2022-12-23

ボードゲームはジャケ買いの時代!? 鍵はパッと見で買わせるクリエーティブ

コロナ禍で拡大した70億円のカジュアルボードゲーム市場
近年、テレビや動画配信サイトなどのメディアを通じて、認知度の増しているカジュアルボードゲーム。かつては一部の愛好家たちによって楽しまれていたマニアックな商品が書店や雑貨屋で並ぶようになり、そのユーザー層も若者からファミリー層までと幅広く、大きな支持を獲得しています。

ブシロードクリエイティブと電通プロモーションプラスの共同制作ブランド「TERIYAKI GAMESマヨ」から、2022年12月12日に発売された2種類のアナログゲーム「レロレロ酒場」と「トマトラ転生」。これらの作品を企画した電通プロモーションプラスの森岡祐二さんと渡辺香志さん、ブシロードクリエイティブ社長の成田耕祐さんにご登場いただき、作り手としての視点から、カジュアルボードゲーム市場の可能性と、クリエーティブのヒントについて伺いました。

【座談会メンバー】
〇ブシロードクリエイティブ 社長 成田耕祐
〇株式会社通プロモーションプラス コピーライター 森岡祐二
〇株式会社通プロモーションプラス 営業兼デジタルディレクター 渡辺香志


ボードゲームはカプセルトイの延長線上にある

――そもそもブシロードクリエイティブ様がカジュアルボードゲームのブランドを立ち上げた理由はなんだったのでしょうか。

成田――ブシロードクリエイティブには出版部門がありまして、書店向けの商材を作っているのですが、本以外にも何か書店に置けるものはないかと考えたのが第一のきっかけでした。

左から株式会社電通プロモーションプラス 森岡祐二、同 渡辺香志、株式会社ブシロードクリエイティブ 成田耕祐

――それが、ボードゲームだったと。

成田――そうですね。コロナ禍になって、自宅で家族とボードゲームで遊ぶ機会があったんですけど、これが面白くて。僕にとってボードゲームというのは人生ゲームやモノポリーのイメージが強かったんですけど、ハマっていくうちに、大喜利的に楽しめる1,000円台のカジュアルボードゲームが増えていて、SNSで面白おかしく若者たちに取り上げられている、ということに気づきました。市場規模も拡大していて、末端価格で70億円くらいある。国内のゲームで、そのぐらいの規模感って、意外にあるなって思ったんです。



――カプセルトイや、キャラクターグッズの製造販売を手がけてきたブシロードクリエイティブさんにとって、ボードゲーム業界参入は冒険ではありませんでしたか?

成田――確かに私たちがマニア向けの本格派ボードゲームを作るのは難しいですが、雑貨屋さんに置かれるようなカジュアルボードゲームは、弊社がビジネスとして取り組んできたカプセルトイの延長線上にあるという意識があり、一つやってみようということになったんです。

――延長線上ですか?

成田――カプセルトイは、キャッチーなテーマやデザインで「いかに通りすがりの人を魅了して、マシンの前で足を止めてもらうか」が勝負の世界です。そういう意味では、ロフトさんや東急ハンズさん、ドン・キホーテさんといったお店に置かれるようなボードゲームも、専門店のように試遊することはできないので、ジャケ買いしてもらえるように、タイトルや、パッケージのデザインにも、一瞬で人を引き寄せるクリエーティブが求められます。


一目で興味が引かれるカプセルトイのPOP

――パッと見で「面白そう」と感じてもらわなければいけない?

