2020-10-12

機能性とデザイン性を兼ね備えた「東京シティフォント」が都市空間の課題を解決する

「らしさ」と視認性を両立するフォントの力
デザインやクリエーティブによるコミュニケーションが重要視され、商品や企業のブランディングツールとしてのフォント(書体)の役割や価値も拡大しています。最近では都市空間で求められる機能性とデザイン性を兼ね備えた「都市フォント」なども登場し、話題となっています。
表示するデバイスやモニターなども多様化する中、フォントの上手な活用は、どのようなテーマの実現や課題の解決に役立つのでしょうか。また、使い方にはどのようなコツがあるのでしょうか。
2020年7月に「東京シティフォント」をリリースした、タイププロジェクトの鈴木 功さんにお話を伺いました。
※タイププロジェクト、TPスカイ、濱明朝、金シャチフォント、東京シティフォント、都市フォントはタイププロジェクト株式会社の日本およびその他の国々における登録商標または商標です。


フォントは“自然なブランディング”を実現する

——ブランディングや情報伝達といったコミュニケーションが重要視され、イメージやメッセージを伝えるツールとしてのフォントの役割にも注目が集まっています。代表的なものとしてコーポレートフォントが挙げられますが、その活用にはどのようなメリットが期待できるでしょうか。

コーポレートフォントとは企業の“声”に相当するものだと考えています。今まで世界有数のグローバル企業のコーポレートフォントのデザインや選択に携わってきましたが、自社の声にふさわしいフォントの活用は、ユーザーから見た企業イメージに一貫性を与え、着実に信頼性を積み重ねます。

スターバックスコーヒージャパンは日本語表記に手書き風のニュアンスをわずかに感じさせる「AXIS Font」を採用。フォントを通じてユーザーに“語り掛ける”接点を増やす

独自のフォントは企業のアイデンティティを強化する力があり、ユーザーや外部に対してだけではなく、インターナルブランディングにも効果的です。
統一性のあるイメージは社員やスタッフのモチベーションに繋がりますし、デザイナーのコストも軽減できるなど、使い手側にもメリットがあるのです。
多言語での表記や伝えるべき情報の増加、スマホやサイネージ等での可読性の保持、新たなテクノロジーや表現への対応など、フォントの上手な選び方や使い分けによって解決できる課題は、ブランディング以外にもたくさんあります。

さくらインターネットは「TPスカイ」をカスタマイズした和文書体をコーポレートフォントとして使用。WEBサイト、封筒、名刺のほか、関連施設内のサイン等にも用いられる

——フォントをブランディングや情報整理に役立てる際のコツはあるでしょうか。

当たり前のことのようですが、表現するものの「らしさ」や、用途、スペース等に合った書体やバリエーションを選ぶこと、可読性や視認性を意識することは非常に重要です。例えば、ブランディングを中心に用いる際、フォントを通じて多様な顧客接点を繋ぎ、ブランド想起の機会を最大化するには、一度使い始めたフォントを長く、深く、広く使うことが薦められます。そうすることで、芯のある自然なブランディングに繋がるからです。フォントには、じわじわと漢方薬的な効果があると考えていますね。

媒体横断性と、デバイス等への表示形態の多様化を意識して用いることで、内外へのブランディングはもちろん、情報整理や可読性の向上といった効果が期待できる

ちなみに、コーポレートフォントなどをフルオーダーしたいけど、コスト面がクリアできそうにない、といった場合は、すでにあるフォントを組み合わせて使用したり、一部をカスタムすることで、求める条件や機能性、オリジナリティに近づけていく方法もあります。

タイププロジェクトの主要フォントである「AXIS Font」「TP明朝」「TPスカイ」だけでも非常に多くのファミリー(主に字幅や線の太さなどのバリエーション)を用意しています。様々なテーマや課題に対応できるフォントの開発や使い分けは、今後さらに求められてくるでしょう。

(左)小さなスペースに商品情報を表記する目的で開発された専用フォント。(右)パンフレットだけでなくデバイスのUIなどにも横断的に活用されるコーポレートフォント


情報が氾濫する都市の課題を解決するフォントの力

——フォントを氾濫する情報の整理に役立てるという課題において、特に街中で大きな効果を発揮する「東京シティフォント」「濱明朝」「金シャチフォント」というユニークな“都市フォント”を開発されていますね。どのようなテーマに基づくものでしょうか。

私たちが開発した“都市フォント”は、東京、横浜、名古屋という都市の文化や表情を反映してデザインした書体で、主にそれぞれの土地で利用されることで、都市のブランド価値を累積的に高めることを目指して開発したものです。

「東京シティフォント」はスマホやサイネージ、交通案内など現代の情報表示に適した設計。字幅にもバリエーションがあり、縦型の案内板や限られたスペースにもすっきり収まる

船のフォルムや港の風に着想を得て、横浜のおしゃれで歴史ある街並みを表現した「濱明朝」。名所ガイドや商店街、市営バスの表示、お土産のデザインなどに多数採用されている

シャチホコの“反り”や、城の破風の形状を反映。名古屋嬢の“巻き髪”なども想起させる、ゴージャスで華やかな「金シャチフォント」。名古屋のグッズやショッパーなどを彩る

——それぞれから、その街らしさが伝わってきます。開発のきっかけの一つになったという「都市が抱える課題解決」という目線について教えてください。

東京シティフォントの例で話しますと、私は人生の約半分を東京で暮らしていますが、以前から東京の公共交通機関の表示やサインシステムの文字をもっと魅力ある文字にしたいと考えていました。

