2020-01-10

“感性”をデータ化することで、可能性や選択肢を増やす新しいサービスのカタチ

パーソナリティと都市の楽しさを繋ぐアプリ「Placy」
InstagramやTwitterなどのSNS上で、写真やハッシュタグを頼りに情報検索を行うことが当たり前になっている時代。背景には、「通常のWeb検索では見つからない、自分の感覚や好みに合うものを見つけたい」という、若い世代のインサイトがあるようです。
そこで、よりパーソナルな欲求を反映させようと、人の感性に着目したサービスが登場しています。地図情報アプリ「Placy(プレイシー)」もその一つです。自分の好きな音楽を登録すると、好みに合う飲食店や美術館などのスポットが表示され、自分だけのマップが作れるというアプリですが、一体どのような仕組みなのでしょうか。さらに、Placyは「“パーソナルな視点で街を見ること”は、都市の将来性や価値にも関係してくる」というビジョンを示しています。創業者の鈴木さんと上林さんから、詳しくお話を伺いました。


自分を表現する音楽から行きたい場所が見つかる

——「Placy」はどのようなアプリでしょうか。

鈴木――好きな音楽で、場所を探せる地図サービスです。
音楽配信サービスの「Spotify」のIDでログインすると、Placyがユーザーの音楽の好みのデータを取得します。それを基に「同じ音楽を好む人が好む場所」を導き出して表示します。

——その中から、自分の好きになれる場所が見つかる、というロジックですね。

鈴木――はい。「好きな音楽が似ている人たちは、好きな場所も似ている」というのが私たちの仮説です。実際に、人の好む音楽の特徴と性格には相関関係があることや、音楽が生育環境に影響することを証明した研究もあります。

また、多くの若者にとって、好きな音楽は自分を表現するマテリアルの一つにもなっています。ローンチ前の調査で、10~30代のユーザーに「音楽を全く聴かない」という人はいませんでした。むしろ多くの人が、SNSのプロフィールに自分の好むアーティスト名を表記することで自分がどんな人間かを伝えようとしたり、ストーリーに流れる曲を設定することで、自分のその日の気分を知らせようとしています。

2019年9月にローンチ(iOS版のみ。2020年1月現在)。「最近聴いた曲」や「今の気分に合う曲」からスポットを導き出すことも可能。表示される場所はカフェ、レストラン、バー、ショップ、アートスポット等

——音楽的な趣向と、場所的な趣向はどのように紐づけているのですか。

上林――Spotifyは膨大な音楽のデータを持っており、曲ごとに、アコースティック感、踊りやすさ、エナジー、ライブ感、スピーチ感、明るさ、BPM、曲の長さ、調性等の独自のパラメーターを設定して、データベース化しています。
これを、再生回数などその他のデータや、私たちの有するスポットのデータと照らし合わせて、類似性などから条件に合うものをレコメンド表示しています。時々「自分の好みのBGMを流しているお店を探せるアプリ」と思われることがありますが、そうではないんです。

「音楽の好み」というフィルターを通して街を見るイメージ。初めて降りた駅や旅先でも、好みに合うスポットが地図上に浮かび上がる。現在は東京23区対応だが、随時拡大予定

——スポットに関するデータ等はどのように集めているのでしょうか。

上林――スポットのデータについては、現状は私たちが独自に収集しています。

鈴木――「使ってみたら、おすすめされた店の中に以前から好きでよく行く店があった」といった感想も多く、狙いが外れていないことを確認していますが、データが増えるほどサジェストの数や精度が上がり、よりパーソナルな体験が可能になります。データについては、引き続き充実させていきたいと考えています。

インバウンドの観光ガイドとしても活用できる

——そもそも、“音楽の好み”という、感覚や感性に近いものが軸になっているのは、一体なぜでしょうか。

鈴木――私たちのサービスの設計が、「客観的な指標ではなく、音楽などの感性に基づいた主観的な指標から、自分が本当に好きな場所を見つけられるようにしたい」という発想からスタートしているからです。

私は大学院で都市設計や開発に必要な都市シミュレーションを研究していましたが、あるときその指標が利便性、犯罪率、労働生産性など、客観的な部分に限られていることに気が付き、疑問を抱くようになりました。
街を定義したり、表現しようとするとき、歩いたときの雰囲気や、すれ違う人の何気ない様子、感じられる匂いなど、主観的で数値化しにくい部分にも重要なものがあるんじゃないかと感じたんです。

そこで、“文化”や“感性”などにもパラメーターを持たせて、それらの要素を含めた形で街を見ることができないかと考えました。
結果的に、聴く人の感性が反映されやすく、数値化も可能な「音楽」をパラメーターとして採用したのです。

