2023-04-27

店舗の効率化と省人化を実現し、新たなビジネスを生む「遠隔接客」活用術

本当に使われて顧客体験をアップする店舗DXの新機軸
慢性的な人材不足への対応策として活用が進む遠隔接客。特にコロナ禍以降、店舗や施設内の受付等への導入が増え、DXや省人店舗の実現に貢献しています。
一方で、場所によっては「導入したものの、利用が進まない」「使い勝手が悪く、顧客体験が低下する」といった課題も顕在化しつつあるようです。

企業側・ユーザー側の双方にとって本当に役立ち、メリットを充分に発揮できる遠隔接客のポイントは、どのような点にあるのでしょうか。また今後、遠隔接客を通じた新しいサービス・ビジネスが拡大する可能性はあるのでしょうか。
遠隔接客サービス「RURA(ルーラ)」を開発・展開する、タイムリープの望月さんに伺います。


“リモート慣れ”が進み「人がいない店舗」でもOKな空気に

――遠隔接客サービスが求められる背景についてお聞きします。コロナ禍による影響は大きいでしょうか。

遠隔接客には大きく分けて「WebやEC上でのリモート接客やチャット対応」と、「リアル店舗でのモニター等を通じた受付や接客」の2種類がありますが、タイムリープでは後者であるリアル店舗で使う遠隔接客システム「RURA」の開発と提供を手掛けています。ローンチは2020年6月で、直近1年の導入数は前年の約3倍に増加しました。

店舗での遠隔接客システムの活用全体を見ても、ここ2年ほどで急拡大しています。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大と同時に広まったかというとそうでもありません。当初はむしろ新しい仕組みの導入に慎重な企業も多かったと思います。

ステイホーム期間などを経て2021年末頃から、今までにもやろうと思えば遠隔でできた、面談、営業、受付などはリモートでOK、という慣習がオンラインにもオフラインにも浸透して、企業側もリアル店舗への遠隔接客の導入に前向きになってきました。
コンビニやスーパーのセルフレジなども増えたことで、ユーザーも「カウンターにスタッフが常駐していない状態」に慣れて、受け入れられやすくもなりました。

その上で、そもそもあった店舗の省人化・効率化といった課題への対応策として、様々な業種で遠隔接客が採用され始めたという流れだと見ています。

――タイムリープが開発・提供する遠隔接客システム「RURA」は、どのようなソリューションでしょうか。

店頭に置かれたモニター越しに、遠隔地から接客できる専用システムです。スタッフ側からの声掛け、お客様側からの呼び出しなど、リモートでも対面での接客と変わらない対応が可能です。

ホテル、百貨店、ネットカフェ、スポーツジム、ゴルフスクール、不動産業、コワーキングスペース、クリニック、小売店、飲食店、葬儀場、観光案内、教育機関など様々な業種で活用が進む

少人数で複数店舗の接客が可能。カメラを通じたユーザーの手元の会員証などの確認や、画面に必要な情報を表示しながらのアテンド、入力などのリモートコントロール、翻訳による多言語対応といった機能も備えている


「人が対応する遠隔 × 現場とのリレーション」がカギ

――「RURA」が効果をあげている事例をいくつか教えてください。

=複合カフェ「スペースクリエイト自遊空間」受付
受付での会員登録、入退室、利用席の変更、精算などを遠隔接客による非対面で実施。日中は主に3名のスタッフが30店舗 の受付に対応する。セルフサービスのみの店舗では「入店方法が分からない」「スタッフを呼び出しにくい」などの理由で来店客が帰ってしまうケースもあったが、スタッフ側が顔出しで声掛けを行う遠隔接客を導入したことで利便性と顧客体験が向上し、売上が上昇

=スポーツジム「ワールドプラスジム」窓口対応


24時間・年中無休営業の直営店全68店舗に遠隔接客を導入。現場スタッフ不在時の入会や問い合わせの取りこぼしを防ぎ、どの店舗でも熟練スタッフによる高品質な接客対応が可能に。今後は窓口だけではなく、トレーニングや食事のアドバイスといった対応や、スタッフの多様な働き方の実現に遠隔接客を役立てていく考えだという

=ケイアイスター不動産 無人モデルハウス内見の遠隔対応


点在する12カ所のモデルハウス内でのアテンドや質問・相談への対応を、2名のスタッフが遠隔で実施。モデルハウス全体を自由に見てまわることができ、営業パーソンに気兼ねせず家族間の相談が行えるなど、「無人×遠隔接客」での対応が高評価を得る結果に。従来の接客方法に比べて、遠隔接客経由の成約率は2倍となった実績がある