成田――はい。なので、私たちがやろうとしていることも「カジュアルカードゲーム」と言いますか、値段的にも買いやすいもので、最終的にコンビニのような、マスな販路で売っていても違和感ないものを作りたいというのが「TERIYAKI GAMES」のコンセプトですね。


TERIYAKI GAMESのロゴ。海外のアナログゲーム市場は大きく、海外へのローカライズも視野に入れて、この名前にしたのだとか

――カジュアルボードゲームのユーザー層はどういった人たちが多いのでしょうか。

成田――本当に老若男女、さまざまです。東京では年2回東京ビッグサイトで開催されている国内最大級のアナログゲーム即売会、ゲームマーケット(2022年秋開催では2日間で延べ21,000人が来場)に私たちも出展して、「トマトラ転生」と「レロレロ酒場」を先行販売したのですが、お客さんにはマニアの方もいれば、10代の若い人、カップル、ファミリー層も多かったのが印象的でした。


――それだけボードゲームのユーザー層が広がっているのは、コロナ禍で「巣ごもり需要」が生まれているというのが影響しているのでしょうか。

成田――そうですね。コロナ禍以降、テレビのバラエティ番組や情報番組でもカジュアルボードゲームが取り上げられる機会も増えましたし、メディアの影響も結構あるかなと思っています。

――ゲームマーケットでの「TERIYAKI GAMES」への反響はいかがでしたか?

成田――ゲームマーケットのお客さんって熱量が高くて、好きな人は朝から夕方までずっと会場にいて、すべてのブースで試遊しながら商品を吟味しているんですよ。「TERIYAKI GAMES」はアナログゲームの世界ではまだ新参者なんですけど、驚くことにマニアの人たちはそんな私たちのブースにも足を運んでくれました。つまりこれは、ゲームが面白ければ、コアなお客さんも、カジュアルなお客さんも遊んでくれるということ。「TERIYAKI GAMES」はカジュアル層に向けたブランドではありますが、コア層にもちゃんと向き合わなければいけないと思いました。


――どういうことでしょうか。

成田
――ブームになる前から消費を支えているボードゲーム好きの人たちにしっかりと商品を届ける。その人たちが友だちと遊んだ時の「よかった」「面白かった」という評価がSNSで拡散されることで、商品の在庫が動く。そのバズが売り上げを動かすエネルギー源になっていることは間違いないですし、雑貨屋さんでジャケ買いするような客層に届けるためにも、商品のテーマや価格帯をプロモーションするなど、SNS戦略は大事かなと思っています。


売れるゲームは140文字で商品内容を説明できる

――続いて、「TERIYAKI GAMES」の姉妹ブランド「TERIYAKI GAMESマヨ」から販売されることになった「レロレロ酒場」と「トマトラ転生」について、企画者の方からそれぞれ解説していただけますか?

森岡――「レロレロ酒場」は、居酒屋で「ラリルレロ」しか喋れないくらい酔っぱらった客が、何を注文しているのかを当てるゲームです。言うなれば「酔っぱらいカルタ」ですね。例えば、酔っぱらい役が「ロルリロリ」(もつ煮込み)と注文札を読んだら、ほかのメンバーはテーブルに並べられたメニュー札から正解の「もつ煮込み」を推測し、いち早く札を取るといった感じです。メニュー札に書かれた値段がそのまま点数になっていて、点数を一番集めた人が勝ちになります。



――シンプルですけど、奥深そうですね。どのように企画したのでしょうか?

森岡――僕自身、アナログゲームが好きで時々遊ぶんですけど、色んなゲームを見てみると、3つポイントがあるのではと思ったんです。その1つ目が、シンプルであること。新しいゲームをやる時、まずルールを自分で理解して、さらにそれを仲間に素早く説明しないといけない。なので、幅広い人に遊んでもらうことを考えると、極力参加ハードルの低いゲームがいいなと思いました。

2つ目は、制約があることかなと。「だるまさんが転んだ」だったら、鬼が振り向いていない時しか動けないとか、「サッカー」だと手が使えないとか、そういうユニークな制約がゲームを面白くする要素になると思うので、その制約をどうしようか?と考えました。

3つ目は、ゲームの舞台設定があるといいんだろうなと思いました。「レロレロ酒場」でいえば「居酒屋」ですが、舞台設定があるとストーリーが作りやすいですし、ストーリーがあるとゲームをやっている人もRPG感覚で気分が盛り上がりますよね。

