2023-03-10

ファンの熱量や行動をWeb3.0上の価値に換える “推し活×NFT”

エンゲージメントに効くNFTの新たな可能性
若い世代を中心に、消費の一大潮流となっている “推し活(※)” や “ファン活”。二次元、三次元を問わず、コンテンツのキャラクターやアーティストなどを応援する気持ちや行動、またそれらにまつわる自己表現が、ファンであるユーザーとIP・企業とのさまざまなコミュニケーションを実現しています。
※おしかつ=推す活動。何かのファンである事実や、その応援などに時間やお金といったリソースを多く費やすことを指す。「ファン活」「オタ活(ヲタ活)」等と同義。

昨今ではファンダムに向けてNFT付きの特典などを配布し、“推し活” の熱量や価値を高めるソリューションが登場して大きな話題となっています。
ファンたちの活動をサポートし、IPや企業とのコミュニケーションをさらに深めるNFTの効果と可能性とは、一体どのようなものなのでしょうか。

“推し活×NFT” を実践するサービスを展開しているプレイシンクの尾下さんに、Z世代の消費活動の調査・分析を行う電通プロモーションプラスのプランナーチーム「若者消費ラボ」に所属する堀がお話を伺います。


ファンの熱量や行動履歴の価値をNFTで証明する

――活況が続く “推し活” 消費。特にZ世代の多くの若者にとって、推し活はライフスタイルの一部になっています。
プレイシンクでは、推し活に関するどのようなビジネスを手掛けられているのでしょうか。

尾下――簡単に言うと、推し活をしている人をNFTで応援するサービスを展開しています。

2021年の頭くらいにNFTが付加されたデジタルアートの高額落札などが話題になり、世間への認知が広がったことで「NFT=デジタルアート」だと誤解されるケースもありますが、NFT自体は「真偽性と取引記録をブロックチェーン上で未来永劫に渡って証明する仕組み」を持つ暗号キーのことです。

弊社のサービスはこの仕組みを利用して、キャラクター、コンテンツ、スポーツ、アーティスト、クリエーター等のファンの皆さんにNFTを配布し、推し活の証明と価値に繋げるという試みです。

左:「あなたには推しがいますか? もしくはヲタ活をしていますか?」という問いへの回答
右:推し活のジャンルに関する調査(共にn=525)。Z世代の8割が推し活を実施
※2022年7月「Z世代のヲタ活に関する意識調査」SHIBUYA109エンタテイメントによる

「あなたはヲタ活に年間どのくらいお金を使っていますか。公式のグッズやライブ以外にも、ヲタ活や推しのために使っているお金も含めてお答えください。※年間の平均額を教えてください」という問いへの回答(n=423)。
※2022年7月「Z世代のヲタ活に関する意識調査」SHIBUYA109エンタテイメントによる

尾下――松竹株式会社による『Prince Letter⒮! フロムアイドル』(通称・プリエル)のライブに来場されたファンに向けてNFTを配布され、好評だったそうですね。詳細や狙いを教えてください。

そこに来たのが、コロナ禍でした。お店に足を運べなくなったことで、リアル店舗の本質的な価値というものに、生活者も、小売企業も、メーカー企業も気づき、DXに取り組むことになったというのが、ここ2〜3年の潮流なんじゃないかなと考えています。

――ライブの参加証明として、来場者に特典画像付きの無料NFTの配布を実施しました。その時その場所でしか得られない付加価値を受け取ってもらうのが狙いです。

音楽と手紙で紡ぐアイドルプロジェクト「Prince Letter⒮! フロムアイドル」。2022年10月末のライブで参加証明NFTが配布されて話題となった

――NFTの取得というとややハードルが高い感じがしますが、ウォレットの設定などはどうなっていたのでしょうか。

尾下――取得にまつわる手間やコストがかからないよう、来場者ご自身のTwitterのアカウントでログインするだけでNFTを獲得でき、「Polygon(ポリゴン)」というパブリックチェーン上で維持できる「NFTCloak(エヌエフティ―クローク)」という 仕組みを自社で開発しました。

スマホでQRコードを読めばNFTを受け取れるので、当日会場で主催の松竹に配布されたチラシから、ファンの皆さんに気軽に取得してもらうことができました。結果、約6割の来場者に取得され、そのうちの95%はNFTを初めて取得される方でした。

プレイシンクが構築した推し活NFTの受け取り手順。スマホから簡単なステップで取得が可能
※プレイシンク作成資料より

松竹によるチラシでは、作品の世界観に即して「学園関係者NFT」と表現されていて、これも取得率が高かった理由の一つになっていました。
「関係者向けのNFT」が貰えたら、キャラクターたちとの距離がぐっと縮まる感じがありますよね。

