2023-09-15

Vket 2022 Winterに見る、企業×メタバースの現在地

世界最大級のVRイベントから見えた、最新潮流
2022年12月に開催された、世界最大級のメタバース上の展示即売会「バーチャルマーケット2022 Winter」。第9回目となる今回も世界中から100万人以上が来場。その約4割は国外からのアクセスだといいます。VRの世界の祭典とも言える同イベントには、さまざまな企業が出展し、メタバースの可能性を模索しています。

株式会社HIKKY 広報PR 大河原あゆみさんに、企業ブースを中心に、メタバースイベント出展のヒントを解説していただきました。


出展の主な目的は、ブランディングと知見の蓄積

「バーチャルマーケット2022 Winter」の会場のひとつ、パラリアル パリ。加えて、パラリアル 名古屋、パラリアル 札幌の3会場で展開された

――「バーチャルマーケット」は、日本だけでなく、世界からも注目されるメタバースイベントです。企業出展も年々増加している印象ですが、今年は何社が出展したのですか。

2018年8月に開催した「バーチャルマーケット」の第1回の参加者は、知り合いの方が中心で、参加人数も1500人ほどでした。それが現在は国内外から100万人以上の人々が訪れるビッグイベントへと成長しました。

ちなみに、2021年には、バーチャルマーケットは「バーチャルリアリティマーケットイベントにおけるブースの最多数」としてギネス世界記録™にも認定されています。

こうして、来場者もブースも加速度的に増加するなかで、企業様にもご注目いただくようになり、今回、企業ブースの出展自体は約70社となりました。しかし、問い合わせ自体はさらに多くあり、その中からさまざまな企業様との打ち合わせを経て、出店企業様を決めさせていただいています。

――多数の企業から問い合わせがあるのは、メタバースビジネスへの関心の高まりをそのまま表しているように思います。各社の狙いはどのようなものなのでしょうか。

いくつかあると思いますが、ひとつは、未知なる「メタバースの知見を蓄積したい」というものです。何ができるのか、どんな反応・反響があるのかを知り、メタバースのポテンシャルを確認したいと考えていらっしゃる企業の方が多い印象です。

目的としては、販売よりもブランディング。メタバースという新たな顧客接点でユーザーと出会い、認知され、つながることを目指している企業様が多いように感じます。

――メタバースイベントであれば、さまざまなデータが取得できることも、企業側からすると、うれしいポイントなのではないでしょうか。

そうですね。ブースの来場者数はもちろん、外部遷移のクリック数やギミックの再生回数なども取得可能です。やはりリアルイベント同様、メタバースイベントも「楽しく」なければ人に来てもらえません。各社様とも、メタバースならではの仕掛けを用意し、ユーザーを楽しませておられました。


企業ブースに見る、メタバースイベントのポイント

――「バーチャルマーケット2022 Winter」の出展企業は多種多様です。特徴的なもの、もしくはメタバース参入を検討中のリテール企業にとって“学び”があるブースがあれば、いくつかご紹介をお願いします。

=「バーチャル名古屋駅」から宇宙へワープ!?/JR東海


まずは、メタバースイベント全体としてのヒントが詰まった、JR東海グループ様のブースをご紹介します。

同社の出展目的は、リアルとバーチャルを連動させた新たな価値の創出のための知見蓄積。さまざまなパートナーと協業することで変革を加速されており、今回の「バーチャル名古屋駅」もその一環です。

本ブースでは、リアルに再現された名古屋駅の構内に、名古屋地域自体のPRと、名古屋駅のPRを目的に、複数のミニブースが設けられました。

写真左・「信長の野望」とのコラボブース。織田信長の3Dモデルと記念撮影ができる/写真右・VTuberとのコラボブース。人気VTuberたちがおすすめする「推し!なごやめし」を紹介しながら、参加者と交流するリアルイベントも実施された

