2018-08-21

なぜ、台湾は「ガチャ」に夢中なのか?(後編)

日本とまったく違う考え方で、キャラクタービジネスを仕掛ける台湾の風雲児に聞く!
台湾でガチャブランド「パンダの穴」の展覧会「ガチャプラネット」が9/16まで開催中ですが、日本のガチャイベントとは桁違いの規模で開催。その狙いやこだわりと、さらに台湾から中国進出をする戦略を、台湾企業ジャンプメディアのゼネラルマネージャー ALAN CHEN氏(左)に、ガチャブランド「パンダの穴」クリエーティブディレクターの飯田雅実(右)が聞きました。


※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


経営戦略が先かアイデアが先か

飯田――発想する段階では、お金とかスケジュールは考えないで、まずアイデアを考えるということでしょうか。

エレン――発想する時は、基本的に制限をかけない様に心掛けています。発想がある程度決まってきたら現実と合わせ組み立てていきます。実現するためには、どうすればいいかを考えていくことが私にとってのモチベーションになります。


飯田――発想する前にビジネス的な戦略を考えるのか、それともいきなり具体的なアイデアを考えるのか、その辺りはいかがでしょうか。

エレン――両方のパターンが有りえます。会社の経営戦略があって各マイルストーンがあります。そのマイルストーンにふさわしいやり方、実行すべきことを逆算して当てはめるのが1つになります。

飯田――戦略に合ったものをはめ込んでいくんですね。

エレン――もう1つは、まずアイデアがあって、そのアイデアをいかにして戦略の中に入れるか。実は両パターンありますが、「パンダの穴」の取り組みは後者になります。

飯田――んー、そうなんですね。

エレン――「パンダの穴」はアイデアのブランドですから、私も実は後者の方が好きです。今は経営層なのでリアルな経営戦略は考えますが、まず発想して戦略に移すのが楽しいですし好きです。

飯田――ビッグアイデアを考え戦略にしていく。


エレン
――「パンダの穴」の場合は、こんなに面白いブランドなので、テンプレート式みたいな固定の方程式に当てはめること自体もったいないと思います。


展覧会「ガチャプラネット」への思い

飯田――結局、アイデアを考えないでテンプレートに入れてしまうと意外性みたいなものは出ないので、どこかで見た様なものになります。今回の様な規模のガチャのイベントは日本では、まずやらないと思いますが、台湾では実現しています。この展覧会への思いを少しお聞かせください。
台北の華山で9/16まで開催の「パンダの穴」の展覧会「ガチャプラネット」の入り口

エレン―私にとって一番忘れられない印象深い点は展覧会が具体化する前になります。ゼロから今まで私達が御社に行って話し合いをし、具体化をしていく。そのコミュニケーションの過程がとても印象深く忘れられません。今は具体化できましたが、これは結果です。この結果は、全ての議論と過程を重ねた上で、今の具体化という結論になっていて、実は具体化になるまでのお互いの話し合いとアイデアをシェアし合うことが、とても印象深い思い出です。

飯田――確かに結果は全ての過程の上に成り立っています。この展覧会で特に見てほしいという点はありますか。

エレン――展覧会の見どころといいますか、特別に紹介しておきたいところは、各ゾーンで、すでにキャラクターを知っている人とそこまで知らない人に対して、作品が理解できるための工夫をしました。例えば原作本来の世界観を忠実に再現しながら空間を組み上げ、あまり説明をしなくても見たらわかる。というところは結構苦労しまして、御社と一緒に話し合いをしてきました。

飯田――あまり理屈っぽくならずに、アイデアを見た瞬間に「何か」を思ってもらうことを大事にしてきた。ということでしょうか。

エレン――おっしゃる通りです。世の中の全てのことは、理屈で解釈できるとは限りません。これがあったからこうなる、というのは必ずしもイコールにはなりません。特にキャラクターがビジネスの中で一気にブレイクするのは、実は瞬間が大事です。きっかけとなる瞬間。私はこの飛躍的にブレイクする瞬間を重視して探しています。

大人気キャラクター「シャクレルプラネット」のブースには大きな動物の造形物がいっぱいあります。
寝ている動物シリーズ「Zoo Zoo Zoo」のブースは癒やしの空間になっています。
「自由すぎる女神」のブースではオフィスや居酒屋や地下鉄など現代人の生活空間で女神が自由なことをしています。
「モアイ・ア・ラ・モード」と「ぽっちゃりソルジャー」のブースは巨食をテーマにしたポップでカワイイ空間です。
「フルーツゾンビ」のブースはダンシングゲームも楽しめるユニークな空間です。


ブレイクする「瞬間」を生み出す

飯田――その瞬間というのは、もう少しわかりやすく言うと、どういうことでしょうか。

エレン――例えば、お客様のコンテンツキャラクターに対する愛情はどこから来るのか、また何のために愛情を注ぐのかという理由はキャラクターごとに違います。その理由ときっかけを、ずっと探しています。

飯田――キャラクターに合った、お客様がいいと思える、その瞬間のシチュエーションを作るということでしょうか。

エレン――まさに展覧会の他にもカフェやデパートでの展示など、様々なシチュエーションを組み立て、お客様の愛と情熱の素を色んな形でトライしています。

飯田――その瞬間を生み出すための演出をしているということですね。

エレン――いい例がありました。まさに、飯田さん達がガチャを作る時と同じです。展覧会を組み立てカフェを作り、お客様が入った途端に「ワオッ!」となる瞬間を求めています。お客様がガチャを見て「うわ、何これ?」ということと同じシチュエーションです。その瞬間があればあるほど、お客様のキャラクターに注ぐ愛情が深まっていきます。


