2023-07-11

ARを組み込み、リテールとの親和性を高める「Snapchat」──ARが切り開く未来

欧米のZ世代が熱狂するARの活用法
Appleが先日発表した、初のヘッドマウントディスプレイ「Vision Pro」は、現実を拡張する空間コンピューターとして大きな話題となりました。Vision Proへの注目度の高さはそのまま、拡張現実「AR」への期待の表れとも言えます。

位置情報ゲーム「ポケモン GO」で一気に認知が広まったARですが、今後さらに活用の幅を広げるとともに、定着していく可能性もあります。

そのなかで月間利用者数7.5億人を誇るビジュアルコミュニケーションアプリ「Snapchat」は、ARを標準搭載することで、現実を拡張するプラットフォームへと進化を遂げようとしています。Snap Japan 代表 長谷川倫也さんに、Snapchatを例に、SNS×AR、リテール×ARの未来について聞きました。


欧米のZ世代のSNSトレンドは、オープン型からクローズ型へ

――日本ではカメラアプリとしての印象が強い「Snapchat」ですが、アメリカを中心に、欧米ではZ世代に人気のSNSとして知られているそうですね。

はい。「Snapchat」と聞くと、日本では、写真加工アプリのイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。しかし欧米では、気軽に写真を友人たちとシェアするビジュアルコミュニケーションアプリとして、Z世代から絶大な支持を受けています。

Snapchatのレンズ( フィルター)の使用イメージ。左はユーザーをアニメのキャラクターのようにし、右は顔がブロッコリーになる

他のSNSと違うのは、“映える”ことなく、もっと普通の日常を切り取った写真を投稿しているという点です。つまり、投稿のハードルが圧倒的に低い。一方でTikTokなどのSNSは投稿のハードルが高く、ユーザーの9割は「見る専門になってしまっている」というのが現状だと思います。

結果、Z世代の若者に支持されたSnapchatは、アメリカやフランス、オーストラリアなどでは浸透率9割を超えており、欧米のZ世代にとって必須のアプリとなっています。利用頻度も高く、平均ひとり1日30回以上、Snapchatを開いています。イメージとしては、LINEでテキストを使ってコミュニケーションするように、彼らは写真で会話をしています。

――欧米のZ世代は、Snapchatの何に惹かれているのでしょうか?

例えばLINEだとまず、「誰に送るか」を選択して、「何を送るか」考えますよね。しかしSnapchatはその逆。最初にカメラを立ち上げる。そのあとに、「誰に送るか」を考える。オーディエンスファーストではなく、コンテンツファーストのアプリであることが、“自分らしさ”を表現しやすい環境構築につながっているように思います。

そして一度見たら、すべてのものは消えていく。残らない気軽さがそこにはあります。その他SNSにあるストーリーズに似ていますが、実はストーリーズは、Snapchatから着想を得た機能です。同様に、気軽さを生んでいるのが、いいねやコメントのような承認欲求を満たす機能を排除している点です。これによって、自慢大会の場になることがありません。

最後に、Snapchatは友人とだけつながるプラットフォームであること。こうした安心感や気軽さが支持されている要因と分析しています。そして同様のニーズは、日本のZ世代にもあるはずです。わざわざ裏垢を作らなくても、つながりたい人とだけ、つながれる世界。Snapchatが今後、日本のユーザーにも浸透していく土壌はすでにあると私は考えています。

ARによってアップデートされる、ライブ体験、お買い物体験

――欧米では、オープン型のSNSから、クローズ型のSNSへとトレンドが移り変わっていると見ることもできそうです。そのなかでSnapchatはいま、さらにZ世代とのエンゲージメントを高める手段として、ARに着目しているそうですね。

はい。欧米のZ世代にとってSnapchatは、毎日使っているアプリです。コミュニケーションだけでなく、ARの技術によって、さらにハッピーなSNSとなれるよう、ユーザーの体験価値の向上に努めたいと考えています。

すでに「Snap AR」として、カメラのARレンズ 、AR試着、さらには音楽ファンが多いSnapchatユーザーのために、ライブ鑑賞とARを組み合わせた体験の提供なども順次スタートしています。ライブ鑑賞では、Snapchatのカメラを通して、ARビジュアルが表示されるといった、まさに“現実を拡張”する体験を提供可能です。

最近では、アメリカ最大級の電子音楽フェスティバル「EDC」とコラボレーションした事例もあります。「Snap AR」によって、観客の中から友人を見つけたり、ARコンテンツでステージやフェスティバル会場を盛り上げたり、さらにはコンサートグッズの試着ができるシステムも提供し、ライブ体験をテクノロジーによってアップデートすることに成功しました 。