バーチャル名古屋駅内の改札を抜け、新幹線ホームに向かうと、そこには、2027年開業予定の世界最高速の「リニア中央新幹線(L0系改良型試験車)」と、「東海道新幹線(N700S)」が停車しており、バーチャル乗車が可能でした。

「リニア中央新幹線」は2027年の開業への期待感の醸成、認知向上を目的としたもので、速さを表現するため乗車すると宇宙にワープする、という遊び心も、非常に好評でした。

乗車すると宇宙へとワープする「リニア中央新幹線」

「バーチャル名古屋駅」は、リアルでは実現できないメタバースならではの体験と、リアルと連動した施策との両方を提供することで、楽しく名古屋の魅力に触れて、興味喚起することに成功した一例と言えると思います。


=化粧品業界から初出展!「マリークヮント」

メタバースに進出する企業の多角化という点では、化粧品業界から初出展となった「マリークヮント」様のブースも非常に好評でした。

同ブランドの出展目的は、新規顧客の獲得です。「年齢や性別を問わず、コスメやファッションを楽しんでいただく」ことをテーマに、華やかなブースを制作されました。また昨今、「メンズ美容」もトレンドになっておりますが、メタバース空間であれば、男性でもより気軽にコスメを試せるということも、出展理由のひとつだったようです。

店内にはフォトブースや、年代別のメイクが楽しめるコンテンツなどを用意。加えて、リップスティック、アイシャドウをはじめ、リアルなコスメアイテム8点と、オリジナルの3Dモデルの販売も行われました。

リアル商品と3Dモデル商品を販売している、ショッパー型の商品棚

さらに今回、メタバース上で、プロモーションも展開。マリークヮントオリジナルアバターを本イベントのために制作し、ブース内でアンケートに回答すると、もれなくアバターが手に入るというキャンペーンを展開されました。加えて、12月11日には、今回の3会場のひとつ「パラリアル パリ」にて広告ジャックも実施されました。

(左)アンケートに答えてもらえるオリジナルアバター /(右)広告ジャックの様子

出展企業様のリアルな声も参考になると思いますので、イベント終了後に、ご担当者様からいただいた感想を一部抜粋してご紹介します。

【広告宣伝の効果/出展企業様の感想】
「ブース来場者の8割以上が弊社ブランドを知らずに来場。認知拡大に寄与できた取り組みになったように思う。また、多数の媒体で紹介されたことも、うれしい出来事だった。新商品のSNS広告を打ってもすぐに忘れられてしまう現代。メタバースイベントへの参加は、新しいことにチャレンジするブランドとして、会期終了後もお客様やお取引先へアピールできるものと考える」

マリークヮント様は、メタバース上の街(OOH)とブースを連動させることで、リーチを最大化し、多くの新規顧客との出会いを創出した成功事例と言えます。


=メタバース上で働くアンバサダーを採用!「大丸松坂屋」

接客体制について学びがあったと語る「大丸松坂屋」様は、今回で5度目の出展。「バーチャル大丸・松坂屋」を展開されました。

同社の出展目的は、メタバースを介したファンづくりです。新たなタッチポイントで新規顧客と出会い、リアル店舗への来店までを促進する狙いがあります。今回のブース内では、年末年始の食卓を彩るグルメ約2900点を紹介し、その場で購入できるようにされました。ほかにもアート作品の展示・体験コーナー、寝具エリアでは先進テクノロジーを活用した寝具ブランド「ブレインスリープ」の商品紹介などもされていました。

そのなかで、特筆すべきは、やはり接客でしょう。
店頭では、商品知識豊富な大丸松坂屋百貨店の本社ギフト企画運営担当 田中直毅さんが、アバター姿でお客様をお出迎えされました。

メタバース上でも百貨店らしい、上質な“おもてなし”を届けた

さらに「メタバース上で働くアンバサダー」を採用。メタバース空間上で雇用を生むという、新しい流れを作り出されました。また、遠方の方でも自宅からアクセスできるなど、さまざまな制限がない点も特徴のひとつで、今後、こうした取り組みは増えていくのではないでしょうか。

