2018-08-09

移動空間を活用した新しい「サービス」の形

インバウンド需要にもつながる日本のエンタメタクシー
自社を宣伝したいと考えたとき、効果を最大化する方法にはさまざまな方法があります。そのなかで、神奈川、東京、埼玉に営業所を持ち、タクシー事業を展開する「三和交通株式会社」は、移動サービスをコンテンツ化することで、宣伝効果を生み出し、認知向上と集客を伸ばすことに成功しました。

「プロモーション目的でサービスを開発している」と語る同社の代表取締役社長 吉川永一さんに「サービスをコンテンツ化することで生まれるメリット、効果」についてお話を聞きました。


プロモーション視点で生まれた「タートルタクシー」

三和交通株式会社 代表取締役社長 吉川永一さん

――三和交通は国内10位の規模を誇るタクシー会社でありながら、ユーモアあふれるサービスをラインナップしています。運転手がSP風に出迎えてくれる「SP風タクシー」や、最新の「忍者でタクシー」など、他にないサービスを提供している理由を教えてください。

吉川─そもそものきっかけは「新卒の学生に自社をアピールしたい」と考えたことがすべての始まりです。あるとき、「広告賞のカンヌライオンズで賞をとった企業は翌年の志望者が増える」と聞き、何か新しいアイデアでプロモーションを展開してみようと考えました。

そこでまず、社内のドライバーたちや社員、関係者など、広くヒアリングを行ったところ、「タクシーにゆっくり走ってほしいときもある」というニーズがあることがわかりました。タクシーを利用される方のなかには、車酔いしやすい人もいますし、急発進・急ブレーキが苦手な人もいます。しかしそれを「口では言いづらい」と口を揃えて言うんです。そうして生まれたのが、「2014年度グッドデザイン賞&グッドデザイン・ベスト100」を受賞した『タートルタクシー』です。


吉川─仕組みは非常にシンプルで、車内に設置されたボタンを押すと、「乗務員にゆっくり走行してほしい」というメッセージが伝わるようになっています。車の燃費もよくなりますし、CO2の排出も抑えることができ、地球にも優しいタクシーとして、グッドデザイン賞の特別賞「未来づくりデザイン賞」を受賞することができました。

カンヌライオンズは受賞できなかったのですが、その理由は、海外の方からすると、「口では言いづらい」という日本的な察し合いの文化が共感しづらかったようです。しかし日本人ならではの“思いやり”を形にできたことは、非常に大きな意義のある取り組みだったと思っています。

以降、さまざまな取り組みを始めましたから、「タートルタクシー」は原点とも言えますね。

――賞を受賞したこともあり、「タートルタクシー」は多くのメディアでも取り上げられましたね。

吉川─はい。その結果、例年5人前後だった入社志望者が過去最高の100人を記録しました。またメディアにも露出したことで、自社の宣伝効果も大きなものとなりました。以来、「プロモーション活動の一環としてのサービス開発」という視点も取り入れ、多種多様なサービスを開発しています。


サービスのエンターテイメント化

――タートルタクシーのように、“乗客に優しい”ものだと、妊婦さんのための「陣痛119番」やペット可の「ペットタクシー」などがあります。一転、ユーモアあふれる「心霊スポット巡礼ツアー」といったものもあるのが非常に面白いなと感じました。

吉川─ありがとうございます。「心霊スポット巡礼ツアー」は2015年から毎年行っているものなのですが、すぐに予約が埋まってしまうほどの人気企画です。

その名の通り、各地の心霊スポットをタクシーで巡るツアー。今年は6月末に参加者の募集を開始したところ、1000件以上の申し込みがあったそう

吉川
─そもそもは私の発案なんですが、怖い話にはよくタクシーが登場しますよね。「心霊×タクシー」の親和性の高さに着目し、一度試しに実施してみたところ、大きな反響があり、毎年継続することになりました。

「心霊スポット巡礼ツアー」は、テレビで取り上げてもらう機会も多く、現在では全国から問い合わせが来るほどです。利用者は20〜30代が中心で、twitterなどで情報を拡散してくれた効果もあり、若い世代の方への認知向上にもつながったように思います。このサービスは、ただ単に心霊スポットを巡るだけでなく、移動時間はドライバーがスポットのストーリーや説明をしたりと、移動空間も含めてコンテンツ化しています。

ただ、あくまで「宣伝活動の一環」として行っているツアーですから、弊社としての利益はほとんどありません(笑)。それでも喜んでくださるお客様がいらっしゃることが、とてもうれしいですね。

ちなみに昨年ですと、他のサービスも含め、テレビや雑誌、メディアなどの露出を広告換算したところ、「5億円」近い金額になったことがわかっています。どのサービスも利益に直結しませんが、費用対効果は抜群と言えると思います。

――このような話題になるコンテンツはどのようにして生まれているのですか?

