2023-09-01

期待高まるアフターコロナのインバウンド──集客につながる情報発信力とは(後編)

訪日外国人向けSNSプロモーションのヒント
アフターコロナ時代のインバウンドに向け、デジタルを活用したサービスの質向上と情報発信力強化につながるプロモーションのヒントを聞くこの企画。
前編では、アフターコロナのインバウンドの動向と訪日観光客のニーズ、訪日客獲得の成功事例、日本の観光事業者や地域の課題を紹介しました。
後編では具体的にどんなプロモーションが有効か、そのヒントをインフルエンサーを活用した動画制作・配信などでインバウンド推進を手がけるTokyo Creative株式会社 代表取締役 中川智博さんに聞きました。


訪日客の集客にデジタルツールの活用は必須条件

——個人旅行客に対する集客はデジタルの活用がカギとなると思いますが、これまでに成功事例はありますか。

まさにデジタルの活用がこれまでの日本の観光業界の弱点でした。以前は旅行代理店に団体客を連れてきてもらうのが最も効率的でしたから、そこから抜け切れていない価値観のところもいまだあります。

一方、そうではない事例もいくつか出てきていて、例えば岩手県の八幡平DMOは、入込客のデータをとったうえで分析し、有効な施策を打ち出しています。2019年まで、八幡平に訪れる外国人観光客の9割が安比高原に宿泊しているというデータがあり、スキーリゾートを目的として来ている彼らがどんなメディアを見ているのかを情報収集しています。

そして、彼らが見ているデジタルメディアで情報発信するのはもちろん、来てもらった人たちの満足度を高めるさまざまな取り組みも実施しています。キャッシュレス導入などの小さな改善のみではなく、外国人は長期滞在型が多く、毎日ホテルの同じ食事だと飽きてしまうことから、レストランを整備するといったまちづくりまで、ユーザー起点で考えられています。海外からも注目が集まり、世界有数の全寮制英国式のハロウインターナショナルスクールが日本で初めて安比高原に開校しました。

日本の事例以外では、オーストラリアがデータドリブンに成功しています。もともとシドニーには多くの外国人観光客が訪れていましたが、彼らの行動をデータ分析すると、食のイメージはあまりなかったんです。でも、実際には世界有数のレストランが多くある。そこで、行動変容を意識したコンテンツをつくり、時間をかけてプロモーションを行うことで、「食のまち」のイメージを浸透させました

※FiledIMAGE - stock.adobe.com

——まちづくりも含めてデータドリブンでユーザー起点であることが重要なのですね。とはいえ、一次的な集客のためのメディアプロモーションも重要だと思います。国別に選択するメディアの傾向があれば教えてください。

国やユーザーの年代によって使用するプラットフォームは分かれてきます。中国向けには、欧米で主流のソーシャルメディアは使えません。彼らの集客には独自のチャネルを使っていく必要があります。

アメリカについては年代によって異なり、今のところは40代以上の人たちへのリーチはFacebook、ミレニアル世代、Z世代にはInstagram、もっと若年層にはTikTokですね。今後はわかりませんが、デジタルメディアが主流であることは変わりません。

今、日本人の平均年齢は40代半ばですよね。価値観のメインストリームはその国の平均年齢によって変わってくるのです。例えばフィリピンだと20代で、デジタルネイティブです。日本の価値観でメディアプロモーションをやると、海外から来ている若い訪日客にはリーチできません


効果的な動画コンテンツ制作にはマッチングが重要

——インバウンドのプロモーションは動画と相性が良いとされていますが、どういった理由からですか。

情報量が圧倒的に多いということが言えます。最近はショート動画や縦長リールが伸びていますが、これらは認知のきっかけとして使う人が多いという印象です。いまだにけっこう見られていて、具体的なアクションにつながるのは長尺の動画なんです。どういった体験ができるのかを知るには一定の長さが必要です。

新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後、検索の需要が高まっていて、具体的な地名を入力する人が増えてきています。Google検索からYouTubeにつながるので、YouTubeへの流入が増え、そこからアクションにつながる事例が見受けられます。

Introducing Our TOP Spots In Northern Japan, Tohoku [Ft. Abroad In Japan, Natsuki and Sharmeleon]
盛岡市は、The New York Timesが発表した「52 Places to Go in 2023 (2023年に行くべき52か所)」で、ロンドンに次ぐ2番目に選定された。
盛岡を紹介したTokyo CreativeのYouTubeへの流入も増えているという。

——YouTubeの検索流入が増えているなら、動画コンテンツの集客力が重要になってきますね。どうすれば集客できる動画がつくれますか。

シンプルにマッチングだと思います。動画制作にはクリエイターや企画によってはインフルエンサーが関わってきます。残念なことに、地域や観光施設など、集客を望む発注側の意向が強ければ強いほど、かえって成果が出なくなる傾向があります。クリエイターの個性や特性を抑制することにつながるからです。

私たちがクライアントから動画制作の依頼を受けたときには、まず「何を伝えたいのか」「誰に情報を届けたいのか」といったことを整理しますが、発注側が地域のことや自社のサービスのことは誰よりも知っているはずなのです。だからそこはクリエイター側もしっかりインプットして勉強しないといけません。
ただ、そこから先はユーザーを理解し、ユーザー視点で動画をつくっていきます。それに対して発注側の要望を全部入れてしまうと、だんだんユーザー視点から乖離する結果になりかねません。

