2023-06-07

地方創生×NFTの取り組みから見えてくる、長期的な関係づくりのヒント

NFTが地域の「ファン=関係人口」を可視化
NFT(非代替性トークン)の仕組みを取り入れて、地域のファンを増やしたり、地域に関わる人との継続的な関係性を築いたりと、新しい挑戦を始める自治体が次々と現れています。

地方創生×NFTは、まだ取り組みとしては新しい部類となりますが、既に一定の成功を収めている事例も生まれているよう。この発想を横展開すれば、企業が自社のファンを増やしたり、顧客とのエンゲージメントを高めたりする新施策にもつながるかもしれません。NFTによる地方創生に取り組む、株式会社あるやうむのCCO 稲荷田 和也さんにお話を伺いました。


短時間で数百万円の寄付を集める、ふるさと納税NFT

——あるやうむさんでは、ふるさと納税の返礼品にNFTのデジタルアートを採用する自治体の支援を行われています。「ふるさと納税NFT」は御社の中核事業の一つかと思いますが、そもそもなぜふるさと納税×NFTという発想に至ったのでしょうか。

もともと弊社の代表が仮想通貨とまちづくりに関心が高かったという背景があります。彼は実際に仮想通貨のトレーダーも行っていたのですが、どうしても仮想通貨というと投機的な側面が注目されがちでした。そうではなく社会課題、特に地域課題の解決にブロックチェーンの仕組みを取り入れられないかと考える中で、「ふるさと納税×NFT」に着地しました。

——具体的に、「ふるさと納税NFT」がどういったものなのか、教えていただけますか?

具体事例として、弊社が関わった余市町の取り組みを紹介させていただきます。

北海道余市町では、2022年5月に「Yoichi Mini Collectible Collection No.1」として、NFTクリエイターのPokiさんによる、余市町の特産品、ワインをモチーフにした全54種類の作品を一枚あたり12万円の寄付額で提供し、予約受付開始から2時間ほどで100名ほどの方に予約いただきました。また、こちらのNFTには保有者特典がありまして、余市町の希少ワインの優先購入権の抽選に参加する権利が付与されます。

Yoichi Mini Collectible Collection No.1の一例

余市町では、この後も日本国内最大級のNFTプロジェクト「CryptoNinja Partners(以下、CNP)」とのコラボ企画「ふるさとCNP」の提供も行われました。余市の特産品であるワインや名所をモチーフにして描いた背景と、CNPの人気キャラクターの「ルナ」を組み合わせたデジタルアートで、こちらはワインの優先購入権の抽選権利が付与されるだけでなく、実際に余市町を訪れることで、NFTがレベルアップして絵柄が変わるという、観光誘致をはかれる仕組みも実装しています

余市町を訪れると、左から右のようにイラストが変化する

このほか、2022年だけで10の自治体でふるさと納税NFTを実施しており、すべての取り組みで、わずか数分で何百万円もの寄付を集めるという成功を収めています。

――ふるさと納税NFTの寄付者にはどのような方が多いのでしょうか。アンテナの高い、若者が中心になりますか?

寄付者の半分近くが、これ以外にNFTを購入したことがない、つまり純粋に地域を応援したいという気持ちで寄付してくださった方だということがわかっています。

また年齢層としては、若い人が多いかと思いきや、30代、40代、また50代の方も多くいらっしゃいます。この理由に関しては、ある程度ビジネスで成功して金銭的に余裕があり、地方創生に興味を持ち始めるのが、そのぐらいの年齢なのかなということと、仮想通貨ブームを見てこの領域に関心が強い方や、マネーリテラシーが高めの方がNFTに興味を持ちやすいからと考えています。


計測できなかった関係人口をNFTで可視化する

――「ふるさと納税NFT」を導入する自治体は、そもそもNFTに対してどのような期待を抱いているのでしょうか。

3つあると思っています。1つ目は、ふるさと納税ということでやはり寄付を集めたいという期待です。なぜ、NFTが寄付に直結しやすいのか、その理由としては、NFT市場が温まってきているという背景が挙げられます。市場規模は世界で4.5兆円まで拡大し、日本でも政府がNFT政策検討プロジェクトを立ち上げたり、企業やアーティストが積極的に参入したりといった動きが見られます。NFTに注目する方々が多いからこそ、寄付が行われやすいと考えられます。

2つ目が、シティプロモーションに活用したいというインサイト。NFTを通じて地域の名所や名産をPRできるだけでなく、NFTという最先端の取り組みに挑戦している自治体というブランディングにもつながります。

