2021-04-28

若者研究の第一人者・原田曜平さんに聞く、Z世代を読み解く2021年最新キーワード(後編)

コロナ禍の「メイク男子」需要に見るZ世代の憧れ像
長年にわたり若者の行動研究をされてきた信州大学特任教授、マーケティングアナリストであり、先ごろ「Z世代~若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?~」(光文社新書)という本を出版された原田曜平さんに、Z世代を理解するためのキーワードや、彼らに対するアプローチのヒントを伺う本企画。前編では「チル&ミー」を軸に、Z世代の特性や、彼らが生まれ育った時代背景をひもときましたが、後編ではデジタルシフトに対するZ世代の受け止め方や、コロナを機に再び注目される「メンズ美容」について深掘りします。聞き手は引き続き、電通テックの堀かおりが担当します。

※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


若者たちはデジタルシフトを冷静に受け止めている

――コロナ禍が若者たちのライフスタイルや消費行動にどのような影響を与えているか、教えていただけますか。

原田――もちろん、オンラインショッピングが伸びたとか、テイクアウト、デリバリーが増えたとか、細かい変化はいっぱいあると思います。デジタルシフトとは言われていますが、もともと子どもの頃からスマホに触れていた世代なので、デジタルでは超えられないリアルな価値というのは、上の世代よりよくわかっているのではないでしょうか。逆に、僕らの世代の方が過剰にデジタル生活というものを理想化してしまっている危険性を感じていますね

――私もそう思います。やむを得ず一時的にデジタルシフトしているのですが、そもそも若い世代というのは、例えばお買い物に関していえば、クレジットカードを持っている人が少ないですし、月々のお小遣い制だからECだと送料がもったいないという意識もあるので、デジタルとアナログをうまく併用しているなという印象はありますね。

原田――この間、女性比率の高い会社の方と話したんですけど、社内でアンケートをとったところ、35歳以上の社員はコロナが終わっても、ずっとテレワークにして欲しいという意見が多かったそうです。通勤の往復2時間が減って、その分、育児や家事に時間が割けると。一方で、若い人たちは毎日の出勤はつらいけど、週2とか1日おきに出社したいという声が大きいらしくて。


――SNSで人間関係を築くことはできますけど、関係性を深める上ではリアルの方が、圧倒的に情報量が多くてやりやすいというのは、育ってきた環境の中でZ世代も実感はしているはずですからね。そこは上の世代と、一緒くたにしない方がいいと思います。

原田――そういう意味では、ここ数年話題になっているVRやMRなどのテクノロジーに関しても、バーチャルがリアルを超えるんだとロマンを見てしまうのは意識の高い上の世代だけで、Z世代はもう少し現実的に受け入れている感はあります。例えばVRではないですが、Zoom飲みは一時期流行ったけど、もう飽きたよねと多くの若者が言っていますし、ではコロナ禍でZ世代に何が流行ったかというと「夜ピク」※ですからね。すごくアナログですよ。デジタルに長年親しんできたZ世代だからこそ、中途半端なものには飛びつかない。作り手側も本格的なコンテンツをもっと増やしていかないと、VRの普及は難しいのではないでしょうか。

※夜のピクニックの略称。夜に公園で集まって、おしゃれなライトに囲まれながら、ピクニックを楽しむスタイル。

Instagramで「#夜ピク」を検索すると、若者たちがピクニックに興じる写真がたくさんある


「メンズ美容」から見えてくる「自分プラスα」という価値観

――原田さんは2021年の若者トレンドとして「隠れメイク男子」(自分の容姿をよく見せたいがメイクしているとはバレたくない男子)というキーワードを提唱されていますが、私も2018年の年末頃から「Boys Beauty」というZ世代の男性向けのメンズ美容メディアをInstagram上で運用していまして、ぜひ原田さんには「メイク男子」についてお伺いできればと思っていました。そもそも「メイク男子」に注目された理由はなんだったのでしょうか。

Boys Beauty(@boysbeauty_jp)はInstagram上でメンズ美容に関する情報発信をしている


原田――メイク男子という言葉は10年くらい前からあって、その時から僕は注目をしていました。当時、メディアにも取り上げられてすごく話題になりましたよね。でも結局は、芸能活動をしている子とか、見た目に自信のある子止まりで、 一般に浸透はしなかった。ところがコロナになって自宅で過ごす時間が増え、Zoomなどのビデオ通話サービスで自分の顔を見る機会が増えたせいか、男女限らず若者の間でもスキンケア意識が高まってきました。ただ、いまだにメイクが恥ずかしいという感覚が男性にはあります。バレたくないけどメイクはしたいという、控えめなメイク需要の高まりを感じて、「隠れメイク男子」という言葉を取り上げました。

――コロナ禍でメイク男子が増えた要因は、業界の動向にもありそうですね。コロナでインバウンド需要が落ち込んでしまって、次の市場として注目されたのが「メンズ美容」。メディアでも「メンズ美容」が盛んに取り上げられるようになって社会的に認知度が高まったことが、男性の背中を押してくれたのではないでしょうか。そこで気になるのが、メイク男子が意識しているのは、異性の目なのか、もしくは自分の目なのか、ということですね。メイクしたいけど周りの目が気になって声高には言えないという状況が、メンズ美容を普及させていく上で大きな課題だと思っています。


