2021-05-07

ガチャのキャラクターが絵本になるまで(前編)

なぜ今「絵本」なのか?パンダの穴の「もちばけ」が絵本にばけた
 
このコロナ禍に、ガチャから生まれたキャラクターの絵本がひっそりと誕生しました。意外に奥深いガチャのキャラクター設計や、そこから絵本を作り上げる制作過程を制作者の方々に語っていただきます。普段はあまり知ることができないガチャや絵本の制作の裏側にスポットライトを当て、最後は、このコロナ禍で絵本を作る意義まで話が及んでいます。前・後編ありますので、ぜひお楽しみください。

【座談会メンバー】
○株式会社電通テック アートディレクター / グラフィックデザイナー 石原絵梨
○作家・コピーライター せきちさと
○株式会社岩崎書店 編集 河本祐里
○株式会社電通 シニアコンテンツプロデューサー 遠藤道子

※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


    「もちばけ」はこうして生まれた

    遠藤――2013年にはじまったガチャブランド「パンダの穴」から今年の1月に初めて絵本が発売になりました。本日はその原案者であり絵本のすべてのアートワークを制作してくれた石原絵梨さんと素晴らしいストーリーを考えてくださったせきちさとさん、絵本を出版してくださった岩崎書店の河本祐里さんをお迎えしてお話を伺っていきたいと思います。
     

    株式会社電通 シニアコンテンツプロデューサー 遠藤道子

    一同――よろしくお願いいたします。

    遠藤――Baeの読者の方は「パンダの穴」をよくご存知だと思いますが、現在50を超えるキャラクターがいます。もちばけは2016年に石原さんが考えた人気キャラクターで、既にシリーズ第三弾までガチャとして発売されています。石原さん、もちばけという名前の由来を教えてください。
     
     
     
    石原――もちばけを思いついたきっかけは、友達と餅つきパーティーをしたのが始まりで。みんなで餅をついて、からみ餅やきな粉餅をたらふく食べる会でした(笑)。その時に初めていちご大福を手作りしたのですが、つきたての温かいお餅の中にあんこやいちごを入れて手で丸めていると、いちご大福が小さな生き物のように見えてきて、お餅のキャラクターを作ってみようと思いつきました。


    石原――先祖代々伝わる憑かれた臼と杵でついたお餅から、たくさんのお餅のおばけが生まれたら面白いなと。おばけにしたのも、憑かれた臼と杵という設定もあったからなのですが、パンダの穴で出すのなら単にかわいいだけのキャラクターにしたくなくて。お餅って喉に詰まらせるリスクがあったり、油断したら危ない食べ物なので、ただかわいいだけじゃなくて、怖さと混ぜておばけという設定にしました。最初、名称は「おもちおばけ」や「もちおばけ」とかを考えたのですが、だんだん短くなって「もちばけ」になりました。

    株式会社電通テック アートディレクター / グラフィックデザイナー 石原絵梨

    遠藤――ターゲットとして狙っていた層はありますか?

    石原――そうですね。もともとパンダの穴のガチャは「大人ガチャ」なので、買ってくださる層は20代の女性が多かったりするんですけれども、もちばけは子どもでも楽しめるようにキャラクター設定は分かりやすくしています。そして、年齢とは別軸で和物や日本文化が好きな人がいて、大人に限らず10代でも和物雑貨や着物が好きだという子もいるので、なんとなくその辺りがメインターゲットになるかなとは思って作っていました。キャラクター自体はわかりやすいのですが、トンマナは完全に一つの和物ブランドを作るつもりでデザインしています。

    遠藤――いちご大福の後、キャラクターをどのように増やしていったんですか?

    石原――まずお餅であることは絶対で、並べたときのバランスを一番に考えています。ガチャって1商品につきだいたい5種類くらいあるんですけど、全部真っ白にならないようにとか、同じ形にならないようにとか、気をつけてデザインしていきました。たとえば1人真っ白な子がいたら、葉っぱがついてる子がいる、色が違う子がいる、お椀に入っている子がいる、などなど…。「集めて並ばせたい!」って思う欲を刺激できるように考えています。


    遠藤――和菓子のバリエーションとコンプリートさせたいという収集欲を掻き立てることを意識したんですね。

    石原――そうですね。あと、見た目だけでなく性格も違っていた方が面白いなと思い、キャラクターの性格は造形と一緒に細かく考えていました。ガチャの中に入っているパンフレットだけではあまり伝わらなくて、パンダの穴のウェブサイトの方でキャラクター設定や世界観についても公開しています。

    そもそもガチャで初めて出会うキャラクターってすごく特殊で、何かアニメや漫画をみてそのキャラクターを好きになって買うわけではないので、皆さんほぼほぼ初見のインパクトで買ってくれていると思うのです。そうまでして買ってくれた人は、これは何のキャラクターでこの子はどういう性格なんだろうってやっぱり気になると思ったので、作りっぱなしじゃなくて、調べたらそうだったのか!と楽しめるようにしています。

     
     
     

    「もちばけ」出版界の目にとまる

    遠藤――絵本になるきっかけですが、せきさんが「もちばけ」が絵本に向いているとお声がけくださって。なぜ絵本に向いていると思ったんですか?

