2020-05-15

5G時代のスポーツ、エンタメ配信にイノベーションを起こす新たな「自由視点映像」とは

「SwipeVideo」が創る動画配信の新たな価値とUGCの新時代
5Gの時代に向けて、動画コンテンツの価値や役割がますます拡大しています。
中でも特に注目されているのが、スポーツなどのライブ中継でおなじみの「自由視点映像」です。臨場感あふれる視聴体験を可能にするとして、通信キャリアや映像制作会社、テレビ局(放送局)、OTT、動画配信サービス等が活用と普及に乗り出しています。最近では、ユーザー自身が視聴中の動画の視点を自由に切り替えられる技術も登場し、新たなイノベーションとして、可能性や期待感が増しています。
最新の自由視点映像のメリットや活用法、またその効果や可能性について、自由視点映像のソリューション「SwipeVideo(スワイプビデオ)」を展開する、AMATELUS(アマテラス)株式会社の下城さんにお話を伺いました。


自分のスマホで切り替えられるマルチアングル映像が普及

——動画の視点を変えられる「自由視点映像」とは、具体的にはどのような映像を指すのでしょうか。

世界柔道選手権東京大会や昨年のラグビーワールドカップでのハイライト映像などが記憶に新しいと思います。実際のカメラ位置にとらわれない、自由な位置や角度から試合やプレーを見ることができ、今までにない迫力や臨場感を楽しめるようになりました。
私たちも、動画の視点をユーザー自身で自由に切り替えられる「SwipeVideo」というサービスを展開しています。

SwipeVideoによる視点切り替えを模した、ラグビー日本代表・中島イシレリ選手の映像。実際にはユーザー自身がスワイプして好きな所で止めたり、ズームしたりできる
https://swipevideo.site/w/9e36bc6292
https://swipevideo.site/w/ca3e7b6b99


——いわゆる「360°動画」などとはどう違うのでしょうか。

自分を中心に周囲を見渡せる360°カメラによる映像やVR映像とは異なり、複数の視点に切り替えられることが特徴です(マルチアングル映像)。

——今までの視点切り替えの技術とは、どのような違いがあるのでしょうか。

マルチアングル映像の多くは、複数台のカメラによる映像を一つの動画に合成して、ワンストリーミングする技術を使っています。データが重く、ネットワークやサーバーに負荷をかける、カメラ台数が増えれば画質が下がるなど、視点と画質がトレードオフになることが少なくありません。

SwipeVideoの場合は、スワイプ動作によるリクエストに応じてサーバーから必要な映像のみを個別配信することで、ノーバッファ・高速配信で高画質の映像を見られる技術を開発し、4G回線以上の環境下にあるスマホユーザーなら、WEB上で自由に視点を切り替えられるようにしました。2019年8月に国際特許を取得しています。

アプリは不要。WEB環境下で、スワイプ動作で自由に視点を切り替えられる。複数のカメラによる映像から自由視点映像を生成するほか、既存の映像を組み合わせた視点切り替え映像の生成も可能 ※写真右は学校法人三幸学園内(東京リゾート&スポーツ校)の専用スタジオ

——どのようなジャンルで活用されているのでしょうか。

エンタメ、スポーツ観戦、また、技術教育分野では、スポーツトレーナー、製造業のマニュアル動画、美容師の通信教育、ブライダルやイベントなどのメモリアル映像等で活用されています。

視点を変えてリプレイする「追体験」という付加価値

——どのような事例があるのでしょうか。

主な事例をいくつか紹介しましょう。

■専門学校による次世代ICT教育
スポーツ・健康、医療事務、福祉・保育、美容・ブライダル、調理・製菓などの専門人材を全国で育成する学校法人三幸学園の授業で活用されています。
例えば、スポーツトレーナー講座ではテーピングテープの巻き方などを、自由視点映像で配信。生徒はスマホからマルチアングルで指導者の手技を繰り返し確認でき、学習効率の向上が期待できます。リモート授業や通信教育など、場所、人、時間に依存しない授業展開への活用も進んでいます。

