2018-08-20

なぜ、台湾は「ガチャ」に夢中なのか?(前編)

日本では知られていない台湾キャラクタービジネスの今を台湾の風雲児に聞く!
台湾では今なぜか日本の「ガチャ」がブーム。その秘密を探りながら台湾のキャラクタービジネスの今や台湾独自のビジネス戦略などを、台湾キャラクタービジネス界で多くのコンテンツを仕掛けてきた台湾企業ジャンプメディアのゼネラルマネージャー ALAN CHEN氏(左)に、ガチャブランド「パンダの穴」クリエーティブディレクターの飯田雅実(右)が聞きました。

※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


知られざる台湾キャラクタービジネスの今

飯田――日本では、台湾のキャラクタービジネスについて、あまり知られていないので、今日はエレンさんに台湾の現状や戦略的な部分をお聞きしたいと思っています。まずは、台湾のキャラクタービジネスについて教えていただけますか。

エレン――台湾のキャラクタービジネスとマーケットは、日本と大きな違いがあります。台湾では、常にスピードが求められています。より短い時間でオフラインとオンラインで話題にならないと成立しません。簡単に言うと、待てない、飽きっぽい、ですからスピーディーに進めないと忘れられてしまいます。


飯田――それは、昔からそうですか、それとも最近の話ですか?

エレン――最近は特にその傾向にあります。もう少し詳しく言うと、台湾は地理的にも世界中のコンテンツが入ってきます。そして、海外のものがあまりにも多いので、台湾人は、海外のものに対して馴染んでいます。その反面たくさん入ってくるので選択肢があまりにも多く飽きっぽいです。

飯田――あー、なるほど。

エレン――なので、台湾では、早い段階でキャラクターのセールスポイントを伝えるクリエートがとても大事になります。しかも、1年で結果を出さないと自然に沈んでしまい忘れられてしまいます。

飯田――1年で浸透させないと、いけないんですね。

エレン――もちろん、キャラクターの知名度によって違いはありますが、例えば、ゼロからのスタートであれば、ファーストステップとして半年内でセールスポイントを打ち出すことは必須になります。そこから、1年以内にセールスポイントを貯めていき、様々なコンタクトポイントを作り一気に爆発させていくことが、台湾のキャラクタービジネスでは重要な点だと思います。

飯田――鮮度があるうちに、スパッとさばく感じですね。


台湾独自のビジネス戦略とは?

エレン――実は、我々には早い段階でセールスポイントを打ち出せる理由があります。それは、プラットフォームをすでに用意してあることです。例えば、コンビニやデパートなどのキャンペーンで早い段階で露出を仕組み、次に展覧会を開催し爆発させ、すぐにキャラクターカフェをオープンさせます。この様に違う業態のものを連鎖させるためのプラットフォームはすでにあって、そこにコンテンツを投入していきます。話だけ聞くと簡単だと思われるかも知れませんが、プラットフォームがあったとしても事前の綿密なプランニングとハードワークは必要になります。

飯田――なるほど。

エレン――プラットフォームがあったとしても、ポンと何かを入れることは簡単ではありません。ただ、他の同業者と比べると我々は業態が多種多様でプラットフォームの蓄積があり、事前の綿密なプランニングをしているからこそ、スピーディーにセールスポイントをクリエートできるのだと思います。

飯田――日本だとキャラクターを育てるには、3~4年はかかるといわれていまして、台湾だとそこまで時間をかけるとビジネスとしては成立しない。スピーディーに世の中に出すためには、プラットフォームをあらかじめ用意し、早い段階で連鎖を生み出していると。

エレン――おっしゃる通りです。ですが、プラットフォームがあっても基本的には簡単ではありません。


飯田――簡単ではないけど、3~4年はかけないんですね。

エレン――実は、3~4年かける対象としては台湾のオリジナルキャラクターというのは考えられます。ですが、残念なことに台湾では代表的な例がありません。その理由としては、各社が根気を注ぐこと自体に時間をかけられません。コミックやアニメも実は海外のものばかりで、台湾独自のキャラクターを出していく例がなかなかありません。よくある例で言うと、アニメなどは第3部くらいの短命で終わってしまう例が多く見られます。これは、業界全体の問題でもあります。なので海外のキャラクターが多くなります。特に日本がメインになります。それは、台湾がアジアの中で一番親日といわれてることと関係していると思います。とにかく日本のカルチャーには馴染んでいます。ただ日本のアニメもキャラクターも、新しいものがどんどん出てきます。台湾にもほぼ入ってきます。ですから、3~4年待てる気持ちが恐らくないですし、ないというよりはダメだったら新しい選択肢がたくさんあり、アメリカのキャラクターも同じなので、これが3~4年かけない理由の一つです。


なぜ、台湾は「ガチャ」に夢中なのか?

