2021-11-25

世界初!ガチャガチャが音楽を変える。音楽プラットフォーム「TOY MUSIC」って何?

デジタルとアナログをMIXした新しい音楽の楽しみ方。
気がつけば、音楽の楽しみ方はサブスクなどオンライン配信が席巻し、便利でついつい使ってしまいますが、一方でCDショップや音楽番組の減少などアーティストとファンとの接点は少しずつ減っています。
そんな時代に「アーティストとファンとの接点がリアル空間でもう一つくらいあってもいいのでは!」という思いから、デジタルとアナログをMIXして生まれたのが「TOY MUSIC」。
このプロジェクトは4社が一つのチームとなり開発を行い、今回はキーマンのお二人に「TOY MUSIC」について語っていただきました。お楽しみください。

【対談者】
〇成田耕祐
株式会社ブシロード執行役員
株式会社ブシロードクリエイティブ社長
 
〇飯田雅実
株式会社電通テック・クリエーティブディレクター
パンダの穴 クリエーティブディレクター

※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


TOY MUSICを何のために作ったのか?

飯田――まずは、TOY MUSICとは何かを簡単に説明しますと、スマホと通電機能がついたガチャガチャのフィギュアを連携させ、スマホ上でミニライブが楽しめる音楽プラットフォームというもので、多分ですが量産型の商品としては世界初と言ってもいいのではと思っています。

通電機能付きのフィギュアがスイッチャーとなりサーバに格納されている楽曲を呼び込み、スマホから音楽が流れ、スマホの画面上では動画の演出が行われます。アナログとデジタルが融合した新しいシステムです。


飯田
――ただ世界初ということもあって、どんな商品なのかイメージしづらいので、今日はTOY MUSICの魅力を、ブシロードクリエイティブ社長の成田さんと語っていきたいと思っています。成田さん、よろしくお願いします。実は成田さんとは、7〜8年ぐらい前に、一度お会いしていまして。

成田――そうですね。

成田耕祐さん(左)、飯田雅実さん(右)

飯田――ガッツリお仕事したのは今回初めてでしたが、とても勉強になりました。成田さんから見て、このTOY MUSICという商品はどう見えてますか?

成田――そうですね。最初飯田さんからお話をいただいた頃は、僕らがガチャガチャのメーカーとして4年ほど経ったタイミングで、それまでは、いわゆる版権もの、IPもの、ブシロードグループといえば、そういったキャラクターグッズが主流でしたが、後にTAMA-KYUというノンキャラ系のブランドを作りましたが、まだそこも本腰入れ出した頃で、月に1~2本発売するぐらいで、今はめちゃくちゃ多いですが、新しいガチャガチャのコンセプトを持った何かをやりたいというタイミングだったので、すごく幸運なお話をいただいたなと思っています。


成田
――何故やりたいと思ったかというと、ザ・アナログ業界の中で、デジタル面でイノベーションしているメーカーというと、当たり前なんですけど一つもないんですね。例えば二次元コードを仕込んで何か画像がもらえるとかはありますが、インタラクティブな商品をお客様に提供できるというのは無かったので、これは絶対作るのが大変だと思いました。ですが、大変ということは、多分誰もやらないなと思ったんですよね。考えるだけで吐きそうで、アーティストさんとの交渉や、作るものも量産物になる、何万個というロットに対して、個体差をなるべく作らないとか、デジタルとアナログとの接点のところとか、色んな人が苦労するので、誰も入ってこれないのでやりたいなと。まずそれが最初にいいなと思ったきっかけですかね。


飯田
――普通の方だと、避ける条件が揃っていますが、そこをあえてチャレンジしたいと思ったのは、経営者的な視点を少し感じましたが。

成田――そうですね、単純に面白いと感じたのが一番ですけど、やっぱり僕ら後発のメーカーなので、大手さんに対抗するためには、自分たちのポジショニングが必要なのと、やはり誰もやりたくない仕事をやるべきだと思っていまして、しかも電通テックさんは、僕にとっては「パンダの穴」という実績をお持ちの会社さんなので、いい機会をいただいたなと。それにいくつかいい感触が揃い、尚かつ、それがすごく苦労しそうで、ブルーオーシャンに行けるかもしれないと思いました。ずっとレッドオーシャンで溺れてきたので、たまにはそういうことをやりたいなと(笑)。

