2023-05-23

AIが解決する小売の「在庫問題」──在庫を利益に変えるリテールテック

「在庫分析」により価値を可視化し、粗利を最大化
販売前の流動資産である「在庫」。売れる前の商品である在庫は、保管のための場所が必要なのはもちろん、資産であるため税金も掛かります。そのため、売れない商品を値下げ販売し、循環させていくことが小売業の常識となっています。しかし値下げは利益の低下につながるため、そのバランス、判断は非常に難しいものとなっていました。こうした「在庫問題」は、小売業における長年の課題でもあります。

この課題を、日本で唯一のAIを活用した「在庫分析」ツールによって解決しているのが、フルカイテン株式会社です。そもそも在庫の問題点とは何か。どのようなデータに着目することで、在庫問題は解決できるのか。事例を交え、同社の代表取締役CEO 瀬川直寛さんに、お話を聞きました。


利益の源であると同時に、経営リスクでもある「在庫」


――小売業を悩ます「在庫問題」。そもそも小売業における「在庫」とは、どのような存在なのでしょうか。


小売業は、商品を生活者に販売する事業です。品物を作る、または仕入れて、それをお金に換える(販売する)。それを繰り返す事業モデルです。しかし、作りすぎたり、仕入れすぎたりすれば、それは「在庫」となり、お金に換わらず、資金繰りにも悪影響を及ぼします。また在庫は、保管スペースも必要ですし、それを管理する人件費も発生し、事業全体の利益率の低下にもつながります。

一方で、商品(在庫)がなければ、小売業は成立しません。ですが、「どれくらい売れるか」という予測は非常に難しく、最適な生産量・仕入れ量を導き出すのは至難の業です。

商品が少なすぎれば、機会損失となり、一方で多いと余計なコストを生んでしまう。つまり小売業にとって「在庫」とは、利益の源であると同時に、経営リスクでもあるのです。

――在庫の持つ負の部分を、いかに小さくできるか。その課題と小売業は常に向き合っているのですね。

はい。ただ、負の部分を完全になくすことは難しいと思います。ですが、最小化することは可能だと考えています。

在庫として売れ残った商品は、値下げして販売される傾向にあります。そのため利益が減少し、経営全体の利益率の低下を生んでしまいます。しかしもし、すべての商品が定価で売れていれば、当然、利益は確保されることになります。

そこに私は、在庫問題の解決の糸口があると感じました。着目したのは「粗利」です。粗利とは、売上高から原価を引いた、いちばんシンプルな利益の指標です。

「値下げ」は本来、なるべく避けたい。ですが、食品には賞味期限があり、洋服にはシーズンがあるため、売れ残った商品は、値下げすることが小売業の慣例となっています。なぜなら、売れないよりは、安くても売れたほうが「在庫問題」の解決につながるからです。

そのため小売業、特にアパレル業界では「過度な値下げ」をしているケースが往々にしてあるのです。

――しかし「売れない商品」を値下げしなければ、いつまでもお金に換えることができないですよね。

ここにも、小売業特有の問題が存在します。

私たちが提供する在庫分析クラウドサービス「FULL KAITEN(フルカイテン)」を導入するアパレル・ライフスタイル企業34社、168ブランドの在庫状況と売れ行きのデータを分析したところ、粗利の8割を生み出しているのは、全商品の20%であることがわかりました。

つまり基本的に80%の商品というのは、将来「値下げの対象」となるのです。販売スタッフも、店舗で売れている商品をおすすめしますから、売れない商品はますます売れなくなる、という悪循環もそこには関係しています。

ただ不思議なもので、それなら「売れない80%の商品」をなくせばいいのかというと、それで解決するわけでもないのです。売れない商品も、間接的に利益貢献しているというのがまた、「在庫問題」を複雑化させている要因でもあります。


