2020-03-02

次世代位置情報「VPS」が生み出したARの進化、「リアルメタバース」の世界

街に新たな価値を創出。都市XR「渋谷スクランブルレイヤー」
拡張現実「AR」を活用した代表例といえば、「ポケモン GO」。スマートフォンを介して、リアルとバーチャルが融合した世界観を体験できる位置情報ゲームは、世界的に大ヒットを記録しました。

位置情報と相性がいいARですが、一方で、「位置情報」の精度の問題で、意図しない場所に仮想のオブジェクトが表示されてしまう、といった課題も存在していました。

その課題を解決するのが高精度の位置情報システム「VPS」です。渋谷を舞台にした都市XR「渋谷スクランブルレイヤー」で、その技術を活用し、ARの新たな可能性を提示した、株式会社Psychics VR Lab 執行役員/CMO 渡邊遼平さんに、そのポテンシャルについて、聞きました。


現実世界に新たな価値を創出する「リアルメタバース」

——「渋谷スクランブルレイヤー」は、スマートフォンなどのデバイスをかざすことで現れる都市XRです。完全なバーチャルではなく、リアルとバーチャルを融合させる価値とは、どのようなものなのでしょうか。

「渋谷スクランブルレイヤー」は、9社のパートナーとともに、日本カルチャーの発信地である渋谷のランドマーク「渋谷スクランブル交差点」をXR化したものです。

この都市XRに、当社の持つXRプラットフォーム「STYLY」を活用。その自由度の高さを、「渋谷スクランブルレイヤー」内のAR表現にも活かしています。

XRプラットフォーム「STYLY」を活用すれば、手軽にVR、ARコンテンツの制作・配信ができる

私たちは、完全なバーチャル世界を「バーチャルメタバース」、リアルとバーチャルを融合した世界を「リアルメタバース」と呼んでいます。

バーチャルメタバース上であれば、世界中のどこからでもVRコンテンツにアクセスすることが可能です。しかしリアルメタバースの場合、その入り口は現実世界にありますから、指定した場所を訪れる必要があります。そこでは、“ここでしか味わえない”特別な体験価値を提供することが重要になります。

つまり、リアルな場所に人を集めたい場合、新たな価値創出を目指す場合には、バーチャルメタバースよりも、リアルメタバースのほうが相性はいい傾向にあります。

――リアルとメタバースを融合させようと考えた経緯を教えてください。

コロナ禍により、リアル重視の社会から非接触重視のオンライン社会へと変化しました。そのなかで、リアルの代替として「バーチャル」に注目が集まりました。

しかしながら、テクノロジーの利便性の高さを体感する一方で、リアルでの体験価値の高さをあらためて再認識した方も多いのではないでしょうか。私もそのひとりです。

そこで当社は、バーチャルとリアルのいいとこ取りを実現すべく、リアルメタバースによって都市自体の体験価値を高め、いままでにない形で街に人流を生み出し、街の発展に寄与していきたいと考えました。


ARの抱えていた2つの課題を解決した「VPS」

――2022年10月にオープンした「渋谷スクランブルレイヤー」は、ARコンテンツでの表現力が劇的に向上しているそうですね。その鍵を握る、最新の位置情報システム「VPS」について、教えてください。

ゲームアプリをはじめ、位置情報は現在、さまざまな形で利用されています。身近なところではカーナビや、スマートフォンの地図アプリなどもそのひとつです。そこで使われているのは、人工衛星を利用して現在位置を測定する「GPS(グローバル・ポジショニング・システム)」です。

しかしGPSでは、どうしても位置情報に若干のズレが生じてしまい、体験型コンテンツを提供する際に、AR上の仮想オブジェクトが正確な場所に表示できない、という課題がありました。結果、実在感が損なわれ、体験価値を下げてしまうケースもありました。

しかし「VPS(ビジュアル・ポジショニング・サービス)」は、カメラの視覚情報をもとに、位置情報を検出します。その最大の特徴は、精度の高さです。数センチ単位で自分のいる場所が捕捉され、さらにカメラの向きまで判別するため、非常に高い精度の、AR体験をスマートフォン経由で提供できるようになったのです。

GPSの位置情報を活用した場合、現実世界にCGを重ねても、若干のズレが生じてしまう。しかしVPSでは、その高い精度によって、正確な表現が可能となる

つまり、都市XR「渋谷スクランブルレイヤー」の誕生は、VPSの技術なしには成し得なかったとさえいえるほど重要な技術であり、今後さまざまなARコンテンツにVPSが活用され、ARは進化を遂げると見られています

STYLYアプリを立ち上げ、スマートフォンをかざして「渋谷スクランブルレイヤー」にアクセスするイメージ

スマートフォン上に表示された「渋谷スクランブルレイヤー」のイメージ。街の風景にCGが正確に重なり、まるで異世界に迷い込んだような実在感を与える

――次世代位置情報「VPS」を活用したARコンテンツは、これまでのARコンテンツと、ほかにどのような違いがあるのでしょうか。

これまでのARコンテンツは、GPSによる位置情報、または「マーカー」と呼ばれる、リアル上のAR表示ポイントのマークを利用することで、位置を特定し、ARコンテンツを表示していました。

しかしVPSの技術を使用する場合は、マーカーは不要です。今回の「渋谷スクランブルレイヤー」では、マーカーの代わりに、建物自体をスキャンすることで、街の風景とCGが正確に重なるように設計しています。つまり、建物がマーカーの役割を兼ねるわけです。

この、「マーカーレスAR」であることは非常に大きな意味を持ちます。前述の通り、GPSでは精度の問題で、正確なCG表現が困難です。一方で、マーカーを使用すれば、建物とCGを重ねることは可能ですが、「現実世界にマーカーを設置しなければいけない」というハードルが生まれてしまいます。