=セレモニーホール「家族葬邸宅みつわ」休館時対応

複数の式場を運営。葬儀が行われる日はスタッフを当該式場に集める必要があり、その他の式場での見学・問い合わせ等に対応しにくかった。そこで、各式場の受付に遠隔接客を導入。機会損失がなくなり、休館時のほか、空き時間などにも営業のスペシャリストが多拠点を移動せずに飛び回れるようになった。将来的に、遠隔接客の活用を広げた無人化等も検討している

――やはり受付への導入が多いのでしょうか。うまく活用されているポイントも教えてください。

先述のネットカフェや葬儀場のほか、ホテルや百貨店など、受付やインフォメーションへの導入の割合が多くなります。
ゴルフスクールではリモートでのゴルフレッスンが行われていますし、また弁当販売店でレジ横に導入され、販売の無人化を実現しているケースもあります。業種によってオペレーションが異なるのでどのポイントでどう活用されるかは、クライアントとの相談の上決定しています。

最大のポイントは、現場のお客様の状況を映像で確認して、スタッフが顔出しで能動的に声掛けを行っていることです。
遠隔接客というと、モニターやロボットのみが設置された受動的なケースもありますが、まずタッチパネルを操作すべきなのか? 話しかけるべきなのか? 中身は人なのかAIチャットボットなのか? といったことをスムーズに理解してもらえないとお客様側のストレスになったり、コミュニケーションが発生しづらくなったりして、悪ければ無視されたり、帰られてしまう可能性もあります。
受付ロボットなどはキャッチ―ですし、それ故の魅力もありますが、PRに寄りすぎると体験が悪くなってしまうのです。

来店客の動線や用途に合わせて、カメラの数と位置や角度、呼び出しボタンを始めとする各種機能をコーディネートする必要がある

またこれもオペレーションによりますが、「遠隔接客=完全無人対応」ということでもありません。例えば、ホテルでのチェックインは遠隔で可能ですが、お客様が大きな荷物を運ばれている場合などは、現場スタッフが表に出てサポートするほうが望ましいでしょう。
対応中に混みあって列ができた場合などにどうアテンドするか、といった課題もあります。全てのケースで遠隔での完結を目指すのではなく、お客様の行動や視点、周囲の状況に応じて、現場スタッフとのやりとりや複数台のカメラを活用して、うまくリレーションを構築する必要があるのです

例えば翻訳機能のみで解決しない場合に外国語が堪能なスタッフに交代するなど、遠隔・現場を問わずそれぞれの人材を活かせる柔軟な仕組みづくりができればベストでしょう。
インバウンドへの対応の機会が増えている業種も多いと思います。全店舗で語学ができるスタッフを採用するのは難しくても、本部に常勤してもらい、必要な時に遠隔から現場と連携してもらうといった対策が可能です。

細かいポイントとしては、遠隔スタッフ側から、お客様の目線や行動、周囲の状況を含めてリアルタイムで見ながら対応していることが伝わるように話す、といったこともポイントになってきます。

――ちなみに、リアルなスタッフの顔出しと、アバターなどのキャラクターでの対応ではどのような違いがあるのでしょうか。

基本的には、人が顔を出したほうが効果は高いと考えています。理由は先にも述べた通り、モニターに現れた相手が人であることをすぐに理解してもらうことができ、対話やコミュニケーションがスムーズに進むためです。

導入企業におけるA/Bテストによるポジティブ評価は、人の顔出し対応が85%程度、アバター対応が25%程度と差が付いた

ただ、無人見学のようにお客様側が事前に遠隔接客であることを理解されている場合や、エンターテイメントを求められる場所、アバターとの対話に抵抗のない世代が多く利用される場所などについては、スムーズに活用できるケースもあります。

また、遠隔による人材活用等の視点から見ると、アバターの導入には別の可能性もあります。例えば、寝たきりの人などがアバターを通すことで抵抗なく対応できるようであれば、働く側のメリットの向上や多様性を活かした接客に繋がるでしょう。どちらの場合も、やはり導入ポイント等に応じてバランスを取ることが重要です。

「RURA」では、人工知能を用いたコンテンツサービスを開発するEmbodyMe(エンボディーミー)との提携により、人物写真と“中の人”とのモーションを連動させ、写真の人物が違和感なく喋っているように見せる「AIアバター機能」も提供。見せ方や人材活用の可能性を広げる


個室型スペースと組み合わせた新しい店舗の可能性

――遠隔接客によって、個室型(ボックス型)のワークスペースを拡張する使い方もあるそうですね。詳細を教えてください。

2022年春に、駅ナカやオフィスビルに設置されている個室型ワークスペースと遠隔接客を組み合わせて、生活関連サービスのオンライン対応を行う実証実験を3カ月間に亘って行いました。
ワークスペースに設置したタブレットから、希望するサービスを選択するか、または事前に予約をして入室することで、遠隔で相談や接客が受けられる形です。