飯田――そうなんですね。TOY MUSICを立ち上げて間もなく、ユーザーさんのコメントですごく心に残っている言葉がありまして、「ガチャガチャで初めて泣いた」という方がいました。普通ガチャガチャだと「面白い」とか「何これ?」というのはありますが、泣くまでは普通いかないじゃないですか。でもガチャガチャに音楽やスマホという要素が加わり、サンボマスターさんにも登場していただき、そんな中、コロナ禍の影響で自宅で自粛しなければいけない、思ったように仕事ができない、勉強ができないという中で、励みになったと言いますか、LIVE音源なのでボーカルの山口さんの言葉が心にしみて、いろんな方々を応援しているといいますか、鼓舞しているといいますか、そんな商品になったというのは想像以上でした。最初は音楽とガチャガチャをMIXして、エンターテインメントとして今までにない楽しい商品を作りたいと思っていましたが、涙が出るとかまでは想像していなかったので素直に嬉しかったです。


成田――フィギュアを置いて、自分の手がトリガーになって、サンボマスターさんみたいなエモーショナルな楽曲がボーンって出るのって、何かすごく良かったですよね。


飯田――改善点は多々ありますが(笑)、何か面白いものを世の中に出せたかなと思っています。それと、私が最近感じているのが、サブスクが音楽業界を席巻している点です。私もコロナ禍になってから随分とサブスクにはお世話になっていまして、音楽には本当に励まされています。でも、ふと自分を俯瞰してみると、ずっとスマホをいじりながら音楽を体験しているなと。これは一体何なんだろうなと。スマホをいじっている時はそういうことは考えませんが、便利だなとか、あの曲聞きたいなと思っているだけですが、自分を天井あたりから見てみると、自分は一体何やってるのかなと。スマホをずーっと見ながら音楽を楽しんでいるなと。これはこれで便利で申し分ないですが、何か違う選択肢があってもいいのでは、と強く思ったんですよね。レコードショップやCDショップが激減し、音楽番組も減少したりと、リアルな世界でアーティストとファンとの接点がどんどん無くなり、今やスマホに集約されつつあって、何か一つの選択肢を増やせればと思っていました。


成田――僕も飯田さんの気づきから、この商品の良さに一気通貫したコンセプトが立っているという印象を受けました。個人的な話ですけど、もうめちゃめちゃサブスクの音楽は聞くし、サブスクの映画も見るし、生活の3割ぐらいサブスクですよね。フィットネスジムもそうですし。
なんですけど、デジタルでのサブスクって、その時を楽しむことはできますが、全然記憶に残らないんですよね。思い出にならないというか。昔のCDコンポとかはOPENボタンを押してブイーンってトレイが出てきて、ケースをバキッと開けてCDをセットすると、ガシャガシャって音がしながらローディングして、ヒュルルルルって音がしてから、ようやく音楽が流れるみたいな、あのドキドキ感とか。



成田――家族や友人とのドライブ中にCDやカセットテープをセットして聴いたりとか。あの時の自分や、周辺に一緒にいた人とか、風景とかが全部融合されて流れていた音楽って思い出になっているんですけど、今はあまりにも便利すぎて、今を彩ることはできるんですけど、一曲前に何聞いていたか覚えてなかったり。

飯田――ああ、記憶に残らない。言われてみたら、そうかもしれません。

飯田――映画も何を見たか全然覚えていないんですよね。履歴見てこんなの見たっけなと。便利になることは素晴らしいですけどね。僕らアナログの業界に生きる人間としては、物を通して思い出を作ってほしいなというのがあります。我々のようなハイターゲット産業で生きている人や業界からすると、CDっていまだにすごく大切にしていて、その中に入っているブックレットだったりとかオマケだったり、演じる声優さんが流通に対してCDを持ってPRしに行くみたいな、デジタルではやり辛い手法を大切にしています。


