2022-11-15

犬猫の食や医療をアップデートするペットテックが急成長。データ活用の可能性も拡大

ペットライフ全体に寄り添う、次世代型のフェーズへ
順調に拡大を続ける国内のペット市場。牽引するのは、「ペットテック(Pet ×Technology)」です。

留守番中の見守りカメラ、バイタルを計測するデバイス、カスタマイズできるフレッシュフードなど、新たなテクノロジーやサービスを活かして愛犬・愛猫の健康や暮らしをアップデートするペットテック。2022年6月からは販売・繁殖業者に犬と猫に対するマイクロチップの装着も義務付けられ、ペット市場と周辺のテクノロジーに、ますます注目が集まりそうです。

今後のペットテック分野における成長のポイント、また可能性について、フレッシュペットフードのサブスクサービスやペットライフメディアを展開する、PETOKOTO(ペトコト)の大久保さんにお話を伺います。


ペットの“家族化”が進み、年間の支出額が上昇

——右肩上がりの伸長を続けるペット関連市場。市場規模はどのくらいあるのでしょうか。

世界のペット市場は、2021年で約2,230億ドル(約25兆円)に上る巨大産業で、毎年年次3.5~4%で成長しています(※)
そのうち、世界のペットテック市場は2021年で55億ドル(約6,000億円)、CAGR(年平均成長率)は22%となっています(※)

日本のペットテック市場は2018年度から2023年度までCAGR46.7%で推移し、2018年度の7億4,000万円から、2023年には小売り金額ベースで50億3,000万円まで拡大するとの予測があります(※※)。

※  Global Market Insights「Pet Tech Market」2021年5月
※※ 矢野経済研究所「ペットテック市場規模推移」2019年11月


——ここ最近のペットテックの分野では、どのようなビジネスやサービスが展開されているのでしょうか。

市場の伸びが大きい米国と日本の状況をまとめたところ、下記のようになりました。

フード、ヘルスケア、医療、暮らし、EC、メディアなど、展開されるサービスは幅広い。PETOKOTOは現在、フレッシュフード、メディア、マッチングと複数のサービスを手掛けている
※PETOKOTO「ペットテック業界カオスマップ2022(日本版/海外版)」2022年2月

欧米では10年ほど前からペットテックが拡大し始めましたが、日本はここ数年でようやく流れが来たという印象です。
米国でペット専門のECやオンライン診療サービスなどを展開するスタートアップ企業が上場するなどの成功例が出始めたこと、また、「ペット×テクノロジー」の有用性が周知され、資金調達などの環境が整ってきたことが理由になっていると思います。

なお、世界で市場規模が最も大きいのは米国ですが、ブラジルや、中国を中心に、インド、ベトナムなど、アジアでも急成長しています。

——これらの国で市場が伸びている理由はどこにあるのでしょうか。
基本的には、経済上の変化が関わっています。経済的に中間層と呼ばれる人々が増えると、ペットの飼育頭数が増え、どんどん犬や猫の家族化、人間化が進んでくるという流れができてくるのです。

ペットの家族化が進むほど、「健康管理をしっかりしたい」「安心安全なものを食べさせたい」「お世話の際の利便性を高めたい」「一緒にアクティビティを楽しみたい」といった気持ちが増し、支出が伸びていくことが、市場成長の理由になっています。

飼い主が犬にかける年間支出は約35万円(前年比102.1%)、猫では約17万円(前年比102.7%)に上るという。また、約3割の飼い主が「美容院」「医療費」は自分よりもペットに多くかけているという調査結果もある
※アニコム損害保険株式会社「ペットにかける年間支出調査」2022年3月

——どのような人々(飼い主)がペットテックを利用しているのでしょうか。

基本的に、全ての飼い主がユーザーになり得ます。ただ、特にどのようなサービスが求められるかは、ペットの種類や飼い主の環境によって違ってきます。

例えば、米国では大型犬が多く猫は少ないため、首輪などに装着する犬用のヘルスケアデバイスや、獣医師によるオンライン診療などが人気です。ペットシッターを探すアプリの利用も進んでいます。

対して、日本国内では小型犬と猫が多いという特徴があります。小型犬はヘルスケアデバイスの装着などが難しい場合もあり、普及は緩やかですが、見守りカメラや、猫用のデバイス、猫用のIoTトイレなどの利用は拡大しています。
ちなみに、中国でも小型犬と猫の飼育頭数が増加しています。