個室型ワークスペース「CocoDesk(ココデスク)」内で「RURA」を通じた遠隔接客を実施。保険相談、法律相談受付、不動産賃貸相談、メンタルヘルスサポート、占いの5種類から利用したいサービスを選択して入室すると、該当事業の担当者に繋がる

――どのような狙いがあるのでしょうか。実証の結果についても教えてください。

クライアント側にとっては、これまでユーザーにタッチしづらかったスポットに、他業種とシェアする形で気軽に出店できる、ユーザー側にとっては、生活動線上の便利な場所で、プライバシーが保たれた空間で接客を受けられる、という新しい店舗の形を提供することが狙いです。

実証の結果、予約利用よりも初見での「今すぐ利用」を選択される方のほうが多く、「ふらっと立ち寄って相談したい」という人が予想以上に多いことや、商業施設、オフィスビル、駅ナカなど、各所でのニーズの違いなどが見えてきました。
大型店舗に出向いて直接対応を受けるプレッシャーや、オンライン相談を予約してわざわざアクセスする手間、相談内容を周囲の人に聞かれる心配等がなく、さくっと気軽に話せることがユーザーに価値として受け入れられた形です。

――企業側の店舗出店の検討やテストマーケティングなど、活用の可能性が広がりそうです。

例えば、商業施設の広いフロアに店舗を持ち続ける必要があるのかといったことを見直されていたり、コストの面から駅ナカへの出店を迷われていたり、といったケースは多いと思いますが、「個室ブース × 遠隔接客」であれば、様々なスポットに、コストを大幅に抑えながらの出店が可能です。

サービスによっては、店舗スタッフの手の空いている時間だけブースでの接客をオンにするといった活用も可能ですし、今後は、ブースのラッピングや装飾をプラスしてポップアップストアとして活用したり、ワンクリックで海外に出店したりするといった可能性も模索していきたいと考えています。

ただ、「個室に入って接客を受ける」という行動・体験が今までにはなかったものなので、何をきっかけにどう利用してもらうかについては、さらなる検証が必要です。


レストランテックとして飲食店舗などへの活用も拡大している

――飲食店舗や無人店舗等での活用も含めて、今後の遠隔接客はどのように活用されていくべきでしょうか。

小売店舗や飲食店への導入に関するお問い合わせは非常に多くいただいていますが、これも基本的なポイントと同様で、どう取り入れるかがカギになります。

例えば、アパレルショップ内に複数台の遠隔接客用のモニターを置いたとしても、アテンドから精算まで全てを無人化するのは難しいでしょう。現場に人がいたほうが柔軟に対応でき、結果的に遠隔ではコストが上回ってしまいます。
ただ、部分的なアウトソーシングや、店舗の世界観やコンセプトに合った導入の仕方であれば、コストに見合った遠隔接客のメリットが活きるはずです。

北海道グルメが人気のレストラン「KIBORI(キボリ)」では、北海道在住のスタッフによる「RURA」での遠隔接客を実施していた。“日帰り北海道旅行”をリモートで楽しむようなユーザー体験を強める狙いがあった

米国の人材派遣企業Bite Ninja(バイトニンジャ)は、レストラン内やドライブスルー店舗におけるタブレットやモニターでの遠隔オーダーに対応したソリューションを提供
※画像はBite Ninja公式Instagramより

米国や中国でも同様の傾向にありますが、これまでの省人店舗・無人店舗の仕組みではエンドユーザーの体験自体が低下してしまい、失敗に終わるケースは少なくありませんでした。

遠隔接客も一律に「これなら正解」という方法はありません。やはりコストに見合った方法で、企業側の都合のみを優先せず、ユーザーの体験を損なわない設計を重視しながら活用していく必要があります。

今後も、リモートでのより良い接客方法といったノウハウの普及や、システムの機能の拡張などをさらに進め、また新たな遠隔接客の活用法も開発しながら、企業側・ユーザー側の両方にとって役立つ遠隔接客の拡大に寄与していきます。

タイムリープ株式会社 代表取締役 望月亮輔(もちづき・りょうすけ)さん
受付モニターや注文用タブレットを設置するだけではなく、それを通じてスタッフが力を発揮できるオペレーションを構築し、現場ともうまく連携することなどが、本当に使われる遠隔接客を定着させ、店舗のDXを進めるカギとなることが分かってきました。
小売店などでも店舗のどこに遠隔接客を置き、どんな効果を狙うかがポイントになり、空間演出の一部としてやエンタメ的な活用など、効率化以外の使われ方についても模索されていきそうです。
また、個室型スペース等と遠隔接客との組み合わせについても、アイデアによってはビジネスの新機軸となるサービスが誕生する可能性は高いでしょう。
Written by: BAE編集部

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