商品の価値を正しく知ることで、「在庫問題」は解決できる


――「作らない」は、解決にはならない。ならば、どうすれば「在庫問題」は解決できるのでしょうか。


小売業は総じて商品数が多く、アパレルブランドであれば、アイテム数が万単位で存在します。そのすべてを手作業で分析することは不可能です。そうなると、利益に直結するアイテム、つまり利益貢献度の高い2割の商品=人気商品に関心が集中してしまい、人気商品の確保にばかり気を取られてしまいます。

しかし本来分析すべきは、いずれ値下げする(粗利を減少させる)可能性がある「80%の商品」なのです。まずは目先の視点を変えて、「利益貢献度の低い80%の商品」について、正しく知ることが在庫問題の解決につながるのです。

――「売れない商品」の何を、正しく知ることが大切なのでしょうか。

たとえばアパレル業界では、「一律30%OFF」といったセールを見かけることがあります。しかしその中には、本当は10%OFFで売れる商品も混ざっているのです。当然、過剰な値引きは粗利の減少になりますよね。つまり大切なことは、適切な価格(価値)で、商品を販売することなのです。

では、なぜ一律で同じ割引をするのかと言えば、商品を分析できていないからです。そこで「FULL KAITEN」では、AIを活用し、すべての店舗、すべての商品の販売動向から「いつまでに売り切れそうか」という販売予測を出しています

これにより、一定期間の間に、定価のままで売り切れる商品と、売れ残る商品を事前に判別することが可能です。また、適切な値下げ幅の判断をすることも可能になります。

具体的には、「完売予測日」と「売上貢献度」から、商品を4つに分類、見える化しています。

在庫分析クラウド「FULL KAITEN」は、AIを活用し、商品の「現在地」を4つに分類、絞り込みやソートが可能

Best 完売予測日が早く、売上貢献度も高い商品。いわゆる2割の人気商品で、値下げの必要がない商品群です。

Good 完売予測日は早いけれど、売上貢献度は低い商品。こちらも特に、施策を講じる必要はありません。

Better 完売予測日は遅いけれど、売上貢献度が高い商品。露出強化や値引き率に傾斜をつけることによって、完売できる商品群です。「Better」に属する商品を適切な価格で販売することは、粗利の減少を防ぐうえで、非常に重要です。

Bad 完売予測日が遅く、売上貢献度も低い商品。この商品群は、保管スペースの確保、いつまでもお金に換わらないといった「在庫問題」につながる要因になりやすいため、早い段階で手を打つことが必要と言えます。

= 事例1.EC:「URBAN RESEARCH」(アーバンリサーチ)

――売れている2割ではなく、残り80%の商品の価値を正しく知ることで、「在庫問題」は解決できるのですね。実例があれば、教えてください。

株式会社アーバンリサーチ様が展開している、幅広い年齢層の男女から支持を集めるアパレルブランド「URBAN RESEARCH」は、コロナ禍の影響もあり、2020年度から本格的にECに注力し始めたものの、当初はデータ活用ができておらず、商品を適切な価格で販売できていないという課題がありました。

しかし、「FULL KAITEN」を導入し、在庫の価値を可視化したことで、2022年度上半期(2~7月)には昨対比で売上高が11.5%増加し、粗利額に至っては16.2%増加という目覚ましい成果を上げました。

具体的には、さきほどの図の通り、まずは商品を4つに分類。URBAN RESEARCHのECサイトでは、平日にタイムセールを多く実施しているのですが、「FULL KAITEN」導入前まで商品のセレクトや値下げ幅は、感覚値で設定されていました

そのため、本来は定価で売れる商品が値下げされていたり、必要以上の値下げがされていたりするケースが多くありました。しかしAIによる在庫分析によって、価格の最適化が実現し、粗利額16.2%増加という結果につながったのです。

売上には原価も含みますが、前述の通り、粗利とは利益のことです。価格を最適化しただけで、粗利が16.2%も増えるというのは、想像以上のインパクトです。この数値を見れば、「80%の商品」の価値を正しく知ることがどれだけ重要か、おわかりいただけるのではないでしょうか