飯田――そうですね。

成田――そういったものを、マスな文化の人たちも、もう少し大切にできればと思っていたので、今回のTOY MUSICは、何となく個人的に悶々とした部分をかっさらった様な感じはします。

飯田――また、フィギュアは自分が好きなところに置けるので、アーティストとファンとの接点が長くなります。そこはガチャガチャならではだと思います。

成田――そうですね。


飯田――あと、ガチャガチャって薄利多売なビジネスで、その多売という日本中で売られているという側面はあまり注目されませんが、これは広告メディアに成り得るポテンシャルがあって、街中に小さなポスターがたくさん掲載され、一定数の方々が自分の意思で確実に見ているので、広告メディアとしても魅力的だなと思います。また、CDセールス何万枚みたいな話は一昔前はありましたが、今はCDセールスも中々数字がいきません。そんな中、ガチャガチャで10万個とかミリオンセラーとか、そういうのが今後話題になるといいなと思っています。


成田――そうですね、飯田さんがおっしゃる通り、ガチャガチャに広告価値があるかどうかですが、誰も正確には数えたことはないでしょうけど、日本全国で、60万台ぐらい。設置店舗も4~5万店舗ぐらいあると言われています。そのうちのほとんどが非電源なんですよね。

飯田――超アナログですよね。

成田――多少電源を使うものもありますが、雨に濡れても何の問題もない状態で売ることが出来る非電源型はすごいですよね。一見不便に思えますが治安が保たれている日本だからこそ成長したところがあるので、インフラとしては結構鉄壁ですよね。このデジタル社会においても市場規模は大きくなっていて、これはもう未来永劫無くならないと思います。今一番撤廃されてもおかしくないじゃないですか、接触するし現金で回すし。それでも伸びているのは、もうみんな単純に好きなんですよね。コロナ禍を生き残ったサバイバーだと思っています。


成田――これからは、ただの商品を売るだけではなくて、TOY MUSICのような発想も出てくるでしょうし、映画や現代アートが買えたりするかもしれないし、いろんな業界の人たちが参入してきて、自分たちのサービスをガチャガチャという筐体から排出させるという様な掛け算をするようになるはずです。
ですが、ベンダービジネスとか、代理店ビジネスのところでの利益幅の無さで、みんな参入しては消えていくと思います。すごく難しい面はあれど、やはりインフラとして魅力的なので、TOY MUSICのように、新しい音楽のプラットフォームを作るという発想には相性はいいのではと思っています。


TOY MUSICはどうなっていくのか?

飯田――ここからは、TOY MUSICの今後についての話をしたいと思うんですけど、実は水面下でいろんな施策を進めていますが、音楽以外の可能性について言える範囲で少し話をしたいと思いますが、このシステムは普通に考えると、魅力的な音声と、見応えのある造形物になれば、いろいろ発展する可能性があると思いますが。

成田――やはりTOY MUSICというブランド名で立ち上げたので、どうしても楽曲、アーティストさんのフィギュアという縛りの中で走り始めていますが、ちょうどコロナ禍でボイスコンテンツは伸びていて、例えば声優やVTuberがASMRといった、ハイスペックな音質で収録をしたボイスを、ハイスペックなイヤホンで聞いて楽しめるコンテンツをダウンロードで販売しているビジネスが、すごく伸びているんですね。



成田
――そう考えると我々の持っている仕組みは、アーティストによる楽曲である必要はない。音オンリーだけでも十分楽しめる時代に来たかと思うので、音というか声とか、そういう商売をされている方たちとのコラボレーションは全然いけると思います。例えばお笑いですよね。漫才とかもあの掛け合いもいいと思うし、落語は、CDが今でも特定の層に売れるらしいんですよ。やはり大御所さんの落語は聞いていて心地が良いですよね。音楽でなくても、音というか、そういった観点で見ると、もっと対象となるコンテンツは増えるのではと、みんなと話しています。

飯田――そうなんですよね。お笑いとガチャガチャは、親和性が高いのと、そこに音声が加わると、今までとは違うガチャガチャができると思っています。落語のガチャガチャを想像した時に、落語家の方がスマホの上にポンと乗っていると、これはかわいいだろうなって思いました。ぜひ実現できればと思っています。