商品知識を身につけたスタッフ(アンバサダー)がおすすめ商品の魅力を来場者に説明。加えて、アンバサダー自身からも情報発信がなされたことで、多くのユーザーが本ブースを訪れました。SNS経由でそのままメタバースへと、集客につなげられました。

メタバース接客を行うアンバサダーたちも、自身のSNSで情報を発信。フォロワーに来場を促した

メタバース接客アルバイトに関しては、ご担当者様から実際の効果を聞いていますので、一部抜粋してご紹介します。

【広告宣伝の効果/出展企業様の感想】
「前回から活躍いただいているアンバサダーの皆様の効果は、期待を大きく上回るものであった。これは、SNSの反応からも読み解けるが、特に特定商品をリコメンドいただいた翌日の販売実績にしっかり連動するという、夏にも見られた結果がより顕著になったと感じている」

本ブースは、インフルエンサーの方とのコラボレーションによって、メタバースとリアルをつなぎ、販売実績にまで結びつけています。また、寝具エリアのブースを訪れたユーザー限定で、「リアル店舗でピローミストをプレゼント」という企画を実施され、好評を博しました。メタバースイベントにおける販売促進やリアル店舗への導入ができた成功例と言えるでしょう。


=会期中は、リアルとバーチャルが連動!「BEAMS」

メタバースとリアルをつなぐという点では、今回で5度目の出展となった「BEAMS」様も成功例のひとつです。リアル店舗を模した、メタバース店舗を出展することで、ユーザーの興味を喚起することを実現されました。

同社の出展目的は、新規顧客との出会い創出。今回、リアル店舗「BEAMS HARAJUKU」の店内に接客拠点を設け、社員約40名が交代でバーチャル接客を実施。BEAMSのメタバース店舗を訪れると、実際の店舗と同じ接客が受けられるようにされました。また、リアルな接客拠点は、体験拠点にもなっており、メタバースとリアルを“つなぐ場”としても機能しました。

リアル(実在)商品を3Dモデルに起こしたアバター用の3D衣装を合計11型、バーチャルショップで販売。リアルとバーチャル、双方のスタイリングをリンクして見せることで、リアルとバーチャルの垣根をなくしたファッションの楽しみ方を演出されました。
アバター用3D衣装と実在商品をリンクさせ、バーチャルとリアルの垣根を越えたファッションの楽しみ方を提案(写真左・アバター協力:Grus/久)(写真右・アバター協力:水瀬/mio3io)

ほかにも、メタバース店舗の1階には、メタバースと現実世界を行き来するダンスボーカルグループ「学芸大青春(ガクゲイダイジュネス)」のメンバーが共同生活をおくる自宅を再現した部屋を展開。会期中に、メンバーたちがアバター姿で訪れ、ファンの方々と交流するイベントも開催されました。メタバース上では制約が少なく、自由度の高い演出が可能です。コラボの内容に合わせたブースを設けられるのも、メタバースならではと言えるでしょう。

学芸大青春のメンバーが5人揃ってBEAMSバーチャルショップ内に降臨、メタバース内でファンと交流した


こちらも、ご担当者からコメントをいただいていますので、一部ご紹介します。

【広告宣伝の効果/出展企業様の感想】
「今回は、バーチャルからリアルへの送客事例が増えた。リアル店舗にバーチャル体験拠点を設けたことで、多くのユーザーがバーチャル接客スタッフに会うために足を運んでくださった。また、リアル(実在する)商品を3Dモデルに起こしたデジタルツイン商品だったが、VRユーザーがアバター用にも自身用にも着用を検討くださり、いずれか、もしくは両方をご購入くださるケースが複数報告された」

リアルにもタッチポイントを設けることで、送客を実現するというのは、非常に大切な視点だと思います。リアルとメタバースを、モノとコトで、上手に連動させた好例と言えるでしょう。