――呼びかけ方一つにしても、コンテンツの世界観にハマりたいファンに合わせたクリエーティブになっていて、愛着が増しますね。
事例としてもう一つ、人気のメディアミックスプロジェクト『HIGH CARD』のNFT配布についても教えてください。

尾下――こちらは、Twitterの公式アカウントのフォロー&RTで「応援証明」のNFTを、また、地上波でのアニメ放送をリアルタイム(リアタイ)視聴した方に「視聴証明」となるNFTの配布をそれぞれ行いました。全話を視聴された方へのコンプリート特典も用意しています。

左:公式アカウントをフォローし、「#HIGHCARD_●話_見たよ」のハッシュタグを添えて期間中に対象のツイートを引用RTすると、毎話ごとに視聴証明NFTが獲得できる
右:『HIGH CARD』の視聴証明の保有者は、今後作品に関連するデジタルトレカサービスがリリースされた際にも特典を受けられる予定

アニメやドラマをサブスクでまとめて視聴する方が増えていますが、公式としてはせっかくならリアタイで盛り上がってほしいわけです。

例えば、スタジオジブリの『天空の城ラピュタ』は繰り返しテレビで放映されますが、毎回Twitter上などで “祭” になりますよね。そんな風に、NFT配布をファン同士で愛や感想を語り合うきっかけや理由にしてもらいたい、と考えたものです。

それに、TVアニメというのは放映期間が短いためファンクラブなどを組織しにくいものですが、NFT獲得をインセンティブとしたリアタイ視聴を通じて、エンゲージメントの強化やファンコミュニティの形成に繋げるという新たな狙いもあります。

――これ、貰えたらとっても嬉しいですし、見逃したくなくなりますね。アニメなどの推し活をしている人の中には、SNS等でリアタイ実況をしたり、自分で視聴記録をつけたりする人も多いのですが、“公式から証明を付与される”というアクション自体に価値を感じます。

尾下――まさに、NFTによって推し活に客観的な価値を認めることで、資産化するというのが私たちの取り組みです。

――“推し活のDX” ですね。

尾下――はい。昔からコンサートのチケットの半券や、ファンクラブの若い入会番号などを持っているということは、ファンヒエラルキーの中で価値とされてきました。

最近ではイベント会場にフラスタ(フラワースタンド)を贈ったり、グッズを大量購入して “痛バッグ や “祭壇” を作ったりして、自分の熱量や獲得したものの価値を表現する人もいます。

左:バッジをたくさん付けた「痛バッグ」
右:推しのグッズやビジュアルを大量に並べて空間演出などを行うのが「祭壇」
※Instagramより

これらのアクションをNFTで証明することができれば、「こんなにイベントを応援して、グッズも大切にしている」という事実も熱心さもまとめてデジタルで可視化でき、残すことができます。
それに、リアルな痛バッグは持ち歩くシーンを選びそうですが、NFTならデジタル上でいつでも“ドヤる” ことができます(笑)。

――私自身も推し活には大きなリソースを費やしているのですが、どうしてもモノが増えるので、物理的スペースを取らないというメリットは純粋に嬉しいです。
また、コピー可能な画像をいくら集めても価値にはなりませんが、唯一性のあるもので積み上がったデジタルな祭壇を作れたり、自分のアイデンティティと紐づけたりできたら嬉しいですね。

作品の加工や転用などを防ぐという点でもNFTの有効性が発揮できそうですし、交換したり、売買したりすることも可能になりますよね。

尾下――その通りです。例えば「行けなかった地方のライブの参加証明を譲ってもらう」とか「ファンを卒業する際に『ファンクラブの会員番号003番』という価値を、熱心に活動中だと証明できる別のファンに譲る」といったことも考えられるでしょう。

この仕組みは、NFTを採用したゲームなどですでに実装されていますが、例えば、コンテンツを黎明期から推していた人、特に熱心に推してくれる人などが得をする仕掛けを加えられれば、インセンティブとしてうまくワークできるかと思います。ちなみに、反対にNFTを交換や売買ができない設定で発行することも可能です。

NFTの獲得によってファンエンゲージメントが向上し、推し活をサポートするさまざまなユーティリティー性を発揮できる
※プレイシンク作成資料より

――ファンとIP側とのエンゲージメント、リアタイ視聴やイベント参加を促すインセンティブ、価値そのものの交換や売買など、NFTの上にさまざまなベネフィットが構築できそうですね。

尾下――近しい仕組みを既存のファンクラブのような形で運用することも可能ですが、アプリをダウンロードしてもらいIDを発行するといった方法だと、IP側には開発、データや個人情報の保有といったコストがかかります。

運用が終われば価値が消失するというのも残念なポイントでしょう。その点、Web3.0上での運用であれば、推し活にプラスになる機能や可能性を広げ、ファンもIPもエンパワーメントし続けることができるのです。

