2023-07-20

SNSの盛り上がりから生まれる、生活者主体の消費形態「ウェーブ消費」

推し活やタイパなどの潮流と結びつく、新時代の購買行動
近頃話題となった「TikTok売れ」というフレーズに象徴されるように、SNSから生まれた熱狂から人々が衝動的な購買行動に走る現象が注目を集めています。この現象を「ウェーブ消費」と名付け、新しい時代の消費形態として分析するのが、CRO(コンバージョン率最適化)プラットフォームの開発・販売・運用などを手掛ける株式会社Sprocket 代表の深田 浩嗣さん。

SNSを利用したプロモーション案件も多く手掛ける、電通プロモーションプラスの芳賀 智子が「ウェーブ消費」が生まれる理由や、企業が「ウェーブ消費」を活用する際のポイントについて伺いました。

【対談メンバー】
〇株式会社Sprocket 代表 深田 浩嗣
〇株式会社電通プロモーションプラス 芳賀 智子



「みんなで盛り上がること」に対価を払う

芳賀――まず、「ウェーブ消費」とはどのような消費形態なのか、教えていただけますか。

深田――「今、この瞬間をみんなで盛り上がる」ことに対価を支払うという新たな消費形態のことです。ライブやスポーツイベントで、人々が順番に手をあげて、会場が波打つように見えることを「ウェーブ」と呼びますが、「みんなで一緒に参加する楽しさ」をそのウェーブになぞらえて「ウェーブ消費」と表現しました。

イベントやライブへの参加などリアルの場ではこうした消費形態はもともと見られましたが、「盛り上がりの場」がSNS上にも広がることで、今までには見られなかった消費形態へ発展してきているというふうに見ています。

芳賀――旧来はリアル中心だった「盛り上がりの場」がSNS上に広がっているのは確かに実感します。深田さんのnoteには「SNSは承認欲求を満たすツールではなくなってきている」ということも書かれていますね。


深田――いわゆる第一世代のSNSユーザーは、特にInstagramでそういった傾向があったと思いますが、「自分をよく見せる」ことで承認欲求を満たす側面がありました。今だとあまりにキラキラしているアカウントなどは揶揄されたりしますよね。それよりも、「一緒に盛り上がりを作る」「盛り上がりに乗る」ということがユーザーのSNSを使う目的になってきていると感じます。

芳賀――SNSで承認欲求を満たすのではなく盛り上がることがメインストリームになってきていて、さらにその盛り上がりが「消費行動」に繋がる、というのがポイントですね。

深田――ええ。イメージしやすい例でいうとNFTの盛り上がりがそれに近いものがあると思っています。NFTの世界では単なるテキストデータにものすごい値段がつくことがあって、購入者が殺到して飛ぶように売れていくわけですが、物としての価値よりも、人々はみんなで同じ遊びに参加する楽しさや、そこで生まれる人との繋がりに価値があって、そこに対してお金を払っていると思うんですよ。

芳賀――人々は「盛り上がりに参加すること自体」に価値を感じていると。

深田――そうですね。ただし、その盛り上がりの場を提供しているのが必ずしも企業というわけではなく、自然発生的に生じているというのが、「ウェーブ消費」のポイントになります。

芳賀――なぜいまの時代、「ウェーブ消費」のような消費行動が生まれるのでしょうか。例えばTwitterの初期からあるような、テレビで「天空の城ラピュタ」が放送されるときの「バルス」の瞬間の盛り上がりなど、自然発生的な盛り上がり自体は以前からあったと思いますが、ここへきて「ウェーブ消費」として確立してきた要因はなんなのでしょうか。

深田――3つの要因があると思っています。1つ目は「盛り上がれる人や手段がオンライン(SNS)上ですぐに手に入る」こと。いまのZ世代やデジタルネイティブの方々は、リアルで会ったことがない人と繋がったり、交流したりすることに抵抗がなくなってきています

2つ目は、ウェーブの発見が容易になってきているということです。SNSのレコメンド精度が向上しているとともに、ハッシュタグなどの機能を通じて、トレンドが可視化されやすくなっています

芳賀――それは私も感じます。業務の情報収集を兼ねて、トレンドを探しながらSNSを閲覧することが日課なのですが、いまはInstagramよりもTwitterを見る時間の方が長くなる傾向があって。というのも、今年Twitterのタイムラインに実装された「おすすめ」欄に、いま流行っている話題がどんどん流れてくるので、キャッチアップできるんです。Twitterのおすすめ欄から見つけたイラストレーターや写真家の方とのお仕事につながったこともあります。

