2023-08-29

期待高まるアフターコロナのインバウンド──集客につながる情報発信力とは(前編)

訪日外国人向けSNSプロモーションのヒント
2023年、世界の観光シーンは再び息を吹き返してきています。コロナ禍の約3年間、ふつふつと煮えたぎってきていた「自由に旅をしたい」という心のマグマ。訪日観光客(インバウンド)から先にその思いは行動に変わり、都心や国内観光地で楽しげに行き交う外国人観光客を見ない日はありません。

では、彼らはどういうプロセスで情報を得て、日本を旅先として選び、国内での行き先やアクティビティを決めているのでしょうか。個人手配の訪日旅行が約85%(2020年観光庁調査)を占めるとされる中、デジタル・SNSがカギとなることは間違いないでしょう。そこでインフルエンサーを活用した動画制作・配信などでインバウンド推進を手がけるTokyo Creative株式会社 代表取締役 中川智博さんに、効果的な訪日外国人向けプロモーションについて聞きました。

前編では現在のインバウンド動向や訪日観光客のニーズ、課題や事例などを紹介します。


ピーク時の約7割まで回復。長期滞在型の旅が増加

——2023年以降、訪日観光客数はどのように推移していますか。

2019年をピークに2020年からの約3年間は新型コロナウイルスの流行に起因して大きく落ち込んでいましたが、今現在、ピーク時の約7割まで回復しています。中国本土からの観光客がほぼゼロの現状を踏まえると、2019年の水準に戻っていると言っても過言ではありません

また、中国人観光客の落ち込み分の一部は、英語圏を中心とした遠方客の長期滞在が増えていることで補っている状況です。特に地方に足を延ばす訪日客は、長期滞在の場合が多く、地方の集客のプラス材料の一つになっています

出典:JNTO(日本政府観光局) 報道発表資料 「訪日外国客数(2023年6月推計値)より

当社のリサーチコミュニティ698人から回答を得たのですが、「日本にどのくらいの期間、滞在されますか?」という質問に対して、15日以上と回答した人がかなりの割合でいます。当社は主に英語圏を対象にビジネスをしていますので、比較的遠方の国の人が多いからでしょう。実際、台湾、韓国などからの旅行の場合は、短期が多いですからね。

——長期滞在者が増えるほど、地方にもチャンスが増える?

そうですね。私はほぼ毎週のように出張していますが、肌で感じます。岐阜県の奥の中津川に行きましたが、外国人のハイキング客をけっこう見かけました。声をかけると、やはり長期滞在者が多かったですね。

Tokyo Creative株式会社 代表取締役 中川 智博(なかがわ ともひろ)さん

——コロナ禍の前と後、訪日客のスタイルに変化は感じますか。また変わらないことはどういった点でしょうか。

変化していないことは、世界の人々の「旅行熱」です。旅行ってなくならないんだということを強く感じました。むしろ抑圧されていた状態から、一気にリベンジ消費に向かっています。変化している点は、やはり先述のように長期滞在客の増加です。これはポジティブなことです。

また、コロナ禍による人々の変化のなかに「自分との対話の機会が増えた」ということがあります。外出して人に会うことがままならない中で、自分の健康に目が向き、毎朝散歩をしたり、瞑想をしたり。それが今の旅行トレンドにもつながって、自分探しの旅、例えばデジタルデトックスやメディケーション、スピリチュアルなどが注目のキーワードとなっています。訪日客でもけっこうハマっている人が多いようですね。


少人数の個人旅行、現地の生活や文化体験がトレンド

——「自分探しの旅」をキーワードとするなら、日本で対象となるコンテンツはどういった場所でしょうか。

神社仏閣関連なら、もれなく(笑)。とはいえ、ただ拝観してもらえば良いのではなく、より深い「体験」が必要で、例えば、コロナ禍前の2018年から始めていましたが、京都の仁和寺の1泊100万円からの宿坊が良い例です。

高野山や四国のお遍路もコロナ禍前から人気がありましたが、今になってさらに評判が高まっているという話があります。従来は個人手配の旅行が多かったのですが、最近は単位がグループから2人、あるいは1人とミニマムになっています

Tokyo Creativeが制作した訪日外国人向けYouTubeより

——訪日客の単位がミニマムになると、行き先や体験の種類も多様化しますね。

はい、爆買いのような行動は、今はあまり見られない。何か軸を持ってプランを立てることが多いですね。ラーメンをひたすら食べ歩きたいとか。食は重要なコンテンツで、日本人が食べているローカルフードを求めて屋台に行きたいという要望もあります

Tokyo Creativeが制作した訪日外国人向けYouTubeより

ある事業者が企画・提供している「東京バーホッピングツアー」という日本の友人に連れて行ってもらう感覚で居酒屋をはしごするツアー商品が大人気です。現地の人の日常を体験したいというニーズがある。ツアーといっても昔のようにガイドが大勢を先導して連れて行くかたちではなく、少人数グループで、参加者同士がコミュニケーションをとりやすいようになっています。

ほかにも市場の場外ツアーでは、職人さんがマグロをさばいたり、ふだん見られない働く姿を見てもらったり。両国の相撲部屋紹介ツアーも訪日客にとってはキラーコンテンツになっていますね。いずれも日本らしいテーマというだけでなく、表舞台の裏側にあるストーリーに関心や共感が持たれています

——ほかに何か特筆すべきキーワードはありますか。

旅行のトレンドからは少し外れますが、越境ECサイトも活況です。コロナ禍で日本に行けないというフラストレーションから、日本のお菓子のサブスクリプションをやっている会社がこの3年で年商40億円を超えるまでに伸びています。

