2023-01-24

キーワードは「安全保障」と「メタバース」 CES 2023レポート【前編】

提唱された「MoT(Metaverse of Things)」という新概念
続くコロナ禍で、オンライン開催・ハイブリッド開催が続いた米国最大の展示会CES。3年ぶりに制限のない開催となった今年(2023年)は、115,000人を超える来場者数を記録しました。

テクノロジーの未来を占うこの展示会、今年のCESからはどんなトレンドが見えてきたのか? CES 2023の現地レポートを前後編に分けてお届けします。前編ではCES全体を通して見えてきたビッグトレンドを読み解きます。


車の展示だけではない、課題解決のためのモビリティが登場

世界中のテック企業が集結する米国最大級のイベントCES。50年以上の歴史があるイベントです。ここ数年、CESは車関係の展示が増えており、テレビなどでソニー・ホンダモビリティのコンセプトカー「AFEELA」が大々的に報道されているのを目にした人も多いでしょう。実際に、今年も昨年新設されたLVCC(ラスベガス・コンベンション・センター)のウエストホールは、ほぼ車関係の展示で埋め尽くされていました。

注目を集めたソニー・ホンダモビリティのAFEELA
車関係の展示があったLVCCウエストホール

モーターショーのようだと評されることもありますが、あくまでもこれはCES。自動車メーカーがコンセプトカー発表する場ではなく、具体的な自動運転技術、EV車の充電に関するソリューションが多数紹介されている、というのが実態です。そんな中、今回注目されていたモビリティは、世界的な食糧危機を救うための農業機器です。

John Deereの自動散水トラクター

昨年のCESでも新製品を発表していた世界最大の農業機器メーカーJohn Deereが今年展示したのは、除草剤をピンポイントに噴霧する自動運転トラクター「SEE & SPRAY™ ULTIMATE」。左右に伸びた長いアームにカメラが取り付けられており、AIによる画像認識で雑草を判別、ピンポイントに除草剤を撒けるというもの。他にも効率的な種まきを行うことで肥料の削減につながる「ExactShot™」という機器を発表。食糧危機に対するソリューションとして、具体的なテクノロジーが提示される形となりました。


世界の家電メーカーが一斉に”サスティナビリティ”を謳った理由

2023年は、ここ数年のCESと比べて決定的に違う点がありました。それは、「サスティナビリティ」と社会課題の解決を訴える企業が圧倒的に多かった、ということです。それに伴いブースにも変化が見られました。これまで大企業の、特に家電を扱うメーカーのブースにはところ狭しと新製品が並んでいましたが、それがサスティナビリティについてのビジョンを掲示するエリアに代わっていたのです。

サスティナブルサイクルについて掲示されたLGのブース

そのトレンドに呼応するかのように、主催者であるCTA(Consumer Technology Association)のゲイリー・シャピロCEOは初日のKeynoteで「今回初めて共通テーマを設けた」と発表。テクノロジーでより良い世界を作るため、国連に関連する団体とパートナーシップを結び「HS4A(Human Security for ALL=全ての人に安心と安全を)キャンペーン」をスタートさせたと話しました。

エネルギーの節約とサスティナビリティについて展示されていたSAMSUNGのブース。そのガイドツアーの様子
Panasonicのブースはリサイクル素材を多く使用。カーボンフットプリントを大幅に削減し、デジタル会場でもPanasonic GREEN IMPACT Experienceと題しPRを行った

Appleに代表されるように、米国GAFAM(影響力のあるテック企業)も近年、新製品発表会でサスティナビリティやカーボンフットプリントに対するビジョンを打ち出すことが当然になっています。家電メーカーも、サスティナビリティを考えずに進めない時流に変わってきているのでしょう。