    せき――私はご縁で、ストーリーを持たないキャラクターにストーリーを作るという仕事をいくつか手掛けさせていただいてます。その中で長く愛されるキャラクターの共通要素のようなものがいつも頭の中にあって。日本に限っていうと、フォルムが丸くて、ポツンとした目が離れているっていう(笑)。

    もちばけを初めて見た時、まずはそのセオリーにピタッと合ったんです。さらに出版社側にも「いいかも」と思わせるほど踏み込めた魅力というのは、何といってもこのキャラクターのデザイン力と、背景のコンセプトの完成度の高さでした。世に無数のキャラクターがある中で、これはもう作家さんが好きで、こだわって作り上げたんだっていうのもすぐわかったんですよね。出てきたもちばけのガチャをわが子の手から「ちょっと見せて!」と、奪い取って、解説のパンフレットを熟読したのを覚えています。

     


    せき
    ――これ、絶対デザインしている人が全部性格とか考えてる、っていうのがよくわかったんです。これはちょっとただ者じゃないぞって。その後、岩崎書店の河本さんのところに持っていきました。河本さんは絵本のキャリアが長いし、日々多くのキャラクターを見てらっしゃるので、たいていのものには「ふ~ん」という感じなのですが、「これはいいですね!」と、即反応されて(笑)、その後、短時間で企画書を編集部に出されたと聞いて、「これは!」......って。

    作家・コピーライター せきちさと

    河本――そうだったんですね。そう言えば、海外のキャラクターは目がクリっとしているのが多いかもしれませんね。

    せき――たとえばピクサーのキャラクターは、みんな目がすごく大きいですよね。目がいろいろなことを語る感じですが、日本の子どもたちが好きなキャラは、ほんわか、のんびりした、包容力があるようなものが多い。また、絵本は長く読み継がれていかれるようなものを目指すので、作るまでに時間がすごくかかるし、事実、世に出してからも、何世代にもわたって愛されるものも多くあります。絵本になるキャラクターには、10年後に見ても古く感じない、普遍的なかわいさが要求されていると思うんです。

    遠藤――もちばけは造形が美味しそうというのも要素として大きいのかなと思うのですが。河本さんはガチャのもちばけを見た時どう思われましたか?

    河本――せきさんがそんなにハマってるってどういうことなのかと思って。興味津々で見せてもらったらすごくかわいい。大人もハマるだろうなっていうぐらいによくできているのと、一つ一つのキャラクターの背景が感じられるというか、性格設定がすごくなされてるなっていう気がして。かわいいキャラでも、表面的というか、性格設定がされてないものとか、背景まで作者の方が考えてないものとか、違いってわかりますよね。

    株式会社岩崎書店 編集 河本祐里

    せき――後からくっつけるのは無理があるものも多いですね。

    河本――すごく違う。でも最初からもうすごい魅力がありましたね。すごいなっていう話になって、なんか盛り上がってそのままで電通さんにご連絡を(笑)


    「もちばけ」絵本化計画が動き出す

    せき――キャラクターに一つ一つ性格づけをされてると思うんですけど、いつかストーリーに展開するとか、想定されていましたか? 

    石原――そうですね。自分が他のデザイン案件でも、こういう背景のストーリーを考えるのが結構好きで、広告の一枚絵でも「実はこの絵にはこういう物語があるんです」みたいなプレゼンをよくしているんです。それには理由があって、設定を細かく考えることで、理由に裏付けられたものができるのでクリエイティブのクオリティが上がってくるんです。

    「さくら」とか一番わかりやすいのですが、桜餅のキャラクターを作ろう→葉っぱとピンクのお餅の部分を絡ませたい→葉っぱをギュッと持っていたらかわいいかも→恥ずかしがり屋で頭ちょっと隠してるという設定はどうか→体はピンクだけど、ほっぺはよりピンクにして照れている感じを出そう、など。

     


