2018-05-17

次世代の無人店舗は、人々の暮らしをどう変えるか

「ネット」と「リアル」が融合した新しい購入体験
大手量販店や、ECサイトなどが実証実験的に導入をスタートしている無人店舗にはさまざまなテクノロジーが活用されています。日本でいち早く佐賀大学キャンパス内にオープンした無人店舗、「モノタロウAIストア」のシステム開発を担当した株式会社オプティムさんにお話を伺いました。


物流のラストワンマイルを埋める

株式会社オプティムの山本大祐さん

近年、Amazonによる「Amazon Go」など無人店舗に注目が集まっています。まだ実店舗の実現に至っている企業は少ないですが、その可能性から各社が研究・開発に乗り出している注目の分野です。運営コストの高騰や、従業員の確保など多くの課題を持つ小売業界ですが、そのソリューションとして注目が集まっているのがAIを利用した「無人店舗」です。

豊富な品揃えの商品の中から、いつでもどこでも注文できるのがECサイトの大きなメリット。Amazonなどの大手ECサイトであれば、注文から商品の到着までが数日以内も当たり前で、今では地域限定で即日配送を行う「Prime Now」のようなサービスもあります。

ECサイト各社はこの注文から配送までの「リードタイム」をいかに短縮するかでしのぎを削っています。しかし、例えばガムテープなどの消耗品は今すぐ必要になることが多く、翌日まで待てずに近所のコンビニやスーパー、ホームセンターへ探しにいった経験がある人も多いのではないでしょうか。

ところが、これはEC中心でサービスを展開してきた企業にとっては大きな機会損失となります。製造業など事業者向けECサイト大手の「MonotaRO」(以下モノタロウ)もこの点を課題としていたと株式会社オプティムの山本大祐さんは語ります。


「モノタロウさんは今後のさらなる成長を目指すうえで、ECだけでなく新たなタッチポイントとして実店舗を構え、物流ネットワークの全体を高度化させることが戦略上重要であるという考えだと聞いています」

しかし、実店舗はホームセンターなどの競合も多く、運営コストもかかります。そこでITを駆使した店舗管理支援サービス「Smart Retail Management」などを手がけるオプティムと提携することで、完全無人のセルフサービス店舗の実証実験に着手することになりました。


ネットとの融合で買い物“体験”を向上させる


佐賀大学本庄キャンパス内に第1号店が置かれることになった「モノタロウAIストア powered by OPTiM」は、2018年4月2日にオープンを迎えました。大学構内での無人店舗は全国初のケースですが、この場所が選ばれたのはオプティムが同キャンパス内に本店オフィスを置いていたことに関係しています。無人店舗といっても、現状では商品の補充などの管理業務は人手が必要だからです。


大学構内の店舗ということで、利用者は主に研究室の教職員や学生を想定していますが、モノタロウのIDを持っていれば近隣の一般客も利用可能とのこと。

モノタロウAIストアでの購入の流れとしては、まず、スマートフォンの店舗専用アプリ「モノタロウ店舗」をインストールし、画面に表示されるQRコードを入店ゲートにかざして店内に入ります。約80平米という小さめのコンビニ程度の広さの店内には、工具や軍手といった現場資材のほか、実験器具やコピー用紙などのオフィス用品など2000アイテムが揃えられています。


顧客は、このアイテムのバーコードをアプリでスキャンすることでカートに追加し、退店前にクレジットカードまたは法人向けの請求書払いかを選択して決済を行い、確定後に表示された退店コードを退店ゲートにかざして店を出ます。利用者はレジに並ぶ必要がなく、普段利用しているモノタロウのECサイトアプリをほぼそのまま利用できるというメリットがあります。

「3月に大学関係者向けにプレ説明会を行った際には、本当に無人店舗で大丈夫かという懐疑的な声もありました。ところが、実際に店舗を体験してもらったところ、こんなに品揃えが良くて手に取って比べられるのであればまったく問題ないと、まとめ買いされていく先生もおりました」

ネットとリアルを融合することで、訪れる客にとっても販売者にとってもストレスフリーな「新しい買い物体験」を提供することをコンセプトに掲げたモノタロウAIストア。今すぐ欲しいアイテムがその日のうちに手に入り、品物のサイズや質感を手に取って確かめられるという実店舗の良さと、スマートフォンで手軽にキャッシュレス決済ができるECサイトの良さが活きているのではないでしょうか。


無人店舗が小売店の未来を変える

一方で、現在のモノタロウAIストアの仕組みが必ずしも「無人店舗」の唯一の正解ではないとも山本さんは語ります。例えば、商品コードの読み取りではバーコード、RFIDタグ、商品外観の画像解析といった方法が考えられますが、単価が低いアイテムには導入コスト面でRFIDは適していません。また、Amazon Goのような画像解析システムを一般的な店舗に導入するには現状では出店コストが見合わない場合が多いだろうとのこと。そのため、無人店舗のシステム構築に際しては、業種や業態に合わせて決済バリエーションを柔軟に組み立てていく必要があると言います。


また、ここまで読んで「AI」がどのように活用されているのかが気になった人も多いのではないでしょうか。現在モノタロウAIストアでは、購入に関わるプロセスではなく店舗内での顧客の行動や客層などを解析するためにAIを活用しています。具体的には、入退店ゲートと設置された5台のカメラの映像を用いてデータの収集と自動解析を行っています。

「現在はAIカメラによる来店者数のカウントと滞在時間、モノタロウIDと紐づいた顧客属性の分析のためのデータ収集を行っている段階です。また、今後はセキュリティ向上を踏まえカメラ映像を用いた顔認証や店内行動分析、棚の状況の監視などの展開も予定しています」


回遊、立ち止まり、検討、購入など、店内での人々の行動パターンを分析することで、導線や商品棚の改善(陳列や棚の配置、通路の作り方など)につなげることもできるはずです。また、来店者がどのような商品に興味を持ったかなど、購入に至らなかったお客さん(非購買層)のデータを取得することができるのも大きいでしょう。さらには大型の商業施設や飲食店などでは、店内の空席状態を検知して、速やかにお客さんを誘導するということも可能です。


生活者に与える影響とは

決済のシームレス化、インテリジェントなセキュリティシステムの構築など、完全無人店舗の実現にはハードルがいくつもありますが、今回のモノタロウAIストアでの実験が、多くの小売店が抱える課題解決や、利用者の行動情報を基礎にしたマーケティングへの応用といった可能性など、モノタロウAIストアでの実験が果たしていく役割は大きいのではないでしょうか。

無人店舗にまつわるさまざまなテクノロジーが、生活者に与える影響も見逃せません。例えばキャッシュレス決済の浸透、動画解析による行動・購買データを活用したサービスの恩恵、購入システムがECサイトとリアル店舗で統一されていくことで促進される「ネット」と「リアル」の明確な使い分けなど。「モノタロウ」の事例は、ECサイトの利用を前提としたうえで、手触りやサイズ感を確かめて購入できる実店舗のメリットが際立っています。

無人店舗の実用化が今後さらに進んでいくことで、人々の消費行動も変化していくでしょう。
Written by: BAE編集部

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