飯田――あー、なるほど。「ワオッ!」と思える瞬間を作り出しているんですね。

エレン――この件に関しては、我々と皆さんが着眼するところは、結構近いと思います。

飯田――近いですね。


エレン――見た瞬間に「わー、何これカワイイ」があればあるほどキャラクターに対する愛情が増えていくので、この瞬間に関しては、とても重視しています。

飯田――こういったことは、広告業界出身ということは関係していますか。

エレン――やはり多少は関係していると思います。人間はビジュアル的な動物でもあるので、広告業界の時代は毎日毎日、自分をトレーニングして、いかにいいビジュアルを出すか、いかにビジュアルを組み立てるか、というトレーニングの日々でした。なので多少はあると思います。

飯田――あとは、広告業界を離れてから、今までのキャリアの中でトライ&エラーをくり返し、そこから得た経験が大きいですか。

エレン――はい。


台湾からみた中国本土への進出

飯田――最後の質問になりますが、中国進出についてです。日本の場合は、まず日本で成功してからアジアというマーケットへ拡大する戦略が一般的ですが、御社の様に台湾から中国に進出しマーケットを広げていくことは、日本人はあまり考えないので、どういった戦略を考えているのか大変興味があります。

エレン――実は、中国に関しては前から準備はしていまして、すでに何回も案件を実施しています。戦略的なことを言いますと、例えば、点と線と面で説明します。今一番重視しているのは点に関してですが、ショッピングモールみたいな所でのイベントがまず点となって、その点を埋めれば埋めるほど、線になります。線が増えれば面になります。もちろん線の密度が重要です。線の密度が足りなければ面にはなりません。重要なのは、まず点を埋めていき、増やしていく。


飯田――
増やす。

エレン――
大陸は広いし多くの都市があり、それぞれカルチャーや習慣が違うので台湾より難しいです。点を埋める時の深さも多分違います。大陸の場合は、点をより深く埋めていくことが必要です。なぜかと言いますと、例えばガチャで話をしますと、大陸自体にはガチャの文化というものが馴染んでいません。点をより深く埋めないと弱いです、線にならない。まず、いかにして大陸で有効な点を深く埋めて増やし、次に線にするか。そして、一つの都市が面になれば、次の面になる都市に移行し、前の段階より早く複写できると思います。

飯田――それは、例えば上海だったら上海でまず点を埋めていき、面を作るということですか。

エレン
――まず、代表的な都市から始めます。まさに今おっしゃった上海みたいな代表的な都市。大陸はビジネスモデルを複写することを受け入れられる国でもあります。代表的な一級都市で成功したビジネスモデルであれば、それを他の都市に複写することができます。まずいかに一級都市を点から面に構築していくか。あまりにも広いですから。

飯田――台湾ですと1年以内で結果を出すということでしたが、ガチャのキャラクターを中国で浸透させるには、どのくらいの時間を考えていますか。

エレン――難しい質問です。(笑)まず中国でガチャは、まだ馴染んでいません。これがどのくらい時間がかかるか言えない理由になります。点を埋めていくには、まずガチャが中国で受け入れられるところからスタートし、次に代表的なコンテンツを出す。筋から言うとこうだと思いますが、ただこの初期段階のガチャ文化の良さを理解してもらうには、どのくらいの時間がかかるか、わからないです。ですが、一度土台を作ることができたら台湾で成功した実例を流用してスピードアップすることは予定しています。


飯田――
他国の文化を理解してもらうには、時間はかかると思います。

エレン――
ずっと、この様な方向で長くやっていきたいと思っていますし、皆さんにも今後とも色々ご指導をお願いしたいです。それから、どうしてこんなにチャーミングになれるのかも教えてもらいたいです。(笑)

飯田――いやー、私はチャーミングではないです。(笑)

エレン
――今のご年齢を考えると、十分チャーミングです。(笑)


これからチャレンジしたいこと

飯田――エレンさんは、まだお若いですが、何か今後チャレンジしたいことはありますか。

エレン――それは、仕事上のことですか、それともプライベートですか。(笑)

飯田――仕事上のことでお願いします。

エレン――まず、チャレンジしたいことは、キャラクタービジネス上で経営と運営をよりマスターするためのチャレンジはしたいです。もう一つは、「パンダの穴」と同じ様にキャラクターを創造し制作全てをクリエートしていきたいです。


飯田――それはもう近いうちに実現しそうですね。

エレン――まだまだ勉強不足なので、たくさん勉強する必要があります。

飯田――楽しみにしています。本日は長い時間本当にありがとうございました。大変勉強になりました。

エレン――私もです。

今後の台湾での「パンダの穴」の活動にもご注目ください。最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

ALAN CHEN(台湾)
ジャンプメディア インターナショナル カンパニー ゼネラルマネージャー
ジャンプメディア インターナショナル カンパニー ゼネラルマネージャー 台湾で世界や日本のキャラクターを台湾市場に数多く仕掛けている。昨年ガチャブランド「パンダの穴」の中華圏におけるマスターライセンシーになり、 展覧会「ガチャプラネット」などを手掛ける。2017年台湾のビジネス誌で活躍した100人のゼネラルマネージャーに若くして選ばれ注目が集まる。

飯田 雅実
株式会社 電通テック シニアクリエーティブディレクター
広告やキャンペーンなどの企画制作を行い、その中で数多くのプレミアムグッ ズを手掛け、そのノウハウを他の業態で生かすために2013年ガチャブランド 「パンダの穴」をタカラトミーアーツ社と立ち上げる。昨年より台湾市場で ジャンプメディア社とともにキャンペーンや展覧会などを実施している。

Written by: BAE編集部

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