成田――落語は一番やりたいですね、個人的には。

飯田――そうですか。

成田――大好き。


飯田――あと、F1の爆音とマシーンや、動物の鳴き声とか、とにかく何か意外性のある音声と、立体物として見応えがあるものであれば、可能性は広がりますね。

成田――世界の山のフィギュアを作って、実際にその山に行って立体音響の収録をするとか。昔、缶詰の中にその地域の空気が入っている、嘘だろみたいな商品がありましたけど(笑)、そういう世界の音みたいなのとか。

飯田――確かにスマホの上に山があって、そこから美しい川の音とかが流れていたら。

成田――そうですね。ちゃんと立体的な音響制作ができれば、ただ録っただけの音と違って、何て言うんですかね、標高何mで録音とか。

飯田――八ヶ岳とか。

成田――そうですね、あっちから滝の音が聞こえてくるとか。意外にそういう企画もなくはないですね。

飯田
――音楽の話に少し戻りますが、フィギュアではなくて、もっと安価にする方向性もあるかと思ってまして、現在TOY MUSICは500円で販売されていますが、フィギュア部分をレコードやCDやカセットとかの定型物にして、コストを下げつつ、より音楽メディア感を強調する方向もあるかと思います。また、今はスマホしか使えないですが、タブレットの様なもっと大きい画面を使うことによって、大きな物や数が多いとか、カプセルに入らないかもしれませんが(笑)。

成田――タブレットだと映像面でも何かできそうですね。

飯田――そうですよね。アフリカのサファリが再現されているとか(笑)。色んな可能性を秘めていますが、最初の方で成田さんと話している時に、新しいカルチャーを作りたいという話をしていたと思うんですが、こういったスマホというデジタルデバイスと、ガチャガチャを連携させる商品は、本当に色々調べましたが、量産型の商品では見当りません。何で無いのかなと個人的に考えてみまして、まずスマホってブラックホールみたいな存在なのかなと。


飯田――色んなものが今スマホに吸い寄せられていて、何だか知らないですけど、スマホの中に色んな物が吸い寄せられている感覚がすごくありまして、でもこのTOY MUSICのシステムは、私はホワイトホール的になるといいなと思っていて、このスマホの中にあるコンテンツ、音声もそうですが、映像もですけど、それらを逆に外に出してあげたいと思っています。フィギュアが橋渡しとなり、デジタルとアナログを繋ぐ、キーになるといいなと思っています。こういう仕組みの商品は、今後TOY MUSIC以外でも出てくると思っています。第1弾としてTOY MUSICが世の中に生まれましたが、これを我々だけではなくて、本当に色んな方が、こういう考え方もある、ああいう考え方もあるということで、一つのカテゴリーができると、数年後カルチャーになっているのかもしれないと思っています。

スマホの画面上で動画の演出が行われる。


新しいカルチャーを生み出すには?

成田――そうですね、これに限らずですけど、ありそうでなかったとはいえ一応、他でやってない取り組みなので、僕らだけでわーわー言っていても、よくわからないことも多くて、カルチャーにするためには最低もう一社、同じような取り組みをする競合といいますか、ライバルの様な企業が出てこないと難しいという印象があります。デジタル×アナログというのはトライしている人が数多いると思いますが、結果としてみんなの記憶に残っているものが、あんまり無いことを考えると、やはり掛かっているコストとか、やる意義とか得られる利益とかのバランスが悪いんでしょうね。
でもそこに、異常な熱意を持っている競合会社が入ってくれば面白くなります。それこそ音楽レーベルさんとかも自分たちでやろうと思えばできるはずなんですよね。けれど彼らはそんなところを一生懸命やるよりも、普通にライブをやったり、タオルとかTシャツを売っている方が遥かにコスパもいいし、利益率もいいから、結果参入してこないと思うんですよね。なので、本当に無邪気にやりたい人がいて、継続できる体力・気力を持っていて、諦めの悪いメンバーがいる会社がもう1社ぐらい入って来てくれたら嬉しいです。