——感性に“刺さる”サジェストを得られれば、行動の可能性や選択肢が大きく広がりそうです。

上林――はい。そもそも、私たちは「自分の好きな場所」を意外と知りません。例えば、渋谷の街は複雑性と多様性の宝庫ですが、初めて駅を降りて、ノーヒントで自分好みのお店を見つけるのは難しいと思います。
有名店が自分の好みかはわかりませんし、チェーン店に入るだけなら、わざわざ渋谷に来る意味には繋がりにくいでしょう。どの街に出かけても同じ店・似たような店に入るだけになってしまうと、人はそのうち出かける理由を失ってしまうかもしれません。
しかし、主観からお店を見つけ出せれば、どの街でももっとパーソナルな過ごし方、本当に好きな過ごし方ができます。

Placy Founder CEO 鈴木綜真(すずき・そうま)さん
Placy Co-Founder 上林悠也(かんばやし・ゆうや)さん
鈴木――同様のことが、インバウンドにも言えるでしょう。外国人観光客の多くはガイドブック等を頼りに店探しをしていますが、情報のソースが偏りがちで、同じような店に集まっています。東京だけでも星の数ほど面白い店があるのに、その魅力を伝えきれていません。
しかし、観光客も好みの音楽からスポットがおすすめされれば「まだ行ったことはないが、自分の好みに合うであろうお店や場所」をたくさん見つけ出せます。しかも、音楽は多くの国に共通するため、言語に頼る必要もありません。2020年オリンピック・パラリンピックの際に東京に訪れる外国人にも、Placyで素敵な場所を見つけてもらいたいと思っています。


感性のデータ化から、よりパーソナルな欲求に応える

——「主観的に街を見ることは、街づくりにも関わる」という点についても研究をされているそうですね。こちらについても詳しく教えてください。

鈴木――はい。私たちのサービスは、「都市の均質化」という課題の解決にも貢献できると考えています。
「都市の均質化」とは何かというと、例えば、多くの場所で経済的効率が優先され、必然的にチェーン店がいい場所・目立つ場所に配置されて、駅前などの印象が似てくるという現象が起きています。また、検索結果やグルメアプリの得点など、客観的な指標が重視されると、優等生的な店ばかりが増えてしまうという傾向にもあります。これらを、個人の主観的な視点を反映させることで、緩和したいと考えているんです。

上林――多様性や複雑性は、街の魅力や価値に通じています。西荻窪とか、赤羽とか、人形町とか、清澄白河とか、人が集まる面白い街には、その街らしい、面白いスポットがたくさんありますよね。
誰にでも、「自分にとって大事な店は、人にはあまり教えたくない」といった気持ちもあるでしょう。でも、出し惜しみしている間に、うっかりするとつぶれてしまったりすることがあります。Placyのような仕組みを利用して、そういう店を見つけやすくすることができれば、その街に特有の場所が生き残りやすくなります。
個性的なお店が消えて、どの街も同じになってしまうと、人はそのつまらなさに後から気が付くんです。

鈴木――具体的には、私たちのデータを使って街の雰囲気を定量化することで、土地の価値と相関関係にあることを示すといった研究や取り組みを強化したいと思っています。
「その土地らしい面白いお店が並ぶストリートがある影響で、土地の値段が上がり、人も集まる」といったことが立証されれば、土地、お店、生活者のどちらにとってもメリットになるはずです。
実際に、ディベロッパーや自治体からも私たちのサービスに基づく視点には多くの関心が寄せられています。

急速に移り変わる渋谷の街をアーカイブしたイメージ動画

——これからの課題や目標などについて教えてください。

上林――Placyの仕組みに関する部分ですが、今後はSpotify以外の音楽サービスとの連携や、お店側などから音楽プレイリストの提供を受けて反映させることなども考えています。店の雰囲気を音楽で表現できれば、それを好む人が集まる理由に繋がり、PRやブランディングに活用できるでしょう。

アプリの機能としては、英語版対応、新しい場所の追加機能、ユーザー同士のコミュニケーション機能、周囲のイベントからのポップアップ機能などの実装を随時進めていきたいと考えています。また、例えばアートフェスティバルなど、街中でイベントが開催される際に、期間中にそれと連動したマップを表示するといった構想もあります。

自分の好きな匂い、ルック、本などからもスポットを探せる日が来るかもしれない

鈴木――引き続き「好きな音楽から好きな場所が見つかる」という基本をしっかりと伝えながら、まずはアプリのユーザー数や利用エリアを拡大していきます。テクノロジーを使って感性をデータ化することは、多様性の実現や価値創造等に通じる様々なサービスの立脚点になります。将来的には、音楽のほかに、好きな本や映画、アートなどからも、好きな場所を見つけられるような仕組みも実現したいですね。
今後も、空間を感取することで、ユーザーと街に新しい意味や価値を提供することに取り組んでいきたいと思います。

多様化するパーソナリティに応じた、モノ、コト、情報の提供が求められる時代です。それに応じるには、ユーザーの“好み”や“自分らしさ”、“今の気分”など、目に見えない感覚的な部分や感性に着目していく必要があるでしょう。
Placyが語る通り、感覚、感性、また主観的な視線等は、データや数値化することは難しいものですが、今後のニーズやインサイトを読み解き、ユーザーメリットを提供する上で、重要なカギの一つになっていることは間違いありません。
Written by: BAE編集部

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