2023-07-04

ゲーミフィケーション+暗号資産で社会課題を解決するWeb3アプリの新発想

共創的な企業の姿勢が人々を惹きつけ、行動につながる
ゲーミフィケーションと暗号資産の仕組みを取り入れて、社会課題を解決するWeb3アプリ「TEKKON」が注目を集めています。老朽化がすすむ社会インフラの管理・把握を、市民の力を借りて行うことが目的のこのアプリ。マンホールや電柱の写真を撮影すると報酬としてポイントが付与される、そして社会貢献もできるという仕組みが人気を博し、世界8カ国で13万人のユーザーを獲得しています。

人々を巻き込み、行動を促し、大きな目標を達成する仕組みとして、ゲーミフィケーションや暗号資産をどのように活用されているのか、電通プロモーションプラスでゲーミフィケーションを取り入れたソリューションに携わる遠藤 美樹が、Whole Earth Foundationマーケティング担当の福田 恭子さんにお話を伺いました。

【対談メンバー】
〇Whole Earth Foundation 福田 恭子
〇電通プロモーションプラス 遠藤 美樹


市民と自治体・インフラ企業をつなぐエコシステム

遠藤――私は、ゲーミフィケーションの手法を駆使して企業の社内DXシステム定着の推進をお手伝いする「EnGame™」というソリューションを担当しています。
「TEKKON」もまた、ゲーミフィケーションを取り入れたアプリということで、今日はいろいろとお話を伺えればと思います。まず、Whole Earth Foundation さんと、「TEKKON」の概要について教えていただけますか。

福田――はい。私たちWhole Earth Foundationは、シンガポールに拠点を置くNPOです。目指すところは、市民参加型のインフラ情報プラットフォームの構築で、市民の力でインフラを守っていこうというミッションのもと、ゲームアプリ「TEKKON」の開発・運営をメインの事業としています。

日本ではマンホールや電柱といったインフラの老朽化が社会課題となっていますが、それらのすべてを、自治体やインフラ企業が管理・把握していくためには、莫大な時間と費用がかかってしまいます。


私たちは「TEKKON」を通じて、市民、自治体やインフラ企業をつないでいくエコシステム構築を目指しています。流れとしては、市民の方々にインフラデータを収集していただいて、その代わりに私たちからインセンティブとしてポイントをお渡しします。集まったデータを、自治体やインフラ企業に販売して、データ購入費として対価をいただくという流れになっております。


遠藤――市民と、自治体やインフラ企業、それぞれにベネフィットがあるエコシステムになっていますね。
私も実際に「TEKKON」で遊ばせていただいたのですが、思ったよりたくさんのマンホールがあるんだなと驚きました!

福田――そうなんです。日本だけでも、マンホールは1,500万基、電柱は3,600万本もあると言われています。「TEKKON」では2022年10月のローンチから現在までに、海外も含めてマンホール400万基、電柱は72万本のデータを収集できています。

遠藤――べてユーザーさんの手によって収集されたデータであるということがすごいですね。ゲーミフィケーションを適切に取り入れることで、多くの人を巻き込み、成果につながりますね。


人を動かすには内発的・外発的な動機付けが必要

遠藤――そもそも、市民参加型のインフラ保全システムを構築しようとなった時に、ゲーミフィケーションを取り入れた理由とはなんでしょうか。

福田――「みんなでインフラを守ろう」というメッセージは、共感していただきやすいところではあるのですが、それだけでは人は動いてくれません。そこで、純粋にゲームを楽しみながら、社会課題にも貢献できるという仕組みとして、ゲーミフィケーションを取り入れました

遠藤――弊社の「EnGameT™」でも「DXを推進して業務効率化や成果をあげることを目指す」という目標は理解されながらも、なかなか社員の皆さんのDXツールの利用が進まない、といった課題があったところに、RPGのストーリーに沿って社員自らが課題解決をしていくなど、「自分ゴト化」しやすい仕組みを取り入れました。
「TEKKON」では、具体的にどのような仕組みでユーザーの行動を促していますか?


福田――データを提供いただいたシチズン(ゲーム内のプレイヤーの呼称)の方々に、インセンティブとしてポイントを付与しています。見つけたマンホールや電柱といったインフラを撮影することでポイントをゲットできるほか、ほかのユーザーが撮影したデータに不正がないかチェックする「レビュー」機能でもポイントを得られます。

アプリの指示に合わせて撮影をすることで、きれいにインフラの撮影ができる

福田――「TEKKON」の特徴は、ゲーム内で得たポイントを私たちが独自に発行している暗号資産「Whole Earth Coin」に交換できることです。暗号資産に交換する以外にも、アプリ内で新しい「犬NFT」やアイテムを購入したりすることでさらにゲームを楽しむことができます。

遠藤――暗号資産であるからこそのメリットはなんでしょうか。

福田――ゲームが広がることで、「Whole Earth Coin」の価値も高まり、市民の皆さんに大きく還元できるというところがメリットだと思います。一方で、暗号資産というものに、まだ抵抗のある方や、理解が及ばないという方もいらっしゃいます。取引所での交換方法がわからないという方のためにも、「TEKKON」では「LINE Pay」と交換できる仕組みを導入しています。

アプリのローンチ時には、Web3ゲームに馴染みのある方々を中心に遊んでいただいていましたが、現在ではユーザー層も広がって、スキマ時間に「ポイ活」感覚で遊ばれている方も多くいらっしゃいます。

遠藤――「自分が社会インフラを守っている」という精神的な充足感だけでなく、暗号資産のような実利的なインセンティブを得られる仕組みも大事ですよね。モチベーションには、いわゆる「内発的動機付け(人の内面的な要因によって生まれるもの)」と「外発的動機付け(報酬など外部からの働きかけに起因するもの)」があると言われていますが、その両方があることで人の行動を促すことができると私たちも思っています。


