2018-09-11

ミニマルな住まい「タイニーハウス」が映し出すインサイト

「物を持たない」の背景にある、最新テクノロジーの影響
近年、シェアリングサービスが注目を集めています。宿泊場所、車、スペース、服などさまざまなものが「シェア」の対象となる中で、ミニマリストをはじめとする「物を持たない」というライフスタイルが若者を中心に広がりつつありようです。

そのトレンドの一つとして挙げられるのが、アメリカ発祥の「タイニーハウス」という移動も可能な小型の住まい。最小限の所有物で、ミニマルな生活を志向する「タイニーハウス」から見えてくる、現代人のインサイトとは何でしょうか。住まいを中心とした暮らし方に関わるサイト「YADOKARI」を中心に、タイニーハウスをはじめとする「動産」を使った遊休地の利活用や、地方自治体と組んだまちづくり、イベント企画などを手がけるYADOKARI株式会社の相馬由季さんにお話を聞きました。


セカンドハウスではない新しい価値観のライフスタイル

――タイニーハウスの情報を発信する「TINYHOUSE ORCHESTRA」という専門サイトもやられていますね。御社が「タイニーハウス」に着目されたきっかけはなんだったのでしょうか。

相馬─元々、YADOKARIがスタートしたきっかけが、東日本大震災だったんです。共同代表取締役の2人が以前、IT企業で身を粉にして働いていた時に震災があり、一生懸命お金を稼いで高価な物や家を買って所有するということが本当の豊かさなのだろうか?と疑問に思いました。それで、海外で展開されている、タイニーハウスなどの移動する暮らし、小さな暮らしにこれからの住まい方や働き方、コミュニティの可能性を感じ、それらの事例を紹介する「未来住まい方会議」というウェブメディアを立ち上げました。

YADOKARI株式会社 プロデュース事業部 プロデューサー TINYHOUSE ORCHESTRA事業部 部長 相馬由季さん

――「タイニーハウス」は、文字通りに捉えると「小さな家」ということですが。例えば、プレハブ小屋やトレーラーハウスなどとは何が違うのでしょうか。

相馬─正直なところ、日本では「タイニーハウス」の厳密な定義はありませんが、私たちが提唱しているのは「20平米前後の大きさで、価格感は1000万円以内」というものです。また、タイニーハウスは固定式のものもあれば、移動式のものもあります。さらに、プレハブ小屋などと違うのは、「そこで生活すること」に特化した家であるということです。例えば、タイニーハウスの発祥地であるアメリカでは、実際にタイニーハウスを住居としている方も多くいます。


――タイニーハウスのインフラは、どうなっているんですか?

相馬─いくつか選択肢があって、上下水道が繋いであるタイニーハウスもあります。さらに管を手動で取り外せるなど様々な条件を満たすと、そのタイニーハウスは車両として認められます。あるいは、オフグリッド(送電系統とつながっていない状態の電力システム)にする。例えばコンポストトイレ(微生物の働きで排泄物を分解するトイレ)とか、キャンピングカーなどで使っているタンクを使うなどです。電気はソーラー発電で給電します。このあたりのインフラは、5年10年経ったら、今より高度な技術ができてオフグリッドの生活が実践しやすくなりそうですね。
タイニーハウスの内観。YADOKARI株式会社が運営する横浜市日ノ出町の「Tinys Yokohama Hinodecho」ではタイニーハウスに宿泊することができる


――最近ではスマートハウスなど、住居にIoT技術が取り入れられ、ますます便利になってきていますね

相馬─そうですね。タイニーハウスは小さく物が少ない空間だからこそ、IoTは導入しやすいと思いますし、そういう意味ではIoTと住まいの新しい実験場としても最適でしょう。自動運転の実用化などとも合わせて、将来的には超ハイテクなタイニーハウスも出てくるかもしれません。


一人ひとりの考える豊かさに対応できる暮らし方

――アメリカでタイニーハウスが生まれたきっかけは何だったのでしょうか?

相馬─20世紀の終わりに、ジェイ・シェファーという男性が普通の家に車輪を付けてしまおうという発想で作ったのがきっかけでした。それがアメリカの雑誌で権威ある賞をとって存在が知られたのですが、普及のより大きなきっかけとなったのはリーマンショックでした。アメリカの家は特に、家が大きくて、庭がついて、プールがあってというのが豊かさの象徴とされてきたのですが、ちょっとした社会の変化で崩れてしまうものに豊かさってあるんだろうかと想う人が増えてきて、大きな借金を抱えなくても購入でき、最低限の「物」と一緒に暮らせるタイニーハウスが注目されるようになりました。今では、「タイニーハウスビレッジ」と呼ばれるタイニーハウスが集まるコミュニティができるなど、ますます実践者が増えてきています。

