2021-10-20

メタバースの中でユーザーとの接点を生む「VRマーケティング」の効果と手法【後編】

“仮想の街づくり”に参加する意識が成功のカギ
VRやXRを活用した現実世界のミラーワールド「メタバース」。そこに集う人々に向けた、VRコマースやVRマーケティングが注目されています。
記事の【前編】では、多くの企業による販売やPRの実例をお伝えしましたが、実際にはどんな効果が表れているのでしょうか。また、メタバース上で、ユーザーとのよりよいコミュニケーションを実現するコツなどはあるのでしょうか。 前編に続き、世界最大級のVRイベント「バーチャルマーケット(Vケット)」を主催する、VR法人HIKKY 代表取締役 CEOの舟越さんに伺います。


VRでの“お試し”からリアルな行動に移るユーザーも

——前編では、主に「Vケット」の中で行われた企業PRやVRコマースの事例を教えていただきました。これらに対する効果の検証などは、どのように行われているのでしょうか。

VRの中でも、ユーザー属性、チャネル、滞在時間、クリック数、動画再生数など、デジタルマーケティング関連の基本的なデータは一通り獲得できます。
その他の効果や成果をどう判断するかは、企業によって異なります。VRコマースやVRマーケティングに参入する際には、実証実験的な目標や、KPIの達成率などをしっかりと設定する必要があるでしょう。

——具体的に、高い効果が得られたケースをいくつか教えてください。

例えば、「Vケット4」に出展されたアウディ ジャパンの例で言うと、VRでの試乗体験や接客を経て、実際にお店まで試乗体験に出向くユーザーや、オーナーになりたいと考えるユーザーが、予想以上にたくさん現れました。
通常のアウディのターゲットだけではなく、幅広く若い層の男女が関心を示したという点も評価されています。

「Vケット4」に登場した「Audi e-tron Sportback」。VRなら入りにくく感じられがちな店舗や高額商品にも気軽に触れられる。新しい顧客へのPRの場としてのポテンシャルは高い

伊勢丹や大丸松坂屋などの百貨店や、WEGOやBEAMSなどのアパレル企業による出展でも、予想以上の集客や購買が得られました。人気のカリスマ店員がアバターでの接客を通じて人気となり、SNSのフォロワーが急増するといった効果もありましたし、その影響は当然アイテムの実売数やリアル試着の増加にもつながっています。

面白いのは、VRの楽しさを介して、知らないブランドや、普段は興味のないアイテムに対しても、ユーザーが興味を持ってくれるケースが多く、「予想外の効果があった」と驚く企業が多いことです。
リアルでは接触の糸口をつかみにくい層へのブランドアピールや認知向上、新規顧客開拓を狙うのに、VR世界は現状、絶好の場と言えるでしょう。
自社のECやリアル店舗を訪れるユーザー層と、VRでつながったユーザー層の傾向や属性が全く違っていた、という企業もあります。もちろん、テストマーケに活用される企業も増えています。

——VRでの体験が、ユーザーのリアルな行動にもつながるというのは驚きです。評判や成果を得るためのポイントなどはあるのでしょうか。

VRコマースでも、VRイベントでも、ただ「リアルでの体験をVRに置き換える」というだけではない、「VRならではのビジュアルや体験を、ユーザー本位で考えて、どう提供するか」ということが要になってくると思います。

VRの世界では、通常の動画や接客だけでは伝わらない、自在な情報が伝わります。
例えば、試乗体験の際は、外観を思う存分に眺め、室内のインテリアを楽しみたい人もいれば、路上でのハンドルの切り替えやマシンの疾走感を充分に味わいたいという人もいるわけですが、VRならどちらもユーザーが好きなだけ試せます。通常のWEBサイトや動画からは、そこまで自在な体験は得られません。

アパレルの場合も、店員さんとのコミュニケーションを充分に取りながら、サイトの商品を見比べることなどが可能で、物理的に距離が遠いとか、気が引けて入りにくいとか、オシャレな店員さんに話しづらいといった障壁がありません。アバター同士で交流するVRだからこそ、時間や距離を軽々と越えられるわけです。
対人接客よりも素直にオープンになりやすい特性を活かして、VRでのコミュニケーションを、研修や保険の相談などに活用する企業も出てきています。

BEAMSによる「Vケット6」内でのオンライン接客の様子。店員側からも、「来客数や反応が多く、接客に手応えを感じた」「VRの楽しさに感激した」といった感想があるという

