2023-01-13

デジタル音声広告「ブランデッドポッドキャスト」と「ホストリード」の効果

オトナルに聞く音声AD施策のポイント
コロナ禍を経て、多くの人々のライフスタイルに家事や通勤の際の“ながら聴き”が定着。音声コンテンツを配信するサービスの拡大とともに、デジタル音声広告も勢いを増しています。

2025年の音声広告市場規模は420億円に上るという予測もあり(※)、メディアだけではなく、企業やブランドによる情報配信の手法としても、音声コンテンツが注目されています。

企業による音声コンテンツ活用や、効果的な伝え方、またデジタル音声広告の効果計測の手法等を中心に、昨今の音声市場の潮流をオトナルの八木さんに伺います。
※ 2020年3月デジタルインファクトによる


ワイヤレスイヤフォンが普及し、ポッドキャストの視聴が定着

―――音声コンテンツの台頭とともに急拡大するデジタル音声広告(オーディオアド)。市場規模としてはどのくらいの金額に上るのでしょうか。

先行する米国のデジタル音声広告の媒体収入を見ると、2019年には前年比21%増の約27億ドル、2020年には前年比13%増の約30億ドルへと成長しています(※)

また2021年の調査を見ると、WEB、動画、SNS等の全てのインターネット広告のうち、どのフォーマットよりも成長率が高かったのがデジタル音声広告であり、前年比57.9%増という数字が出ています(※※)
※  2021年7月「Internet advertising revenue report 2020 full year results」IAB/PwC
※※ 2022年4月「Internet advertising revenue report 2021 full year results」IAB/PwC


米国のデジタル音声広告市場の媒体収入(インターネット上の媒体が広告を掲載して得る収益)の成長を示したグラフ
※ IAB/PwC調べによる 画像はオトナル作成

――国内での音声市場は、どのように拡大しているのでしょうか。

ラジオの番組のサイマル放送・タイムフリー放送が聞けるradiko(ラジコ)などに加えて、Spotify、Amazon、Googleなどの大手プラットフォームが音声コンテンツの配信に参入し、ポッドキャスト(※)やオーディオブックの利用率は上昇傾向にあります。
※音声コンテンツをインターネット上に公開する仕組み。多くのプラットフォームによって採用され、主流な配信方法となっている

例えば、以前は音楽配信のみを行っていたSpotifyは現在、音声番組を多数配信しており、総合音声プラットフォームへと成長しました。
Spotifyの2021年第2四半期決算発表での音声広告の売上高は627%と大幅に伸長し、日本国内の月間アクティブユーザー数も2021年9月時点で1.5倍となる約960万人に上っています。

IAB/PwCによる2021年の調査では、音声広告の売上比率のうち約85%をモバイルデバイスが占めているというデータも。モバイルからの「ながら聴き」が急増している

プラットフォームの成長に伴って、多くの質の高い音声番組が制作されるようになりました。ワイヤレスイヤフォンの進化と販売数の拡大も、リスナーを増やす要因の一つになっています。

移動中、仕事中などに一日中 “ながら聴き” をしている人も珍しくなくなり、YouTube動画などの「音声だけ聴く」ユーザーも増えました。このような流れを受けて、今後YouTubeからもポッドキャストを配信する計画があるようです。

――音声コンテンツのユーザーとはどのような人々でしょうか。共通する傾向などはありますか。

私たちが朝日新聞と共同で行ったポッドキャストに関する調査では、国内での月間アクティブユーザー数は約1,000万人、20~69歳のインターネットユーザーのうち、14.4%に上り、そのうちの約半数が20~30代という結果が出ました。
また、国内のポッドキャストユーザーは興味・関心事の幅が広く、多くの情報や商品やサービスに関心を寄せていることもわかりました。非ユーザーと比べると、特にビジネス、音楽、社会問題に強い関心を持っているようです。

米国でもポッドキャストユーザーは増加を続けており、2021年では12歳以上のインターネットユーザーの41%に相当するという数字が出ています。


ブランド想起、関心・購買意欲、広告理解の向上に効く

――企業によるオウンドメディアとしての音声コンテンツ「ブランデッドポッドキャスト」の配信も増加しているそうですね。現状と理由などを教えてください。

ポッドキャストのランキングサイトを運営するChartable(チャータブル)によれば、ブランデッドポッドキャストの数は年々増加しており、2021年では世界中で8,000番組以上が配信されています(※)。先述のような音声市場の盛り上がりを背景に、2021年頃からは国内でも配信数が増加してきました。
※2021年5月「The Chartable Blog」

