2018-06-08

トレンドカルチャーを発信するメディアとしてのホテルが人気

「ポジティブな予定不調和」 が高い満足を生み出す
2017年オープンの「HOTEL SHE, OSAKA」がある弁天町は、地元大阪の人も名前は知っているけれど、あまり足を運ばない場所だそう。それなのにこのホテルには若者や訪日外国人が数多く訪れます。なぜ彼らはこの場所に惹きつけられるのでしょうか。このホテルを手がけた、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんにお話を伺いました。


「大阪の下町」と「トレンドカルチャー」の接点とは

ホテルプロデューサー/L&G GLOBAL BUSINESS, Inc. 取締役の龍崎翔子さん

——HOTEL SHE, OSAKAのコンセプトを教えていただけますでしょうか。

龍崎─私たちがホテルを作る時に大事にしていることの一つが、町の雰囲気を盛り込むことです。弁天町って東京の人に知られていないだけではなく、大阪の人ですら印象が薄い場所ではないかと思います。弁天町を選んだ理由も、開発され尽くした町にはない生の空気感と言いますか、ディープな魅力に惹かれたのですが、そういう町の文脈を無視するようなホテルは作りたくないと思いました。この町の文脈を言語化して、ちゃんと形に落とし込みたいと。ホテルがあることでその町並み自体に新たな価値を生むような、町に映えるようなホテルを作りたいと思ったのが原点です。

ホテル近くの商店街。路地が多く昔ながらの商店が並ぶ

龍崎─弁天町に私が何回か足を運んで思ったのは昭和テイストというか、レトロな80年代感という印象でした。昔ながらの立ち飲み屋があって、港の方には倉庫群とか、時代の風化を経た町並みが残っていて。一方、私たちがやっているHOTEL SHE,は、トレンドやカルチャーを発信する、言わば、「ジャケ買い」※1されるホテルを作りたいっていうのが元々のベースとしてありました。この両極のものを合わせた時に、組み合わせが反発しないようにするにはどういう軸を入れたらいいだろうと考えた結果、その一つが「アナログカルチャー」という着地点でした。

デジタル化が進む中で、このまま、すべてのものがデジタルに集約されると思われていたところに、最近は違う見方も出てきました。あくまでデジタルは選択肢の一つでしかなく、アナログな楽しみ方、リアルな体験というのも、別の体験価値があるよね、と見直されてきた。そういう時代の流れと、うまくフィットしたなと思っています。

部屋には数枚のレコードが備え付けられている

また、私がちょうどそのタイミングでレコードプレイヤーをプレゼントされたことも一つのきっかけになりました。アナログなもの、特にレコードを部屋に置くというのは町の雰囲気とも合っていて、トレンドカルチャーを発信するというホテルのコンセプトにもしっくりくると感じたので、「アナログ」というのが一つの大きなコンセプトになりました。

※1……「ジャケット買い」の略称。CDなどの商品を選ぶ際、内容を確認せず、パッケージやジャケットなどのデザインだけで購入を決断すること。


文脈が貫かれている空間に人々は惹かれる

龍崎─レコードプレイヤーを部屋に置いたのは他の理由もあって、ホテル側としては、お客様が客室に入ったらそこはプライベートな空間なのでコンタクトがとれません。もちろんプライベートは最大限尊重したいと思いつつ、「ソーシャルホテル」をコンセプトに掲げるHOTEL SHE,は、人と人との偶然の出会いを生み出す空間を意識して、フロントなどの共有スペースを設計しています。しかし、ホテルのコンセプトが共有部にしかなかったら、客室はそれとまったく切り離された空間としてお客様が過ごしてしまうことになります。それを避けるためには何をしたらいいのか。その解として、客室の音楽をキュレーションする、ホテルがオススメする曲をお客様が手に取りやすい形で用意する、ということにしました。たとえ、プライベートな空間であっても、ホテルの哲学が貫かれた空間を提供したかったのです。


