2021-04-22

若者研究の第一人者・原田曜平さんに聞く、Z世代を読み解く2021年最新キーワード(前編)

Z世代への訴求は「自分ごと化」「共感」「肯定」がポイント
20年にもわたって若者たちとコミュニケーションを重ねながら、若者の行動研究をされてきた信州大学特任教授、マーケティングアナリストの原田曜平さん。「さとり世代」や「マイルドヤンキー」という言葉を生み出し、2020年には「Z世代~若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?~」(光文社新書)という本を出版された原田さんが2021年、Z世代を理解するキーワードとして提唱されているのが「チル&ミー」。そこから見えてくるZ世代の心理や、彼らに響くアプローチをひもとくべく、電通テックの堀かおりがお話を伺いました。

※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


Z世代以降に生まれた、新しい「見栄」と「外圧」

――本日はよろしくお願いします。実は私も電通テックの+tech laboというチームでZ世代の研究に取り組んでいまして、今日はその辺りの知見を深めたく、お話を伺えればと思いました。早速ですが、長年にわたり若者たちの生態を観察してきた原田さんが認識されている、「ゆとり世代」と「Z世代」の差とはなんでしょうか。

原田――「ゆとり世代」は、「ゆとり」という言葉から何か覇気がないとか、だらしないと思われがちですが、なんだかんだでリーマンショックを経験したりと、まだ昭和型の残り香がある最後の世代という実感があります。

例えば、僕の周りにいる学生では「そんなんじゃ、就活厳しいよ」という脅し型の訴求をすると目の色が変わるという傾向が少し前までギリギリあったのですが、ここ数年、Z世代になってからはほぼ響きません。僕は大学生に限らず、高校生とか、いろいろな地域の学生とも交流がありますが、この傾向は共通していますね。厳しく言ったり、叱ったりするともう駄目で、褒めて伸ばすというか。

左:マーケティングアナリスト・原田曜平さん 右:電通テック +tech labo 研究員・堀かおり

――私は90年生まれで、ゆとり世代ドンピシャなのですが、2014年に入社して2〜3年で会社の働き方も変わって、何もかもこれまでの昭和の時代から引き継いできたものが終わってきたなと感じながら働いていました。原田さんがおっしゃるようなZ世代の傾向は、なぜ生まれたのでしょうか。

原田――やはりここ数年、コロナ禍までは有効求人倍率がよくなってましたし、僕も大学広報のアドバイザーとかやっているんですけど、大学の中から見ても、子どもたちの取り合いになっています。40年以上続いている少子化の恩恵を思いっきり受けて育ってきたタイプの人たちなので、非常にマイペースなんです。


――原田さんがZ世代を読み解くキーワードとしてあげられている「チル&ミー」の「チル」にあたるお話でしょうか。

原田――そうですね。「チル」は「まったりする」という意味で、競争意識の低いZ世代の傾向を示す言葉です。ガツガツしなくても引く手あまただし、脅し型訴求が響くような、悔しい、負けてたまるか、上昇志向を持つぞっていうタイプがなかなかいない。それよりも(会社の選び方としては)、自分に合う考えがあったら、居心地がよさそうだったら、という感覚になってきています。

一方で、これは「ミー」、つまり「私を見て」という自己承認欲求の高さを示す特徴の部分にあたるのです。ここ数年投稿型SNSが普及したことも影響していると思うのですが、Z世代には、ゆとり世代の時になかった新しい形の「見栄」が生まれて、消費活動が活発化している印象があります。