    石原――形を考えるのと、性格やストーリーを考えるのは実は近い場所にあるんです。そうやって細かく考えることで、性格が造形の理由になってきて、モノとして強いものになってくるんです。

    性格や設定は考えるけれども、ストーリーを想定している訳ではなかったのです。ただ、細かく設定していくうちに、これはストーリーがあった方がより世界観が強まるなと思っていました。

    遠藤――2019年の年末に河本さんとせきさんと打ち合せをして出版条件が整い、いざ石原さんも交えてキックオフしようと思った矢先に新型コロナウイルスの影響で在宅勤務になってしまって。初顔合わせはオンラインでしたよね。

    石原――はい。そのときオンラインの会話だったので、私の熱量が十分に伝わったか不安だったのですが。ストーリーを作るきっかけが欲しいと思っていたので本当にすごく嬉しかったです。そしていまさらの告白なんですが…アートディレクターの前に絵本作家になるのが夢だったんです。中学生の時の夢は絵本作家でした。いまこうやってデザインの仕事にはついたのですが、いつか絵本の仕事はしたいなと思ってたので、自分の作ったキャラクターを絵本にできるなんて、本当に素敵な機会をいただけて…本当にありがたい話です。




    どんな絵本にしていくか?

    遠藤――4月のキックオフで最初に「どんな絵本にしていきたいか」の意見を交わしましたよね。

    石原――もちばけは、私が餅つき体験を通して生まれたキャラクターでもあったので、日本文化の面白さが子どもたちにも伝わるような絵本にしたいですって、確かお話をしましたね。四季折々の行事などを堅苦しくなく、この本の対象である小学校低学年の子どもたちが楽しく学べる絵本がいいなと。

     


    遠藤――そうですね。原作開発なので何を使うっていうところを決める以上に、何を捨てるのかみたいなところを結構、最初の頃に話し合っていたなって思います。書き手である石原さんに人間を出します?出しません?とか、「もちばけ」の設定をおばけでいくの?お菓子でいくの?とか。この子たちって食べられることにします?食べられないことにします?とか。読み手の子どもたちにとってもどれくらい怖い本にするか。とか。

    石原――そうですね。ありました。

    せき――絵本を出すということがあると、いつか映像や、映画になるという可能性もゼロではない。となると、どんな世界観であれば広がりを持たせることができるのかを決めておく必要がありました。どんな展開になっても、ゆるぎない世界観が守られるというルールのようなものがないと、その後コンテンツを作る人が作れなくなってしまうので。

    ストーリーは「シンプルで良いもの」ということは前提だと思っていたので、後は調理しだいだと思っていたのですが、そのときに使える調理道具とか、調理法のようなものはスタッフ全員が確認しておくべきだと思っていました。中華料理にオリーブオイルを使ってしまう…というようなことがないように。この道具でこの方法でやっていこう、ということが決まっていたら、その後どんな展開になっても応用が利くって思ったんです。たとえばアニメになったときに、ストーリーの中に人間は出てきていいのか、声はどうするんだ、みたいなことを検討していくことになっていくと思うので。



    遠藤――熊猫堂のご主人を絵にした時にどう表現するかも、石原さん悩んでましたよね。

    せき――そうなんですよね。キャラクターって妖精みたいなところがあって、子どもたちは頭の中で想像しているので、実際目で見るときに、大きさの設定とかを勝手にされちゃうと夢が崩れちゃう、ということがあると思うんです。たとえば「いちごちゃん」は唯一の存在だと思ってたのに、ストーリーの中のお店のシーンにいちごちゃんがザーッて並んでるの見たら興ざめしちゃうとか。登場シーンの細かい配慮にも設定やルールを徹底して決めて作っていけば、子どもたちは順応性が高いので、すぐに「あ、これはこのルール」と察知して、安心してすっとその世界に入っていけるんだと思うんですよ。

    子どもたちがすんなり別世界に入っていけるためのルールをきっちりしておいてあげると、余計なことを気にせず、ストーリーとか、キャラクターだけにまっしぐらに子どもたちが感情移入できるのだと。こっちが設定をフラフラしちゃうと、子どもたちもストーリーを楽しむ前に、どういう立ち位置で入っていけばいいのか迷ってしまう。まあ、これも自分が発見したことでも何でもなくて、キャラクターのストーリーづけをさせていただきながら、多くの駄目出しを経験して学んできたことなんですけどね。

     

    誰に絵本を届けるのか?

