2018-08-27

空が情報空間になる、ドローンを使い空に絵を描く先端技術

ドローンの空中パフォーマンスが切り開く、新しい「演出」の形
ここ数年、ドローンは、空撮に限らず、産業や災害時利用など、様々な分野に広がってきました。さらには新しい表現のひとつとして、ドローンの特性を利用したパフォーマンスも注目されています。

シンガポールに拠点を置くSKYMAGIC社は、発光する多数のドローンが宙を舞う、最新の空間演出を提供しています。もともとは日本国内で活動する広告会社のサービスとして立ち上がり、その後、分社独立して海外で活動されています。 SKYMAGIC社で扱うドローンにはどのような技術が使われ、どのような活用法が考えられるかなど、同社の共同創設者の植松 瞳さんに話を聞きました。


新しい広告の表現を求めて「ドローン」に着眼

2016年にSKYMAGIC社が最初に手掛けたパフォーマンス「Live at Mt. Fuji」


――SKYMAGIC社がドローンを利用した空間演出という事業に乗り出したきっかけはなんだったのでしょうか。

当初はある広告会社における新規事業として、スタートしました。広告を拡張して、空間そのものをプラットフォームとして何か表現ができないかという案から、ARやVR、ホログラムなど様々なアイデアを検討していましたが、最終的にドローンを使った「群制御」という技術に行き着きました。複数のドローンにLEDを付けてフォーメーションを組んで飛ばすことで、ドットとして空にデザインができないかと考えたのです。例えば、空にメッセージを表示したり、グラフィックを描いたり、そのようなことが可能になります。

2017年イスラエルの聖なる街エルサレムの50周年記念のパフォーマンス

――空中が情報空間になるというイメージですね。ドローンの「群制御」というのは、どのようなテクノロジーなのですか?

その名の通り、複数のドローンを1台のパソコンで制御することができる技術です。既に世界では研究が進められているテクノロジーで、国内でも大学を始め、 研究事例はあるものの、ビジネス化は進んでいません。制御のアルゴリズムや、ハードウェアによってできることが変わってくるので、既にプロトタイプを実現していたシンガポールの技術者たちと組むことで、サービスをローンチすることができました。

――どれほどの数のドローンを一度に制御できるのでしょうか。

理論上、数に限りはありません。現在、弊社で保有しているドローンの台数に限りがあるので、500〜1000台と制限されますが、 弊社では2年以内に1万台を同時に飛ばすことを目標に掲げています。

――1万台となると、かなり壮大な光景を見ることができますね。ドローンの大きさは、どの程度なのでしょうか。

10センチほどの手のひらサイズから、大きいと35センチくらいのものまで様々です。1メートルものドローンを作って、花火を載せてフォーメーションをすることもできます。というのも、私たちはソフトとハード、両方とも一緒に開発を行っているからです。

屋外ドローンLED

例えば、花火を飛ばしたいというオーダーがあれば、それを実現させるためにどのようなドローンが必要で、どのような制御を行えばいいのか、合わせて考えていくのです。

――なるほど。ハードもソフトも開発しているとなると、かなりカスタマイズ性の高いサービスが提供できるのですね。

そうですね。1台を1ピクセルに見立てて、ドット×3次元で表現できるものなら自由にフォーメーションを作ることができます。とはいえ、飛行速度にも限りがありますし、強風が吹いてもぶつからないように計算する必要もあるので、なにもかもが無制限というわけではありませんが。

広い空間で行うパフォーマンスは、ダイナミックな体験を提供することができます。一方で、室内での群制御によるドローンのパフォーマンスも提供しており、ドローンと人との距離が近い分、インタラクティブなパフォーマンスが実現可能です。

クライアントは国家レベル

――現状ではどのようなお客様から引き合いがあるのでしょうか。

世界規模のスポーツ大会やイベントの演出で利用したいというニーズは高まってきています。または、国の独立記念日などのイベントだったり、観光局とのタイアップだったりといったご依頼も多いです。

2017年カタールの独立記念日のセレモニーにて

――お客様は、ドローンでの演出に対してどのような効果を期待されていますか。

お客様によってそれぞれですが、話題作りやPR効果がメインですね。ドローンを使ったパフォーマンスは、まだまだ生まれたばかり。真新しいショーだからこそ、表現したモノがもたらすSNSでの波及力を期待しているのだと思います。

また、自国が先進的であるということを内外にアピールするために、最先端の技術を使ったパフォーマンスをしたいという、ブランディングの側面もあります。先ほど例に挙げた国の記念日などは、その一例ですね。国の一大イベントなので、予算額も何十億といった単位にもなります。