——食品などは、VRで魅力を伝えることが難しいイメージがあります。その場合は接客による満足度等がポイントになってくるのでしょうか。

確かに、高い接客スキルはメタバースでも大きな強みです。人と人とのコミュニケーションの楽しさが、リアルでもオンラインでもバーチャルでも高い価値を持つことに変わりはありません。
しかし、実はどんな商品も「接客しないと売れない」わけではありません。食品でも飲料でも、「おいしそう」「食べてみたい」と思えばVRの中でも人は買うということですし、観光地で名物やお土産を買うようなインサイトもあるようです。

ちなみに、どんな業種も1回ではなく、繰り返し出展するほうがユーザーの反応は良いようです。
VR施策は、「イベントで目立って勝ちに行く」のではなく、「街づくりに参加して楽しみを増やす」という意識と計画性が重要です。継続的な出展が、親しみやセンスのある企業という評価につながります。

ワールドの世界観になじむ企業ブース。VRの中で何度か見かける存在になると、親和性や好感度がアップして利用されやすくなる傾向に

さらに言えば、食品の味や香りなど、VRでは伝えにくいと考えられてきたことも、アイデア次第で伝わることが分かってきました。

例えば、「Vケット6」で、あるワールドに「グルメおじさん」というNPC(プレーヤーが操作しないキャラクター)を設置しました。
おじさんに話しかけて料理を食べてもらうと、グルメ番組の評論家のようなコメントを語ってくれる、という内容ですが、そのコメントがすごくおいしそうだとユーザー間の口コミで評判になったのです。これは、我々にとっても予想外の出来事でした。

いわば「バーチャル試食」とも呼べる発明ですが、こういったアイデアを洗練させていくと、VR上で伝えられる情報は、もっと増やせると思います。

「おじさんに話しかけて、食べた感想を聞く」という“体験”を介することで、料理の情報や魅力が伝わる。仕組みによっては実店舗への誘導なども可能かもしれない


“自撮り文化”が定着。SNSや動画サイトでの拡散も増えている

——「Vケット6」での、EC以外のOMO関連の取り組みについて教えてください。

「クイズの解答等をハッシュタグ付きでSNSに投稿してもらい、当選者にプレゼントを贈る」「気に入ったキャラクターやアイテムと一緒に写真を撮って、SNSに投稿してもらう」といった取り組みがありました。
VR市民(VRの中で趣味や交流や生活をユーザー)の多くはSNSの活用にも積極的ですし、自分のアバターに愛着があり、“自撮り文化”に親しんでいるため、どちらも多くの反応を得ています。
撮りや仲間との記念撮影は、メタバースの中で人気のアクティビティ。ユーザーが「楽しい」「面白い」と感じた体験やコンテンツは、写真を介してSNS上でも拡散される

メタバース内での取材、ロケ、生放送などが、動画サイトやSNSで大量に視聴・拡散されるケースも増えています。メディアによる取材や公式イベントも多いですが、「Vケット6」では、YouTuberやVTuberがレポート動画などを自主的に企画して、たくさんアップしてくれました。
やはり、「素敵な場所に来た!」「面白い事を体験した!」という好奇心や充実感が、共感と拡散のカギになるわけです。

———外国から訪れるユーザーにアプローチするためのポイントなどはあるでしょうか。

これについても、ビジュアルと体験が重要であることが分かっています。言語でのコミュニケーションについてはさほど重視されていないという、面白い傾向も見えてきました。

欧州や同じ東アジアのユーザーに聞いたところ、意外にも翻訳機能や多言語対応を求める声は少なく、むしろ、「見たこともないようなVR体験やメタバース内での文化に触れて、工夫してコミュニケーションをとることこそ楽しい」という意見のほうが多かったのです。

必要最低限の外国語の案内などはすでに設置していますし、将来的には「Vケット」にも翻訳機能等を実装するつもりですが、今は未知の国への海外旅行のような魅力のほうが買われているのだと思います。


VR未経験者でも、スマホからVRコマースで買い物ができる

——より多くの人がVRコマースなどを体験するための技術の開発にも取り組まれているそうですね。

VRの高画質で華麗なビジュアルやアバターの操作等を本格的に楽しみ、没入感を得るには、HMD等が必要です。しかし、我々は以前から、「もっと多くの人に、デバイスを選ばない形で、気軽にVRを体験してもらいたい」と考えて、技術開発を進めてきました。

