2022-12-08

サブスクサービスの新機軸。「海外越境EC」との掛け合わせで日本のお菓子が大ヒット

コロナ禍でも、世界に向けて日本の文化と魅力を発信
小売業の海外展開を支える越境EC。中でも、欧米を中心にサブスクリプション(定期購入)型で日本のお菓子や雑貨等を販売するサービスが急成長し、注目されています。

海外のユーザーは、どのような理由で日本のサブスクサービスを利用しているのでしょうか。国内から海外向けにアイテムを展開する際には、どのようなポイントを押さえるべきなのでしょうか。

日本のお菓子のサブスクボックス「TokyoTreat(トウキョウトリート)」などを世界180カ国に販売する、株式会社ICHIGO(イチゴ)の近本さんにお話を伺います。


日本文化の詰め合わせが毎月届く“体験”で人気に

――ICHIGOが展開するサブスクサービスの概要を教えてください。どんなアイテムを、どんな国に販売しているのですか。

大手メーカーの商品を中心に、15~20種類の日本のお菓子、スナック、ヌードル、飲料、菓子パン等を詰め合わせた「TokyoTreat」、地方の老舗和菓子メーカーによる日本の伝統的なお菓子を中心に詰め合わせ、和雑貨をプラスした「Sakuraco(サクラコ)」などを主に販売しています。

価格は毎月一箱で32.5~37.5ドル(4400~5100円前後。2022年12月時点)。商品のラインナップは、「バレンタインデー」「桜」「ハロウィン」「クリスマス」等のテーマを設けて、毎月変えています。

その他にも、日本のキャラクター雑貨を詰め合わせた「Yume Twins(ユメツインズ)」、日本と韓国のコスメグッズを詰め合わせた「nomakenolife.(ノーメイクノーライフ)」をサブスクで展開しています。ビジネス全体の売上では、昨対比は3倍、売上高は40億円強に上ります(2022年7月時点)。
「TokyoTreat」は2015年、「Sakuraco」は2021年に販売をスタート。世界180カ国への販売実績があり、累計出荷数は220万個を超える
※画像提供 ICHIGO

出荷先のTOP3はアメリカ、イギリス、カナダ。次いで、オーストラリア、ドイツ、スペイン、フランス、イタリアなどで、欧米が全体の8~9割を占めており、残りがアジア圏です。ただ中国への販売は、今のところ行っていません。

ユーザーの8割は女性で、「TokyoTreat」は20~40代と比較的若い層が中心ですが、「Sakuraco」は30代以上が多く、上は60代の方などにも支持されています。一度で購入を中止される方は稀で、ほとんどがリピーターです。
利用のきっかけとしては、友人・知人やインフルエンサーによるSNSや動画サイトへの投稿が高い影響力を持っています。

急成長した理由の一つがSNSや動画サイトでの拡散。毎月のように、届いた際の喜びのコメントや、中身の紹介を投稿するユーザーも。インフルエンサーマーケティングも展開している

――ユーザーに共通する傾向などはありますか。日本のアニメや “Kawaii文化”などを好む方が多いのでしょうか。

そうですね。特に「TokyoTreat」のユーザーには、日本のアニメ、マンガ、ゲーム、ファッションなどが好きな方は多いと思います。コスプレ姿やお気に入りのアニメグッズと一緒にボックスの写真を撮って、SNSに投稿される方もいます。

ただ、注目されているのは決してポップカルチャーだけではありません。「Sakuraco」のユーザーの多くは、日本の伝統文化や和のデザインなどに高い関心を持ち、和雑貨や工芸品をコレクションしている方などもいます。
旅行先や留学先として日本に関心を寄せる方も多く、コロナ禍でも“日本文化を体験できるサービス”として評価されているようです。

気持ち的には、“自分へのご褒美”のようなものとして購入されている方が多いようです。私たちが時々、お取り寄せやデパ地下でちょっと贅沢なケーキや珍しいお菓子を買ったり、お正月に福袋を買ったりするような感覚に近いと思います。

――ちなみに日本ではサブスクでものを買うことにあまり馴染みがない人もいるようですが、欧米の状況はいかがでしょうか。

欧米では2014年頃にはすでにサブスクブームが起きていて、現在も多くの人がサブスクでものを購入しています。動画や音楽、ITサービスなどはもちろん、食料品やミールキット、日用品、ファッションアイテム、キャラクターグッズなど、あらゆるフィジカルなアイテムが販売されてきました。

特にアメリカは国土が広く、日本の都市部のように「ちょっと歩けばコンビニがある」という環境にない地域が多いので、「一度申し込めば定期的に届く」という利便性はユーザーにとって大きなメリットです。


期間限定商品のユニークなバリエーションが心を掴む

――欧米を中心とした、海外ユーザーとのコミュニケーションについて教えてください。ユーザーの心を掴むために、どんな工夫をされていますか。

まず重視しているのが内部の文化と体制で、マーケターやカスタマーセンターには外国人スタッフを雇用して、ネイティブの言語と各国の文化に対応できる仕組みを整えています。
対して、お菓子のバイヤーは全員日本人で、「日本人が海外に届けたい、本物の日本のお菓子」をセレクトすることを重視しています。