――どういった見栄でしょうか。

原田――2013年に、僕は「さとり世代」という言葉を作って、ユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされました。翌年には「マイルドヤンキー」という概念を提唱したのですが、2つとも、昔は若者たちが消費をしなくなってしまった、元気がなくなってしまった、という文脈の言葉だったんです。それは男たるものこうあるべきだ、社会人は一人暮らしするべきだ、車を買うべきだとか、ある種の強制力や外圧がなくなったことを意味するのですが、発信型SNSによって自己承認が得られるようになると、いいねされたい、人によく見られたいという「見栄」が生まれているように感じます。僕らの時代(就職氷河期世代)の若者は、社会からの風当たりが強くて、基本的に自己評価が低く、本を出すとか、テレビに出るとか、あるいは会社で課長に出世するとか、そこまでいかないと自己承認ができなかった。ところが、Z世代は少子化で子どもの頃から周りの大人たちに注目されてきましたし、SNSを通じて承認欲求を満たせるし、いい時代にはなったと思います。一方で、新しい見栄が生まれることで、同時に新しい「外圧」も生まれているように感じます。

――よくわかります。私がZ世代の当事者の方たちに聞いても、もう男は男らしくとかそんなのダサいし、フラットにいることをよしとしつつも、「カップルフォト」が流行ると、そういうのを撮ってないとリア充じゃないということがSNS上で暗に書かれていたりする。そういう今までは空気で感じていた外圧が、可視化されることで生まれるプレッシャーがあるなと思います。

不安定な心と、自意識の高さが同居する「チル&ミー」感覚

――競争をしないでまったりしたいという「チル」な感覚と、自分を見て欲しいという「ミー」な感覚は、一見相反するように思えるのですが、チルとミーは同居し得るのでしょうか。

原田――その相反する部分が面白いと思うのですが、本質的には同じ話で、要するに「自分」が強くなってきていますよ、ということだと思うんです。それと関係している話かもしれませんが、これは世界的にも言われていることで、Z世代って自分をすごく発信しているので自信満々かと思いきや、昔と比べると自己肯定感が低くなっているらしいんですよ。SNSでプチ自己承認欲求は満たせるんだけど、すごく不安定で自分に自信がない。最近、muuteっていう自己分析系の瞑想アプリも流行ってますよね。


――SNS上でキャラを使い分けて生きていけることが要因かもしれませんね。例えば、オタクの自分は趣味の友だちの前で、ちゃんとした自分は学校の友だちの前で、という感じで。自分が何個もありすぎて、それを統合した1つの「自分」がない。どれも自分だけど、どれも自分じゃないみたいな。だから、自分がわからないという状態に陥りがちなのかなと、Z世代の話を聞いていて思います。

原田――確かに、本当の自分がどれかわからなくなるという話はよく聞きます。

――原田さんが日頃、学生さんたちと接する中で、具体的にどのような部分で「チル&ミー」を実感しますか。

原田――例えば卒業生の送別会をやろうと言っても、みんなマイペースなので、あらかじめ入っている自分の予定を調整してくれる子が少ないんですよね。学生なんていつの時代もホスピタリティはないものですが、昔は強制力があったので、そういう時はみんななるべく予定を調整したものです。

――それだけマイペースだと、若者同士の人間関係にも支障は出ないのでしょうか。

原田――昔と比べると、やはり人間関係が希薄になっている印象はありますね。僕が20年前に知り合いと山手線で殴り合いの喧嘩をして、その後お酒を飲んで抱き合ったみたいな話をすると、学生がみんな爆笑して、それ韓流ドラマじゃないですかって言われるんですけど(笑)。リアルに起こったことなのですが、彼らにとって、そういったエピソードはもはやフィクションなんです。SNSなどで人間関係の数が増える一方で、一個一個の人間関係が薄まっているなと思います。

――ずっとお互い気を遣いあっているような感覚はありますね。SNSなどを通じて様々なコミュニティに属し、人間関係の幅が広がったり、多様化する中で、「友だち」の定義も曖昧になっているように感じます。

Z世代に響く「失敗リアリティ」「逃避行型コピー」

――Z世代向けにプロモーションをする上で、アプローチがしやすい表現方法などはありますか。

原田――先ほどの「脅し型訴求」の話に関連しますが、「あなたの体脂肪率、危険ですよ」みたいな、危機訴求的な広告は効きにくくなっていると思います。危機訴求をするにしても、サントリーの「自分防衛団」のように、コミカルに描くことが求められています。