■アイドルのパフォーマンスを多視点映像に
「ラストアイドル」というアイドルグループ全体のパフォーマンスを自由視点映像で配信。同時に、メンバー中10人の「自撮り」映像も自由視点映像で配信されました。
この際は、スマホカメラのリアとフロントの両方で撮影した映像を同期させるアプリを開発して、上段にグループ全体を、下段に推しメンを正面から撮った映像を表示し、上下段共にマルチアングルで見られるようにしました。

グループ全体のパフォーマンスを自由視点で見られるだけではなく、10人のメンバーの正面にフォーカスした自撮り映像も同時に見られるようにした。2019年12月に配信


昨年末に生放送されたフジテレビ系列の「2019FNS歌謡祭」でも、番組公式Twitterに投稿される出演アーティストのコメント動画が、180°の自由視点映像で配信されました。「推しが近い」「ずっと見ていられる」「目が合っているみたい」「好きなメンバーだけ見られる」「どの角度から見てもカワイイ」等、SNS上で大好評でした。

■VR映像との融合
テレビ朝日系列の「超人女子戦士 ガリベンガーV」では、バイきんぐの小峠英二さんとVTuberの電脳少女シロちゃんによるイベント映像の配信などに、自由視点映像が活用されました。
この際は、有料ライブのほか、ライブのアフターパーティーを配信しましたが、アフターパーティーではバーチャルな空間内のスタジオに複数台のカメラを設置して、VR映像を自由視点化しました。VR空間内に表示したモニターに、リアル映像を流して、これも好きな方向から見られるようにしました。
全体のマルチアングルはもちろん、好きな演者のカメラだけにスイッチして好きな角度から眺めたり、VR空間内のモニターの映像を中心に楽しんだりと、様々な見方ができました。

「一度通しで全体の映像を見た後、好きなアングルに変えて繰り返し見る」というユーザーが続出

■ライブ映像をファンクラブ特典に
アーティストのナオト・インティライミさんが、昨年行ったデビュー10周年記念の全国ツアーのライブ映像が6月にリリースされますが、本年4月にその特典映像がSwipeVideoで配信されました。テレビ放送時やBlu-ray DVDでは体感できないアングルからのライブパフォーマンスが視聴できます。

さらに、5月にも第二弾として、ツアーファイナル公演のライブ映像と撮りおろし映像をミックスさせたSwipeVideoも配信しました。新型コロナウイルス感染症の影響で、多くのイベントの中止や延期が相次ぐ中ですが、ファンの方に多くの喜びの声を頂きました。

「自宅にいてもライブ会場の様々な場所からの映像が楽しめる」と好評。すでに実施されたイベントの映像だけでなく、無観客イベントのマルチアングル配信も行える

■その他
SwipeVideoは、美容師のeラーニングサイトや工業高校の自動車整備の授業などにも活用されています。海外でのブライダルの映像や、家族の記念映像などを自由視点映像で残したいというケースも増えています。

過去に撮影されたダンスの映像などをつなぎ合わせて、SwipeVideo化するといった取り組みもあります。この場合は、様々な位置や角度から見るというよりも、複数台のカメラの映像を好きなタイミングで見られるという感じです。

——様々なビジネスモデルが考えられそうです。

はい。とあるイベントのチケットに、通常の映像+自由視点映像が見られる特典をプラスしたところ、一万円前後のチケットが数千人に購入されました。アーティストの映像をファンにサブスクで提供したり、コンサートのVIP席と同じアングルの映像を販売したりといったサービスに役立てることもできるでしょう。
また、テーマパークで、ご家族連れに向けてお子さんのメモリアル映像を撮影して、自由視点映像で見られるデータを販売したところ、購入率100%という結果が出ています。