飯田
――そうですね。

成田――比較もできていいかなと。

飯田――そうしないと、なかなかカルチャーにならないですね。

成田――そうですね。僕らに対するレビューも基本的には使い勝手とか技術やフィギュアについてが多くそれはあくまで玩具的かデジタルコンテンツ的なので、カルチャーに対するレビューってまだ全然ないと思っているんですよね。なので、商品点数を増やすのも大事ですけど、僕ら以外のラインができるべきだと思っています。

飯田――そうですね。

成田――ただ、多分出てこないと思います(笑)。

飯田――もしかしたら全然違うアプローチで、スマホと何かを組み合わせるのは出てくるかもしれないですけどもね。

成田――そうですね。


新しいことを始める時に大切にしていること

飯田――最後に、TOY MUSICから少し離れますが、成田さんは、ブシロードクリエイティブと、ブシロードメディアの社長という肩書きをお持ちですが、新しい商品やサービスを世の中に出す時に、一番大切にしていることは何でしょう?


成田
――本当の意味での新規事業って僕ほとんどやったことがなくって、会社目線だと新規事業なんでしょうけど、ユーザー目線からしたら他の企業がやってるものに参入しているというパターンがほとんどなので、基本的には競合がいる状態で、レッドオーシャンに飛び込むことが大半なんです。でも新しいことを始める時には、ほとんどレッドオーシャンに飛び込むべきだって僕は思っています。ブルーオーシャンを探せる人って、やはり天才かもしれないんですけど、その前にまずレッドオーシャンで溺れたほうが良いと考えているんですね。



成田――レッドオーシャンでの溺れ方、何とか泳ぐ方法を覚えないとブルーオーシャンを作れないと思っていて、もっと具体的に言うと、例えばガチャガチャのビジネスだと、僕らは何十社目かわからないぐらいの後発メーカーなんですけど、そこにまず入って、他のメーカーさん、大手さんでもやってないことをまず見つけるんですよ。
例えば、薄利多売すぎるから広告宣伝は全然やれてないよねとか、発売までの開発ストーリーとかも誰もSNSで語っていないとか。このように競合ができてないことを見つけて、そのレッドオーシャンでの泳ぎ方を覚えるのを、すごく気にしてます。
そこで何か一つでいいから、特徴のあるものを1個だけ持って掛け算するんですよね。誰もがやってることと、自分だけがやっていることを掛け算すると、全然違う戦い方に変わるので、そういうのは結構どの事業をやっていても、グッズだろうが出版だろうが何でもいいんですけど、何かないかなと探していますね。
前職の話なんですけど、新しいIPを作りたいと思った時に、与えられた予算は多くない状況だったのでキャラクター商売をあまりしていないけれどアクティブでコアな売り場・業界を探していました。そのほうが大きな宣伝予算をかけなくてもバスりやすいと考えていたからです。そこで注目したのが美術業界。画材道具売り場って美大生など日々来る場所なんですけど、クロッキー帳とか絵の具とか買いに行くところで、ここにオリジナルキャラクターのIPがほぼなかったんですよね。ですが売り場はアクティブで、お客様はすごく来る、しかもお金を使ってちゃんと買うんですよね。美大生は感度も高いので、そこで育てる、そこだけで売っているキャラクターグッズを作ろうと思って、ザリガニワークスさんと、ホルベイン画材さんと共に、「石膏ボーイズ」っていう石膏像のアイドルを作ったんですよ。

飯田――あれ成田さん関わっていたんですか?

成田――KADOKAWA側のプロデューサーで。

飯田――そうですか。

成田――美大生が受験前にデッサン用に見つめあっていた石膏像をアイドルに見立ててかっこいい写真素材を作り、商品化を行いました。画材売り場だけでグッズを売っている稀有な例なんですけども、キャラクター×画材売り場という感じで「石膏ボーイズ」を発表しました。いろんな流通に対して商品案内しても、多分誰も見向きもしないと思いまして、画材売り場という限定的な売り場に絞って販売を行いました。そこでプロモーションを集中させる、流通も狭いのでコストもそこまで掛からない。そうやって育てたIPなんですけど、僕の中では掛け算で一番うまくいったパターンです。表向きは誰も売れているとは分からないかもですけど。
あの時、嘘だろうというぐらいの売り上げがあったことは、MD業界としてもビックリするような規模だったかと感じます。競合がいる場所でも、1個だけでいいから自分だけが持ち込める要素を考えて、既存領域と、その発想を掛け算して全然違うものですと言い切る。それが僕の新規事業で心掛けていることですかね。


飯田――それは、具体的なアイディアが先にあるのか、それとも先にレッドオーシャンを見つけて、そこで何ができるのかを考える。どちらでしょうか?

