2020-02-26

空間の混雑状況をリアルタイムで可視化。人の流れを最適化する新たなソリューション

ユーザーの利便性と施設回遊率を向上させる「VACAN」
店内配置したカメラやセンサーの情報と、AIによる混雑状況の判断で、空席情報をサイネージに自動配信するサービスが登場。ユーザーの利便性の向上と、飲食店や人気スポットの混雑緩和に貢献する仕組みとして、注目を集めています。
空席を起点としたこのソリューション、店舗や施設側にとっては、どのようなメリットや効果が望めるのでしょうか。
空席情報サービスを展開する株式会社バカンの代表取締役 河野剛進さんと、電通テックでリテール領域のプランニングを担当する柿内 健が対談を行い、空席情報の現状とポテンシャルを掘り下げます。

※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


店舗や施設側のニーズに応じて空席を自動配信

――空席情報サービスの内容について、簡単に教えてください。

河野――バカンでは飲食店やトイレなどのリアルタイム空き情報を、デジタルサイネージやスマホへ自動配信するサービス「VACAN」を展開しています。カメラやセンサー、またはそれらを組み合わせて情報を取得し、AIで解析して、ユーザーに伝えるという仕組みです。

空席情報の結果は、施設の入り口や各フロアのサイネージなどに表示。離れた場所からでも混雑状況が把握できる。商業施設などを中心に展開
センサー等によるデータ収集のほか、店舗側の手入力によるデータの追加やオーバーライド等も可能。柔軟な仕組みづくりで店舗側の使い勝手にも配慮する

柿内――店内の着席状況だけではなく、滞留している人の動きなども含めてAI分析しているということでしょうか。

河野――その通りです。飲食店側のニーズや求められる精度に応じて、「空席があるか/満席か」を表示します(場合によっては空席予測、待ち時間の表示などの追加も可能)。例えば、下膳や退店のタイミングでいったん店内が空いたとしても、入り口に並んでいる人がいる場合には「空席」表示をしないといった設定も可能です。
同様に、空席情報はリアルタイムで配信できますが、お店のオペレーションなどによってはあえて数分遅れで配信するといった調整もききます。

柿内――飲食店の個々のスペースや座席数、レイアウト変更、オペレーションなどへの細かな対応が可能ということですね。データはクラウド上で管理されていますか?

河野――保守管理の利便性や、マルチデバイスへの対応を考慮して、クラウド化しています。ちなみに、情報取得にカメラを使う場合でも、個人情報等に配慮して、顔認識データなどは取得していません。

サイネージやタブレットだけではなく、商業施設のサイトやアプリ等からも見られるようにすることができる


​柿内――大本のデータを管理して、リンクさせたUIに必要な表示を出し分ける。スゴイですし、ありそうでなかった便利なサービスですね。

河野――ありがとうございます。以前は作ろうと思っても、カメラやセンサーが高額でしたし、ネットワークの構築にも多大なコストが必要でした。通信やAIの技術面でも課題が多かったのです。
しかし、テクノロジーの進化によってこれらの足並みが揃い、サービスとして完成させたことで、ユーザーに便利さを提供できるようになったのです。現在は、複数の飲食店を抱える東京駅のエキナカ商業施設や大手百貨店、宿泊施設等を中心に活用され、継続的に使っていただいています。
後述しますが、「空席情報」というソリューションのポテンシャルは高く、他のサービスや技術との連携に関する可能性も広がっています。画像やセンサーを組み合わせて取得した情報にAI分析を掛け合わせた情報をリアルタイムで配信できること、飲食店の複雑なレイアウトやオペレーションの変更などに柔軟に対応できることが、「VACAN」の独自性です。
 

(写真左) 株式会社バカン 代表取締役 河野剛進(かわの・たかのぶ)さん
(写真右) 株式会社電通テック OMOプランニング部 柿内 健(かきうち・けん)さん


空席情報をきっかけに、選択肢の提案や行動変化を促す

——導入事例では、どのような効果がありましたか?

