遠藤――2013年にはじまったガチャブランド「パンダの穴」から今年の1月に初めて絵本が発売になりました。本日はその原案者であり絵本のすべてのアートワークを制作してくれた石原絵梨さんと素晴らしいストーリーを考えてくださったせきちさとさん、絵本を出版してくださった岩崎書店の河本祐里さんをお迎えしてお話を伺っていきたいと思います。
遠藤――絵本になるきっかけですが、せきさんが「もちばけ」が絵本に向いているとお声がけくださって。なぜ絵本に向いていると思ったんですか?
せき――私はご縁で、ストーリーを持たないキャラクターにストーリーを作るという仕事をいくつか手掛けさせていただいてます。その中で長く愛されるキャラクターの共通要素のようなものがいつも頭の中にあって。日本に限っていうと、フォルムが丸くて、ポツンとした目が離れているっていう(笑)。
もちばけを初めて見た時、まずはそのセオリーにピタッと合ったんです。さらに出版社側にも「いいかも」と思わせるほど踏み込めた魅力というのは、何といってもこのキャラクターのデザイン力と、背景のコンセプトの完成度の高さでした。世に無数のキャラクターがある中で、これはもう作家さんが好きで、こだわって作り上げたんだっていうのもすぐわかったんですよね。出てきたもちばけのガチャをわが子の手から「ちょっと見せて!」と、奪い取って、解説のパンフレットを熟読したのを覚えています。
せき――キャラクターに一つ一つ性格づけをされてると思うんですけど、いつかストーリーに展開するとか、想定されていましたか?
石原――そうですね。自分が他のデザイン案件でも、こういう背景のストーリーを考えるのが結構好きで、広告の一枚絵でも「実はこの絵にはこういう物語があるんです」みたいなプレゼンをよくしているんです。それには理由があって、設定を細かく考えることで、理由に裏付けられたものができるのでクリエイティブのクオリティが上がってくるんです。
「さくら」とか一番わかりやすいのですが、桜餅のキャラクターを作ろう→葉っぱとピンクのお餅の部分を絡ませたい→葉っぱをギュッと持っていたらかわいいかも→恥ずかしがり屋で頭ちょっと隠してるという設定はどうか→体はピンクだけど、ほっぺはよりピンクにして照れている感じを出そう、など。
遠藤――4月のキックオフで最初に「どんな絵本にしていきたいか」の意見を交わしましたよね。
石原――もちばけは、私が餅つき体験を通して生まれたキャラクターでもあったので、日本文化の面白さが子どもたちにも伝わるような絵本にしたいですって、確かお話をしましたね。四季折々の行事などを堅苦しくなく、この本の対象である小学校低学年の子どもたちが楽しく学べる絵本がいいなと。
河本――そうですね。私が気にしていたのは、絵本として大人っぽくなりすぎないようにということです。それは私の中では、絵本の鉄則で。読む人(子ども)の目線に合わせてあげないと、誰のために本を出したかわからなくなってしまう。作者の思いがうまく伝わらないというか。出すまではいいんですけど、出た後の広がり方で、すごくがっかりする展開になることが、過去何回かありました。本当は作家さんに自由に作っていただきたいんですけど、つい大人目線になってしまうので、そこは注意した点です。子どもって、大人が思っているよりも、平仮名ばかりでも平気で読めるんですよね。実際漢字には必ず読み仮名をつけるとかがきちんとできてると、子どもが絵本世界に入り込みやすいっていうところの入口について、何回か言った記憶があります。
あとは背景も黒が多かったのを変更していただいて、カラフルにしてもらったりとか。子どもが綺麗な色が好きなので、見て楽しく、というお願いもしたと思います。
せき――私たちが何か一生懸命作ってあげなくても、勝手にキャラクターたちが動いてきてくれたっていうのが、正直なところだった気がしています。ストーリーもなんとなくこのキャラクターだったらこういう風に言うだろうなと思って作っていくと、いつの間にかまとまっている気がして。ほぼキャラクター設定の段階で、絵本はもうできてるんじゃないかなって私は思いましたね。
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