3つ目が、関係人口を増やしたいというインサイトです。関係人口とは移住や観光で訪れた人の数ではなく、地域と多様に関わる人口のことです。もともとNFTには、一人のトップが全体を引っ張るのではなく、みんなでコミュニティを盛り上げるという文化があります。そのため、ファンやコミュニティの形成と相性がいいのと、「ふるさと納税NFT保有者≒関係人口」と捉えることで、関係人口を数値として可視化し、効果的な施策を打つことにもつながります

――自治体の皆さんは、最終的にはNFTを通じて、ファンを増やし、コミュニティを作ることを目標とされているのでしょうか。

必ずしもコミュニティ形成をすべきとは言えないものの、当然一つのゴールにはなり得ると思いますし、実際に興味を持っている職員さんは多い印象です。その成功事例として挙げられるのが、新潟県長岡市の旧山古志村です。山古志というのは、2021年12月に人口800人で、高齢化率55%以上の限界集落なのですが、デジタルの住民票をNFTとして発行するという取り組みで、実際の人口を超える1,000人超の「デジタル村民」、つまり関係人口を形成することに成功しています。

旧山古志村の風景 画像は山古志住民会議プレスリリースより

山古志住民会議の発行するデジタルアート「Nishikigoi NFT」。デジタル住民票を保有することで、地域活性化のプロジェクト会議へ出席したり、「デジタル村民選挙」で投票したりするための権利を有する 画像は山古志住民会議プレスリリースより


地方創生×NFT、NFT×DAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自立組織)の成功事例として、個人的にも以前からかなり注目している取り組みです。DAOとは、ブロックチェーン上で世界中の人々が協力して管理・運営される組織のことで、特定の所有者や管理者が存在せずともプロジェクトや事業などを推進できるという特徴があります。一方でDAOの運営は難易度が高く、モデレーターなどの人材確保に多くのコストがかかります。そのため、DAO×地方創生の機運が熟すのはまだ先のこととなりそうですが、いろいろとやりようがあるというか、面白い試みだと思っています。


NFTは地域や企業への愛を証明するパスポート

――コミュニティづくりはまだ難しくとも、保有者特典を付与することで「寄付して終わり」にならない関係性を構築したり、スタンプラリー的な活用で観光誘致や集客が期待できたり、といった可能性を感じます。NFTを通じて行動変容を促す上で、どのようなインセンティブ設計が必要になるでしょうか。

ふるさと納税NFTを「地域のパスポートとして機能するもの」として捉えていただけるとわかりやすいかと思います。NFTは地域を愛している人間だということを示す証明書であり、そのパスポートを持って地域を訪れれば、さまざまな特典を受けることができる。例えば、特産物を安値で購入できたり、有名温泉地の一番風呂に入ることができたり。

いかに魅力的で、リッチな体験をインセンティブとして設計できるかが、ポイントになってくると思います。

――訪れると絵柄が変わるという仕組みを応用して、訪れる回数が増えることによって、パスポートのレベルが上がり、特典がよりリッチになるといった仕組みも考えられそうですね。

はい。さらに平日に訪れることで、特別な特典が受けられるといったインセンティブを設ければ、観光地の混雑解消や平準化もはかれます。そういった「観光NFT」としての可能性にも、私たちは注目しています。

――「ふるさと納税NFT」は自治体としての取り組みになりますが、例えばこの仕組みを企業によるファンづくりにも応用できそうでしょうか。

もちろん、可能だと思います。既にチャレンジしている企業さんもいると思いますが、例えばその企業のサービスや商品を購入していただいた方におまけとしてNFTを発行する。NFT保有者は特別なコミュニティに参加する権利を有して、そのコミュニティ内でしか得られない情報があったり、割引などの優待を受けられたり、といった施策が可能ですね。

一方、NFTの市場規模は拡大しているとはいえ、一般の方への知名度や、NFTを管理するウォレット開設の難しさなど、課題はあります。ウォレットの仕組みを簡易にしたり、NFTアートも既存のIPとコラボして、多くの人にリーチできるようにしたり、参入のハードルを下げるための取り組みが進めば、普及が加速すると考えています。

株式会社あるやうむCCO 稲荷田和也さん
NFTというと、どうしても投機的な側面に注目が集まりがちですが、地域への愛、地域を応援したいという気持ちの証明としてNFTを捉えるという発想は、画期的なもの。これを「企業やブランドを応援したい気持ち」へと変換することで、マーケティングの世界でも通用する手法にもなり得ます。

NFTという世界に一つのかけがえのないものを通じて、自治体と地域のファン、ひいてはブランドと顧客がつながる、売り買いして終わりにならない関係性を築くという仕組みは、これからの企業のマーケティングや顧客との関係づくりに新しい価値をもたらすでしょう。

Written by: BAE編集部

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