2021-03-24

事業課題から寄り添うクリエーティブ

スイッチするクリエーティブ 第2回 バニラ・エア株式会社
電通テックでは、アイデアとデザインによって、感動や行動の誘発・変容・習慣化を促す、『スイッチするクリエーティブ』を掲げています。この連載では成果をあげたプロジェクトを起点とし、その価値に迫っていきます。第2回は、2019年にPeach Aviation株式会社と統合したバニラ・エア株式会社の事例となります。当時バニラエア社員だった小宮源太さんの協力を得て、プロジェクトに携わった電通テック社員と座談会を行いました。

【座談会メンバー】
○Peach Aviation株式会社 カスタマー・ブランド&コミュニケーション部 シニアマネージャー 小宮源太氏
○株式会社電通テック コピーライター/プランナー 久我佳太
○株式会社電通テック アートディレクター 川原田俊
○株式会社電通テック クリエーティブプロデューサー 水野里美

バニラエアは、ANAグループの格安航空会社(LCC)として2013年初就航後、札幌、沖縄、台北等の観光・リゾート便を中心に運航。2018年に、ANAグループのPeach Aviationと、2019年度末をめどに統合することが決定。そこでスタートしたのが、ラストフライトに向けた、今回ご紹介するプロジェクトです。
プロジェクトの目的は、統合までの残り少ない期間、これまで以上にバニラエアに搭乗してもらい、そして統合後も継続してPeachを利用してもらうこと。もう1つは、最後まで誇りを持って業務にあたるバニラエア社員の士気をより高めること。この簡単ではない二大課題を短期で解決することが、プロジェクトの成功に必要な両翼でした。

このプロジェクトでは2つのキャンペーンが実施されました。
※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。
左:◎最後まで全力運航中!「バニラエア Forever!!」
統合まで残り半年。250人超のバニラエア社員が参加したキャンペーン。最後にかける社員の思いをポスター、トレーディングカード、ウェブサイト、動画等を通じて発信した。

右:◎みんなのメモリーが、メロディーになる!「LALALA LAST FLIGHT」
ラストフライト当日に照準を合わせたキャンペーン。ブレイクビーツユニットのHIFANAの協力を得て、オリジナル音楽コンテンツを作成。格納庫でのイベント、ラストフライト当日の搭乗客の出迎えなどを行った。


社員たちの熱い想いをお客様に届けたい

オンラインで対談を実施。
上段左から:Peach Aviation 小宮源太氏、電通テック 川原田俊 / 下段:電通テック 久我佳太、水野里美

——バニラエアと電通テックが初めてご一緒したのは、奄美大島線の搭乗・集客促進企画のときでしたね。

小宮――あの時点で翌年の統合が決まっていました。即効性のある尖ったクリエーティブで確実に注目され、キャンペーン企画では、実際にお客様に奄美大島に行っていただくための実効性の高い企画が必要だと考え、実施につながりました。


水野――面白くていいものを予算内でどこまでできるか、クリエーティブプロデューサーとしてチャレンジしました。みんなでいいものを作っていこうというのが、このチームスタートでした。


——この奄美大島の施策から、今回の取り上げる「バニラエア Forever‼」のプロジェクトへとつながっていくのですが、具体的に、当時小宮さんが大事にされたポイントなどはありますか?

小宮――大事にしたポイントは大きく2つ。1つは、バニラエアを愛してくれたお客様に最後までご利用いただくのはもちろん、統合後もPeachに継続して搭乗いただけるか。「バニラエアは最後まですごかった」「Peachと一緒になることでより期待できそう」という思いを、お客様に感じていただくことです。そして2つめは、社員たちの最後にかける熱量を受け止められるような受け皿をこのキャンペーンでつくること。毎日職場を共にする仲間たちの姿をそばで見ていたので、社員たちみんなの熱い想いをどうすればお客様に届けることができるのか、たくさん考えましたし、電通テックさんともたくさん議論を重ねました。

久我――熱い想いを持った社員の皆さんを主役にすることで、統合をポジティブなニュースとして伝えたい。小宮さんの目指すゴールを明確にお聞きできたことで、「最後まで全力運航中!バニラエアForever!!」の企画は生まれました。どんな企画がいいのか、小宮さんとは何度もデイスカッションさせていただいて、この企画に行き着きましたね。