飯田――台湾独自のキャラクターがあまりないんですね。それは意外でした。ここから少し、今台湾で一昨年くらいからブレイクしているガチャについてお伺いしたいのですが、なぜ急にガチャが流行り出したのでしょうか。


エレン――ガチャが台湾のマーケットでブレイクしている大きな理由としては、社会全体が不景気というのが背景としてあります。そして、台湾のチャーミングな人がガチャに目が行く理由がいくつかありますが、まずは何が出るかわからない。そして、出たものに癒やされる。この2つがまずあります。不景気だからこそ皆が癒やしを求める。これはまさに「パンダの穴」のガチャがそうです。以前はコレクター達が高額のフィギュアを買うことが多かったけれど、不景気だからこそ高額のフィギュアを買うケースが減っています。でもガチャは手軽に買えて、1回1回何が出るかわからないワクワク感と出たものを見て癒やされ、寂しさが満たされることが、恐らくガチャが台湾で一気に流行った理由かもしれません。


飯田――癒やしについては日本でも全く同じ現象があります。あと日本の場合はSNSでガチャを活用するケースが増えていて「こんなの見つけたよ」という投稿をすると、色々な人から反応があってコミュニケーションツールにもなっています。台湾の方も写真を撮るのは大好きですよね。(笑)

エレン――写真大好きです。(笑)とてもとても大好きです。FacebookやInstagramで投稿します。実は展覧会やキャンペーンイベントなどに共通する大切なことがあります。それは、いかにシーンを作っていくかということです。展覧会にもたくさんのシーンがありまして、お客様自身が求めている写真を自分のケータイもしくは友達のケータイから撮ってもらって、SNS上に投稿します。たくさんのお客様が頭の中で想像しているシーンを作ることができるから拡散しやすい。これも一気に口コミが自然と拡散していく理由と考えています。とにかくシーンを作ることを重要視しています。


なぜ、「パンダの穴」にオファーをしたのか?

飯田――日本と台湾でガチャがヒットする理由が近いというのは非常に興味深いですが、そんな中ジャンプメディアさんが、なぜ「パンダの穴」にオファーをしたのか、ちょっとお聞きしたいと思っています。

エレン――まず、台湾では日本のものがとても馴染んでいて違和感や抵抗感がほとんどないので、日本の方が好きなものは基本的に台湾の人も好きな場合が多いということがあります。

飯田――日本である程度ヒットしていたら、台湾でもヒットする可能性が高いと。

エレン――比較的高いと思います。感性が似ているのと、日本のカルチャーに馴染んでいるからだと思います。

飯田――ガチャメーカーは日本に数十社ありますが、その中でなぜ「パンダの穴」を選んだのでしょうか。


エレン
――1つ目の理由として前から個人的に「パンダの穴」のことが好きでした。もう1つは、SNS上でよく見掛けます。「パンダの穴」が掲載されている投稿やネットでの紹介文を社として見つけられる範囲で全て収集し研究していました。

飯田――そうなんですね。初めて聞きました。

エレン――会社全体で話し合った結果、まず私は「パンダの穴」には、まだかなり未知な潜在能力があり底力も絶対にあると、まさに今の台湾の環境に浸透しやすいと思いました。あともう1つ、他のガチャメーカーの作品と比べ、我々のスピリッツとカルチャーとの相性がいいと考え、それでアプローチしてみました。

飯田――ありがとうございます。そんなお考えがあったんですね。

エレン――言うのが恥ずかしいです。(笑)


ガチャブランド「パンダの穴」の代表作


キャラクターを売るための方程式

飯田――出会ってちょうど1年くらいしか経っていませんが、今回これだけの規模の展覧会を開催しましたけれども、キャラクターを売るための戦略的なプロセスを少し教えてもらえますか。