――何十億円とはすごいですね。

シンガポールの建国記念日では数十億円をかけてイベントが開催されると聞いたことがあります。愛国心が強い国ほど、多くのお金をかけて行っていますね。逆に言えば、これだけお金がかけられるからこそ、ドローンショーに発注できるという側面もあります。

100~200台を屋外で10分間飛ばす場合、ミニマムでも数千万円弱。屋内の方が高度な技術が求められるので、同じ台数で約1.5倍の費用感になります . まだまだ規制が厳しいドローンなので、街や国を巻き込んで行う必要があり、このような価格帯となっています。しかし、実績や事例が増えているので、価格は年々下がっています。

――ちなみに準備期間はどの程度なのでしょうか。

おおよそ3カ月くらいでしょうか。まずは、飛ばしたいという場所の視察調査から始めます。プログラム自体は、1カ月くらいですね。一番時間がかかるのが、許可取りとドローン演出です。

手間や費用がかかるとはいえ、空中という場所は、今後まだまだ新しいアイデアを生み出せる場所。だからこそ、ドローンショーは宣伝や広報との親和性が高いツールだと考えています。話題性や将来性ももちろんのこと、インタラクティブな体験をもたらすことで、見た人にとって忘れられない時間をもたらすことができるのです。


ドローンのパフォーマンスが抱える課題

――日本でドローンによるパフォーマンスを行う場合、現状ではどのような課題が考えられそうでしょうか。

国ごとに設けられた規制をいかにクリアしてパフォーマンスを実現していくかが課題ですね。例えば日本では、1台のドローンを飛ばす際には高さの制限があります。さらに言えば、何百台ものドローンを飛ばすとなると、そもそもルール自体がないというのが現状です。私たちとしても、安全を確保しながら実現できる方法をできる限り提案していきたいと考えています。

――レギュレーションづくりからとなると、実現までの道のりがかなり遠く感じられてしまいますね。

実は今年の3月、横浜スタジアムでパフォーマンスを行ったのですが、そのときはレギュレーションがない状態から国土交通省と打ち合わせを進めて、新しいルールを策定しました。

横浜DeNAベイスターズのロゴをスタジアムの中央に

また、屋外のドローンパフォーマンスはGPSでの制御となるため、GPSが弱い場所では操作が難しいという課題もあります。日本では建物の上を飛ばしてはいけないという規制もあるため、住宅密集エリアもパフォーマンスには適しません。みなさん、人が多い都心でパフォーマンスをしたいとおっしゃるのですが、なかなか場所を確保できないという実情もあります。

そのために今は、より小型のドローンを開発しています。ステージ上だけでもパフォーマンスできる機体があれば、空にLEDで模様を描く以外の別の演出方法を提案できる可能性もあります。


ドローンによる演出はより多様化していく


――ドローンによるパフォーマンスの企画を考えるときの注意点などありますか?


基本的に、ドローンショーも他のクリエーティブと同じだと考えてもらえるといいかもしれません。どのようなメッセージを伝えたいのか、何のために実施するのか、コンセプト作りが肝になってきます。ショーにして、それで終了では意味がありません。人の心に届けることが一番の役目です。

――今後、ドローンを使って挑戦してみたいことはありますか。

屋内で行う場合、どうしても人との距離が近くなります。それを生かして、人の動きや感情と連動するようなインタラクティブな表現を作っていきたいです。例えば、ダンサーとコラボレーションしたり、観客の反応に合わせてドローンが動いたり……。

また群制御の技術を使って、ショーのようなクリエーティブ分野だけでなく、3Dマッピングの測量や農業、空路の管理などの産業分野にも拡大していければと考えています。複数台をコントロールできるからこそ、効率的に安く使えるビジネスモデルを考案中です。

ドローンのパフォーマンスも、やがてコモディティ化していくと思います。私たちも新しい可能性にどんどん挑戦していきたいですね。

SKYMAGIC Co-founder/CMO 植松 瞳さん
最先端テクノロジーによるドローンショーは、まるで意思をもったドローンによるマスゲームを見ているようです。このアルゴリズムの精度が問われる「群制御」技術を確立している会社は世界でもまだ少なく、SKYMAGIC社含めて数社しかないのが現状だそうです。
費用や厳しい規制など、導入にはまだ課題があるものの、光をまとい夜空を舞うドローンによるパフォーマンスには、人々を魅了する力があります。今後、より多様な演出表現が可能となり、空という大きな可能性を秘めた情報空間の活用が広がりそうです。
Written by: BAE編集部

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