また、「失敗リアリティ」も若者の好感度が高いですね。例えば、ぺこぱが出演しているチキンラーメンのCMで、鍋に落とした卵がぐしゃっと潰れてしまうというシーンがあるのですが、失敗がある方がリアルに感じられるのでしょう。いろいろな情報に触れ、基本的に広告は胡散臭いって思っている中で、何かそういう欠けている部分があると、信用しやすいのだと思います。

さらに、Z世代の話を聞くと、「逃避行型」という、逃避することを肯定してあげるコピーがいいという意見をよく聞きますね。例えば、パイロンPLという風邪薬の中吊り広告で「かぜの時は、お家で休もう!」というコピーがありました。今までだったら「これで風邪が治りますよ」だったのが、「風邪をひいてるから、家で休んでいいんですよ」と、肯定してあげる。がんばろうとか、成長しようじゃなくて、そのままでいいんだよという肯定のメッセージがポイントですね。

――昔みたいに、一人のカリスマがいて、それに憧れて商品を買ったり、サービスを利用したり、ということもなくなりましたよね。「自分ごと化」とか、「共感」が大事で、「肯定」してあげたり、多様性を認めてあげるメッセージの方が、受け入れられやすくなっているなとは思ってます。

1つ質問なのですが、最近は「サステナブル」や「エシカル」ということが言われていますが、Z世代にとって商品やサービスを選んでもらう際に、そこはメリットに感じてもらえるところなのでしょうか。

原田――最近、いろいろな企業から聞かれることなのですが、まだまだそういった意識を持っている子はハイブローといいますか、マイノリティだと感じます。例えば「環境に配慮したブランドですよ」というだけでは動かなくて、そのお店に行ったら無料で水がもらえるみたいな、自分に利益が還元された上で、やっと「エコ」が響くんですよね。ただ、「ファッション」としてのSDGsは彼らにも通じる部分はあるので、ファッションとしてうまく見せるか、あるいは思いっきり実利を追求して、プラスでエコ要素を取り入れるのが、現状はいいでしょうね。

――なるほど。そこは、世界のZ世代の潮流とズレを感じるところではありますね。

原田――実はそうでもなくて、僕は海外でも15年くらい若者調査を行っているのですが、北欧をのぞけば、他の国でもエコ意識の高い子はマイノリティだと思います。そういった意味では、僕らの時代と比べると、世界の若者と日本の若者の意識が近づいてきている。日本で流行ったものが、世界で流行る確率は高いですし、グローバルでマーケティングがしやすい時代になってきているなというのは、年々感じます。

少子化やSNSの台頭によって、自己承認を得られやすい環境で育ってきたZ世代。競争はしたくないけど、自分はちゃんと見て欲しい、という彼らの気持ちに寄り添うアプローチは「自分ごと化」「共感」「肯定」がポイントとなりそうです。また、ソーシャルグッドな姿勢や感覚が強いと考えられていたZ世代ですが、インサイトとしては今の段階ではまだ弱く、サステナブル消費や、エシカル消費を意識した施策には、消費者の実利も施策の中にしっかりと組み込むことが求められそうです。

後編では、コロナ禍以降の購買行動の変化、メイク男子、Z世代のデジタルシフトなどについてお話を伺っていきたいと思います。


原田曜平(はらだ ようへい)
慶應義塾大学商学部卒業後、株式会社博報堂に入社し、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務める。退社後、2018年12月よりマーケティングアナリストとして活動。若者研究とメディア研究を中心に、次世代に関わる様々な研究を実施。

堀 かおり(ほり かおり)
株式会社電通テック +tech labo研究員
2014年電通テック入社。店舗運営や外資系企業のプロモーションに携わる。2018年5月より未来志向の開発型組織+tech laboの研究員となり、Z世代とSNSをテーマとして日々開発業務を行う。2018年末よりZ世代男子の美容に対する意識の高さに注目しており、彼らに向けて美容情報を発信するInstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp)をLIDDELL株式会社と共同で運用している。


Written by: BAE編集部

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