「EDC」では、SnapchatのAR機能を活用し、ライブの体験価値を向上させた

そのなかで、Snapchatユーザーの3人に2人が毎日ARを利用しており、すでにSnapchatユーザーにとってARは、当たり前のテクノロジーになっている状況にあります。

――ARは、ECサイトでの、お買い物体験のアップデートにも活用されているのでしょうか。

現在Snapでは、小売向けに「ショッピングスイート」という企業のブランドロイヤリティの向上、商品返品率を低下させるARサービスのパッケージを提供しています。

ショッピングスイートを活用すれば、ユーザーはSnapchat上で、3Dで商品をチェックでき、AR試着によって、簡単に洋服のサイズ感を確認可能です。ECサイトでの洋服選びがもっと気軽に、もっと楽しくなるツールとして機能しています。

今後3年ほどで、75%ほどのユーザーがARを頻繁に利用するようになる、という予測もあるほど、ARは私たちの生活にとって、欠かせないテクノロジーになる可能性があります。なぜなら、それくらい便利だからです。

事実、弊社の調査では、AR試着を体験したユーザーの購入検討意向は44%向上し、返品率は25%下がることがわかっています。さらにECサイト内におけるコンバージョンレートは倍になりました。これは、ARによる試着体験に高い精度と満足感があることの証明でもあります。バーチャルでありながらリアル。そこに、ARとショッピングの親和性の高さがあるのではないでしょうか。

自分に似合うかどうかを簡単に確認できる、AR試着のイメージ

すでにSnapchatでは、クリスチャン・ディオールをはじめ、アパレルやコスメブランドが提供するレンズ が用意されています。ユーザーはレンズ を選択するだけで、ブランドの商品をAR試着することが可能です。

また国内でも、約50のブランドを展開する「パル」がバーチャル試着体験をスタートするといった動きが見られ 、ARを用いたショッピング体験は今後日本でも普及していくものと思われます。

クリスチャン・ディオールのレンズ を使用した、「Dior」のスニーカーのAR試着のイメージ。画面をタップし、直接ECサイトで購入することも可能。他にもプラダや、FARFETCHなどのファッション通販サイトも、Snapchatの試着機能レンズ を提供している


認知と体験を同時に提供するAR。リテールでの活用は当たり前の時代へ


――ARによって、消費行動が変化する可能性もあるのでしょうか。

マーケティングファネルのトップにあるのは「認知」です。しかしARを活用すれば、そこに「体験」を加えることが可能です。認知と体験を同時に、かつ気軽に提供できるというのは、前述の通り、大きな効果を生みます。

今後、ECサイト上でARやAIといったテクノロジーを組み合わせることで、ユーザー体験を向上させる機能は当たり前になる時代が来ると考えています。またリアル店舗においても、ARを活用すれば、色違いの服を着比べたり、サイズ感を確認したりする作業は非常に簡単に実現できます。そのためのARミラーをナイキ社などは導入しており、店内体験の強化を図っています。

日本人の多くはクレームも返品もしない。その代わり、黙って違うブランドに移ってしまう。そのため、ブランド側は対策しようがないケースも多い。そのなかで、ARを活用すれば、そこにデータが蓄積されていきます。そのデータを活用することで、改善点が見つかる可能性もあります。

購入履歴だけでなく、将来的に、AR試着の履歴まで取得できるようになることは、よりユーザーを深く理解することにつながるのではないでしょうか。

――今後は日本でも、リテールにおけるAR活用は、さらに広がっていきそうですね。

AR活用は、想像以上にリテールとの相性がよく、効果につながりやすい
と感じています。日本でもSnapchatがSNSとしてはもちろん、ARアプリのプラットフォームとしても広がっていくことを目指しています。デフォルトの状態で、ARレンズをタブで選択できるUIにしているのも、そのためです。

私たちは、自社のAR技術の開発・研究に多くの時間と費用を投資しています。そしてそれを無償で提供しています。なぜなら、Snapchatがなくても、「Snap AR」が使えるアプリやプラットフォームが広がることで、AR活用のハードルがより低くなることに寄与できたらと考えているからです。そうやって企業同士がつながっていくことで、よりARは私たちの生活の一部となる。そんな未来がもうそこまで来ているのではないでしょうか。

Snap Japan 代表 長谷川倫也さん

Apple「Vision Pro」の登場によって、再び注目を集める拡張現実「AR」は、体験価値の向上を実現してくれるテクノロジーです。その特性は、お買い物体験の向上にも応用が可能であり、ECサイトやリアル店舗における「AR試着」の普及も現実味を帯びてきています。そのなかで取得できる新たな試着データも活用することで、オンライン・オフライン問わず、顧客に寄り添ったサービスの提供が実現するのではないでしょうか。

Written by: BAE編集部

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