EC、フードのサブスクサービス、メディアなどは、国を問わず全ての飼い主に求められるサービスと言えるでしょう。

——ちなみに、PETOKOTO FOODSのユーザーに多いのはどのような人々でしょうか。

幅広く利用されていますが、30~50代で、パートナーと暮らし犬を飼うDINKS層などが中心になっています。

——「コロナ禍によって、国内でのペットの数は増えている」とも言われますが、この点は市場に影響を与えていますか。

確かに、コロナ禍でペットを飼い始める人は増えましたが、ここ数年犬の飼育頭数は減少、猫は増加に転じています。今後長期的に見ると、人口全体の減少や、少子高齢化に伴って国内全体でのペットの飼育頭数は減少するでしょう。

ただ、先述の通り一頭あたりにかけるコストが伸びていること、また、ステイホームの影響などで、ペットを飼える(飼いやすい)環境が整ってきたことは、市場の拡大を支えると考えられます。

例えば、「ペットを飼いたくても飼えない」人の阻害要因になっていた、「賃貸物件のルールでペット不可」「オフィスでの勤務時間が長い」といった、ソフト、ハード両面の課題の多くが解消されてきました。
この点は、ペットビジネスの今後の可能性にも繋がると思います。


EC、フード、ヘルスケアなど多角的に展開する企業が台頭

——支出についてもう少し教えてください。飼い主たちは具体的にどのようなサービスやアイテムにお金をかけているのでしょうか。

国内だと、犬に関しては、健康面――特に、病気の治療費や予防費が増えています。これには、犬の高齢化が進んでいることも影響しています。

また、家族化・人間化に伴って、フードやサプリメントの購入費や、トリミングなどのケアや美容にかけるコストも増加傾向にあります。特に、新鮮で安全なフレッシュフードを提供するサービスは世界的にトレンド化しています。

その他のサービス関連だと、ドッグラン施設は減っていますが、愛犬と泊まれる宿などは増えて、旅行や交通費にかけるコストは増加しています。

PETOKOTO FOODSは、犬種や体重に合わせてカスタムした愛犬用のフードをサブスクで提供している。食材の安全性やサステナビリティなどにも配慮した生産を行っている

猫については、そもそも一緒に旅行をしたりすることは難しく、家族化は犬よりも遅れていますが、猫がかかりやすい腎臓病の予防などに繋がるデバイスなどの販売数が伸びています。
猫は犬ほど種類や体格に違いがないこともあり、サービスの汎用性が高く、定着しやすいようです。
(画像左)首輪型のヘルスチェック用デバイス「Catlog(キャトログ)」、(画像右)尿量や体重の変化を記録するトイレタイプのヘルスチェック用デバイス「Toletta(トレッタ)」などが人気を集めている

——欧米で注目されているペットテックの事例などを教えてください。

欧米でも、愛犬のヘルスケア関連、フード関連が伸びています。特に、オンライン診療、DNA(遺伝子)検査、ウェアラブルデバイスの三つは、注目度が高いと思います。

ペットの次世代型医療ケアを手掛ける米国の「Modern Animal(モダンアニマル)」。会員は24時間365日いつでもペットの健康相談やオンラインでの遠隔医療を受けられる
犬の遺伝子治療を行うボストンの動物病院が始めた「Embark(エンバーク)」。DNA検査に基づく病気の治療や予防のプランを提案する

Modern Animalは、オンライン診療だけではなく、提携する獣医師の紹介なども行っています。また、これまではかかってみないとわからなかったペットの医療費を事前に明示するなど、獣医療にまつわる課題の解決や、飼い主側、獣医師側双方の効率化の向上にも取り組んでいることがポイントです。

DNA検査を含めて、ヘルスケアデータを病気の予防や治療、また保険などに繋げていく取り組みは増えていくはずです。ペットは自らの体調や健康状態を説明できないだけに、データに基づくしっかりとしたメディカルケアはさらに求められていくでしょう。

ウェアラブルデバイスについては、GPSトラッキング、Wi-Fiコネクト、アクティビティトラッキング&管理の機能をもつタイプが一般的です。

優れたデザイン性で人気の「Fi(フィー)」。ヘルスケアやアクティビティのトラッキングのほか、睡眠トラッキングの機能などを備えている

犬用ウェアラブルデバイスのパイオニア「Whistle(ホイッスル)」。基本的な機能に加え、犬の異常行動(舐めすぎ、ひっかきすぎなど)を検知する機能などを備えている
その他、人気のサービスとしては、米国最大のペット専門ECモール「Chewy(チューイー)」などが挙げられます。
ペットの種類やタイプごとのレコメンドによる最適化や、サブスクによるユーザーの囲い込みといった施策がヒットして、ここ数年で急成長しました。医薬品などの取り扱いにも取り組み、最近では獣医師との連携サービス「Connect With a Vet」をスタートさせています。
犬用おもちゃのサブスクサービスで人気の「BarkBox(バークボックス)」も、ドッグフードの「Bark Eats(バークイーツ)」、デンタルケアグッズの「Bark Bright(バークブライト)」などへと扱いを広げ、D2Cブランドとして拡大しています。

