2023-05-09

人々の行動を可視化して集客や購買へとつなげる、屋内人流分析のポテンシャル

大規模複合街区の実証実験から見えてきた来場者の動き
リテール業界におけるビッグデータ活用が推進される中、GPSやIoT機器などで取得・分析された人流データにもまた、熱い視線が注がれています。

2022年4月、住友不動産商業マネジメント株式会社が運営する商業施設「有明ガーデン」にて、施設内で取得された人流データを活用した屋内人流分析の共同実証実験が実施されました。屋内における人々の動きを可視化したデータから何が読み取れるのか。さまざまな示唆が得られたという有明ガーデンにおける屋内人流分析、その共同実証実験に参画したLocationMind株式会社の取締役 伊草雅幸さんと、コンサルタント 五十嵐達郎さんにお話を伺いました。


人流データをAIで分析し、価値ある示唆を得る

――御社の提供されている位置情報ソリューションについて教えていただけますか。

伊草――弊社は2019年に、空間情報科学の世界的な第一人者である東京大学の柴崎亮介先生の研究室が丸々スピンアウトしたベンチャー企業となります。

展開している主な事業は、位置情報AIと、衛星セキュリティの2つ。位置情報AIというのは、いわゆる「人流分析」のことですね。私どもが主力としている製品「LocationMind x Pop」は、GPS位置情報ポイントデータを分析できるクラウドサービスなのですが、人口密度のデータや、人がどこから来て、どこに行くのかという移動のデータ、その移動が徒歩なのか、電車なのか、車なのかといった移動手段のデータを、お客様に提供することが可能です。GPSによる広域の人流分析は、商圏分析であるとか、交通広告のための分析であるとか、あとは都市開発、あるいは災害対策といった用途などに活用いただいています。


伊草――また私どもは、今回の有明ガーデンさんでの実証実験のように、GPSの電波が届かない地下や、大きな施設内など、IoT機器を使った閉域空間での計測も行っています。広域も閉域も、すべての空間を網羅的にカバーできるというのも弊社の特徴です。

――「人流分析」ということですが、例えばどのような分析ができるのでしょうか。

伊草――わかりやすい例でご説明すると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大リスクの分析です。感染者数と人流データをある一定期間AIに学習させて作ったモデルを使うことで、数週間後の陽性患者数の推移を高い精度で予測することが可能になります。

LocationMind社による新型コロナウイルス感染症陽性患者数の予測データ。赤が実際の患者数、青が3週間の予測数値

伊草――我々が得意としているのは、計測して終わりではなく、取得したさまざまなデータを、AIを使って分析、類推していくことです。小売・流通の分野においても同様です。例えば、施設内で催事を開いたらお店の売り上げが何%上がりましたとなった時、従来ですと、本当に催事の効果で売り上げが上がったのか、という厳密な効果検証まではできませんでした。


伊草――ところが、IoT機器を用いて計測した人流データと、売り上げデータを掛け合わせて分析することで、相関性の有無が見えてくる。つまり、成功体験を、再現性をもって捉えることができるというわけです。


データによって裏付けられたイベントの誘導効果

――有明ガーデンでの共同実証実験の狙いについて教えてください。

伊草――有明ガーデンさんは、2020年にオープンした大規模複合街区です。敷地内に、約200店の大型モール、劇場型ホールや劇団四季専用劇場、温浴施設、ホテル、タワーマンションを擁する、非常に魅力的な施設が揃っています。 “イベントスペースを活用した賑わいの創出”という街区コンセプトで、屋外イベントを中心に通年さまざまなイベントを開催していますが、イベント目的で来たお客様をモール内に誘導し、売り上げにつなげる点において課題を感じていたようです。


伊草――劇場や温浴施設もありますし、屋外イベントの効果により、遠方からのお客様も含め、有明ガーデンに足を運ぶ人は多いのですが、商業施設としてはモールにも足を運んでほしい。そこで、イベントなど、とある目的で訪れたお客様がどれくらいモールに足を運んで、フロアに滞在して、購買につながったかということを人流データで解き明かす、ということテーマに共同実証実験がスタートしました。

五十嵐――今回の実証実験では、カメラセンサーと、Wi-Fiセンサーを利用しました。カメラセンサーは年齢や性別などの属性分析に使いますが、主軸となるのはWi-Fiセンサーです。施設内のいろいろな場所に設置したWi-Fiセンサーが、スマートフォンから発信される電波(プローブリクエスト)をキャッチする。これによって、来場者のボリューム感と、人の移動を計測することができるんです。もちろん1つのIDごとに紐づけて、階層の移動を追うことも可能です。

――実証実験によって、どのようなことがわかりましたか?