Metaverse of Thingsと体感できるVRの世界

一方、メディア向けに発表されたキーワードで興味深いものがありました。それが「Metaverse of Things」です。IoT(Internet of Things)が「インターネットとつながるモノ」と訳されているように、メタバースとつながるモノ、という意味です。CTAは、メタバースが投機的な意味合いを持つワードであるとしながらも、今後のビジョンとしてこのMoTを打ち出しました。

MoTを発表したCTAのSteve_Koenig
Koenig氏はメタバースという概念が現在、思いのほかさまざまな分野やコト(Things)に浸透してきていることを指摘し、「Metaverse of Things」という言葉で、その状況と、今後あるべきメタバースの方向性を表現した。

では、実際のブースではどのような展示がされていたのでしょうか。まず目立ったのはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)です。なかでも新感覚だったのはイギリスのultraleap社の「Lynx R-1」。HMDの先端に取り付けられたカメラが装着者本人の両手を認識し、トラッキングします。これによりVRの世界で自分の手をコントローラーとして使えるようになるのです。

ultraleap社のHMD、Lynx R-1を体験する筆者。生身の手そのものがコントローラーになっている

ultraleap社のHMDをつけるとこんなふうに見える

アメリカ・bHapticsのブースでは、既に販売されている触覚フィードバックスーツTactSuit X40と、2023年2月に発売予定の触覚グローブTactGloveが展示されていました。TactGloveを装着すると、メタバース内で握手やハグをすると触れた感覚が再現されます。物を握り潰した時の衝撃や、摘んだ時の圧なども感じられ、非常にリアルな感覚を得られました。

TactSuit X40とTactGloveを装着し、メタバース内での触覚を体感中の男性

2018年に公開された、メタバース的な世界観を先取りした映画『レディ・プレイヤー1』の中では全身にスーツをまとってメタバースの世界に入り込み、衝撃を現実のように体感する主人公が描かれていましたが、まさにその世界が近付いて来たように感じられました。

こうした体感型ツールは比較的購入しやすい価格設定で開発されているため、今後はゲームやSNSを中心にメジャーな存在になっていくと考えられるでしょう。ただし、概念として提唱されたMoTの世界への到達には、まだ時間がかかりそうです。


テックは消費から循環へ。ユーザーにも高い意識を求める傾向に

既にApple Storeなどで販売中のOTTERBOXのiPhoneケース。生分解性プラスチックを使用している

これまで筆者はCES取材で多くのガジェットや最新技術に触れてきましたが、その主題は常に、「テクノロジーを使った効率化」であったように思います。例えばビジネスを効率化させるデバイス、エンターテイメントを持ち運べるモバイルツール、音声認識で管理できるスマートホーム、ダイエットを成功させるウェアラブルなどがそうでしょう。人々の理想である便利で豊かな暮らし、キラキラする未来を見せてきてくれたのがCESでした。

しかし今回はそうしたモノの効率化の時代から一歩先へと踏み出しているように感じられました。世界の食糧危機に対して提案される農業のシステムや、家電が使われなくなった後のサイクルなど、これからの人類がどうすべきかについて、テクノロジー視点で語られるものが多くありました。この傾向はiPhoneケースのような小さなモノにも浸透しており、新製品には「生分解性プラスチック」が当たり前のようにラインナップされ、購入することで海や動物を救えるプロジェクトも複数展示されていました。

時代は、消費する側の私たちにも「サスティナブルを意識した選択」を求めるようになってきているのでしょう。そんな潮流が、今回のCES全体を通じて見えてきました。
後編の記事では、私たち生活者にとって身近なテーマである「デジタルヘルス」に焦点をあてて、注目のプロダクトやブースをご紹介します。

時代は、消費する側の私たちにも「サスティナブルを意識した選択」を求めるようになってきているのでしょう。そんな潮流が、今回のCES全体を通じて見えてきました。
後編の記事では、私たち生活者にとって身近なテーマである「デジタルヘルス」に焦点をあてて、注目のプロダクトやブースをご紹介します。

Written by: BAE編集部

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