成田――個人的にはレッドオーシャンに飛び込みがちですね。

飯田――なるほど。

成田――そこでは、確実に売り上げがあるわけで需要があって、だからレッドって言われているんだと思うので。

飯田――まずは飛び込む。

成田――まず飛び込んでみて、その競合の良いところ悪いところを、とにかく書きます。めちゃめちゃ書き出す。

飯田――なるほど、リストアップする。

成田――そうすると、だいたい良いところも悪いところもほとんど一緒なんですね、レッドオーシャンって。

飯田――そうなんですね。

成田――みんなが差別化差別化とか言ってますけど、その差別化なんてただの戦術に過ぎなくて、ユーザーに対するアプローチとしては、みんなどっこいどっこいです。この時が一番やりやすいです。競合が全員同じ戦い方をしてるので。

飯田――なるほど。

成田――似てる戦い方をしてるから、そういう時に裸一貫で飛び込んで、全然違うやり方で戦うと、暴れん坊とか異端児みたいな扱いを受けて、勝手に持ち上げていただけて、既存の競合にちょっと不満があったお客さんたちを抱きかかえて、うちならこういうことできます、というようにアピールしやすいので、レッドオーシャンへの新規参入の場合だとそうしています。ちなみに、今ボードゲーム業界に進出しています。

飯田――今ボードゲーム流行っているんですか?


成田――はい、コロナ禍で伸びている業界です。みんな家にいる時間が増えたので。ドイツのゴリゴリのボードゲームというより、カジュアルなカードゲームが伸びています。トランプ、UNOのような、5分10分で終わるものを友達や家族とやるようなものです。実際の市場としてはまだまだマニアックな領域なんですよね。これを普通にコンビニでトランプの隣に置けるような環境まで引き上げるメーカーは1社いた方がいいと思っています。作ってる人たちは、商品へ注ぎ込む愛情のコントロールで精一杯だと思うので、僕のようにフラットな立場でもう少しビジネス観点でろうとする業界人がいてもいいと感じるんですよね。

飯田――そうなんですね。

成田――なので、より本気でトランプ、UNOの次はこれだみたいなものを作りたい。100年続く、100年重版が続くものを作りたいんですよね。ボードゲームの中での僕の新しい手法としては、マス流通にどうやったら定番採用してもらえるのか検討していきたいと思います。一部はすでに置かれてはいますが、スバリ書店やコンビニ、ホームセンターやドラッグストアなどに向けてです。そのためには原価の設計や販売価格などをマス向けに調整しなくてはいけません。ただ良い企画というだけではなく、マス向けの流通と向き合うためには越えなくてはいけないハードルが多々あります。それは他の仕事で経験があるので、ボードゲーム事業に生かそうとしてる最中です。これが今直近での僕の夢ですかね。


飯田――次はボードゲームをやってみようと自分で思いつくんですか?

成田――コロナ禍で一番何やったかなと思ったら、サブスクの音楽聞いてるのと、ボードゲームだったんですよ。実は今まで買ったことがなくて、自分でもこんなにハマるなんてびっくりしています。家族4人なんですけど、小学生と幼稚園児の子供たちがいて。

飯田――家族でやられていた?

