2022-11-01

香り×AIが生み出す、購買行動
─店舗体験をアップデートするAIレコメンド

紀ノ国屋で実証された、香りと食の親和性
香りには、心を穏やかにする「癒やし」など、さまざまな効果があると言われています。

AIによる香りの言語化を進めるスタートアップ、セントマティック株式会社 代表取締役 栗栖俊治さんは、「香りは店頭販促にも効果を発揮する」と語ります。その理由、香りの最新プロモーション活用法について、伺いました。


コロナによって急激に高まった「香り」ニーズ

——まず、コロナ禍によって在宅時間が増えるなかで、「香り」と人の関係性に変化はあったのでしょうか。

前回のインタビュー でもお話ししましたが、欧米と違い、日本では「香水はつけることが当たり前」という文化はありません。しかしコロナによって、香りを求めるニーズは急激に高まりを見せました。背景にあるのは、テレワークの普及による在宅時間の増加。「おうち時間」をいかに楽しむか、ということに多くの人が関心を持つようになったからです。目的としては、テレワーク中の「気分転換」や「リラックス」が多いようです。

結果、香水の需要は急激に高まり、「香水のサブスク」の利用者が一気に7倍以上に増えたというニュースもあるなど、業種を問わず、各社はいま、あらためて「香り」に対して、さまざまな角度から注目している印象を受けています。

これは日本だけでなく、グローバルにおいても同様であり、世界的に「香り市場」は拡大傾向にあります。そもそも2020年のグローバル市場規模は約5兆円、2025年には、6兆円に到達する見込みと言われているほどの巨大市場です。加えて、香りは心にも作用するものですから、「香りの活用」は、さまざまなビジネスの拡張にもつながる有効手段であると考えています。

——「香り」ニーズの高まりは、生活者と企業、双方に「香り選び」ニーズの高まりも生み出したのではないでしょうか。

そうですね。当社の香りを言語化するAI「KAORIUM(カオリウム)」へのお問い合わせも増えています。

香りには、人それぞれ好みがありますが、ひとつずつ嗅いで確認するのは非常に大変な作業です。しかし香りが言語化できていれば、香りを頭でイメージすることができ、格段に選びやすくなります。

香りを言語化するAI「KAORIUM」の体験デバイス

たとえば最近、実店舗でも採用された、カスタマイズされた香り体験デバイス版の「KAORIUM」では、16本のボトルから「言葉」とともに「香り」を選んでいくことで、“好きな香り”選びをサポートすることが可能です。

このように、最近では「香り」だけでなく、人のセンスや感性など、定性的な領域をAIで可視化できるようになってきています。

「KAORIUM」では、最初にひとつ香りを選び、そこからさらに、求める香りに関する質問に回答していくと、おすすめのフレグランスが表示される


売上と集客、両方に寄与する「香り選び体験」

——2021年には、店舗での実証実験もされています。AIを使った香りの言語化は、購買にどれほどの影響を与えたのでしょうか。

2021年の4月、ニッチフレグランスのセレクトショップ「NOSE SHOP」(新宿店・銀座店※)で、「好きな香り選び」のサポートツールとして、実験的に「KAORIUM」を導入したところ、通常時と比較し、買上率は287%増加しました。また来店者数も通常時に比べて、137%にアップと、売上と集客、両方に寄与することができました。

※銀座店は閉店しました


KAORIUMは、膨大な数の香りの言語表現を学習したAIです。多くの人は、「自分が好きな香り」を理解していないケースが多いですから、一連の体験を通して、自分の好きな香りの軸を知り、自分に合ったフレグランスを選べたことに、新たな発見と感動があったようで、高い満足度を感じていただけました。

同時に、その感動をSNSで多くの方がシェアしてくれたことが集客につながりました。それだけ「香りを言語で選べる体験」というのは、想像以上の驚きがあるのです。またAIによるレコメンドというのも、公平性と納得感があり、「知られざる自分の一面」に出会うような感覚を生んでいるのだと思います。

これはユーザーだけでなく、販売員の方にとっても、「香りの共通言語」を持つことにつながり、お客さまとの対話を円滑にする効果も生み出しました。また、「KAORIUM」は販売員がいなくても、お客さまひとりで利用できますから、その点も安心感につながった部分もあると考えています。

最近では、香りだけでなく、味覚などをAIによって言語化する技術も生まれています。感性の言語化はこのように、さまざまな効果を生むのです。

——7月から始まったコラボイベントもTwitterを中心に非常に話題になったそうですね。

はい。今年7月からスタートしたコラボイベント「資生堂 fibona × セントマティックExperience KAORIUM 2022」は、すでにTwitterで2万弱の「いいね」、5千以上の「リツイート」を獲得しています。香りのイベントとSNSとの親和性が高いこと、そして想像以上に香り市場への注目が高まっていることを、あらためて実感しています。

10月14日(金)まで開催されていたコラボイベント「資生堂 fibona × セントマティックExperience KAORIUM 2022」は、SNSを中心に話題となった