行動を促すUI/UXと、熱量の高いファンコミュニティ

遠藤――「TEKKON」で遊んでもらうために、UI/UXの面でこだわっているところがあったら教えてください。

福田――機能を複雑にしすぎないということには気をつけています。アプリの目的はインフラの写真データを収集することなので、写真を撮るだけのシンプルな操作で、誰でも簡単に遊べるような内容にしています

遠藤――確かに写真を撮る際のガイドなどもシンプルで、誰が遊んでもわかりやすい内容になっていますよね。

福田――そうですね。私の知る限りでは、70代のユーザーさんもいらっしゃいます。最近では高齢者の方が健康のために「TEKKON」を遊んでくださっているという話もお聞きしています。

遠藤――お散歩がてらですか? すごいですね! ところで、私が「TEKKON」で遊んでいて、このUXは共感するなと思ったのが、ランキング機能なんです。投稿した写真の数や、レビューの数が、ランキング形式で表示されるのですが、弊社の「EnGame™」でも、導入されたシステムを社員が利用することでポイント獲得やレベルアップにつながり、その結果がランキングで公開されるという仕組みを採用しています。

獲得したポイントで相棒となる「犬NFT」をレベルアップさせることも可能。犬が成長するとポイントの獲得効率も上がる(写真左)、投稿数はランキング形式で表示され、プレイヤーの競争心を煽る(写真右)

福田――私たちも、ランキングによって競争心が煽られ、さらなるモチベーションアップにつながるという効果を期待しています。

遠藤――話は変わって、「TEKKON」ではオフラインでのファンミーティングも頻繁に開催されているようですが、運営として、ユーザーさんとの距離感やコミュニケーションで気をつけていることはありますか。

福田――「TEKKON」では「Discord」というコミュニケーションツールの中に、ユーザーさん同士が交流できる場を設けているのですが、そのコミュニティに、運営があまり介入しすぎないことを意識しています。その結果、ユーザーさんの疑問に、別のユーザーさんが答えるという流れが生まれてきています。

オフラインのファンミーティングに関しても、最初は私たちが企画するのですが、それ以降はユーザーの方々が自主的にオフ会を開催して、運営はそのサポート役として関わるようになっています。徐々に全国的に、シチズンによる自主企画も増え、運営はゲストとして参加することが多くなりました。

全国でシチズンによるファンミーティングが開催されている

遠藤――すごく熱量の高いファンコミュニティができていますね。

福田――「自分たちの街でもイベントを開催してほしいから、自治体に声をかけておきました」と言っていただくこともあります。サービスはみんなで作っていくものだと思っていますし、私たちもシチズンの皆さんの声から学ばせていただきながら、開発に生かしていきたいと考えていますので、サービスを提供する側、利用する側、と一方的な関係性にならないようにしたいですね。

遠藤――中央の管理者がおらず、参加者たちによって運営される組織、いわゆるDAO(分散型自律組織)のような組織が構築されているのが、すごいですね。まさにWeb3アプリである「TEKKON」ならではの、ユーザーさんとの関わり方だと思いました。

最後に、今後の「TEKKON」の展望についてお聞かせください。

福田――まずは、シチズンの力を借りて、いま対象としているマンホールや電柱の写真を、撮り尽くすことが目標です。それに加え、今後、対象インフラを増やしていきたいとも考えています。守らなければいけないインフラはガードレール、道路標識、信号機と、ほかにもたくさんあります。データを必要とする、新たなインフラ企業や団体を視野に入れながら、インフラを守ることに貢献していきたいと思います。

遠藤――素晴らしいですね。また、対象をインフラ以外に広げていくことで、さまざまな民間企業や団体との連携もできそうだなとも思いました。ゲーミフィケーションやWeb3の仕組みを駆使しながら、市民の方々と一緒にまちづくりをしていく、そういう横展開も考えられそうですね。

弊社の「EnGame™」もゲーミフィケーションにより「皆でつながって、遊ぶように楽しむ」ことでDXを定着させる仕組みですが、「TEKKON」のお話を伺ってユーザーが楽しんで「自分ゴト化」することができるゲームシステムの設計などの共通する部分や、誰でも簡単に遊べてユーザーの行動を促すUI/UXの設計、共創的なファンコミュニティのあり方などの今後のヒントになるポイントをいくつも伺うことができました。
本日は貴重なお話を、ありがとうございました。

「TEKKON」が多くのユーザーを集めているのは、ゲーミフィケーションで楽しみながら社会貢献ができる仕組みに加え、ユーザーとともにサービスを共創していくというWeb3的な発想を効果的に取り入れていることも大きな要因と言えそうです。人々を惹きつけ、行動を促すサービス設計のヒントとして、今回の事例は非常に参考になるでしょう。

福田 恭子
Whole Earth Foundation
新潟県出身。慶應義塾大学理工学部進学後、東日本大震災の被災地での活動を機に社会起業に関心を持つ。慶應SFCに編入後、「社会課題×ビジネス」をテーマとした企業家精神醸成事業を学生起業、全国15拠点に展開。大学卒業後は新潟県の民間、行政の新規事業創造、新商品企画開発、地域活性化、産業観光などの取り組みに従事。2022年9月にWhole Earth Foundationに参画。

遠藤 美樹
株式会社電通プロモーションプラス
デジタルエクスペリエンス事業部 デジタルマーケター/プロデューサー
営業、ディレクターを経て現職。BtoB/BtoCの領域問わず、新規リード獲得・育成・ロイヤル化などの顧客体験設計及びUI/UX改善が得意。

Written by: BAE編集部

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