河野――例えば、東京駅のエキナカ商業施設のベーカリーカフェ「デイジイ東京」で2018年の5~8月に試験導入して、席の回転率が上昇するという結果が出ました。これを受けて、東京駅のエキナカ商業施設の他のカフェへも導入を拡大しています。
また、複数の飲食店を抱えるある施設では、施設内の滞在時間が約4分間伸びるという効果がありました。導入後半年間で、空席情報をきっかけに入店する客数が約3%伸びたり、カフェの売上が約4〜5%上がったという結果も出ています。
ユーザーの利便性を第一に据えたサービスではありますが、空席情報が集客にも影響を与えたということがわかり、結果的に店舗側・施設側にもメリットを提供できていると自負しています。

——理由はどこにあるのでしょうか。

河野――最も大きいのは、空席情報から、「行くか/行かないか」を、ユーザーが最短距離で意思決定できるという点です。同時に、知らなかった店を見つけてもらえるようになりました。「上階のレストランフロアが混雑していても、3階の小さなカフェはまだ空いている」といった提案も増やせます。

柿内――空席情報をきっかけに、カスタマーディライト(顧客感動)に通じる要因を作れる点が素晴らしいですね。例えば、アポとアポの間に20分間だけ余白ができたとき、わざわざ店を探して列に並ぶのは面倒ですが、空席だとすぐわかるなら座りたくなりますよね。ユーザーの精神的な機会ロスを減らすことができるというのは大きいと思います。

河野――はい。混んでいると知ってから行くのと、知らないで行くという違いだけでも、ユーザーの気の持ちようは変わります。「普段なら空いている時間帯なのに、たまたま団体で埋まっていた」というような場合も、人はネガティブな印象を抱きやすいですよね。
ある調査では、7割以上が「待たずに入れる」ことにプライオリティを置いているというデータがあります。(※)もちろん、「混んでいてもこのお店に行きたい」という事もあるでしょう。その場合にも、空席がわかればプランを立てやすくなります。

Vacant-driven Display Optimization、つまり混雑状況に合わせてデジタルサイネージの表示を最適化する特許技術によって、混雑状況に合わせてクーポンを発行したり、広告を表示したりすることもできます。こういった表示の最適化が進めば、ユーザーは「クーポンがあるなら少し待とうかな」といった意思決定をできるようになります。

店舗側からは、「これまで空いていた時間帯にもお客様の来店があり、ピークシフトの編集ができている」という声もいただきました。施設側からは、やはり滞在時間の伸びや回遊率の上昇、売上の向上を評価されています。
(※) 出典「外食に関する消費者意識と飲食店の経営実態調査」 日本政策金融公庫調べ 2013年12月18日

柿内――店舗、特に飲食店にとって「空席在庫をどう圧縮するか」という点は普遍的な課題ですね。埋まらないのにスタッフが貼りついているようでは、売上はどんどん消えてしまいますから。

河野――はい。結果的に飲食店のオペレーションの改善にも繋がっているようです。「施設全体の質問対応が楽になった」という評価もありました。空席情報をインフォメーションセンターに導入すれば、お店の情報と空席情報を両方一度にお客様に伝えられますから。

「待たずに入れた」という利便性や快適さによって、店舗や施設内でのユーザーの体験が向上。結果的に、ユーザーの気持ちに余裕が生まれるようなサービスを志すという

——店舗や施設側からの要望などありますか

河野――はい。店舗も我々にとってのユーザーだと考えると、UI,UXはやはり重要です。例えば、店舗側からの入力などが必要になるなど、手間がかかると使ってもらえません。シンプルなものが評価されます。
「施設内のマップとリンクさせたい」といった希望も、強い要望に応じて開発を進めました。センサーの設置数によっては、ヒートマップなどとも連携できます。また、サイネージの「空席か/満席か」といった表示の伝わりやすさなどにも非常にこだわっています。

——店舗内のオペレーション等だけではなく、施設全体の導線の設計などにも活用が可能でしょうか。

河野――施設のどこにセンサーやカメラを設置するかにもよりますが、技術的には可能です。空席情報サービスのバリエーションになりますが、トイレの空き状況を可視化するサービスも私たちで展開しています。

こちらも、飲食店の空席状況と同様に、利便性の向上、混雑の緩和、施設案内の品質向上、施設への入場や回遊のきっかけなどに役立っていますが、実はもう一つ、“利用状況の可視化”というメリットが得られました。
多くの商業施設では、トイレがどれくらい使われているのか、足りているのか、また足りていないとしたらどれくらい足りていないのか、といったことが把握できていなかったのです。逆に、足りなくなることを懸念して、数を作りすぎているということもデータがなければわからないのです。