成田――家族でやっていました。あまりにも暇すぎて、Amazonとかで注文して何となく一位のゲームを買ってやってみたら、面白いねってなって。

飯田――これをビジネスにと。

成田――そうですね。あとあまり子供とか妻に興味を持ってもらえる仕事をこれまでしていなかったので、これなら喜んでもらえるかなと。普段全く興味ないんです、僕の仕事に。多分僕が何の仕事をしてるかすらわからない。会社名を知らないかも(笑)。この辛いコロナ禍の成田家を支えてくれたボードゲームを自分で作って、家でみんなでやったら、すごい幸せだなって思って。

飯田――家族で楽しめるのはいいですね。

成田――パパ実はこういう仕事しているって、そろそろちゃんと覚えてもらいたいと思いまして(笑)。

飯田――ボードゲームが楽しめるカフェとかもありますもんね。

成田――ボードゲーム専門カフェとかもすごく多くて、人狼、脱出ゲーム、最近はマーダーミステリーという新ジャンルも出てきてイベント的に楽しめるサービスもすごく伸びているんですよ。アナログゲームの価値が、イベントとセットになって伸びていくと考えています。家庭でやるってこともイベントだと思っているので、全ての家が今、内向きに生活がなっていて、全ての家庭がもうイベントスペースだと僕は思っています。必ず数人集まるので。


飯田
――なるほど。家庭がイベントスペース。

成田――そうなっていくとしたら、そこにぶつけるものは、もうゲームしかない。ゲームかご飯しかないと思っています。

飯田――確かに、確かに。

成田――ご飯はちょっと競合が多すぎるし、コンシューマーゲームは任天堂さんやソニーさんが最強すぎるので、もうちょっとカジュアルにやれるものとなると、ボードゲームかなって。そんな僕の思考回路の果てに今やってます。

飯田――それこそキャンプとかに行ってもできますね。

成田――そうですね、キャンプ場はまさに今伸びている遊び場ですよね。キャンプグッズもすごく伸びている。あの空間もイベントですよね。ソロキャンプもありますけど、多くは家族と行くと思うんで。この業界の展示会でもプロモーションしたいと考えています。

飯田――ボードゲーム面白そうですよね。

成田――やっていてすごく面白いですよ。中身の構成考えたりとか、一つ一つ作るものがバラバラすぎて、もう本当に大変なんですよ。製造とか、デザイン作ったりとか。ロットも初回だと全然出ない。誰が買うんだ、みたいなことに対して異常なこだわりを持って作っていく過程って、結構芸術品を作ってる感覚に近いですね。

飯田――今のところビジネスとして成立しているんですか?

成田――今はまだ1発目を出しただけですが、結構売り上げは良いですよ。この後の予定は続々とあるのですけど、いかんせん今作っているのが僕しかいないので。

飯田――あっ、そうなんですね。

成田――僕の隙間時間だけでやっているので、なかなかペース上げられないです。でも、いきなりメンバー揃えてボードゲームやれと言っても、みんなポカンとすると思うんで、まず僕が苦しんで、これはいける!とわかってからチーム化してやろうかなと。

飯田――ボードゲームの話は面白いですね。いろいろお話聞かせていただきまして、ありがとうございました。また今後もよろしくお願いいたします。

成田――ありがとうございます。

成田 耕祐
株式会社ブシロード執行役員
株式会社ブシロードクリエイティブ代表取締役社長
株式会社ブシロードメディア代表取締役社長
新卒でメディアファクトリー(後にKADOKAWAに吸収合併)に入社。法人営業、商品企画、ライトノベル編集者等を経験し、2016年にブシロードクリエイティブを立ち上げ。2021年よりブシロードメディアの社長を兼務し、出版とMD事業の推進を行う。

飯田 雅実
株式会社電通テック
TOY MUSIC クリエーティブディレクター
ガチャブランド「パンダの穴」 クリエーティブディレクター
広告領域のクリエーティブ全般の企画・制作を行いながら、コンテンツビジネスの開発にも取り組んでいる。2013年にガチャブランド「パンダの穴」をタカラトミーアーツと立ち上げる。空港ガチャ「JAPANESE CAPSULE TOY GACHA」では多数広告賞を受賞。

「TOY MUSIC」プロジェクト参加企業
・株式会社ブシロードクリエイティブ
・株式会社電通テック
・株式会社電通ライブ
・株式会社GOCCO.

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Written by: BAE編集部

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