小宮――「バニラエアForever!!」を一緒に組み立てるのは、企画当初からワクワクしました。電通テックさんは、予算配分から企画、実際のデザイン、アウトプットに至るまで一貫して対応できるので、バニラエアと電通テックが1つのチームとして、一緒にゴールに向かえる体制ができたと思います。空港での撮影はいくつもハードルがありましたが、たくさんのバニラエアスタッフに協力してもらいながら、この企画を実現したいという強い想いがあったので、乗り越えることができました。


ブランドへの共感を生む252人のバニラエア愛の可視化

――重要だったのがゴールの共有ということですね。

小宮――いろいろな側面からのゴールがあって、お客様にはこういう気持ちになってほしい、社員にはバニラエアへの思いをより高めながら明るく働いてラストフライトを迎えてほしい。そういうことは明確に設定しました。

久我――ゴールを明確にしていただけたので、そこからは一気に企画が進みました。WEB、空港、機内。展開場所は様々な中で、予算内で効果的なキャンペーンをするために、一気通貫できるようなシンボルが絶対に必要だと思い、トレーディングカードをご提案しました。社員一人一人が主役になってもらい、最後まで前向きに働くバニラエアらしい姿を可視化するという企画です。

社員252人に、最後にかける思いや仕事の思い出などをヒアリング。それを元に、一人一人にコピー開発・撮影を行い、トレーディングカードを制作した。
また、キャンペーン期間中は、機内で乗客に配布し、キラカードが出たら景品がもらえるキャンペーンも実施した。


水野――小宮さんから、この山の頂点に登りたいというゴールをディレクションいただき、山の登り方を提案したのが私たちだったということかなと思います。

小宮――まさに企画やデザイン、コピーライティングという山の登り方をご提案いただけたと思います。私が目指しているものをしっかり受け取って、アウトプットとして答えてくれました。単純によくあるアウトソースとしてではなく、電通テックさんとは同じゴールを目指す1つのチームとしてできたと思います。


——社員のみなさんの表情も素晴らしかったですね。アートディレクターとして、その印象を作るうえで大切にしたものはなんですか。

川原田――統合まで残り半年というタイミングなのに、とてもラストフライトに向かっているとは思えない、未来に続いていくような前向きさを表現するように心がけました。ただそれ以上に252人の社員がリアルな写真として出てくるパワーが圧巻です。


久我――トレーディングカードに関しては、252人の社員にアンケートを書いていただき、それをもとにコピーを開発しました。

小宮――整備職や運航乗務員など、普段お客様と直接接点のない社員も、お客様に対しての思いが強い人たちばかりです。でも、その思いを発信する機会がこれまではなかった。今回私たちは、その思いを表現する場を作っただけだと思っています。彼らの熱量ですごい力が生まれました。インターナルブランディングと大上段にかまえなくても、みんなの思いを発信するだけで、一体感は自然に生まれるのだと気づかされました。

——形にするまでに大変だったのではないですか。

小宮――撮影の都合がつかず、自分も撮影したかったのにできなかったという声が多かったのが心残りです。撮影に参加できた社員の中では、例えば客室乗務員は制服姿が最後になるので記念にと。まさに卒業アルバムですね。結果的にトレーディングカードに注目が集まりましたが、社員のバニラエア愛がリアルに伝わってくる動画も個人的には好きです。

「最後まで全力運航中!バニラエアForever!!」パイロット篇


ラストフライトをポジティブな記憶に変換するための音楽

――「バニラエアForever‼」は、社員の方の積極的な参加のもと、こうして具現化できましたが、次に「LALALA LAST FLIGHT」について。これは最後の就航をイベントコンテンツ化するという趣旨でしたね。

小宮――最後にバニラエアの集大成としてイベントを行うことを考えていました。とはいえ、ただ社員が盛り上がるだけではなく、それをしっかりお客様にも感じ取ってもらう仕組みが必要。10月26日のラストフライトに向けてどう仕掛けていくか、全体のフレームを最初に共有しました。

水野――ラストフライト当日だけでなく、運航終了までの数カ月を盛り上げる、お客様と社員みんなで1つのものを作っていく企画がいい、というお話を小宮さんからいただきました。