――舞台設定やストーリーがあると、ゲームの世界に没入しやすくなりますね。

森岡――そうですね。で、この3つは押さえた方がいいんじゃないか?という仮説のもとで企画をはじめたんですが、まぁ、さっぱりうまくいかなくて(笑)。でもある時、ファミレスでビールを飲みながらメニューを見ていたとき、「ラリルレロ」で読まなければいけないルールをふと思いついて……。試しにお店のメニューで、読みあげてみたら意外とシュールで面白かったので、イケるかもと思いました。



――インパクトのある商品名やパッケージはどのように考えたんですか?

森岡――「ジャケ買い」という成田さんの話もありましたが、パッケージは広告・販促の重要な要素ですよね。「レロレロ酒場」は短く語呂も悪くないですし、「居酒屋」や「酔っぱらい」という設定もすぐ伝わるので、デザインはネーミング(文字)を主役に進めてもらうよう依頼しました。色は、一見すると控えめな白ベースで、文字も崩れていますが、これは売り場での差別化を意識しています。アナログゲームの店頭を見ると、結構カラフルで堅実なデザインが多いので、そことのズレを狙ったわけです。ただ、下手にやると素人感が出てきてしまうので「色に頼らず、文字や配置を崩しつつ、でもクオリティ・世界観は保ちたい」という、難題にこたえてくれたデザイナーには本当に感謝しています。



――ありがとうございます。続いて、「トマトラ転生」についてお話を伺えますか。

渡辺――はい。「輪廻転生」という言葉があると思うんですけど、生まれ変わりをテーマにしたゲームです。8種類のカードには「トマト」「トラ」「ラッカセイ」「インコ」などのイラストが描かれていて、勘のいい方は気づくと思うんですけど、しりとりになっているんですね。このしりとりは一巡するようになっていて、プレイヤーが手持ちの札をトランプゲームの「スピード」のようにパパッと重ねていくというのがゲームの大枠です。


――「輪廻転生」というテーマが面白いですよね。

渡辺――重い意味ではなくて、私、普段から「死生観」について考えることが多くて、ボードゲームの企画を考えるということになった時に、アイデアとして結びついたという感じですね。あと個人的に「スピード」が好きで、2021年の年末、実家に帰った時に両親と「おばけキャッチ」という「スピード」に似たゲームで遊んだら白熱して。久しぶりに父と母と心が通じたなと感じたんです(笑)。


――世代を超えて楽しめたということでしょうか。

渡辺――そうですね。だから「トマトラ転生」も、子どもが見ても楽しくて触りたくなるようなデザインにしたいね、と一緒にやっているデザイナーと話し合いながら作りました。なるべくわかりやすいようにシンプルなデザインを目指して、カードの図案も道路標識みたいに記号的なグラフィックにしました。



――成田さんは、これらの企画を提案された時、どのように感じられましたか?

成田――マス向けのカジュアルボードゲームは、僕ぐらいのビギナーにも買ってもらわないと売れないと思っているんですね。ですからゲーム自体の面白さは大前提なんですけど、ゲームで遊ぶ前の印象が大事だと思っていて、そういう意味では、どちらのゲームも最初からいい企画だなと感じました。例えば「レロレロ酒場」は、説明を聞いただけで、世界観がイメージできたし、これでYouTuberやテレビタレントが遊んでたら絶対面白いだろうなって、すぐ想像がついたんです。


森岡
――ありがとうございます(笑)。今回のゲーム作りでは、ネーミング・デザインなど広告的な「魅せ方の技術」を、うまく横展開できた部分もあったと思います。とはいえ、主役はやはりゲーム自身なので、ゲームとして成立しているか?おもしろいか?など、夜な夜な不安でしたね。なので、企画プレゼンで成田社長に大笑いしていただいた時は少し安心しましたし、イベントでの先行販売分が完売したのは純粋に嬉しかったです。


成田
――何個か作ってみて思うのが、売れるカジュアルボードゲームって5秒ぐらいで商品説明ができたり、Twitterの140文字で面白さを表現できたりするんですよね。ゲームマーケットみたいに試遊できる場は別ですけど、大手流通で売る商品の場合は、サクッとゲーム内容を伝えられないとダメなんですよ。

――「トマトラ転生」はどんな印象でしたか?