「バカンのオフィスにも、社員向けに会議室とトイレの空き状況がわかるシステムを導入しています」

柿内
――建設時や動線設計に役立つデータが不足していたのですね。

河野――そうなんです。以前は多くの場合で法的な基準や、かなり昔に工学会などが設定した模範的だといわれるデータを参考に設定されていました。ただ、今は当時とはライフスタイルが変わって、トイレは非常に清潔で快適な空間ですし、スマホなどの普及でつい長居してしまう人などが増えているようで、男性の個室の利用時間も伸びています。
しかし、混雑状況が「見える化」できると、空いている一階上のフロアに移動するなどの判断ができますし、次の人のためになるべく早く出ようといった配慮にも繋がりやすいでしょう。

ドアの開閉や在室の有無をセンサーで検知し、空き状況を把握。混雑時にトイレ内のサイネージに、トイレの混雑状況と長時間利用を知らせるメッセージなどを流すことも可能で、長時間滞在削減に一定の効果を上げているという


空席情報が当たり前になる世界

柿内――運用で見えてきた課題などはあるでしょうか。例えば、隣接する施設や街中の店舗にも導入されたときに、双方のメリットがぶつかってしまうといった懸念はありませんか。

河野――確かに差別化という部分にフォーカスするとそういう心配を持たれるかもしれませんが、むしろ空席情報がフックになって、集客に繋がるというパワーのほうが大きいと考えています。
疲れて帰ろうとする人や通りすがりの人が、空席を知る事で行動を変えて立ち寄るといったポテンシャルのほうが大きいと思うのです。

柿内――先述の「20分だけ空いていた場合」の例のような、立ち寄り需要の掘り起こしですね。

河野――はい。空席表示があることが当たり前だと感じられるくらい浸透することで、快適さに貢献していきたいですね。

柿内――小売店のレジなどはもちろん、試着室などの混雑緩和にも役立てられそうですね。

河野――現状は飲食店、商業施設、トイレ、会議室などを中心に空席情報サービスを展開していますが、空港、病院、授乳室、ホテルのフロント、小売店レジなど、列や待ち時間が生じる
場所でも導入実績がありますし、花火大会の仮設トイレなどのイベントにも対応しました。
商店街や観光地での活用についても引き合いが多く、すでに、江の島のシーキャンドル(展望灯台)のチケット売り場に、展望台にのぼるためのエレベーターの待ち時間などを含めた混雑予測状況を表示して、好評をいただいています。同様に、マップなどの上から混雑状況が読み取れるようなシステム等も展開しています。

柿内――サービスが広がっていけば、観光地やテーマパークなどで混雑状況と連動したダイナミックプライシングなども展開できそうですね。

「空き状況に応じてクーポンがもらえるといったサービスは、大きなユーザーメリットになりますね」

河野――2019年12月には上海でも同空席情報サービスを開始しました。人口が過密するアジアの各都市でも課題の解決に取り組みたいと思います。5G化が進めばサイネージへの動画の配信なども展開可能です。このあたりは、広告やPRとの親和性も非常に高いと考えています。

柿内――動画の配信もそうですし、考え方を反転させて混雑状況を配信することで、ライブやスポーツ観戦が盛り上がっている状況をユーザーに伝えることもできそうですね。

河野――その通りです。スマホやタブレットが普及して、人が集まるモノ、コトはメディア化しやすくなりましたから、そこを広げていきたいという気持ちもありますね。


今後も、空間を知能化することで「人は多いが混雑はない」状況を作ることを目標にしていきたいと思います。友達や家族と人気のスポットや飲食店に出かけるといった、「ちょっとしたことも、最後までいい体験にしてもらいたい」というのが私たちの願いです。
今後も、私たちのサービスによって、生活者の豊かな体験を実現していきたいと思います。


柿内――バカンのサービスはテクノロジーを活用して、空席状況の可視化を行った良い事例であると思います。空席がもたらすロスを減らしていくことがプロモーションで需要喚起を行う。プラットフォームを持つことで、メディア的な利用やプロモーションメディアと活用に広がっていくことの可能性を今回の対談であらてためて重要だと感じました。

河野剛進(かわの・たかのぶ)
株式会社バカン 代表取締役
東京工業大学大学院修了(MOT)。株式会社三菱総合研究所で市場リスク管理やアルゴリズミックトレーディング等の金融領域における研究員として勤めた後、グリー株式会社にて事業戦略・経営管理・新規事業立ち上げ、また米国での財務・会計に従事。2016年より株式会社バカン代表取締役。

柿内 健(かきうち・けん)
株式会社電通テック OMOプランニング部
小売業のプロモーションを長く担当。GMSやドラッグ業態でのアプリ開発、運用・基幹システムの連携などに従事することにより、システムやテクノロジーの業務を推進。

Written by: BAE編集部

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