると思います。

DRESSX上で暗号資産によっても購入可能な歌舞伎舞踊の名作『藤娘』の衣装(NFT)

NFTとIPとの組み合わせなども、日本の強みを活かせるでしょう。我々も「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」や「LUPIN THE ⅢRD」とのコラボを発表してきましたが、日本には世界中で人気のキャラクターやコンテンツが、他にも山ほど存在します。ウェアラブルNFTは“身に纏うもの”ですから、グローバルでも人気の「コスプレ文化」とも親和性が高いはずです。

まだまだウェアラブルNFTの役割にピンときていないWeb2.0ベースの企業は多いと思いますが、先述したようにこれからの市場を担う若い世代はデジタルファッションを抵抗なくどんどん取り入れていますから、未来を見据えてぜひ少しずつトライしてください。私たちも今後もコラボ事例などをさらに積み重ねることで、どんなジャンルの企業もWeb3.0に参入しやすいようブリッジし続けて、キャズムを確実に越えていきます。

1SEC Founder CEO 宮地洋州(みやじ・ひろくに)さん
SNSやゲーム上の自己表現やコミュニケーションに、欠かせないものとなっているデジタルファッション。キャラクターやアニメなどのコンテンツや、地域に根差した伝統工芸やクラフトの世界とうまく結びつけることで、NFTとしてグローバルに日本の魅力を発信するためのマテリアルとして役立てられるでしょう。
「Apple Vision Pro」のようなデバイスを通じたXR世界の社会実装、ジェンダーレス・タイムレスなファッションやカルチャーの台頭といった面から見ても、海外・国内におけるウェアラブルなNFTの具体的な活用が拡大しそうです。

Written by: BAE編集部

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