マッチングが重要というのは、クリエイターの強みと、発注側の地域や商品に対する思いや考え方をうまく合わせていくこと。そのためには地域の人たちの思いを引き出す力もクリエイター側には必要になってきます。外国人とは言語や文化背景の違いがあるので、私たちが両方を理解していくことで、より効果的な動画をつくることができればと考えています。

Tokyo Creativeが手がける外国人向け動画の撮影風景


視点が異なる外国人インフルエンサーが認知拡散のカギ

——外国人のインフルエンサーもプロモーションに活用されているそうですね。

はい、物事に対する視点、見え方が日本人とは違うので有効だと思っています。日本人からすると「めちゃくちゃおもしろそう」と思うコンテンツでも、彼らからすれば「さむい」ということもあります。日本人視点で外国人がおもしろがってくれると考えて出すコンテンツは、ほとんどさむいのです。

例えば、忍者、侍のような日本ならではのコンテンツでも、以前にヒットした仕掛けの二番煎じだったり、ユーザーが望む体験を伴わないものだったり。そこにインフルエンサーが介在することでミスマッチを防げるのではないかと思います。

We Trained At A Secret Ninja Village In Japan ft. @AbroadinJapan & Natsuki
外国人目線でつくられた「忍者修行の里 赤目四十八滝」の忍者修行体験プログラムに挑戦する、Tokyo Creativeの動画。

——インフルエンサーと言えば、中国が強いイメージがありますが、英語圏ではどうなのでしょうか。

確かに中国、韓国のショッピング系インフルエンサーはものすごく影響力がありますね。アメリカなどの英語圏の物販系で、そこまでの人はいません。ただ、観光系は充実していて、効果の可視化こそ難しいのですが、例えば自分が体験していることを延々と配信するようなインフルエンサーもいます。コメント欄を見てみると、質の良いファンがついていて、その人が紹介した観光地にはものすごく人が集まるというケースもたくさんあるんです。

当社で活動している外国人インフルエンサーを見てみると、日本が本当に好きで、日本のコンテンツの良いところをよく見てライフスタイルにも取り入れている。そういうところが共感を得ているのだと思います。


ユーザー視点で“ここでしかできない体験”を発信

ファムトリップとは、ファミリアライゼーション+トリップ(Familiarization+Trip)という造語の略です。自治体やDMOがよく実施していますが、インフルエンサーや訪日してほしい国の旅行関係者向けにエリア視察ツアーを企画して、彼らに自国で情報発信してもらうというものです。

Tokyo Creativeが手がける外国人向け動画の撮影風景

目的は二つあり、一つは調査。来てもらった人にアンケートを取って、旅行の障壁になったこと、より楽しむためのアイデアなどを聞きます。もう一つは、情報発信によるPR効果です。実際に体験して発信するので、臨場感も伝わります。

気をつけないといけないのは、目的を絞るということです。やたら行程が長く行き先が多いと質の高い体験ができませんし、アンケート項目が多いと一つの質問に対する回答が薄くなってしまうからです。

——ファムトリップの成功事例はありますか。

ある県で、国内では知名度が高くなかった「うずまきクッキー」を紹介したら、参加者が「めっちゃかわいい」とSNSで発信しました。「食べに行きたい」「どこで買えるの?」とコメント欄が盛り上がって、実際に売り上げも伸びたという例があります。

あとは、インフルエンサーがリレー形式で、あるエリアのいくつかの地域に訪れ、その良さを体験してInstagramに情報発信するという企画を実施しました。見ている人には、「日本好きなインフルエンサーのこの人もあの人も一つのエリアの情報発信をしている」という印象となり、関連動画のリンクのヒット率が上がり、認知や評価が高まりました。
彼らの影響を受ける人には、好きなインフルエンサーの傾向があって、日本好きなインフルエンサーには日本好きな人の注目が集まりやすいのです。エリア全体でさまざまな場所を紹介でき、ストーリー性のある取り組みになったと思います。

——最後にインバウンドを考える自治体や観光事業のかたに向けて、効果的なプロモーションのヒントを教えてください。

受け入れ側の課題としては、人手不足で落ちているサービスの質を引き上げていくことも重要です。そこではデジタルや機械による効率化を進めていかないと厳しいと思います。

そのうえでプロモーションのヒントですが、一つはユーザー視点で考えるということです。地域の中からコンテンツをリストアップしたときに、自治体がすすめるコンテンツに引っ張られることなく、客観的な視点を持つことです。

もう一つは繰り返しになりますが、情報発信するテーマや場所、コンテンツを絞ること。「旅行に行く理由は何か」と考えると、そこでしかできない経験をしに行くということなのだと思います。訪日客に何を提供できるかを明確にして、絞りこむ。紹介動画の内容まで、忙しい行程にはしない。そのためにも、クリエーターの視点はぜひ生かしてほしいと思います。

Tokyo Creative株式会社 代表取締役 中川 智博(なかがわ ともひろ)さん
一部にオーバーツーリズムが顕在化している今、日本のさまざまな地域の魅力を伝えることによる訪日客の分散化が求められています。課題解決だけでなく、リピーター拡大にもつながる重要な視点です。実際にデジタルを使ったサービス向上やSNSでの情報発信に成功している事例も。ユーザー視点を大切に、目的やターゲットを明確にしたプロモーションが効果を発揮しているようです。

Written by: BAE編集部

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