ただ、「日本で人気があるもの」や「日本人が想像する外国人の好きなもの」と、「実際に海外の方が好むもの」とを照らし合わせてみると、乖離しているケースはよくあります。そこで、まずバイヤーがセレクトしたアイテムを揃えて、マーケターとよく相談しながら、ラインナップを決めていくようにしています。

具体例で言うと、エビやイカの身をそのまま使ったお菓子や、馬油を使ったコスメは日本を含むアジア圏では人気ですが、欧米では文化的に受け入れられにくいため、ボックスには入れない、といった判断をします。
ちなみに、ボックスの中の商品は全て共通で、国ごとのローカライズなどは行っていません。

――反対に、「予想外のものがウケた」という例はありますか?

桜のフレーバーのお菓子やドリンクは、予想以上に人気がありました。
四季は外国にもありますが、四季に応じて食べ物や衣服など、あらゆるものをアレンジして楽しむ文化は、日本独特のものです。桜の季節になれば、チョコレートやサイダーまで桜のフレーバーと色に変えて、お菓子でも季節感を表現する、味わう、といったことが、海外の方にはとても面白く映るようですね。
昨今では、大手お菓子メーカーや飲料メーカーも、インバウンド向けに桜フレーバーの商品をたくさん開発しています。

「海外ユーザーが選ぶジャパン商品ランキング」でも、“桜”のお菓子・ドリンクが1位に。そもそも海外のお菓子は味のバリエーションが少なく、日本の豊富なフレーバーや期間限定商品などは喜ばれる傾向にある
※2022年1月 ICHIGOリリースによる

お菓子はメジャーな商品だけではなく、駄菓子も人気があります。日本のアニメやマンガによく登場するため、「見たことはあったけど、こんな味だったのか!」といった驚きがあるようですね。同じ理由で、お煎餅や饅頭、たい焼きやたこ焼きなどを模したお菓子も好評です。

――その他に、ユーザーとのコミュニケーションを行う上で、重視している点などはありますか?

SNSでのコメントや反応、カスタマーセンターやDMへの意見やリクエスト、ユーザーインタビューによる声はどれも非常に重視しており、スタッフ全員で定期的に検証を行っています。

日本のユーザーに比べて、海外のユーザーは「この味が気に入った」「もっとこういう食べ物を入れてほしい」「自分の国にもこれに似たお菓子がある」「これは80代の母も好んで食べた」「お菓子が一つ割れていた」など、様々なコメントを気軽にどんどん寄せてくれるので、大いに参考になっています。もちろん、商品の満足度などに関しては、定期的なアンケートも行います。

細かい工夫で言うと、ボックスへのお菓子の詰め方などにも非常に気を遣っています。お菓子がつぶれないような配慮はもちろん、開けたときにきれいに、パッケージの向きが正しく見えるように、バイヤーが作成した指示書に沿って丁寧に梱包します。

また毎月、お菓子の原材料やアレルギー表示や食べ方のほか、日本の文化を伝えるコラム的なものを載せた16ページのマガジンも同梱しています。
単にお菓子やドリンクといった食べ物だけではなく、それが日本の文化や生活、日本で話題のトピックと繋がっていることがわかる、という点が、海外の方にとってはすごく面白いことなのです。


お菓子に同梱するマガジンも重要なコンテンツ。ボックスのテーマに合わせて個々に編集している。土地の魅力発信にも繋がる


自治体コラボで販路を拡大。和菓子をリピート購入する人も

――SNSを通じたユーザーとのコミュニケーションについて、もう少し詳しく教えてください。どのような点に注力されていますか。

反応が多く、注力しているSNSは、現状ではInstagramとTikTokです。欧米では日本に比べてFacebookの影響力もまだ根強く、「友人が購入していたのを見て自分も購入を始めた」という例も少なくありません。マーケティングの一つとして、インスタグラマーやYouTuberへのレビューの依頼も行っています。

サービス開始当初からインフルエンサーの間で人気となり、彼らに自発的に話題とされ、情報が拡散された。現在は、日本文化を海外に紹介する人気YouTuberなどにアイテムのレビューを依頼している

InstagramやTikTokには、ラーメン店や居酒屋などのグルメ情報や、スイーツや食べ歩きの情報や、ゲームセンター、ギフトショップなどのレポートを短尺動画で紹介しています。

商品関連の話題のみでは飽きられてしまいますし、「日本の良いところを知ってもらいたい」ということは、そもそも私たちの目指しているところです。先述の通り、日本の文化や生活への興味関心が高い方も多いので、「日本はこういう面白い国だよ」と知ってもらえるような情報発信に力を入れています