店頭ポップでも効果を発揮した「日本酒と食のペアリング」

——香りのデジタライゼーションをさらに進化させ、「新しい買い物体験」の提供もしているそうですね。

はい。日本酒ソムリエ「KAORIUM for Sake」は、世界初、日本酒の風味を言葉で可視化するAIです。2020年にローンチし、2021年11月から1ヶ月間、紀ノ国屋 渋谷スクランブルスクエア店で実証実験を行いました。

小売店向け「KAORIUM for Sake」はタブレットにタッチしながら、質問に答えるだけで、自分好みの日本酒に出会うことができる

実は日本酒も、香水と同様、数が多く「選ぶ基準」が難しいという課題を抱えていました。ラベルやボトルデザインだけで、味まで想像することは不可能ですよね。そこに「KAORIUM for Sake」によるサポートが生まれたことで、自分好みの日本酒を容易に選ぶことができるようになり、生活者の方はもちろん、販売店の方からも「接客しやすくなった」という喜びの声をいただきました。

——紀ノ国屋での実証実験の結果を、具体的に教えてください。

この実証実験を通じて、小売のDX(デジタルトランスフォーメーション)領域のなかでも、香りのデジタライゼーションは大きな効果を生み出すことが見えてきました。

まず、店舗全体で日本酒の販売数は31%アップ、さらに日本酒の売上も38%アップしました。さらに今回は紹介する銘柄を50に絞り、「KAORIUM for Sake」を展開したところ、AIでレコメンドされた銘柄のみで見ると、販売数、売上ともに55%ほど向上しました。

加えて、今回「食先行でのレコメンド」機能を実装したことも、売り場の活性化に寄与できたと感じています。具体的には、「KAORIUM for Sake」では味わい、気分、そしてフードから日本酒を選べるようにしたのです。

「KAORIUM for Sake」では、食を起点に好みの日本酒と出会うこともできる

日本酒と食のペアリングというのは本来、専門家の領域です。しかしお客さまひとりひとりに専門家が接客することは現実的ではありません。その代替手段として、「KAORIUM for Sake」は大いに活躍することとなりました。

たとえば、スパイシーなサラミと合うとAIが判断したある銘柄は、通常時の22倍の販売数を記録。この結果は、「KAORIUM for Sake」(AI)によるレコメンドは、生活者の方に納得感のある形で届き、かつ興味・関心を刺激し、購買につなげる効果があることを明らかにしてくれたと考えています。

同時に店頭ポップでも「AIおすすめのペアリング」として、ミニサラミと合う日本酒を紹介したところ、通常の3倍以上もミニサラミが売れるという効果も生まれました。

「KAORIUM for Sake」によって、日本酒を選ぶハードルが大幅に下がり、さまざまな効果を生み出した


香りによる店舗体験のアップデートが新時代を切り拓く

——社会全体のDXが加速するなかで、小売のDXも確実に進んでいくと思います。そのなかで「KAORIUM for Sake」のようなツールは、どのような役割を担うのでしょうか。

見て、触って、選ぶ。これは店舗でしか味わえない体験です。「KAORIUM for Sake」はそこに「知る=新たな発見」を加えるものであり、選ぶ(購買)体験をアップデートさせる役割を担えると考えています。

舌で感じる味覚の9割は、嗅覚による風味と言われるほど、味わいにおける「香り」は非常に重要なものです。つまり、食と香りは非常に密接な関係にあるわけです。

香りの言語化ツールは、それだけ深いつながりを持つ「食」と「香り」をつなぐ装置であり、お客さまと店舗をつなぐ架け橋にもなりえると考えています。

——食以外にも「香り」によって、店舗体験をアップデートできると考えているジャンルがあれば、教えてください。

現在「KAORIUM」は、資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラムに採択され、共創に向けた取り組みを行っています。化粧品においても、香りによる体験のアップデートは実現できると感じています。

また「KAORIUM」を店舗だけでなく、ECやアプリでも活用し、多くのデータを取得することで、より深く顧客を知り、商品開発など、さまざまなマーケティング活動に活かすことも可能です。

「KAORIUM」をリアル、オンラインで展開することで実現する「香りマーケティング」のイメージ

今後は、取得したデータを活用した顧客体験の向上や、日本酒はもちろん、日本が誇る「食」を、香りの言語化を通じて、世界に発信するお手伝いもしていきたいと考えています。日本酒は海外でも人気が高いのですが、日本人でさえ、選ぶのに困るということは、海外の方はもっと困っているはずです。そうした、さまざまな課題の解決に幅広く貢献していきたいです。

セントマティック株式会社 代表取締役 栗栖俊治さん
以前から注目度の高かった「香りマーケティング」領域において、香りの言語化を通じて、「店舗で商品を選ぶ体験」をアップデートさせた「KAORIUM」と「KAORIUM for Sake」。店舗が“売る場”から“体験の場”へと変化するなかで、いかに顧客体験価値を高めるかは、今後も重要な視点となりそうです。
Written by: BAE編集部

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