    河本――そうですね。私が気にしていたのは、絵本として大人っぽくなりすぎないようにということです。それは私の中では、絵本の鉄則で。読む人(子ども)の目線に合わせてあげないと、誰のために本を出したかわからなくなってしまう。作者の思いがうまく伝わらないというか。出すまではいいんですけど、出た後の広がり方で、すごくがっかりする展開になることが、過去何回かありました。本当は作家さんに自由に作っていただきたいんですけど、つい大人目線になってしまうので、そこは注意した点です。子どもって、大人が思っているよりも、平仮名ばかりでも平気で読めるんですよね。実際漢字には必ず読み仮名をつけるとかがきちんとできてると、子どもが絵本世界に入り込みやすいっていうところの入口について、何回か言った記憶があります。

    あとは背景も黒が多かったのを変更していただいて、カラフルにしてもらったりとか。子どもが綺麗な色が好きなので、見て楽しく、というお願いもしたと思います。

     


    せき――ストーリーを無理矢理怖くするっていうことにして、石原さんがそういった絵を描くこともできたかもしれないですけど、やっぱりこのキャラクターのガチャを手にのっけてじっと見ていると、キャラクター本来の持ち味のところに落ち着きましたよね。もちばけたちが持っている、「怖いのに憧れてるけど、自分たちは全然怖くない」みたいな、そういうような雰囲気?

    河本――怖いのに憧れていましたよね(笑)。それがかわいかった。

    遠藤――おばけっていうのを忘れているというような4コマもありましたよね。

    河本――みんなできゃっきゃしてるからね。




    キャラクターたちが動き出す

    せき――私たちが何か一生懸命作ってあげなくても、勝手にキャラクターたちが動いてきてくれたっていうのが、正直なところだった気がしています。ストーリーもなんとなくこのキャラクターだったらこういう風に言うだろうなと思って作っていくと、いつの間にかまとまっている気がして。ほぼキャラクター設定の段階で、絵本はもうできてるんじゃないかなって私は思いましたね。
     


    河本――実際、女性のデザイナーの方が絵を書いてキャラを作ると、かわいいものって作れることが多いんですけど、「もちばけ」はさらにユーモアがあるんですよ(笑)。よもぎとかすごいじゃないですか。ドロドロってあんこが口から出てます。なかなかここまでやってくれる女性のデザイナーさんはいないので、石原さん、すごいなと思って。

    遠藤――よもぎのインパクト、すごいですよね。あんこがわわって出ていて。


    河本――そうなんです。社内でも男性社員の反応が特によかったです。ユーモアがあるっていうのが子どもの本にすごく欲しいところですが、なかなかなくて。いろんなキャラから絵本にするときに、綺麗で素敵な美しい世界は創作しやすいんですけど、面白いっていうところに入るのはすごく難しいです。

    せき――実際子どもが、あんこが出ちゃってるのを、何回も「出ちゃってる、出ちゃってる」って言って、それでもずっと笑ってる子がいたから。もう見ただけで面白いんですよね。

    河本――一発ギャグみたいな感じなんですけど、子どもはそういうのが大好きなんです。その吹っ切れ感がすごいなって、おばけだけど怖くないよっていう。

    せき――これは頭で考えて作れるようなものではないですよね。

    石原絵梨
    株式会社電通テック アートディレクター / グラフィックデザイナー
    2011年に電通テック入社後、パッケージやプロダクトを軸にしたコミュニケーションプランニング、商品開発などを多く手がける。2016年にガチャブランド「パンダの穴」より「もちばけ」が発売。以降、「もちばけ 弐ノ巻」「もちばけ 参ノ巻」が発売。

    せきちさと
    作家・コピーライター
    出版社勤務後、 独立。小説、エッセーの執筆、 広告のコピーライトを手がける。 著書に『シナモントラベルえほん』シリーズ・『すみっコぐらしストーリーズ』(小学館)、絵本『しずくちゃん』シリーズ(岩崎書店)など。

    河本祐里
    株式会社岩崎書店 編集
    教科書会社、大人の本の出版社勤務を経て、岩崎書店に入社。夢だった児童書の編集を学ぶ。創作絵本や読み物、翻訳物、学校図書館向けのシリーズなどの編集に携わる。
    担当にロングセラー絵本「しずくちゃん」シリーズ(岩崎書店)など。

    遠藤道子
    株式会社電通 シニアコンテンツプロデューサー
    電通入社後、放送局の担当業務を経て、番組の企画制作を手掛けた後 韓国や中国などアジア圏を中心に映像の権利ビジネスに従事。
    「もちばけ おもちだけど、おばけです」は初の絵本プロデュース。

    Written by: BAE編集部

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