とりわけ、浅草の屋台が集まるスポットでの食べ歩き動画などには、コメントやLIKEがたくさん寄せられました。欧米の方々に、屋台や食べ歩きはアジア的でエキゾチックな光景として映るようです。

TikTokで紹介している日本のユニークなフード、サービス、お店等の情報が人気。日本に興味を持つきっかけとして機能している

――ちなみに、SNSへも欧米の方からの反応が多いのでしょうか。

実はアジア圏の方からも、コメントやLIKEはたくさん寄せられているのですが、購入にはあまり繋がっていない印象です。国によっては、毎月4~5000円前後という価格が折り合わないのでしょう。

商品の内容的にも、プレミアムなものを扱っているわけではないので、富裕層の関心にはあまり繋がっていません。ただ、商品の価格を下げると配送料の比率が高くなり、お菓子がたくさん入っているというお得感がなくなってしまうため、必然的に、GDPの高い国の方々がメインユーザーとなっています。

――「JAPANHAUL(ジャパンホール)」という越境ECも運営されていますが、サブスクサービスとどのように連動されているのでしょうか。

サブスクで扱った商品を中心に販売しています。「サブスクで気に入った商品をまた買いたい」という方が「JAPANHAUL」でリピート購入される率は非常に高く、特に「Sakuraco」に入れた和菓子が、毎回とてもよく売れています。

「全く食べたことがなかった味だが、とても美味しかった。ぜひもう一度購入したい」というリクエストが多く、鎌倉の小さな和菓子屋さんの一見地味な商品が、イギリスで大人気に――といったケースは少なくありません。

サブスクで人気の商品を販売するほか、EC側で人気のあった商品をサブスクに同梱するケースも。自分の国では入手できない和菓子などをまとめ買いするユーザーも多い

――サブスクやECを通じた商品開発や、テストマーケティング的な取り組みも実施されているのでしょうか。

商品開発については多くの事例があり、特に自治体とのコラボレーションには力を入れています。これまでに、「北海道の夏」や「鎌倉の正月」をテーマにしたボックスや、神奈川県の名産品である湘南ゴールドという柑橘を原材料としたゼリーなどの開発を実施してきました。地方ならではの特色を生かしたこだわりのお菓子は、海外のユーザーにも好評です。ボックスそのものも、コラボする都市に興味を持ってもらう情報発信の役割を担っています。自治体とのコラボは今後も様々な形で予定しており、商品の幅もお菓子だけではなく、雑貨や工芸品などへと広げていきたいと考えています。
コロナ禍ではインバウンドの誘致が難しい状況でしたが、その間にも海外に地元の魅力を発信し、回復後の準備に繋げるための一手段として、私たちのサービスを捉えてくださっている自治体も多くいらっしゃいました。今後も、ぜひ一緒に頑張っていきたいと思います。

自治体ごとの特色をテーマとしたボックスやお菓子も開発。地域の復興や、地方の活性化に役立つとして評価されている。海外へのブランディングや認知拡大、新規顧客層の開拓に繋がっている

企業からの依頼によるテストマーケティングも度々実施しており、こちらも、さらに力を入れていきたいと考えています。「インバウンドのお土産向けの商品開発に役立てたい」「海外の現地法人で販売する商品のフレーバーを決めるヒントにしたい」といったお声がけが多く、大手お菓子メーカーでも、「この商品が海外でこんなにウケるとは思わなかった!」と驚かれる例は多々あります。

品質の高い日本のお菓子は、日本の誇る文化の一つであり、もっと海外で売れるはずですが、お菓子業界などはそもそもの体質やサプライチェーン上の縛りが強く、「海外に直接どんどん売っていきたい」というメーカーは残念ながらまだ少ないのが現状です。事例を重ねることで、グローバルマーケットの魅力を国内企業にもっと伝えられるよう、努力していきたいと思います。

――今後の展望を教えてください。

自治体や企業との協業によるコラボ、商品開発、マーケティングなどには、今後も積極的に取り組んでいきます。

また、2023年にはサブスクサービスとECを統合した英語版のアプリをローンチして、販路や新規顧客の拡大を進めるとともに、海外のユーザーから「ICHIGOなら、日本のものが何でも買える」と認知してもらえるサービスに成長していきたいと思います。

今後も、安心・安全で品質の高い日本の商品を通じて、海外に日本を知っていただくための架け橋になれるよう、努力をしていきます。

株式会社ICHIGO 代表取締役CEO 近本あゆみさん
グローバルへの販路の拡大、また、海外ユーザーへのアピールを行う手法として、高品質な日本のアイテムをサブスクで届ける越境ECの可能性に、今後も期待がかかります。
ビジネスに乗り出す際には、商品のセレクトはもちろん、海外ユーザーが知りたい日本の情報をどのように伝えていくかを、外国人スタッフと共に考えていくことが前提となるでしょう。アイテムを含めて、サービス全体を“体験できるコンテンツ”として捉える視点が、成功のカギとなりそうです。

Written by: BAE編集部

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