龍崎─もう一つ、レコードプレイヤーは、自分で買いに行こうとはなかなか思わないですよね。私自身も友達にプレゼントされたことで体験ハードルが下がりましたが、目の前にあることで聴いてみて、そこからレコード屋さんに行ってみようとか、世界が開けるきっかけになるかもしれません。ホテルはお客様の半径5メートルの空間を提供できるので、普通はなかなか体験できないことを手の届くところに用意してあげるのは、私たちならではのご提案かなと思います。そういう観点でも、レコードプレイヤーを設置することがしっくりきました。

——レコード一つとっても、ホテルのコンセプトが隅々まで行き渡っているのが印象的です。

龍崎─私自身もホテルを選ぶ時は、その場所に流れる感情があるかどうかを気にしますね。ただ単に泊まれる空間を作りましたとか、お客様がご満足いただけるように朝食を豊富にしましたとかではなく、意志があって、狙いがあって、それがいろんなところに反映されている。部屋一つとっても、サービス一つとっても、接客一つとっても、コンセプトに基づいて設計(または運営)されていることが、満足につながっているのではないかと思います。


人や情報の交流が生まれる「ソーシャルホテル」

——「ソーシャル」というのもホテルのコンセプトだと伺いました。

龍崎─HOTEL SHE,ブランドのホテルはどこも「ソーシャル」を大事にしています。ホテルはメディアだと思っていまして、空間メディアというんでしょうか。以前、北海道の富良野で母とペンションを経営していたのですが、スタッフが二人だけなのでサービスを頑張る、美味しい料理を作るなどは現実的ではなかった中、何がお客様の満足につながっていたかというと、一つはスタッフとお客様のコミュニケーションがあったこと、お客様同士のコミュニケーションがあったことなんです。その場に居合わせた人と人との交流を生み出す設計や仕組みが、価値につながるのだと気がつきました。偶然の出会いや、そこで手に入る情報が、お客様にとっての刺激になって新しい世界へのきっかけとなるんです。情報に限らずに、新しい文化とか価値観への接点がある空間を作ろうと思った、そういうことが私たちの思う「ソーシャルホテル」なんです。

——偶然性とか、予定調和ではない体験があるということでしょうか。

龍崎─そうです。ポジティブな予定不調和を生み出したいですね。

——ちなみに、今の若い方はそういった偶然の出会いなどの非日常的な体験を求めているのでしょうか。

龍崎基本的に人間はコミュニケーションをするのが億劫に感じる生き物だと思うので、若者たちも積極的、意識的に出会いを求めているとは思いません。しかし、それが自分の意思とは関係なく偶然に起きた時に、満足度が高くなる傾向がありますね。

共有部にはコーヒーやアルコールを提供するテナントがあり、さながらバーのよう

龍崎─ホテルの設計にも予定不調和が起こるような工夫を凝らしています。例えば、レコードラックがフロントの隣に置いてあって、お客様がレコードを選ぶ(または探す)時に、スタッフが「どういう曲を好きなんですか?」と聞くことでサジェストすることができたり、カフェスペースもL字のソファーを設けることでお客様同士が一体感のあるような空間作りをしたり、フロントカウンターとカフェカウンターをシームレスにしています。それに、表にホテルと大々的に書いていないんですよね。ホテルということを知らない地元の大阪のおばちゃんがカフェを求めて来る。ホテルなのに地元の人も入れば、地球の裏側から来た人もいて、ミクスチャーみたいな空間が生まれています(笑)。


——町とホテルの回遊が生まれていますね。


龍崎そういうことをとても大事にしていて、商店街の人たちとも仲良くさせてもらっています。ふらっと来ただけでは町の良さはわからないと思うので、スタッフも弁天町の近くに住んで本当にオススメの場所をお客様に提案するようにしています。自分がビジネスをさせてもらっている町の魅力を損ねてしまわないように、町を耕していくようなホテルの作り方をしたいですね。
キレイな部屋、行き届いたサービス、そういった従来の評価軸以上に、そこで生まれる未知の体験や、空間全体に貫かれた文脈、つまりストーリージェニックな空間が支持される。「HOTEL SHE, OSAKA」は、人々が行きたくなる空間作りの新傾向を体現しているのかもしれません。
Written by: BAE編集部

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