エレン――私の中では、キャラクタービジネスを三角形に例えます。その三角形の中に3つの段階を設定します。1番下の長い底辺のところは土台になります。その土台にたくさんのベーシックな露出を入れ、まずは1番下の土台を埋めます。例えば、デパートでのイベントやコンビニのノベルティーなど、まずはベーシックな土台の露出を増やし埋めていきます。2番目は、その中で好きなファンを集めることをします。展覧会に絶対来る人はそのキャラクターが好きだから来るんです。興味がない人は入場料まで払って来るわけがありません。次は、三角形の頂点の1番上ですが、こちらはハードコアなファンのための施策になりますが、高価な商品を買っていただくためには、何らかの取り組みが必要になります。例えばキャラクターカフェがそうです。展覧会に行って物足りない、もっと好きな気持ちを満足させたいからカフェに行ってその空間に入って、世界に入って、それはまさに頂点のハードコアな状態になります。これを1サイクルとしたら、この三角形を次の三角形の土台にして、他の業態に移行して第2、第3の三角形を作りサイクルを繰り返していきます。


飯田――三角形を何度も作り、繰り返していく。

エレン――もう少しわかりやすく言いますと、最初の三角形では、キャンペーン、商品、展覧会、カフェと段階を登っていきます。そうすると認知する人がどんどん増えていきます。次の三角形は、例えば全く違う業態のゲームやケータイで楽しめる商品などがあります。ですが、最初の三角形で獲得したファンがいなければゲームまでは行かない。

飯田――最初の三角形があってこそ、次のステージに行けると。

エレン――例えば、ゲームの次は映画、コミックもしくはアパレル。キャラクターとコンテンツは、無限の可能性があり、色々な事業体があります。まず慣れている得意分野からスタートして、力をためてから他のジャンルに行きます。これが我々の戦略です。


ビッグアイデアとロジック

飯田――そういう考えは、どこかで学んだものですか、それともエレンさんが経験から導き出したものでしょうか。

エレン――我々には3つの考え方があります。1つ目は、比較的新しい会社なのでトライすることに前向きです。歴史がある会社によくある「これをしたらダメ」ということがないので、まずトライをします。2つ目は、私にはロジックはありますが、そういうことを学ぶのは多分無理だと思います。ビッグアイデアは、こういったことと完全に関係がないと思います。


飯田――関係がない。

エレン――ビッグアイデアを考えることによって初めて今までにないものができます。要するに我々は毎日毎日色々なことにトライをして、今回はこれが足りなかった、今回はこれをやってわかった、勉強になった。それを積み重ねていく途中で自分が成長していきます。自分が進むべき道を、過去の経験を踏まえ試行錯誤しながら進んでいくことが多いです。3つ目は、私の前職は広告業界なので、ご存知の様に広告はアイデアの制限はありません。私は、そのスピリッツを忘れたくありません。制限をかけないアイデアをいかに具体化し、ビジネスモデルにしていくか、ということを考えています。

ここで(前編)が終了しますが、(後編)は、ガチャブランド「パンダの穴」の展覧会「ガチャプラネット」の話や、 台湾からの中国本土進出の戦略など、日本ではなかなか聞けない内容が続きます。明日リリースしますので、ぜひご覧ください。


ALAN CHEN(台湾)
ジャンプメディア インターナショナル カンパニー ゼネラルマネージャー
ジャンプメディア インターナショナル カンパニー ゼネラルマネージャー 台湾で世界や日本のキャラクターを台湾市場に数多く仕掛けている。昨年ガチャブランド「パンダの穴」の中華圏におけるマスターライセンシーになり、 展覧会「ガチャプラネット」などを手掛ける。2017年台湾のビジネス誌で活躍した100人のゼネラルマネージャーに若くして選ばれ注目が集まる。

飯田 雅実
株式会社 電通テック シニアクリエーティブディレクター
広告やキャンペーンなどの企画制作を行い、その中で数多くのプレミアムグッ ズを手掛け、そのノウハウを他の業態で生かすために2013年ガチャブランド 「パンダの穴」をタカラトミーアーツ社と立ち上げる。昨年より台湾市場で ジャンプメディア社とともにキャンペーンや展覧会などを実施している。

Written by: BAE編集部

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