——一昔前と比べても、一つの場所で伝えるべき情報やメッセージは増えましたし、デバイスの形式や見せ方や表現なども多様化しています。

そうですね。東京は世界でも有数の情報都市ですが、例えば、主要駅のバスターミナルにおいて、情報表示の書体やデザインがバラバラで読みにくく、目当てのバス停を探すのに時間がかかってしまった――、といった経験をしたことがある人は、少なくないのではないでしょうか。

横丁の飲み屋街であれば、看板やネオンサインの文字がバラバラでもそれが味になりますが、交通に関しては困ります。そこで、東京に必要な機能性に特化して、可読性、識別性、視認性を下げずに、情報を読みやすくきれいに収める、ということを課題として東京シティフォントを開発しました。

屋外、屋内と幅広い利用を想定して開発。同じフォントを複数の媒体で統一的に利用すれば、情報の種類やイメージがぱっと見で伝わる。見る者の美的感覚を満足させる効果も

特に、都市空間に増えつつあるデジタルサイネージや交通機関の案内表示などに必要な情報を収めるには、それまでの正方形に近い日本語フォントでは対応しにくい場合もあります。
そこで、東京シティフォントには「正体」のほか、「コンデンス」「コンプレス」という字幅の狭いバリエーションを開発して、場面に応じて適切な字幅を使い分けられるように考慮しました。

3つの字幅と5つのウェイトでのファミリー構成。ELは高精細スクリーン上での使用を想定して、風景や動画の中でも美しく映えるよう考慮されている

——インバウンドの増加にともなう多言語表記なども課題の一つでしょうか。

その通りです。ただ、「必要な情報を見やすく収める」という考え方のみでは、画一化の恐れがあります。街中のフォントを全てゴシック体に統一すればいい――、というわけでもありません。
読みやすさと同時に、日本独自の地域性や風土の豊かさといった魅力や多様性をどう大事に表現していくか、担保していくか、ということは、現代的な課題の一つですし、今後も重要視されていくテーマだと思います。「こういうイメージでありたい」という都市や地域の想いを反映させていくことも大切でしょう。
タイププロジェクトが開発した「TP国立公園明朝」。日本らしい情緒性や品格を表現しつつ、横線を太くする工夫などで可読性、視認性を高めている。遠距離からも読みやすい  (写真右)©Nippon Design Center, Inc.

——今までにご覧になった「都市×フォント」の中で、成功していると思われる事例はありますか。

都市フォントの開発を始めた際に目標とした具体例がロンドンにあります。 ロンドン地下鉄の「Johnston(ジョンストン)」というフォントは1916年に制作され、以後100年以上にわたって利用されて市民に愛されており、現代の街中にも自然と溶け込んでいますね。

ちなみに、イギリスのブリストル、ドイツのベルリン、イタリアのローマなどにも、サインシステムやコミュニケーションの用途でデザインされた都市フォントが存在します。

100年以上前にデザインされたサンセリフ体「Johnston」。写植への移行期と、WEB画面への表示等の拡張のために2度リデザインされた
横浜の観光地の案内板や、馬車道商店街のフラッグ、名刺等にも広く活用される「濱明朝」。人々に愛され、街並みに自然と馴染む。媒体や表示サイズに応じて横軸の太さの違うファミリーを使い分けることで、読みやすく、デザインの一貫性も保てる


テクノロジーの進化と普遍性に対応する

——フォントの役割や価値は、今後どのように変わっていくでしょうか。

都市構想の際や、街や地域ごと、システムやジャンルごとなどに、デザインやフォントを通じて、歴史やアイデンティティといった固有性や統一感などを表したい、というリクエストは今後もますます増えると思います。

ディスプレイやサイネージ、VRやAR等のテクノロジーに応じたフォントの開発の重要度も、さらに増していくでしょう。一つの書体の制作には何年もかかる場合もあるため、私たちも5年後、10年後にどんな書体が必要とされるかを常に研究しながら開発を進めています。

例えば、2017年にリリースした「TPスカイ」は、その名の表す通り、透明ディスプレイや空中ディスプレイなどの表示に用いることを想定して作りました。
ただ、デバイスごとに専用の書体を開発するというだけではなく、デバイスの状況や環境下に応じて最適なフォントに自動で切り替わるなど、テクノロジーの可変性に応じられる取り組みも求められてきそうです。

スクリーン上での表示に適した「TPスカイ」。コントラスト(明暗)、ウエイト(太さ)、字幅のバリエーションに富み、表示サイズや解像度に最適なフォントを選択しやすい

——クリエーターではない人たちがフォントを活用する機会や、フォントを使って何かをデザイン的に表現することも増えてきました。そのための役割も増えていくでしょうか。

そうですね。フォントに対するニーズやリテラシーは向上していますし、ドキュメントのデザインや見せ方などはどんどん洗練されていって欲しいと思います。

昨今のブランディングやクリエーティブの潮流を見ていると、スクラップ&ビルドの時代が過ぎて、目的のためにちゃんとあつらえたものに対する信頼や確実性の価値が再び評価され、「丁寧に作ったものを長く使って、共に成長していきたい」という想いが顕在化してきたように感じます。フォントの価値や役割はここに大きく関わっていくでしょう。

やはり、企業も都市も、「こうありたい」「こうなって欲しい」というイメージを持ち続けることは重要です。私たちも、それを担う素材としてのフォントを提供していきたいと考えています。

タイププロジェクト代表 タイプディレクター 鈴木 功(すずき・いさお)さん
フォントにはロゴタイプのような瞬発力や派手さはありませんが、長期的かつ横断的に活用することで、都市やブランドの魅力をじっくりと伝える効果が期待できます。氾濫する情報の可読性・判別性を高めたり、UI・UXの利便性や審美性を向上させるという点においても、フォントを中心としたデザインマネジメントの重要度はさらに高まっていくでしょう。
Written by: BAE編集部

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