2019-05-09

新たなコミュニケーション・チャネル、進む企業の音声コンテンツ活用

ブランドリフト、炎上しにくい……音声コンテンツの価値
テクノロジーの発達などの要因で、日常に浸透してきた音声コンテンツ。ボイスメディア「Voicy(ボイシー)」は、スマートスピーカー黎明期から、音声コンテンツのインフラを作る会社として注目を集めてきました。最近では、企業が活用するようになってきています。企業はどのように音声メディアを利用し、ブランディングに役立てているのでしょうか。株式会社Voicyの阿部輝昭さんと、田ケ原恵美さんにお聴きしました。


声から滲み出る「本人性」が人々の共感を引き出す

――Voicyでは、ボイスメディアの運営だけでなく、企業が発信する音声コンテンツの制作やプロデュースなども行われているようですが、企業が参入するようになったきっかけはなんだったのでしょうか。

阿部――VoicyがGoogleHome、AmazonEchoのファーストパートナーとして参画していたことが大きいですね。また最近では、さまざまな業態の企業から「うちも番組を作りたい」「放送したい」といったお問い合わせを数多くいただくようになりました。
背景には、2017年にスマートスピーカーが日本にも上陸し、音声業界自体が以前にも増して注目されるようになったことがあります。お問い合わせは、大手から、中小企業、スタートアップまで、多岐にわたります。

――企業が“音声メディア”に期待することは何でしょうか。

阿部――これまでとは違う、新しいコミュニケーション・チャネルの創出です。今の時代、スマートフォンから絶えず情報が流れ込んでいる状態で、視覚の奪い合いになっています。でも、耳の可処分時間はまだ空いている。現時点で「音声メディア」は、他メディアよりもチャンスが多い状態です。私たちは「アイズフリー」「ハンズフリー」「ラーニングフリー」というキーワードを掲げているのですが、音声メディアは作業中に「ながら」で聴くことができ、例えば育児中でも、目を子どもに向けたまま情報を得られます。ですから、忙しくてニュースを見ていられないという人にもアプローチが可能です。また、Google HomeやAmazon echoが登場したことで、スマートスピーカーから情報を得る人も増えてきました。

――動画の時代とも言われる中、音声メディアが持つメリットとはどんなものなのでしょうか。

阿部――音声は「映像から動画がなくなったもの」ととらえられがちですが、実はまったくの別物です。声は、人間の能力の中でいちばんコピーしにくく、複製ができない情報です。だからこそ、その人の「本人性」が強く残ります。電話での会話の際、声のトーンだけでも、相手の気分や雰囲気が伝わりますよね。声には、たくさんの情報が含まれている上に、編集がしにくい。だからこそ、パーソナリティ(話し手)の考え方がダイレクトに伝わりやすいですし、視聴者の「好き」「共感」「応援したい」という気持ちを高めてくれるのです。

<企業が音声コンテンツを利用する2つのアプローチ>
1)まったく新しいコミュニケーション・チャネルとして音声を活用したい
2)音声の特性を利用してダイレクトに物事を伝えたい



音声コンテンツが担うのは「ブランドリフト」

――企業発信の音声コンテンツにはどのようなものがあるのでしょうか。

田ケ原――ニュースや株価情報など自社のコンテンツを発信するものから、英会話などのハウツー系など、さまざまです。マネックス証券さんでは、社員の方2人が株について語る雑談形式の番組を放送しており、あたかも、自分の隣で雑談しているような親近感があり人気です。

<企業による音声コンテンツのタイプ>
・ニュース系
・商品PR
・企業PR、広報
・HOW TO・教育
・実用系・スポンサードしている番組
など

企業の活用事例

——通常のラジオ番組のようにプロではない方の喋りで放送するというのは面白いですね。

田ケ原――そうですね。また、最近のスマートスピーカーのスキルでは、ニュースや天気予報、占いといった情報を人工音声で放送するという機能も増えています。情報を正確に伝えてくれますし、ある意味で合理的なのですが、野村證券さんの場合は、あえて株の情報を人間の声で録音して放送しています。手間はかかりますが、"人間の声でないと聴きたくない”という方も多いですし、声の中に感情や人間味が出てくることで親しみが持てるのです。

——親近感が生まれる一方で、音声コンテンツが喋り手個人の「本人性」「人間性」によることで、炎上のリスクは高まらないでしょうか?

阿部――その逆で、Voicyでは炎上がほとんど起こりません。実は、音声メディアの利点は「アウトプットにロスがない」ことなんです。テキストやツイートは、言葉の前後関係を無視して切り取られたり、掲載されることがありますよね。一方、音声の場合は切り取ることが難しい。だから炎上しにくいのでしょう。

——企業が自社でも音声コンテンツを発信していく際に、コンテンツの作り方のポイントや、気をつけるべき点はありますか?