——実証や実例から見えてきたインサイトや気づきなどがあるでしょうか。

まず、スポーツのリプレイ等だけではなく、エンタメ系の映像の「追体験」にも高い価値があることが実証されました。アイドルのパフォーマンスを一度通しで見てから、“推し”を中心に何度も見たいというユーザーが、予想以上に多かったんですね。
「マルチアングル+カメラ目線」は、ユーザーに大変喜ばれることもわかりました。あるコンテンツで、アーティストにカメラ目線を意識するようお願いしたところ、そうでない時に比べて、視聴者数が約2.5倍程度に上がったという例があります。

技術教育の分野からは、指導者が見せたいアングルと、生徒が見たいアングルに差があることなどがわかりました。両者の間のズレを埋められれば、学習時のインプット効率が向上するでしょう。

AMATELUS株式会社 代表取締役CEO 下城伸也(しもじょう・しんや)さん

——自由視点映像の弱点や課題感などはあるでしょうか。

WEB会議やミーティングなど、双方向性が求められるシーンでの使用にはあまり向いていません。不動産の内見や家具のショールームなど、静止しているものを見る場合は、360°動画などのほうが適していると思います。
また、配信するコンテンツの種類によっては、雰囲気作りや演出が難しい場合があるようです。


5G時代の動画は“ピープルキャスト”を可能にするVOD2.0へ

——視聴に関するデータを取ることなども可能でしょうか。

はい。SwipeVideoの場合は、どの時刻にどの部分がよく見られていたか、どの部分がズームされていたか、などを解析できる「アングル視聴率」の計測を行っています。
結果を映像のクリエイティブや商品開発に反映させたり、たくさん見られているアングルに広告を出したりといった活用が可能です。SwipeVideoはWEBで見られるため視聴母数を増やしやすく、Googleアナリティクス等との連動が可能で、データの確実性も上がります。

——今後、自由視点映像はどのような分野でより求められていくでしょうか。

まず、新型コロナウイルス感染症の影響によるイベントの自粛が続き、無観客公演のライブ配信などに関する相談は激増しています。
実装はまだされていませんが、ECにも可能性が広がっていると思います。アパレルなどでモデルの動作が見られれば、洋服のディテールなどがより詳細に伝わるでしょう。監視カメラへの活用に関するご相談も増えています。
将来的には、同時刻の自由視点映像のビッグデータ化によって、三次元立体映像(ホログラム)などの分野にも貢献できると考えています。

——今後の展望などを教えてください。

5G環境下での活用を視野に入れた開発も進めています。例えば、ドラマや映画を自由視点映像化して、複数の登場人物の目線を切り替えながら視聴を楽しむといった、新しいコンテンツの作成が可能になると思います。

また、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の強化も検討しています。複数のユーザーのiPhoneのRECを同期させるアプリなども開発しましたが、これを5G環境下で使えれば、巨大なスタジアムでサッカーやライブを観戦する、何千人、何万人ものユーザーが、「自由視点映像を見ながら、同時に配信も行う」といった展開も考えられます。

例えば、駅伝のランナーの様子を沿道の多くのファンが撮影・配信すれば、視聴者が欲しがる多角的なアングルが、全国にリアルタイムで共有できるでしょう。一緒に走っているようなライブ感が生まれ、全く新しい視聴体験が可能になるはずです。ユーザーの一人一人が小さなテレビ局になるようなイメージで、現状の“ブロードキャスト”が“ピープルキャスト”へと進化することを目標としています。

映像の中には、人が本当に見たいものがまだまだありますから、VOD(Video On Demand)をVOD2.0(View On Demand)へと進化させ、視点やスイッチングの権利をもっとフリーにしていくべきだと私たちは考えています。そのためには、今後も、自由視点映像を映像視点の民主化に役立つイノベーションとして、さらに成長させていきます。

プレーヤーの目線でのスポーツ観戦、アーティストと目が合うライブ映像、撮影対象と撮影者を同時に見られるメモリアル映像など、自由視点映像は私たちに今までの常識を覆す視聴体験をもたらしてくれそうです。5G環境での普及・拡大に対応するには、自由視点映像ならではのクリエイティブや、配信技術等の更新にも注目していく必要があるでしょう。

Written by: BAE編集部

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