そして、スマホやPCからアクセスできるVRコンテンツ開発エンジン「Vket Cloud(ブイケットクラウド)」を独自に構築しました。「Vケット6」内の企業ブースやストアのいくつかにも導入して、VR初心者やVRに触れたことのない人にも、スムーズな閲覧やシームレスな買い物を楽しんでもらえました。今後、このエンジンはOEMでも提供していきます。

HMDや高スペックのPCがなくても、VRのビジュアルやギミックを楽しめる「Vケットエンジン」。通常のスマホやPCがあれば、URLクリックのみで誰でも気軽にVR空間にアクセスできる

高い描画力とスムーズな動作の両方を実現できる、Webリンクで目的のコンテンツに簡単にアクセスできるといったメリットがあり、自社IDの導入や外部サービスの連携、アナリティクスの設置など、様々な実装が可能です。 VRコンテンツやプラットフォームを開設したいと考える企業には、ぜひこのような技術の活用も検討していただきたいと思います。

VR法人HIKKY(ヒッキー) 代表取締役 CEO 舟越 靖(ふなこし・やすし)さん


沢山のキャラクターと触れ合える自由な世界へ

——VR世界やメタバースの展望について教えてください。

大手IT企業やゲームプラットフォームもメタバースの構築に積極的であり、バリエーション、サイズともに拡大していくことは間違いありません。
加えて、IPの解放がより進み、VR世界やメタバースをさらに盛り上げる起爆剤になるでしょう。

「Vケット」では、100以上の人気キャラクターやブランドが同時に存在し、関わりあってコンテンツを作るケースも増えています。今まで、複数のIPが同じ世界観に居並ぶという展開は、特定のコラボ以外ではあまり考えられない事でした。しかし、「来た人の楽しみを優先する自由な世界の構築」という思想を軸としたメタバースの普及で、既存の考え方やルールは形を変えつつあります。

2021年9月末から開催された「TOKYO GAME SHOW VR 2021」でも、人気のゲームキャラクターが同じVR会場内に“同席”している

また、今後の「Vケット」では、訪れる人に楽しんでもらうだけではなく、ユーザーとクリエーターとワールドとが、相互に影響を与え合うような展開を実施します。
簡単に言うと、「自分が遊びに行ったことで、世界の仕掛けやイベントに変化が起きる」――という感じです。これまでとも違う、不思議で新鮮な体験を提供したいと思いますので、楽しみに待っていてください。

——これからVRに参入する企業に、メッセージをお願いします。

お話ししてきた通り、企業がVRでの施策に取り組む場合、「VRならではのアプローチを、多くの人にどう楽しんでもらうか」という目線を忘れないことが最も重要なポイントです。

VR“ならでは”のアプローチのポイントは、やはり、「とにかくわくわくする、感じのいいコンテンツ」であることでしょう。商品の説明だけならECや動画でもできます。何度でも試したくなる、ずっと見ていたくなる、友達に教えたくなる――そんな演出や小ネタで、ユーザーとの接触を増やしてください。

ユーザー目線での空間設計、空間デザインも大切です。VRは2Dのウェブマーケティングとは勝手が違う3D空間で、机上でツリー構造を練るだけでは及びません。
例えば、知らないコンビニにふと入ったとき、飲料がどこに置いてあるか、誰でもなんとなくわかりますよね。そういう、3Dでの無意識のルールや感覚がそのまま反映されるVR空間での最適なマーケティングとは何かを、精査する必要があります。カンのいい空間デザイナーなどは、VRでの活躍の機会が増えるでしょう。

なにしろ、2Dと同じ考え方を、そのまま3Dにスライドしても上手くはいきません。実際に「Vケット」に遊びに来たり、VRの専門家に相談したりしながら、メタバースの雰囲気やセンスをつかみ、アイデアを磨いてください。
私たちも、「VRやメタバースで何かやりたい」という企業やクリエーターへのノウハウやアセットの提供を、今後もどんどん行っていきます。新しく自由な世界であるメタバースを、ぜひ一緒に楽しみ、発展させていきましょう。

気に入ったアバターをまとい、多彩なコンテンツやコミュニケーションが楽しめるメタバース。バーチャル上でアイテムの配布を行えるため、SDGsやNFTの観点でも注目されています。
Facebookなどがメタバースに本格的に参入したこともあり、今後市場はさらに加速するでしょう。
ユーザーはメタバース上を自由に動いて楽しむため、VRならではのクリエイティブや空間設計が必要です。他の企業と連携し、空間全体のユーザー体験を想像しながら、VRの“まちづくり”に参画するという視点もポイントになるでしょう。
Written by: BAE編集部

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