原田――どちらもありそうですよね。男女がフラットになってきているとはいえど、まだZ世代であってもかすかに男は男らしく、女は女らしくという価値観は残っていて、特に東アジアはこの傾向が顕著です。ですから、メンズ美容を広めていくためには、今の段階では隠れメイク男子の需要を捉えた化粧品で彼らをサポートしていくとともに、男子だってメイクしてもいいじゃんという価値観を企業ももっと本気になって啓蒙していくべきだと思います。Z世代は僕ら世代よりもメイクにずっと抵抗はないはずですし、潜在需要はあるので、コロナによるピンチをチャンスに変えて、この一年、本気で取り組んでいくことが大事です。

――いまだに恥ずかしくて化粧品売り場に行けない、情報を探すにもSNSでこっそり調べるというメイク男子の声も聞きますね。現在はメンズ美容にとっては追い風となっている状況かと思いますが、具体的にはどういう機会を作ったら、Z世代の男性にメイクの必要性を理解してもらえるでしょうか。

原田
――やはり実際に体験してもらうことでしょうね。僕ぐらいの年代になると、染み付いた価値観があるので、メイクを始めるのはなかなか難しいものですが、そんな自分でもテレビ局でメイクさんに教えてもらった化粧水を試してみて、学生から「先生、肌きれいになりました?」って言われたら「るん♪」ってなりますからね(笑)。まして若い子たちはとてもピュアですから、一回だけでも体験したら「こんなに違うんだ」ってビックリすると思います。とはいえ、デパートの一階で美容部員さんにメイクしてもらうのはハードルが高いので、たまたま行った「ついで」に体験できるような、例えばドン・キホーテなのか、ホームセンターなのか、そういった場所に体験できるスペースを設けてあげるのはいかがでしょうか。メイクしてあげて、写真も撮ってあげて、SNSのアイコンもプレゼントして……。


――変化した自分を見せてあげるのはいいかもしれませんね。それに関連してお聞きしたいのですが、メイクをする動機として、もっと自信を持ちたいとか、憧れの人に近づきたいというモチベーションがありますよね。その一方でカリスマ不在と言われて久しいのですが、Z世代になりたい理想像や将来像について聞くと、誰みたいになりたいという偶像があるわけではなく、今の自分に少し色気をつけたいなど、自分の延長線上、自分プラスαで憧れを語る子が多いように感じます。原田さんの周りの若者では、憧れの理想像に何か傾向はありますか。

原田――確かに、好きなインフルエンサーとかタレントも分散していますよね。それに、これだけ低成長の時代に生きていると、自分がぐんぐん成長して、憧れの人に近づいていく、劇的に変わっていくという未来も思い描きにくいでしょうし。だから、堀さんがおっしゃった「自分プラスα」みたいなフレーズは、すごくいいキーワードだと思いました。日本でも美容整形需要がコロナですごく増えましたけど、それでもプチ整形止まりですからね。

――そうですよね。自分が少しバージョンアップできるというぐらいのニュアンスが、今の若者たちには訴求としては効果的なのかもしれないと思いました。最後に、今後企業がZ世代にアプローチする上で押さえるべきポイントを教えていただけますでしょうか。

原田――SNSが本格的に普及したここ5年ぐらいを見ていると、やはり「見栄」というものが復活したというのが大きいと思います。SNSに投稿するということは、「人にどう見られたいか」という意思表示なわけで。だから、企業は常に、今若者が見られたい像はこうで、その次はどういうふうに見られたいと思うか、というのを考え続けなければいけないし、それに沿った商品・サービス・テクノロジーを作っていかなければいけないと思います。逆に言えば、彼らが「どう見られたいか」という像を作り出せていける企業は強いんじゃないですかね。

Z世代は、デジタルネイティブだからこそ、デジタルとアナログの価値を冷静に見極め、しっかりと切り分けて使いこなしているということがコロナ禍で一層浮かび上がってきました。Z世代向けの施策を検討する際は、Z世代=デジタルという先入観にとらわれず、彼らの本質を見つめることが求められるでしょう。 また、原田さんも注目している「メイク男子」というテーマからは、そんなZ世代の自意識や彼らを取り巻く社会の価値観が垣間見えたように感じます。カリスマ不在の現在、自己の延長線上に憧れや理想像を見るという彼らの傾向を踏まえたアプローチが重要になりそうです。


原田曜平(はらだ ようへい)
慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社博報堂に入社し、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務める。退社後、2018年12月よりマーケティングアナリストとして活動。若者研究とメディア研究を中心に、次世代に関わる様々な研究を実施。

堀 かおり(ほり かおり)
株式会社電通テック +tech labo研究員
2014年電通テック入社。店舗運営や外資系企業のプロモーションに携わる。2018年5月より未来志向の開発型組織+tech laboの研究員となり、Z世代とSNSをテーマとして日々開発業務を行う。2018年末よりZ世代男子の美容に対する意識の高さに注目しており、彼らに向けて美容情報を発信するInstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp)をLIDDELL株式会社と共同で運用している。


Written by: BAE編集部

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