阿部――コンセプトだけは、はっきりさせておくべきです。音声メディアが担うのは、主に‟ブランドリフト”の部分です。自ら情報を発信し、好きになってもらうことが軸になります。単純な接触回数ではなく‟共感できる・応援したい”という気持ちを相手に残すために、どのような番組にしたらいいのかが大切です。一見矛盾するようですが、音声ですべてを賄おうとしないこと。テキスト情報やWebの情報、SNSなどとの組み合わせでのアプローチがベストだと思います。

——聴かれやすい時間帯、コンテンツの長さなどはあるのでしょうか。

田ケ原――通勤時間帯のほか、寝る前の時間帯がよく聴かれています。夜は21時以降がいいですね。また、定期性も大切です。リスナーのルーティンの中に入り込むことで、習慣的に聴いてくれるようになります。コンテンツの長さは企業にもよりますが、長くても20分といったところです。長いコンテンツでも比較的最後までしっかりとは聴いてくれますが、心理ハードルを下げることは必要ですね。例えば、Voicyでは1つのコンテンツをチャプターで区切ることができるので、とりあえず最初のチャプターだけ聴いてみよう、と思えるのです。


情報共有がスムーズになる音声の「社内報」「社外報」

――企業の放送事例として、ほかにどのようなものがあるでしょうか。

田ケ原――ちょっと変わった使い方として、社長や社員が、そのほかの社員に向けて音声で発信する「社内報」があります。
現在ではこの「社内報」を2,000人規模の企業など3社が導入しており、社長の日報のほか、社員による業界ニュースなどを放送しています。

――社内報を音声メディアで放送する効果はどのようなものでしょうか。

阿部――会社規模が大きくなるほど、社内の出来事を共有するには時間がかかります。それを社内報という形で、いつでも聞ける”音声”にしておけば、作業しながら、情報共有ができますよね。例えば社長がふとひらめいたアイデアをVoicyで放送すれば、新事業や新企画対する考え方が共有される。これで、突然始まるプロジェクトでもスムーズに進行できるでしょう。

また、営業部門で良い成績を治めている社員がいたら、その人物が“どうやってセールストークをしているか”を番組内で実演してみせる。語学と一緒で、耳から音で覚える生きた教材になります。実は、社内のノウハウを共有するのに、音声は最適なツールなんです。テキスト化したり、プレゼンシートを作っていたら時間がかかり、かつ、声の持つ微妙な印象まで残すことはできませんから。また、どの部署の人が、何人聴いたか、最後まで聴いた人はどのぐらいいたかなど、完聴率を可視化できます。これにより、それぞれの部署が必要する情報や、興味を知ることができます。

――メールやチャットで送られてきてもなかなか読まれなさそうな情報も、音声なら「ながら」で聞けるのでいいですね。

田ケ原――弊社では社内放送的に流すこともあります(笑)。また、音声による社内報を「社外報」という形で、外部に発信する事例も出てきています。最近では、この社内報を今後「採用に活用したい」という声もいただくようになりました。求人広告だと、つい条件にばかり目が行きがちですが、ラジオ形式の社員の会話からは、会社の本当の姿を垣間見れる。映像と違い、長時間資格を拘束されないのも利点です。社員のキャラクター化、ブランド化も可能です。

——今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか。

田ケ原――個人向けの放送者を増やすことはもちろん、社内報など、企業チャンネルの活用を増やしていきたいですね。音声メディアには、まだまだ、やれることがたくさんあります。例えば企業名で番組を作るだけでなく、社長個人が表に立ち、個人名でチャンネルを作って放送することで、経営者としての社長のファンだけでなく、社長のパーソナリティに好感を持ってもらえるようになります。企業のブランドイメージをあげ、ファンを増やすために活用できると思いますね。

株式会社Voicyの田ケ原恵美さんと阿部輝昭さん
「音声コンテンツ」は、これまでのラジオ放送とはまた違う性格を持っており、企業の音声メディア活用も、これまでのように番組にスポンサードするだけではなく、むしろ企業自身が情報を発信していく時代。

人間が接するさまざまな情報の中でも「本人性」が滲みやすい「声」。だからこそ、企業が発信する音声コンテンツもフォーマルになりすぎず、人間の生の声ならではの個性や、雑味を生かした方が、より深く視聴者に届くものになりそうです。

また、情報発信の方向を外だけではなく、内に向ける「社内報」としての音声コンテンツの活用法は、新しい可能性を感じる事例でした。社内外、あらゆる方向においての「音声」の活用が、これからも見いだされていきそうです。

Written by: BAE編集部

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