エンタテインメント性を重視したクリエーティブでも話題の「Bark」。SNSなどを通じたユーザーとのコミュニケーションにも積極的に取り組む

——ちなみに、成長しているビジネスの共通点などはあるでしょうか。

ペット市場全体に言えることですが、“透明性”はサービス化に繋がる大きなポイントだと考えています。

例えば、私たちが展開しているフレッシュフードは、原材料の情報や工場での生産などを積極的に公開しています。
Modern Animalによる、動物病院の診療費を明示する取り組みなどにも共通しますが、今まではっきりしていなかった部分にテックやサービスを掛け合わせて、透明性や可視化に取り組むことが、飼い主に信頼され、選ばれる理由に繋がっていくと思います。


ペットの一生を支える包括的プラットフォームへ

——例えば、「ヘルスケア×EC」など、データを連携する取り組みなどは進んでいるのでしょうか。

ペットテックにおいても、データ活用の流れは加速している状況です。
例で言うと、ChewyはECの購買データとヘルスケアデータを掛け合わせて、双方により最適な提案をしていく、といったことを行っています。
また、犬用の首輪型デバイスを提供するWhistleは、収集したトラッキングデータを動物病院との共同研究に役立てるプロジェクトなどを展開しています。

ビッグデータ化と解析にも、期待が寄せられています。例えばですが、犬用・猫用デバイスの位置情報データを、愛犬家・愛猫家向けの販促や商圏開発に繋げたり、飼い主同士のコミュニケーションを生むツールの開発に役立てたり、といったことも可能かもしれません。

——今後のペットテックは、どのように拡大していくでしょうか。

犬や猫との暮らしは、人の一生を15年ほどに集約した体験です。ライフスタイルにまつわる多くの点で関わり、効率的にLTVを最大化していくことがビジネス面でのポイントになってくると思います。
ここ数年で、ペット飼育可能であることをアピールする物件や、ペットとの生活をより快適にする建築や家具などを開発する企業なども増えています。
健康保険等も細分化されていますし、終活サービスの普及に伴って、ペット信託、遺言信託(相続発生時に、ペットの世話等に関する取り決めを遂行する生前契約)なども登場しています。

愛犬家の視点を重視した旅行企画など、宿泊、観光、交通インフラなどの業種が、ペットフレンドリーであることへの可能性を見出し始めていることも、ペットテックの成長にとって追い風になっていると思います。
例えば、北九州を拠点とする航空会社のスターフライヤーは2022年3月から、国内で初の「機内ペット同伴サービス」を開始するとして、大変話題になりました。

動物にアレルギーがある人との棲み分けや配慮などは必要だが、犬猫OKの住まいや移動手段といった選択肢が増えることは、様々な業界にとってバリューの一つになりそうだ

私たちも2022年の3月から、保護犬猫マッチングサイト「OMUSUBI」、フレッシュペットフード「PETOKOTO FOODS」、ペットライフメディア「PETOKOTO」のデータ、サービスを一つのブランドにまとめて展開していきます。
犬猫それぞれに最適なペットライフを提案することを最終目標に、点と点をつなぎながら、点を増やしていくようなイメージです。

出会い、情報、食事、健康管理、家具、住居、旅行、保険などのデータをプラットフォーム上で一元化することで、より豊かな体験と、シームレスなサービスに繋げる

今後も様々な業種の企業と協力してどんどんシナジーを生み、たくさんの犬や猫たちに家族品質の暮らしを届けられるよう、力を尽くしていきたいと思います。
株式会社PETOKOTO 代表取締役社長 大久保泰介(おおくぼ・たいすけ)さん & コルクさん
今までは、ユニークで革新的なIoTデバイスなどで注目されてきたペットテック。
ここ最近では、データを通じて各種のサービスやデバイスを連携した、D2Cブランドやプラットフォームが登場し、犬や猫それぞれに最適化された形で暮らしを支える、次世代型のビジネスへと成長しつつあります。

ペットと飼い主のライフスタイル全般を考え、どのような点に寄り添っていくかを考えること、また、透明性やサステナビリティに対する取り組みに関心を寄せる飼い主が多いといった点なども、ペットテックに関わるビジネスに取り組む際の、ポイントになりそうです。
Written by: BAE編集部

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