川原田――そうして出来上がったのが、「LALALA LAST FLIGHT」というネーミングと音楽コンテンツ。社員とお客様から募集したバニラエアへの言葉で歌詞をつくり、楽器は機体や空港で鳴るバニラエア由来の音を使って、楽曲を制作したんですよね。

みんなのメモリーがメロディーになる!「LALALA LAST FLIGHT」
ラストフライト当日に社員限定イベントで投影したほか、一般客向けにライブ中継も実施した。

久我――バニラエアへの思いが込もったものをみんなで作り上げ、それがラストフライト当日に社員だけでなく、お客様にもしっかり届くコンテンツが必要だということで、歌詞も楽器もバニラエアにしか作れない音楽コンテンツに行き着きました。お客様からはTwitterで思い出を募集しましたが、たくさんのバニラエア愛に溢れるメッセージをいただきました。

川原田――デザインについては、小宮さんとお話しして「バニラエアforever!!」に続き、明るい雰囲気を大切にしました。イラストを全て自分で描かせてもらったり、いろいろチャレンジできた仕事です。撮影の際は、社員の皆さんの雰囲気がものすごく良くて、本当にあと少しで運航終了する会社とは思えなかったのをよく覚えています。

——最後のイベントはどうでしたか。

小宮――プロセスごとコンテンツにした集大成だったイベント当日は、社員たちの高揚感を感じることができました。すべて最初に書いたフレームにぴったりハマったという感覚がありました。ラストフライト当日には、みんなでお揃いのTシャツを着て、空港で最後のお客様のお出迎えも行いました。これから未来に向かっていく姿を象徴するものとして、音楽があったのはすごく良かったと思います。


課題と伴走できるクリエーティブチームの存在

——電通テックのクリエーティブは、企業の経営・事業課題をアイデアとデザインによって解決し、感動や行動の誘発・変容・習慣化を促していく、『スイッチするクリエーティブ』を掲げていますが、プロジェクトを通じて『スイッチ』を体現できましたか。

小宮――クライアントと広告会社という関係を超えて、2つの会社が1つのチームになれたことが、『スイッチ』したポイントだと思います。課題や目指す方向は私がしっかり設計して、それを企画・コピー・デザインの力で電通テックさんが具現化していく。こちらが意図するものとクリエーターが意図するものを毎回確認し合える関係性だからこそ、いろいろな面白い企画が生まれたんだと思います。

水野――ありがとうございます。これからもいいパートナーシップで、よろしくお願いします。

小宮源太
Peach Aviation株式会社 カスタマー・ブランド&コミュニケーション部 シニアマネージャー
2014年バニラ・エア株式会社に入社。デジタルマーケティング領域を担当後、ブランド&コミュニケーションデザイン部にてコミュニケーション、プロモーション、ブランディングなどの施策を推進。その後、経営統合に伴いPeach Aviation株式会社へ転籍し、現職ではカスタマー・ブランド&コミュニケーション部シニアマネージャーとして従事。

久我佳太
株式会社 電通テック コピーライター/プランナー
2008年電通テック入社。ムービーからポスター、プロモーションやグッズまで、課題解決のためにあらゆる手段を立体的に企画するタイプのコピーライターでありプランナー。受賞歴:TCC新人賞、CCN賞最高賞、OCC賞、FCC賞、広告電通賞銀賞、読売広告大賞優秀賞、交通広告グランプリ優秀作品賞、グッドデザイン賞、JPMプランニング・ソリューション・アワード銀賞など。

川原田俊
株式会社 電通テック アートディレクター
2018年に電通テック入社。受賞歴:ACCブロンズ、日本マーケティング大賞奨励賞、JPMプランニング・ソリューション・アワードベストプロモーショナルプログラム賞、グッドデザイン賞ベスト100、広告電通賞銀賞。

水野里美
株式会社 電通テック クリエーティブプロデューサー
2009年電通テック入社。入社時はイベント・OOH部署に配属。入社3年目にクリエーティブ職へ異動。担当クライアントは、食品飲料、エアライン、化粧品、銀行、ショッピングモールなど多岐に渡る業種を経験。

Written by: BAE編集部

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