これからはリアルな旅行需要が増えるのでしょうが、越境ECは別の消費行動のかたちとして残ると思います。

例えば売れているお菓子も、日本に来ていた外国人がスーパーマーケットなどで大量買いしていたような一般的なお菓子だけでなく、多様化が進んでいます。ある店でしか買えない希少な和菓子をその和菓子屋さんとタイアップし、月によって味を変えていくサブスクを提供したり。そしてこうした地道なビジネスが、訪日観光客を呼び込むためのプロモーションにもなると言えます


もはやおもてなしの国ではない?課題は情報発信と稼ぐ力

——現状、訪日客が日本の観光に対して持っている期待や不安、不満、受け入れ側の課題を教えてください。

期待も不満も人それぞれですが、課題という意味では情報発信がうまくできていないと感じます。現代の日本カルチャーの象徴とされているマンガやアニメはもちろん、まだ観光客があまり訪れていないローカルな土地の文化にも期待や関心は高いのですが、発信して顕在化している部分がごく一部なので、足が延びていないんです。

観光業の課題で言えば、デジタル化が遅れていることが一番ですね。これは機会ロスを生む最大要因で、コロナ禍で減少した観光人材をデジタルで補完することができていないのです。現状、軒並みホテルなどの価格は上がっていますが、サービスレベルは落ちています。人材不足で稼働率100%も維持できていません。時給を上げても優秀な人材の確保ができないのであれば、デジタルや機械によって効率化を図っていくほかありません。

——観光地全般で、もっとこうしたほうが良いと思うことはありますか。

ものすごくありますね。例えば、利用者の約9割が外国人観光客という水上バスで、アナウンスが日本語しかないという経験をしました。受け入れ側に「稼ぐ」という観点も抜けている場合が多いのです。同じ水上バスですが、暑いのに飲み物が買えなくて、「ここでビールでも売ればバカ売れするのに」と残念に感じました。

稼げる余地はまだまだあります。自分たちが稼ぐということに対してきめ細かくなれば、それが結果的に顧客サービス、おもてなしにつながります。デジタル化に加えて、マーケティングマインドが足りないと感じます。

——発信不足で埋もれているコンテンツにはどのようなものがありますか。

ウェルネスの市場が伸びている中で温泉文化の浸透は課題です。全国に良い温泉がありますが、外国人、特に欧米人とのミスマッチの一つは、タトゥーの問題です。ルールの是正も一つの案ですが、そもそもタトゥーがあっても入れるプライベート温泉を用意しているなど、すでにタトゥーフレンドリーな温泉というのはあるんです。それでも発信が足らず、情報が伝わっていない。こういうニッチな情報を外国人は求めていて、実際に利用してもらえれば、SNSでの拡散にもつながります


確固たる意志とブランドを示す姿勢が重要

——成功している事例も伺えますか。

新潟に『ryugon』という宿があります。高付加価値をテーマに、名称表記も「龍言」からryugonに変え、外国人集客にも成功しています。雪国のコンセプトを体感できる古民家ホテルで、雪深くお米が美味しい魚沼市に立地。雪国文化すべてがコンテンツになっていて、例えば雪かきも体験できます。

雪がない季節も含め、さまざまな体験プログラムが用意されていて、ヴィラの一棟貸しもしています。情報発信も非常にうまく、高付加価値を求める人を対象としたメディアに配信したり、ローカル・ガストノロミー協会※と連携して食文化の発信と合わせてホテルをPRしたりと積極的です

もう一つ、WAmazing株式会社という、ユニークなサービスを開発した会社の事例を紹介します。旅の最中に免税品を買うと、その荷物を持って何日も移動しなければなりません。買い物が旅の目的でなければ、購入して免税手続きをするのも面倒です。この会社は免税店DXの仕組みを提供していて、旅の道中に見つけた欲しい商品やお土産として購入する予定のある商品をECで予約し、買ったものは帰りに空港で受け取れます。手ぶら観光ができたうえに客単価も上がりやすくなる、まさに稼げるスキームです。

——一方で、既にオーバーツーリズムという問題が出てきている地域があります。

稼ぐ力を重視せず、発信力が不足し、地方への分散が不十分であるため、地域によって観光客が集中します。観光客を増やすことも必要ですが、一人の観光客に一点集中ではなく、さまざまなかたちでお金を使ってもらうことはさらに重要です。

もっと言えば、ハワイの観光事業が進んでいるエリアでは「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」の考え方が定着しつつあります。要するに、「私たちの価値観に合った人だけ来てください」「自然環境や文化、コミュニティを守れない人は来ないでください」という話です。これは見習うべき姿勢ですね。ただ、そうあるためには受け入れ側に確固たる意志とブランド力がないと成立しません。「ハワイはこうだ」というイメージがあるので、観光客側も理解できるのです。

※ローカル・ガストロノミー協会:日本の豊かな食文化の継承を支援する協会。地域の風土・文化・歴史を表現するような料理や食品を地域のコンテンツのカギとし、食によって地域ブランドを向上させることを目的としている。
まちを歩いていると、大勢の楽しそうな外国人観光客に出会うようになりました。それだけに日本に「稼ぐ力」が足りないというのは残念なこと。おもてなし力低下につながるコロナ禍後の人手不足の問題や情報発信不足をデジタルの力で改善できれば、さらなる訪日客拡大につながるでしょう。

Written by: BAE編集部

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