五十嵐――2つの実証実験を行ったのですが、まず屋外で実施したアウトドアイベント「ARIAKE親子キャンプFESTA」に参加した人が、どれだけモールに、特にイベントと関連の深いスポーツショップに足を運んでいるか、コンバージョンレートを出してみました。すると、イベントに参加している人と、していない人では、コンバージョンレートに約9.8倍の差がありました。しかも、イベントからショップのあるフロアに来ている人の中で、スポーツショップに行く人の割合は88.8%で、多くの人がイベントからお店に直行していることがわかり、関連するイベントを実施することでテナントへの誘導効果があることが証明されました。

「ARIAKE親子キャンプFESTA」の様子

五十嵐――もうひとつが、モールの4階にある「キッズスペース」(キッズ有明ガーデン)という無料イベントスペースに関する実証実験です。ここの利用頻度を調べてみると、リピーター客によって「キッズスペース」がかなり利用されていることがわかりました。ここから推測できるのは、近隣に住む子ども連れの方が、平日やってきてキッズ有明ガーデンに遊びに行かせる、それが日常になっている方が多くいらっしゃるのだろうということです。


五十嵐――以上はプレスリリースで発表している内容になりますが、他にも興味深い示唆がさまざまに得られています。

例えば、有明ガーデンさんの課題感としてあったのが、平日の午前中になかなか人が来ないということ。その時間帯の利用者は、1階のスーパーにお買い物に来る近隣のお客様がメインでした。

検証してわかったのが、スーパーの利用客は3階にある100円ショップの利用率が高い。つまり普段使いのお買い物でモールを訪れている方は、100円ショップもついでに利用しているということです。そういったことから、例えば効果的な告知物の設置などの施策を検討するわけです。

もうひとつ、1階のスーパーと5階のフードコートとの相関性を調べてみると、スーパーを利用している方は、フードコードの利用率が低いことがわかりました。同様に、毎日スーパーに来るようなリピーター客に、いかにフードコートを利用してもらうか、検討する必要も出てくるでしょう。

訪れる階と売上単価の相関を見ていくと、1階や、メインの入り口のある2階だけで行動を済ませてしまう人は、3階以上の階層での売り上げに貢献しにくいという結果がでる一方、3階のファッション売り場を訪れる人は、3階だけでなく5階のフードコートの売り上げにも貢献しているという傾向が表れています。

――利用客の流れから課題を読み解いてそこに対応する施策を打てたら、施設全体の売り上げ向上にもつながっていきそうですね。

五十嵐――はい。このように、訪れた階層、お店のジャンル、滞在時間などの人流データに、売り上げや、天候などのデータを掛け合わせて分析をしていくことで、売り上げ予測を立てたり、顧客理解を深めたり、効果的な施策を立案したりといったことにつながる、深い示唆を得ることができます。また、人流分析によって得られた知見は、他の地域での出店戦略などにも生かせます


より効果的な検証につながる、屋内人流分析

――今回の有明ガーデンさんでの実証実験のような屋内人流分析は、特にリテールの分野では、どのような可能性を秘めていると思われますか。

伊草――古くから、商圏分析ということは行われていましたが、それは5年に一度の国勢調査のデータなどを用いた、大まかなものでした。しかし、スマートフォンが普及し、誰もがGPSを通じて便利なサービスを享受できるようになったことで、商圏分析においても、どの場所に、どのような人がいるかというデータを、広域でリアルタイムに捕捉できるようになりました。

位置情報をセンシティブなデータだと認識して「位置情報の提供」をオフにする方もいますが、一方でMapアプリの利用は当たり前になっていますし、位置情報を使ったゲームや位置情報でクーポンを受け取れるサービスなども浸透してきており、私どもの観測では位置情報の点群データは年々増え、精度が高まる傾向にあります。また、屋内での人流データの計測も、エッジAIを用いたカメラセンサーの普及によって、運用がしやすくなってきています。

昨今、マーケティング指標としてROIが重視されてきていますが、これまでは、催事に集約できた、売り上げにつながったとなったとしても、その要因がわからないため、投資に対する効果が見えづらかった。ところが屋内人流分析によって、複合的なデータからPDCAを回せるようになる、費用対効果の検証ができる。こういった点も、リテーラーにとっては大きなポテンシャルになっていくと考えています。

LocationMind株式会社 取締役 伊草雅幸さん/LocationMind株式会社 コンサルタント 五十嵐達郎さん
ビーコンやWi-Fiを用いた行動データの収集や、クーポンなどの情報配信は以前より行われていましたが、センシング技術の向上や、AIによるデータ処理・分析によって、位置情報、人流データのマーケティング活用はより一層進んでいくでしょう。

重要なのは、屋内人流分析は人々の行動を可視化するだけでなく、その行動から意味を読み取り、データに基づいた効果検証や施策の検討などが可能になるということ。漠然とした経験則や直感に頼るのではなく、より実証的な道筋をたどって打ち手を考えられるようになることは、リテール分野にとって追い風となる流れと言えそうです。

Written by: BAE編集部

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