深田――まさに、そういうことですよね。レコメンドを見ていれば、いま盛り上がっている話題に手軽に参加することができる。それに関連して、3つ目の要因となるのが「感情効率を求める消費者の増加」です。いま「タイパ」というワードが盛んに言われていますが、手間暇かけずに盛り上がりたい、あるいは盛り上がれることがわかっているなら対価は支払う、という考え方が広まっていることも、「ウェーブ消費」が生まれる要因になっていると考えます。

芳賀――SNSのレシピ投稿でもTwitterで上限4枚の画像の中に全てわかるように書いているものと、Instagramのリールで気になったところを止めて見なきゃいけないものだと、前者の方が圧倒的に見やすくてタイパが良いですよね。YouTubeの動画も、最近は一番見られているシーンが波形で表示される仕様になっていますし、そういった点からもタイパや感情効率というものが生活者から求められていることを感じます。

直近ですと、Meta版のTwitterとも言われる「Threads(スレッズ)」アプリがリリースされて話題ですね。他にもいわゆるTwitter対抗アプリがいくつかみられる中で、生活者がどのアプリでどのように盛り上がるか、「ウェーブ消費」とも関連づけて注目していきたいと思います。


流行りの「応援広告」も「ウェーブ消費」の一形態

芳賀――ここからは具体的な「ウェーブ消費」の事例を教えていただけますか。

深田――3つの類型に則して、ご紹介します。1つ目が「ファンダム型」です。いわゆる「推し活」の延長線上にあるような行動で、IPなど特定の対象に対してファンの間で生まれる「何かをやっていこう」という盛り上がりから生じます。

最近、「応援広告」といって、アニメキャラクターやVTuber、アイドルのファンが有志でお金を出し合って、駅構内や、街中の大型ビジョンなどに「応援広告」を出稿するという消費形態が生まれています。みんなで力を結集して一つのことを成し遂げるという、面白いお金の使い方ですよね。

2つ目は、「お祭り型」。これは共通の場や出来事など、一緒に楽しむことを目的とした消費形態です。この事例としてご紹介したいのが、売上20億円と大ヒットした格闘大会「THE MATCH 2022」です。本大会はオンラインチケットの販売方法がユニークで、「那須川天心 応援チケット」「武尊 応援チケット」など、応援したい選手に応じたスペシャルチケットが販売され、購入者には試合当日の控え室の映像や、リングサイドのセコンド目線のカメラアングルを楽しめるなど、スペシャルな特典が用意されました。


K-1実行委員会 プレスリリースより

3つ目は、「ユーザー起点型」で、これはユーザーが自発的に遊びだしたことをきっかけに、投稿を作ったり自ら体験したりするために特定の消費活動を行うことです。地球グミを食べる動画が流行ったことで、みんなが真似してTikTokに動画をアップした現象のように、SNS上で自然発生的に流行っている盛り上がりに参加するためになされる消費形態といえます。

芳賀――私も「推しをトレンドにあげよう」というファンの動きに連動したIPと商品のタイアップなど、「ファンダム型」に当てはまる施策を手掛けたことがあります。実施にあたっては、IPの提供元だけでなくファンの方のツイートなどからも、情報を収集しました。

「ユーザー起点型」に関しては、敢えて企業からプッシュしすぎず、口コミやバズを見守りつつ分析して次の施策につなげるという活用法も考えられますね。


生活者が遊べる余白が「ウェーブ」を生み出す

芳賀――いずれにしても、生活者に主導権のある消費行動であるという点が「ウェーブ消費」の大きな特徴と言えそうですが、企業が「ウェーブ消費」を意識したプロモーションを手掛ける場合、ポイントとなることはなんでしょうか。

深田
――ユーザーが遊べる「余白」を残しておくことが大事かなと思います。例えば、ファミリーマートが以前「40%増量作戦」というキャンペーンを行ったのですが、とある消費者が実際に40%増量されているか検証したところ、写真詐欺どころか、商品によっては60%以上増量されているものもあって、話題になったんですよね。公式ではこの件について特にアナウンスはしていないのですが、ファミマとしては意図的に仕掛けていると思うんです。


株式会社ファミリーマート ニュースリリースより

芳賀――生活者としては嬉しいサプライズですね。万が一、お客様に気づかれなかった場合でも、「皆さんには気づいてもらえなかったですけど……(汗)」とチャーミングにネタバラシすれば、それはそれで効果的に作用する場合もあると考えられますね。

