2020-02-06

国内フードテックで注目すべきは“食のパーソナライズ化”を実現するソリューション

健康状態や食嗜好と連携したデータの活用もカギにラ・エア株式会社
全ての人間の食生活に関わり、世界の市場規模は700兆円に上ると試算されるフードテック市場。テクノロジーを基軸とした企業やスタートアップだけではなく、生産、加工、小売り、流通、外食産業、ヘルスケアなど、新旧の様々な業種・業態がこの分野に参入し、成長が拡大しています。
その背景には、①食料問題をはじめとする食領域の課題解決と、②食の可能性を広げるテクノロジーへの期待感があることを、【前編】でご紹介しました。
【後編】では引き続き株式会社シグマクシスの田中宏隆さんに、生活者にとって身近なものとなりそうな注目のサービスやソリューションについて、また、フードテックのさらなる認知・普及のための課題感や、展望などについて伺いました。


データ連携によるパーソナライズ化に期待感

——今後のフードテックの成長分野やトレンドを知るために、具体的な事例について伺いたいと思います。to Cではどのようなサービスやアイテムが伸びそうでしょうか。

そうですね。まず、食のパーソナライズ化を進めるサービスには、注目していく必要があるでしょう。例えば、米国のスタートアップが展開する「innit(イニット)」というサービスがあります。スマホからアクセスして、味の好みやアレルギー、今手元にある食材などに応じたレシピの提案を受けられるだけではなく、必要な食材をスーパーのサイトから取り寄せたり、IoT家電(オーブンレンジ)と連携させて実際に料理を作ることができるサービスです。

レシピの提案から買い物、調理まで、一元化されたプラットフォーム「innit」

さらにユーザーの遺伝子検査、血液検査、基礎代謝の状況などを解析し、健康状態に合ったレシピをレコメンドする米国の「Habit(ハビット)」、同じく遺伝子検査の結果からレシピや外食メニューを提案する、英国の「DNAfit + Vita Mojo(ヴィータモジョ)」などのサービスもあります。

「美味しい」「便利」だけではない、究極的なパーソナライズ化を実現できる内容ですが、日本でも、大手飲料メーカー等が近いサービスを展開し始めました。遺伝子検査や血液検査に基づいて摂るべき栄養素や食材についてのアドバイスを行ったり、それに応じたアイテムを届けるといったサービスです。

香港のスタートアップ「Lify(リフィ)」も、パーソナライズ化に着目したサービス。アンケートから導き出した体調に合わせて、最適なお茶を抽出する

スマートキッチン寄りの話題としては、画像解析によって冷蔵庫の在庫を認識して買い物リストをアプリに送信するサービスなどが誕生しつつあります。
背景には、あらゆるデバイスから、従来はトラッキングできなかった生活者の消費行動や食生活にまつわる欲求などの詳細なデータを獲得できるようになり、多様なニーズに応えられるようになってきた、というテクノロジーの進化があります。

——家の外でもこのようなサービスを受けられるようになるのでしょうか。

保存、冷凍、パッケージ技術なども向上していますから、充分可能になっていると思います。例えば、「CHOWBOTICS(チョウボティクス)」によるサラダベンディングマシンは、20種類以上のキャニスターの中の食材やドレッシングを組み合わせて、1000種類以上のサラダの提供が可能です。
また、ベルギーの「Alberts(アルバーツ)」も、いつでも安全に新鮮なフレッシュジュースやスムージーが飲める自動販売機を開発し、普及させています。

「CHOWBOTICS」のサラダベンディングマシン。注文したサラダのカロリーがその場で計算される
学校やオフィスに導入されている、「Alberts」のスムージーのマシン。レシピを選択すると、ビタミンやミネラルの含有量なども表示される

その他にも、「Wilkinson BAKING COMPANY(ウィルキンソン ベーキング カンパニー)」が開発している焼き立てパンのベンディングマシン、ロボットがトップバリスタと同じ手法でいれるコーヒーをスマホから注文して店頭で受け取れる「CAFE X(カフェエックス)」などが海外で人気を呼んでいます。まさにスマート・ベンディングマシンと言える領域です。

——日本国内でも、このようなサービスや機械が浸透するでしょうか。

間もなく、身近になってくると思います。企業側のメリットも、自販機等による無人化や、ユーザーの体験価値の向上だけに留まりません。WEB等との連動で利用者のデータや動向を分析して、より精緻なパーソナライズ化を行い、サービスのバリエーションを増やすなどのフィードバックが容易であることも特徴です。
先行する海外のプレーヤーはすでに獲得したデータを活用して、マーケティングやサービスのバージョンアップなどを進めています。

ベルギーのカクテルレシピサービス「Drinkworks」。夜だけではなく、休日のブランチにもカクテルが好まれているなど、データによって意外な傾向等が判明したという