企業もNFTを活用したファンとのコミュニケーションに取り組み始めている。米国・Starbucks社は2022年末にNFTを活用したメンバーシッププログラム「Starbucks Odyssey」のβ版をローンチ。デジタルスタンプの配布やイベントへの招待などの提供を開始
※画像は「Starbucks Odyssey」公式サイトより


「保有したら終わり」ではないNFTの機能と拡張性

――推し活NFTを配布した企業側は、誰がどんなNFTを保有しているか知ることはできるのでしょうか。

尾下――NFTは透明性が担保されており、ブロックチェーン上のデータとしては誰でも閲覧できますが、持ち主が誰なのかまではわかりません。

ただ、我々のプラットフォームのようにSNSからウォレットにログインできれば、公式からファンに情報をお知らせすることなども可能です。

――持っているNFTの傾向から、次のおすすめコンテンツが届いたりしたらワクワクしそうです。

ファン側の心理としても、「推し活で得たものを、自分自身のキャラクターと紐づいた状態で誰かに見せたり、どこかで示したりしたい」という気持ちがあると思います。自分を満足させるというか、承認欲求に近いものかもしれません。
なので、自分の個人情報は守られた上で、パーソナリティと密接なTwitterやInstagram等のSNSアカウントと紐づけられているという部分は素晴らしいなと思いました。

尾下――推しごとにSNSのアカウントを使い分けたりしているなどの理由で、NFTも、見せる場所を変えたい場合は、ウォレットを分けるという方法があります。

――確かに、「自分の推し活を誰かに知ってほしい」という気持ちがある一方、「公式からは認知されたくない」といった繊細なファン意識を持つ人もいるので、見せる見せないの使い分けができるのはいいですね。

尾下――それに、同じものが好きな者同士だったとしても実は熱量がすごく違ったりする場合もありますよね。

「『ONE PIECE』が大好き」と言っても、「コミックスを借りて読みました」という人と、「発売日に週刊少年ジャンプをチェックして、アニメもリアタイして、新作映画は10回観ました」という人とでは、同じものが好きなはずなのに会話などが嚙み合わなかったりする。
自分がどんなコンテンツがどれほど好きかを可視化・表明できれば、うまくコミュニケーションをとったり、“濃いファン同士”で マッチングしたりもできます。

「ライブ帰りに他のファンと感想をシェアしたい」という場合にも、同じライブの参加証明NFTを持っている人ばかりのコミュニティでならネタバレなどの心配もなく、遠慮しないで話し合えますね。

ファン同士の小さなコミュニティなどはマネタイズしにくい場所であり、公式が運営に関わるケースは正直少ないと思いますが、トークンを持っている人だけが入れるチャット等は、Discordなどで簡単に作れます。

――NFTにコミュニティへの入会書のような役割を持たせることもできるということですね。そうすると、アーティストなどはファンクラブの段階からオープンゲートがある方が効率は良さそうですが、そういった試みもあるのでしょうか。

尾下――有名アーティストでファンクラブにNFTを実装しているケースがあります。入会後に定期的にNFTが付与されて特典と交換できるとか、プレゼントの抽選券になるといった形ですね。

「Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)」、通称「BAYC(ベイシー)」なども、コレクションの保有者はクローズドのチャットに参加できたり、派生コンテンツを優先的に入手できる権利を得たりすることができます。

BAYCは世界で最も人気の高いNFTコレクションの一つ。ファンダム主導で映像作品化のプロジェクトが検討されるなど、保有者たち自身でNFTの価値をさらに高めようとする動きが見られる

もちろん、この仕組みはエンタメやスポーツだけではなく、観光施策やプロダクトへの応援という形でも応用が可能です。例えば、高級フルーツやウィスキー、街ごとの割引特典などにNFTを通じて投資をしてもらう、クラウドファンディングのような使い方ですね。

――「保有したら終わり」にとどまらない、機能や拡張の可能性がわかりました。

ところで私自身もそうですが、根っからのオタク気質な人は何かを徹底的に推したら、2~3年後には次の対象に移る、というのがスタンダードなのではないかと思うので(笑)、NFTでヒストリーを蓄積できて、「何年前にはこんな推し活をしていたんだな」と振り返られたりするのも、面白いなと思いました。

尾下――まさに、そこにも可能性があります。例えば、「大ヒット作品の多くを黎明期から推してきた」という “目利き” だと証明できる人が出てくるかもしれません。

企業側は、購買データからは見えてこない影響力を秘めたロイヤルカスタマーを見つけられるかもしれませんし、「その人に推してもらうにはどうしたらいいか」という考え方もできるようになるでしょう。
保有側も、データに基づくインフルエンサー的な存在として、お金を稼ぐことなどが可能になるかもしれませんね。