深田――そうですね。あともう一つ、関わり方として考えられるのが、自然発生的な盛り上がりに企業が後乗りするケースです。成功事例として挙げたいのが、2021年に公開された映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。コロナ禍で客足が伸びないなか、ファンが「興行収入100億円に持っていかなければ」という思いに駆られ、劇場に何度も足を運びヒットを記録しました。

この際に、運営側もファンの盛り上がりを促すように、劇場で入場者特典の冊子を配布したり、特別な映像をネットで配信したり、さまざまな仕掛けを行い、「#シンエヴァラストラン」のハッシュタグは大いに盛り上がりました。


エヴァンゲリオン オフィシャル情報サイトより

芳賀――状況に応じて柔軟かつ迅速に意思決定して対応できるというのは、コンテンツ側の強みでもありますね。

コンテンツをプロモーションに活用する場合は、たとえば公式アカウントから引用リツイートをするなどのひと工夫や、予想外の盛り上がりからファンが望むことを読み解き次の施策をたてるなど、スピーディーかつ柔軟に動けると、そこから新たな盛り上がりを生める可能性がありますね。

最後に、「ウェーブ消費」を施策に取り入れる際に、気をつけるべき点があったら教えていただけますか。

深田――「ウェーブ消費」に乗じた取り組みは、特にファンダム型の場合は、IPやタレントの文脈に合っているか、世界観に相乗りできているのかという点が問われます。「ずっと真夜中でいいのに。」という音楽アーティストがハナマルキとコラボして話題となったのですが、これもボーカルの「ACAね」が普段からハナマルキのカップ味噌汁を愛飲しているという文脈があったからこそ、ファンに受け入れられました。


ハナマルキ株式会社のプレスリリースより

芳賀――
「わかってる感」を感じてもらえるかどうかが大事ですね。そして、お話を聞いている中で、ここもポイントだと思ったのが、自然発生的な盛り上がりに対しての企業の介入の仕方です。

私も以前、プロモーション施策で、IPとのタイアップ動画を制作したことがあるのですが、「こんな広告を出したらファンの方々は喜んでくれるだろうな」「Twitterでトレンド入りを狙えれば」という思惑はありつつ、企業からの「これ盛り上げてね」という姿勢が見えてしまうとファンとしては白けてしまいますよね。

深田――
おっしゃる通りですね。

芳賀――ファンの方々が喜んでくれることはやるけど、押し付けすぎないというさじ加減が大事なんだろうなと思います。生活者が主体となる盛り上がりだからこそ、「ウェーブ消費」を狙う際は、企業が文脈を正しく理解し、ファンの方々にいかに喜んでもらえるかを考えることが大切となってきますね。本日は興味深いお話をありがとうございました。
人々の熱狂の中から生まれる新しい消費形態「ウェーブ消費」。ここ数年、Z世代を中心に盛んになっている「推し活」とも相性の良さそうなこの消費形態は、今後ますます注目を集めていきそうです。
プロモーションを手掛ける企業がそのウェーブを乗りこなすためには、生活者の熱狂の源への理解を深め、時には彼らと同じ目線に立ってウェーブの担い手となる姿勢が、求められてくるでしょう。


深田 浩嗣
株式会社Sprocket 代表
15年超にわたりモバイル領域でのデジタルマーケティングを提供し、ECを中心に300社以上のWebサイト立ち上げ・改善を支援。2014年にSprocketを設立。コンバージョンを最適化するプラットフォームと長年の実践データから培われたメソッドを用いたコンサルティングで、優れた顧客体験の設計を支援。「テクノロジーで、人と企業が高め合う関係を作る」をミッションに、ビジネス成長に貢献することを目指している。
著書に『いちばんやさしいコンバージョン最適化の教本』(インプレス)、『ゲームにすればうまくいく<ゲーミフィケーション>9つのフレームワーク』(NHK出版)、『ソーシャルゲームはなぜハマるのか』(SBクリエイティブ)がある。コンテンツプラットフォーム「note」では、顧客心理や消費者心理に注目したマーケティングに関する記事を執筆中。

芳賀 智子
株式会社電通プロモーションプラス
2006年入社。関西支社に勤務。PRプランナー。
販促ツール・ノベルティ制作や編集関係、コンテンツとのタイアップ、WEBサイト関連の制作やキャンペーン企画、イベントの企画・運営やキャスティング関連等、プロモ―ションにまつわる多岐にわたる実績あり。

Written by: BAE編集部

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