皿洗いや高温の調理場でロボットが活躍する

——店舗において注目するべき、フードテックの事例やサービスはあるでしょうか。

海外では流通やデリバリーなどに関するサービスの伸びが顕著ですが、国内では、省人化を狙いとしたロボティクスの導入などに注目が集まりそうです。
ロボットはコモディティ化が進んで、人件費と対比させた際のバランスがかなりとれてきたと聞いています。シンプルな製造・調理の作業や、皿洗いや揚げ物など人間の負担が大きい作業を皮切りに、これからどんどんロボットに置き換えられていくでしょう。

コネクテッドロボティクス社「自動たこ焼きロボット」などがすでに実用化。見ているだけで楽しい「ソフトクリームロボット」は、導入で子どもの売上が2倍になった店舗も

AIを搭載し、多言語対応が可能な飲食店用の接客ロボットなどの開発や導入も進んでいます。インバウンド対策や人件費対策に寄与するでしょう。

株式会社シグマクシス ディレクター 田中宏隆(たなか・ひろたか)さん


高齢化や防災に向けたフードテックを世界に誇れるものに

【前編】でも少しお話ししましたが、「食×サイエンス」の領域とも言える、代替プロテイン(Alternative Protein)に注目しています。この1、2年で同領域のベンチャーが劇的に増え、2020年1月の時点ではグローバルで300社に迫る勢いです。中でも、植物由来の代替肉は、米国などを中心にすでに商用化されています。米国のハンバーガーショップやファーストフードにも導入されており、条件さえそろえば日本にも輸入されてくると思います。
ただ、単品としての味はというと、現状では本物の肉には追い付いていませんし、コスト面にも課題があります。最近では「健康面から見て、本物の肉と比べて本当にプラスと言えるのか」という点でも議論を呼んでいます。

代替プロテインなどの新食材は、サステイナブル食材としての文脈で語られることが多く、今は世界中で植物性代替肉、培養肉、または昆虫食の可能性も追求されています。日本でどこまで浸透していくかは、注視していきたいところだと思います。マーケティングがうまくいけば一気に広がるかもしれないですし、そうでない可能性もあります。

ちなみに、米国で植物性の代替肉が、ここまで広がっている理由は、彼らのソウルフードであるハンバーガーに使われているという側面があるでしょう。対して、日本人にとってのソウルフードとは何かと考えると、ラーメンなどの麺類もあげられるのではないでしょうか。ですから、肉類よりもすでに発売されている完全栄養食の麺などのほうが、国内では早く生活に浸透しそうですね。

国内企業の「BASE FOOD」が開発した完全栄養のパンと麺からは、1食あたり1日に必要な栄養素の3分の1をとれる。2019年11月に国内累計販売食数100万食を突破

これはフードテック全体の課題感とも関連する部分ですが、やはり“生活者が特に必要としないもの”は、動きません。例えば、「レストランに行くよりも昆虫食が食べたい」という層は、現段階では極めて少数でしょう。どんなサービスやアイテムも、プロダクトアウト的に押し付けられるものではなく、「これがあると、食生活が豊かになるな」と生活者が実感でき、本当に必要とされるものがスケールしていくのだと思います。

——今後の国内のフードテックの展望を、どのようにご覧になられていますか。

フードテックと言えば、スタートアップが盛り上がっている印象かもしれませんが、世界では大手家電メーカーなども、ユーザーの健康状態から食材の購入、家庭での調理などを一元化してサポートする“フルスタック型”のソリューションを模索しています。海外だけではなく、日本でも一元化されたパーソナライズドサービスなどの中から、成功例が誕生すると思います。

また、国内では高齢者向けや単身者向け、防災・災害時に向けたフードテックが今後求められていくと思います。関連した産学官が連携し、研究・開発の進捗などに目配りをしていくべきでしょう。
日本の得意分野として世界に先行できれば、ノウハウやソリューションごと輸出することも可能だと思いますし、日本の食文化に対する興味関心を大きく広げるきっかけにもなると思います。

私たちも、「スマートキッチン・サミット・ジャパン」などのフードテックカンファレンスなどを通じた情報発信やコミュニティの形成、また世界のカンファレンス等を通じてインサイトなどを収集・発信し、イノベーションに貢献していきたいと思います。

“スマート・ベンディングマシン”や“レストランテック”等、フードテックのユニークなサービスやソリューションは、生活者の体験価値やライフスタイルそのものを大きく変えていきそうです。米国の食品メーカー、家電メーカー、スタートアップなどがトレンドや成長をけん引していますが、近い将来には国内からも成功事例が表れそうです。勝敗を見極めるには、「生活者に食生活の豊かさを実感させられるサービスかどうか」という目線を保つ必要があるでしょう。
Written by: BAE編集部

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