イベント会場などであれば問題ありませんが、街の中に、遠くからスマートフォンで認識できるほど大きなマーカーを設置することは現実的ではありません。それがVPSであれば、建物をマーカー代わりに使用できるので不要になる、というわけです。

VPSの持つ、この2つの大きな特徴「高い精度」と「マーカーレス」によって、「渋谷スクランブルレイヤー」は成り立っている、といっても過言ではありません。


NFT、SNSとの親和性が高い「都市XR」

——「渋谷スクランブルレイヤー」では、ユーザーの体験価値を高めるために、NFTを活用したインタラクティブな仕掛けも用意されたそうですね。

「渋谷スクランブルレイヤー」の誕生を記念して、オープンからおよそ1ヵ月間、「BŌSŌ SCRAMBLE」というコラボレーションを展開。“暴走族カルチャー×サイバーSF”の世界観で包み込みました。

とはいえ、ただ“見る”だけでは体験価値が低いため、プレゼントキャンペーンを同時に展開。ここでしか手に入れられないモノを用意することで、来訪理由を創出しました。

具体的には、「渋谷スクランブルレイヤー」上にスロットを設置し、スロットの目がそろうと、その画像をTwitterで投稿することで抽選に当たり、目がそろわなかった場合には、スマートフォン用の壁紙がもらえるようにしました。

またNFTであれば、唯一無二のオリジナルという特別感を演出できる点も、非常にプレゼントとして有用だと感じています。

「渋谷スクランブルレイヤー」に設置されたスロット台。リールを回して同じ絵柄が揃うと、豪華景品が当たる

――都市XRは、SNSとの相性もよさそうですね。集客効果も高そうです。

そうですね。「渋谷スクランブルレイヤー」を訪れるには、渋谷のスクランブル交差点でスマートフォンをかざす必要があります。その風景に驚き、感動したユーザーは、画面のスクリーンショットを思わず撮影。そのままSNSに投稿する、というケースが今回多くありました。

スマートフォンでアクセスして、その感動をスマートフォンで発信できる。ひとつのデバイスですべてが完結するという点では、SNSとの親和性は非常に高いと思います。そしてその投稿を見たユーザーが、興味を覚えて訪れる。そうした循環を生みやすい構造になっていると思います。

ちなみに、「渋谷スクランブルレイヤー」コラボ第2弾では、「NEO SHIBUYA」をテーマに「NEO TOKYO PUNKS」とコラボした世界観のARコンテンツ「NEO TOKYO CLASH」を提供しました。写真を撮影し、Twitterに投稿するプレゼントキャンペーンを実施しました。「BŌSŌ SCRAMBLE」も「NEO TOKYO PUNKS」も、それぞれのイベントに合わせて行ったAR付きのNFTの販売はとても好評でした。

「NEO SHIBUYA」をテーマにした、コラボ第2弾「NEO TOKYO CLASH」


ARの進展によって、ゲームも街も進化する

——VPSを活用したARコンテンツは、ほかに、どのような活用法があるのでしょうか。

XRライブも可能です。2022年12月には、歌唱特化型AI、#kzn(キズナ)が渋谷スクランブル交差点を舞台に、ライブを展開するイベントも実施しました。これもマーカー不要のVPSだからこそ、リアルな場所を舞台にできるという強みを活かしたものです。

当日は、渋谷スクランブル交差点で、多くの人がスマートフォンをかざし、ライブを楽しんだ。また遠方のユーザーも楽しめるよう、オンライン配信も実施され、多くのアクセスを集めた

なお、「STYLY」では現在、日本7都市(東京・大阪・名古屋・札幌・福岡・京都・新潟)向けに、XRコンテンツ制作・配信が可能になる都市テンプレートを公開しています。

「STYLY」で公開中の都市XRのテンプレート

現時点で、都市XR化できているのは、上記7都市だけですが、将来的には東京まるごと、全国の都市をXR化するような未来も描いています。

すでに他の地方都市のXR化のプロジェクトも進行しており、都市XRが地方創生に寄与することを証明できたらと考えています。

たとえば新潟市では、「NIIGATA XR プロジェクト」という、市と地元の学生や企業が協力したARイベントが開催されました。なかでも今年1月に実施した「にいがた2kmバーチャルウォーク」では、新潟市内の各所に、スマートフォンをかざすと動物やアート作品が現れるARコンテンツを設置。市民の方や観光客、来訪者へ都市周辺の新たな魅力を提供したり、まちなかの回遊性を向上させました。

「にいがた2kmバーチャルウォーク」で展示された、新潟コンピュータ専門学校の学生が制作したARアート作品

ARには、さまざまな活用法があります。今後VPSを活用したARによって、位置情報ゲームはもちろん、ARコンテンツ全般の進化が予想されます。そうなれば再び、ARが熱視線を浴びる時代が訪れる。私はそう信じています。
株式会社Psychics VR Lab 執行役員/CMO 渡邊遼平さん
これまでARが抱えていた「精度」と「マーカー」という課題を解決した、最新の位置情報システム「VPS」。これにより、AR自体が拡張し、クリエーティブなど表現の幅の広がり、没入感が高まるなど、体験価値が向上するでしょう。今後ARの活用が広がるでしょう。
都市XRはその一例です。“もうひとつの街の顔”として、リアルメタバースがいかに地域創生に寄与するのか。その動向、そこでしか体験できない特徴を活かしたプロモーションや、販促施策など、新たなAR活用法に、今後注目が集まりそうです。

Written by: BAE編集部

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