成田――「トマトラ転生」は実際にプレイしてみると非常に遊びごたえのあるゲームなんですけど、しりとりゲームや、「スピード」に似ている点は、間口が広くて競合の多いジャンルだと思ったんですよ。でも、イラストのトーンとかテイストとかが今っぽくてデザイン性が高い。実際にゲームマーケットで先行販売した時も、なんのゲームかわからないけどかわいいから買ってみようという人が結構いて、これは初めてジャケ買いされるアイテムを作れるかもしれないと思いました。ボードゲーム好きがそんな基準で買っていいのか、と思ったんですけど(笑)。


渡辺
――私もボードゲーム好きなので、デザインで買う気持ちはわかります。ボードゲーム好きって、本でいう「積読(つんどく)」みたいに、買ったけど遊んでない「積みゲー」が家にあるんですよ(笑)。部屋に積むことを考えた時に、つい置きたくなる、なんだったら飾りたくなるデザインだというのは大事かもしれませんね。


5年、10年、愛されるゲームを作りたい

――最後に、成田さんからこれからのボードゲーム業界の展開について、どのようにお考えか、教えていただけますか。

成田――これまで老舗メーカーさんが引っ張ってくれていたボードゲーム業界に出版社さんなどまったく文脈の違う企業も参入してきて、今が一番カオスな状況ではあると思うんですね。その中で最終的に勝ち残るためには、戦略的なものづくり、巧みな原価管理、販路開拓が必要になってくると思います。

一方で私たちが目指しているのは、業界で覇権を握ることではなく、5年、10年と長く愛されるものづくりをすること。ボードゲームって絵本のように発売されてから何年も重版されて売れ続ける商材で、そういう商売を私たちはこれまでやったことがないんですよね。自分の子どもたちが大きくなった時とか、もしかしたら孫の代まで愛される作品を一つ作りたい、そういう思いでこれからも取り組んでいきたいと思います。


数ある競合の中から、瞬発力高くプロダクトの魅力を伝え、購入を促す。カジュアルボードゲームの企画には、今の時代を反映したクリエーティブやマーケティングのヒントが詰まっているのかもしれません。
今回ご紹介したブランド「TERIYAKI GAMESマヨ」からは、今後とも続々と商品がリリースされる予定。ぜひ注目してみてください。


成田 耕祐
株式会社ブシロード執行役員
株式会社ブシロードクリエイティブ代表取締役社長
新卒でメディアファクトリー(後にKADOKAWAに吸収合併)に入社。法人営業、商品企画、ライトノベル編集者等を経験し、2016年にブシロードクリエイティブを立ち上げ。出版とMD事業の推進を行う。

森岡 祐二
株式会社電通プロモーションプラス コピーライター
コピーライティングを軸としたコミュニケーションプランニングに従事。
また近年は企業各社との協業で、玩具・食品・雑貨・絵本など商品企画も多数担当。

渡辺 香志
株式会社電通プロモーションプラス 営業兼デジタルディレクター
2018年電通テック入社。消費財を中心としたクライアント営業業務に従事。得意領域はオウンドメディアの制作運用。趣味は友人とボードゲームカフェに行くこと。

※「TERIYAKI GAMESマヨ」とは
株式会社ブシロードクリエイティブと株式会社電通プロモーションプラスが共同制作したボードゲームブランド。「TERIYAKI GAMES」の姉妹ブランドとして2022年10月に誕生。
電通プロモーションプラスが企画・デザインの考案を担当。ブシロードクリエイティブがパッケージとして制作・販売・流通を行う。

Written by: BAE編集部

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