=消費者金融業界から初出展!「アコム」

今回、消費者金融業界から初の出展となったのがアコム様です。ブースの前では、CMでおなじみの「かまいたち」のお2人がアバターとなって来場者をお出迎えするというサプライズは、ユーザーにも好評でした。

同社の出展目的はリブランディング。ブース1階にはアコムのサービス「むじんくん」が設置してあり、むじんくんから刀を借りて、チャンバラや居合切りを楽しむことが可能。楽しみながら「借りて返す」を体験できるようにしました。

ブース内に設置された「むじんくん」

メタバースとの相性は幅広く、金融業界とも親和性は高いと思います。本ブースも、これまで消費者金融を利用したことがないユーザーも、メタバース上であれば気軽に触れることができ、認知拡大、エンゲージメント向上につながる施策となりました。


=ヴィレッジ・サイコスリラー超大作も出展!「ガンニバル」(Disney+)

出展ブースは企業だけではありません。ディズニー公式動画配信サービス「Disney+(ディズニープラス)」にて独占配信中のドラマ『ガンニバル』のPRを目的とした体験ブースもありました。

ユーザーは、今回の会場のひとつ「パラリアル 名古屋」の会場からバスに乗ることで、主人公の阿川大悟ら家族が住む「供花村(くげむら)」の世界にワープ。映画の世界観を“中に入って”体験できる没入感によって、高いPR効果を生みました。

メタバース上に再現されたドラマの世界

メタバースとの相性は幅広く、金融業界とも親和性は高いと思います。本ブースも、これまで消費者金融を利用したことがないユーザーも、メタバース上であれば、気軽に触れることができ、認知拡大、エンゲージメント向上につながる施策となりました。


=省庁として初出展!「環境省」

初という点では、省庁として初出展となった「環境省」のブースも話題となりました。

同省の出展目的は、地球環境についての知識を届け、関心を高めてもらうことです。近い将来、脱炭素と豊かな暮らしがともに実現された「未来の家庭のモデルルーム」を展示。脱炭素や環境対策が我慢ではなく、環境に優しい製品・サービスを選択することにより、快適でお得に、さらに便利で自分らしい豊かな暮らしが実現でき、脱炭素も両立可能なものであるということが体験・体感できるようになっていました。

ブース内では、脱炭素に関するクイズも出題。全問正解するとバーチャルマーケット内で使用可能な3Dグッズをプレゼントした

ここまで簡単ではありますが、「バーチャルマーケット2022 Winter」の特徴的な企業ブースを紹介させていただきました。出展企業の業種も幅広く、アイデア次第で、さまざまな可能性があることを感じていただけたのではないでしょうか。


メタバースイベント普及はこれから

――「バーチャルマーケット2022 Winter」を経て、今後、企業のメタバース活用はどのようになるとお考えでしょうか。

「バーチャルマーケット」の街には、リアルな街同様、広告枠(OOH)があり、マーケティング、プロモーション活用できる環境がすでに整っています。出展企業様の多くが手応えを感じておられますし、今後ますます、メタバース上でのマーケティング活動は、活発化していくと見ています。

リアルとメタバースを手軽に行き来する未来というのは、現実的にはもう少し先になるかと思いますが、現時点においても、メタバースに大きなポテンシャルがあることに変わりはありません。

今後も、弊社のビジョン「最も魅力的なバーチャル世界とアクセスを提供する」の実現に向けて、企業様とともに、邁進していきたいです。

2022年のバズワード「メタバース」のゴールは、“仮想現実での生活”と言われます。誰もが当たり前に、リアルとメタバースを行き来しながら、日々を送る。そこには当然、企業も生活者もいます。少し遠い未来かもしれませんが、すでに多くの企業が参入しています。目的や効果も幅広いということが、今回の出展企業から垣間見ることができました。未来に向けた準備を、2023年も各社が進めていくことになるのではないでしょうか。
Written by: BAE編集部

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