Web3.0時代を支える膨大なデータベースとして発展

――Web3.0において、今後の “推し活×NFT” にはどのような可能性が期待できるでしょうか。

尾下――今までのNFTは、購入するだけ・持つだけにとどまるか、短期トレードで運用する金融商品として扱われるケースがほとんどでした。なぜなら、長い時間をかけて価値が上がっていく構造を持っていなかったからです。

しかし我々は、お話ししてきたようなNFTの機能性に、そもそもの発行数から次第に数を減らすといった使い方などを組み合わせることで、時間の経過とともに希少性・重要性を高める構造をプラスすることができると考えています。

いわば “デジタルデータのヴィンテージ化” ですが、私たちも今後この概念を軸にさまざまなアイデアを実現させたいと考えています。

――「数を減らす使い方」とは具体的にはどのようなことなのでしょうか。

尾下――推し活で言えば、自分が保有してきたNFTを限定グッズや特別な体験に換えるといったことが考えられると思います。

例えば、ライブ参加証明NFTをコンプリートしたら、リハーサルを見学する権利が貰える。けれども、NFT自体は消失する、というように、保有者自身の意志が発行総数を減らしていくイメージです。

――NFTの長期保有によってアセットとしての価値をさらに高められればファンの資産形成にも繋がりますし、IP側の価値や評判を上昇させる好循環が生まれそうです。

先述の通り、推し活市場全体を見ると特にZ世代は生活における趣味の優先度が高く、「推し活を最大限楽しむために勉強やバイトを頑張る」など、生きるモチベーションになっている人も多数います。
恋愛・結婚観も変化しており、キャリアを優先して独身を謳歌することを選びたいという人の割合も多いため、趣味に投下される可処分所得も増えていくはずです。

Z世代がこれから生活者の中心になっていけば、推し活市場は拡大の見込みがあります。
並行して、資産運用・形成への興味関心も高まっていくはずですから、 “推し活×NFT” のような取り組み、新しいNFT活用の可能性については、私たち若者消費ラボチームでも考えていきたいと思いました。

最後に、今後の目標などを教えてください。

尾下――「ファン活動の資産化」をテーマにプロダクトを拡張していくことで、NFTを真のマスアダプションに導いていこうというのが、私たちの目標です。

そのためにも、誰もが推し活などを通じて気軽にNFTを入手でき、ブロックチェーンの仕組みを知らなくてもウォレットは持っている、というくらい、カジュアルでわかりやすいサービスを広げていきたいと思います。

推し活以外にも、さまざまなウェブサービスのIDの裏側にもウォレットが付随し、モノやコトをNFT付きで証明できれば、Web3.0上であらゆる活動の機能性や価値を拡張する大きなインパクトになり得るでしょう。

NFT等のトークンを活用した新たなサービスや消費活動、資産形成環境などの誕生によって、メタバースでの掛け合わせも含めた新たな経済圏の形成が進んでいる
※2022年12月16日「Web3.0事業環境整備の考え方」経済産業省による

衣食住が足りて、趣味や価値観が多様化した現代で、他人との共通点を探るのは難しいことですが、ウォレットは接続するだけで同じコンテンツが好きなことや、同じ日に同じイベントにいたことなどを照らし合わせるパーソナルデータとしての使い方もできるようになるはずです。

しかも、信用性を確保しながらグローバルに活用できる。NFTを始めとするトークンの活用は、そういった有用性の高いデータベースにもなり得るのです。データをウォレットの中、つまりユーザー自身の手元でコントロールできるというのも、ブロックチェーン技術ならではです。

――アートや金融に関する一過性のブームにはとどまらない、NFTの大きな可能性を知ることができました。貴重なお話をありがとうございます。
あらゆる価値のデジタル化が進む中、推し活をエンパワーメントするNFTの活用は、今後のIP関連のビジネスやサービスにおける重要な施策の一つとなりそうです。Web3.0におけるエコシステムの構築の面からも、NFTの活用はコンテンツ、ゲーム、アート、スポーツ等の文化や、金融や資産形成など、さまざまな方面から期待が寄せられています。
“推し活×NFT” に関するサービスやPRといった施策設計の際には、IPの世界観やそれぞれのファン心理に寄り添う慎重なデザインが求められるでしょう。効果的でユニークなNFT活用法の登場に期待がかかります。

尾下 順治(おした・じゅんじ)
株式会社プレイシンク 代表取締役社長


堀 かおり(ほり・かおり
株式会社電通プロモーションプラス CXソリューション開発事業部 プロデューサー
若者消費ラボメンバー
プロモーションを軸に"Z世代×美容"に関する情報をお届けする「PROMOTION+B」を運営。

Written by: BAE編集部

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