URBAN RESEARCHでは、「Better」「Bad」の商品群について、値引き施策を実施。同時に「Better」の中から「隠れた売れ筋商品」を発掘し、メルマガなどを通じた、顧客へのレコメンドを展開した


= 事例2.リアル店舗:「Luck Rack」(ゲオクリア)

――リアル店舗の実例もあれば、教えてください。

株式会社ゲオクリア様が運営する、メーカーや小売店などから販売時期を逃した商品や余剰品を仕入れ、低価格で販売するオフプライスストア「Luck Rack(ラックラック)」の事例をご紹介します。

同店では、「在庫分析」を手動で行っていたため、大きな負荷となっていました。そこで「FULL KAITEN」を導入し、分析を自動化。きちんと粗利を取りつつ在庫の消化スピードを上げる仕組みを構築しました。在庫回転率は導入から半年で1.3倍に上がり、通年では1.7倍にまで向上しました。(※)
※2021年3月期と比較し、2022年4月までの段階で1.3倍。同じく、2021年3月期と比較し、2022年1年間で1.7倍。

同社のツール導入理由は「販売力の強化」でした。特にセール商品の定期的な価格の見直しによる売上への貢献と、在庫回転率の改善が課題でした。

ツール導入前は、売価変更をする際、商品をピックアップするところから始まり、リスト化し、そのリストに変更価格を載せて店舗に指示を出していました。

しかし「FULL KAITEN」導入後は、すでに商品群が4つに分類されているため、ピックアップする時間が短縮。すぐにリスト作成ができるようになりました。また値下げ幅も、分類に応じて検討できるため、売価変更に掛かる時間が大幅に短縮されました。結果、スピーディーなPDCAが実現したことも、在庫回転率の向上(=販売力の強化)につながった要因だと考えています

「FULL KAITEN」には、すべての商品の販売動向が反映されているため、一目で商品の現在地と、各商品群の在庫数が把握できる。赤枠は、完売予測日を設定する際の例。※FULL KAITENのデモ画面より


店舗は今後増加予測。適切な価格設定がより重要になる

――2つの事例だけでも、「在庫分析」の重要性がよくわかりますね。これからアフターコロナの時代が始まります。そのなかで今後、小売はどのようになっていくとお考えでしょうか。

コロナ禍でリアル店舗での営業が難しくなったことで、ECに注力する企業が増えましたよね。同時に、仕入れを抑制して、抱えている在庫で利益を出す方向に進みました。しかしコロナが収束していくなかで、また過剰仕入れの傾向が強まり、バランスが悪くなっているような印象を受けています。

仕入れが増えている以上、売る必要がある。そう考えると、今後、店舗は増加傾向に転じるのではないでしょうか。そのなかで利益を確保するためには、在庫の価値を正しく知り、適切な価格で販売することがより重要になってきます。

「FULL KAITEN」は私自身が小売業に身を投じ、「在庫問題」に苦しんだ経験から生まれたソリューションです。今後、「在庫分析」による現状把握だけでなく、商品の企画段階から使える「需要予測」の機能も搭載予定です。

今後もAIを活用したテクノロジーによって、小売にまつわるさまざまな課題を解決し、コロナ禍で苦しんだ多くの方々をサポートしていけたらうれしいです。

瀬川直寛 フルカイテン株式会社 代表取締役CEO
「20%の人気商品」が8割の利益を創出するという構造的な問題によって生まれていたアパレルの「在庫問題」。しかし「残りの80%の商品」の価値を正しく知ることで、課題解決だけでなく、利益の最大化にもつながります。
コロナ禍でECサイトの活用が伸び、さらにこれからはアフターコロナの時代として実店舗の増加が見込まれるなか、AI活用による作業の自動化や価値可視化の流れは、今後さらに広がっていきそうです。

Written by: BAE編集部

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