吉川─決してロジカルに考えているわけではなく、「こんなタクシーがあったら面白いんじゃないかな」と、行き当たりばったりなケースが多いです(苦笑)。とはいえ、“移動時間をお客様にとって快適なものにしたい、楽しいものにしたい”という思いは持っています。それがサービスのエンタメ化につながった部分はあります。

他にこだわっている点としては、「サービス名だけで内容がわかること。語呂がいいこと」「作りこんだサイトにする」ということは大切にしています。というのも、メディアやSNSを通じて拡散されることが多いので、導線を意識した作りにしています。検索されやすい「ネーミング」であること、そして、そのプラットフォームであるWebサイトをしっかり作り込むことで、“真面目に本気で提供している”ことを伝えることができ、お客様に受け入れられると考えています。

タクシーの窓から的を狙うゲームイベントは「タクシー流鏑馬(やぶさめ)」ですし、乗務員が忍者の格好をして行う送迎サービスは「忍者でタクシー」と、どちらも非常にキャッチーであることを重視しました。

ちなみに「忍者でタクシー」に関しては、インバウンド需要も見据えています。日本ならではのサービスということで、楽しんでいただきたいです。

左・黒子のタクシー(利用イメージ)、右・忍者でタクシー(利用イメージ)


人の数だけニーズが存在する

――海外のお客さまからの関心も高いと聞きました。

吉川─「忍者でタクシー」は、インバウンドのお客様から大好評でした。「黒子のタクシー」は、海外旅行者向けの雑誌にも紹介されるなど、国内だけでなく、国外からも反響がありました。

移動時間も日本らしさを体験できるエンターテイメントとして捉えているようです。SNSでの拡散もあり、口コミ効果で広がっています。予約に関しては、空港等の訪日外国人向けのインフォメーションスポットや、旅行案内本で広告を出し、そこからWebサイトに誘導する導線をつくっています。Webサイトでは、サービスを4コマ漫画のように、画像で分かりやすくし、英語表記も付けています。
移動のためのタクシー予約ではなく、エンターテイメントを選ぶような感じでタクシーを予約してもらえるようにしました。

――海外と国内のお客様でニーズの違いはありますか?

吉川─日本では、乗務員がSPに扮する「SP風タクシー」が人気です。
利用者の方からは、“誰かに守られたいと思った”と利用動機を伺ったことがあります。海外の方には、「忍者でタクシー」などわかりやすい日本らしいコンテンツが人気でした。やはり人の数だけニーズが存在することを、新しいサービスを提供するたびに実感します。


――忍者や黒子の扮装をしたり、お菓子を配布したり、三和交通の乗務員の方たちは、業務の幅が広いですね。

吉川─はい。ちなみに乗務員の扮装は、予約時に“オプション”という形で選択できるようにしているのですが、ただのコスプレにならないよう、独自の研修を設け、リアリティにもこだわっています。そうした弊社の姿勢を、社員たちも楽しんでくれているからこそ、、社員の満足度も上がり、お客様に愛されるタクシー会社として存在できているのだと思います。

またホームページ上では、「実録!タクシードライバーの休日」というブログコンテンツをお届けしているのですが、これも社員たちが楽しんで更新してくれています。三和交通の乗務員は一人ひとりが広報的な役割を担っているとも言えるかもしれません。


移動時間をコンテンツ化する価値

――三和交通が行なっていることは、「サービスのコンテンツ化」です。その価値について、どう考えていますか?

吉川─私個人の感想としては、ジャンルを問わず、多くの企業がトライしてみるべきだと思います。やったことは確実に自社の財産になりますから。

これまでは、タクシーはとにかく早く目的地に着くことだけを求められていると思い込んでいましたが、タートルタクシーをきかっけに、お客様のニーズは多種多様であり、そこが差別化できるポイントだと気づきました。
それをきっかけに、少ないニーズにも対応できるサービスを開発してきました。

現代は、面白い取り組みはSNSなどでも拡散しやすい土壌がありますし、何より若者たちはそうした施策に対して好意的に捉え、興味を抱いてくれます。弊社にここ数年、多くの志望者が集まってくれているのは、独自性の高いサービスを多く打ち出し、その姿勢に共感してくれているからだと思います。

お客様の多様なニーズにこだわり続けた結果、売上額は現在、神奈川県でナンバーワンになっています。

体験価値という言葉を良く聞きますが、タクシーなどの移動手段においても同じです。短い移動時間でも楽しいと思えることは、運転手、お客様、双方にとって良いことですよね。
今後も多種多様なニーズに応えるべく、三和交通は新しい取り組みを続け、これからも目の離せないタクシー会社であり続けたいですね。

“目的地までお客様を届ける”という移動サービスを、移動時間と空間をどう提供するのか、という読み解きでサービスをエンターテインメント化した「三和交通」。
「タクシーによる移動」という時間のなかにも、ユーザー視点で見れば、実はさまざまなニーズが存在しています。個々の顧客のニーズに応え、選択できるようにする。そうした細やかな配慮が、差別化につながり、選ばれるサービスを生むのではないでしょうか。
Written by: BAE編集部

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