――アメリカではシェアリング文化や、ノームコアといったシンプルなライフスタイルが日本に先駆けて流行っていたように感じます。そういった背景も、タイニーハウスの流行にはありそうですね。

相馬─そうだと思いますね。
タイニーハウスは自動車で牽引できるようになっているので場所に縛られず、その時の気持ちに合わせて移動することが可能


――日本ではどれほど普及してきているのでしょうか。

相馬─「タイニーハウス」という言葉自体が知られてきたのもここ1年くらいなので、まだまだ発展途上ですね。アメリカではメーカーがあったり、自作する際の図面やキットが手軽に入手できたりと環境が整っているのですが、日本でタイニーハウスを手に入れるのは、難易度が高いのが現状です。ホテルや店舗に使用したいといった商業用のニーズが主ですが、最近では日本でも自宅として検討される方も増えてきています。タイニーハウス以前に、日本では「小屋ブーム」というものがありましたが、あくまでメインの住居に対する「隠れ家的」な文脈でした。しかし最近では「住まい」の延長として、ハイエースのような大きなバンをリノベーションして移動しながら仕事をしたり、都市と地方の二拠点生活を送る人もいて、シンプルかつ場所にとらわれないタイニーハウス的なライフスタイルが人々に取り入れられている傾向を感じます。

タイニーハウスについて語り合う会の様子

――実際に、日本ではどのような層がタイニーハウスに興味を示しているのでしょうか。

相馬─私は毎月、「タイニーハウスについて語りあう会」というイベントを開催しているのですが、そこにいらっしゃる方だと、若い方は20代前半から上だと70歳近い方もいらっしゃいます。平均的には30代の方が多いですね。上場企業で働いているとか、バリバリ働いている方も多くて、今の仕事も面白くて便利に暮らしているけど、自分の理想の暮らしを探してみたいと模索して来られる方も多いですね。


テクノロジーが「自分らしい生活」を実現可能に

――先ほど、アメリカではタイニーハウスのコミュニティがあるというお話がありました。そういった家に住む人々は、一人でのんびり暮らしたいわけではなく、やはり交流も求めているのでしょうか。


相馬
─物がない小さな家に住むとなると、山の上に住む仙人の生活をイメージしてしまうかもしれませんが、暮らし方や生き方を徹底的に見つめ直して、人との距離や仕事のあり方、お金との距離感を分析して実践していくと、逆に人との距離を大事にするようになりますよね。決して一人で住みたい訳ではなく、ゆるく、うまく繋がっていきたい。あとは、タイニーハウスって物が限られてくるので、お金を媒介しないで助け合うような動きが自然と生まれたりします。例えば、うちにはシャワーはないので、お隣さんのシャワーを借りる。その代わりに、何かこちらからも提供するといった。

――持っていないからこそ人と助け合う。家は小さい分、外に開かれているという感じなのでしょうか。

相馬─そうですね。リーマンショックや東日本大震災でみんなが気づいたのは、最終的に残るのはお金ではなくて、人との関係性とかそういった目に見えないものというか、そこにこそ豊かさという価値があるということ。それに気づいたからこそ、タイニーハウスを実践しているんだと思います。

――最近は日本でもシェア文化が浸透しつつあるので、タイニーハウスが受け入れられる余地はありそうですね。ミニマリストという、少ない所有物で生活をしようとする人々も出てきています。

相馬─そうですね。一方で、無理をしてはいけないと思うんですよ。物を減らすのも、物が少ない人が勝ちというわけではないですし、自分に合った量を把握することが一番大事で。暮らし方に関しても、オフグリッドを極めたい人は極めればいいですし、最新のテクノロジーなど、便利なものを取り入れて合理的に暮らすというのも一つの選択ですし。自分にあった暮らし方を、小さな暮らし方を通して把握する、実践するというのが大事かと思います。

タイニーハウスに象徴されるような、物を持たないライフスタイルが注目されるのは、決して物を持ちたくないわけではなく、便利な暮らしや豊かな暮らしを目指すために、便利なツールを駆使して、自分の好きな暮らし方を実現できるようになった時代の一側面なのかもしれません。

例えば、服や車を手軽にシェアできるようになったのも、インターネットを通じたシェアリングサービスが利用できるようになったからですし、生活に関わるあらゆる便利な道具が手のひらに収まってどこにでも持ち運べるスマートフォンに集約されているからこそ、私たちはあらゆる「所有物」から解放されるようになったとも言えるでしょう。

住まいに限らず、あらゆる消費行動において人々がそれぞれにとって理想的なサイズ感の生活を模索する、という傾向はこれからも続いていきそうです。また、その流れにはやはり、テクノロジーの発展が大きく寄与していることも見逃せません。
Written by: BAE編集部

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