音声コンテンツはマス広告と比べて出稿コストが低く、認知目的、獲得目的のどちらにも貢献できることが、配信数増加のポイントになっています。
英国BBCによる調査では、ブランデッドポッドキャストのへの接触者は、テレビCMへの接触者の基準値よりも、企業ブランドに対するエンゲージメントが高いことが示されています。

Spotify音声広告の分析調査によると、音声広告の接触は通常のディスプレイ広告への接触に比べて、ブランド想起、関心・購買意欲、広告理解が向上するという結果が出ている
※ 2017年「Nielsen Media Lab Study」より 画像はオトナル作成

テレビコマーシャルの接触者の基準値と比べて、ブランデッドポッドキャストの接触者の値のほうが、記憶、エンゲージメント、感情強度(感情移入)などの項目で高い数値が示された 
※ 2019年9月「BBC AUDIO:ACTIVATED2019」より 画像はオトナル作成

――主にどんな企業がどんな目的でブランデッドポッドキャストの配信を行っているのでしょうか。

有名ブランド、消費財メーカー、SaaSビジネス企業など、サイズも業種も様々です。B to B企業による番組や、百貨店などがキャンペーン限定で配信する例などもあります。

目的としては、新規の顧客を開拓するためのブランディング、既存顧客に向けたロイヤルティ向上、リクルーティングなどが中心になっています。いわゆる販促と採用ですが、広報や顧客コミュニティの一環といった目的で展開する企業も増えています。

エンゲージメント力が高い音声コンテンツとブランディングとは相性が良く、企業やブランドへの良い印象を持ってくれる人を増やすことに向いているのです。

2021年頃から、企業がオウンドメディアとして配信するポッドキャストが急増。トライアルで始めた企業が本格的に参入するなどの傾向も見られ、業種、予算ともに拡大している

音声によるブランディングへの有効性を示す、興味深い調査があります。
ブランデッドポッドキャストの番組内で「innovative(革新的)」というワードを12回使用したところ、「そのブランドは革新的である」というイメージが6%上昇したそうです(※)。リスナーは、ポッドキャストで耳にした言葉から、ブランドに対する連想を生み出すということです。
※ 2019年9月「BBC AUDIO:ACTIVATED2019」より

当たり前のことのように思えますが、リスナーにイメージを違和感なく知ってもらい、広く浸透させるというのは、テキストや動画には案外難しいことでしょう。

ただ、「今日配信して、来週の売上を増加させたい」といった短期的な目的なら、音声コンテンツがベストとは言えません。中長期的な視点でのコンバージョン、またライフタイムバリューなどを鑑みた施策として取り組むことが望ましいでしょう。
音声広告をうまく発信すれば、リスナーの記憶に長く残ることも可能です。子どもの頃に聞いたラジオCMのフレーズを、今も覚えている人は少なくないはずです。

サッポロビールによるブランデッドポッドキャスト。CMに登場した有名人などによるトークセッションを展開。サッポロ生ビール黒ラベルの会員サイトと連動したキャンペーン等も実施された

2016年から続くメルカリによるポッドキャスト。社内や関連企業メンバーが仕事や会社について、カジュアルなトークを展開。採用や会社関連の最新ニュースを発信

アドビによるポッドキャスト。ユーザー及びto B向けの、やや専門的な内容。最新のデジタルマーケティングやCXMへの理解を深めるための体験学習型のコンテンツを提供する


最強の愛され音声プロモーション「ホストリード広告」とは

――音声広告の配信手法として、「ホストリード広告」がトレンドになっているそうですが、どのような内容でしょうか。

音声番組中でパーソナリティが広告を読み上げる手法のことです。日本でもラジオ広告などで行われてきた「インフォマーシャル」という手法ですが、グローバルのポッドキャストを中心としたデジタル音声広告の世界では「ホストリード広告」と呼ばれます。2021年の米国のポッドキャスト内の広告のうち、56%以上がホストリード広告であるという報告があります。

ポイントは「文脈」です。番組のホストであるパーソナリティ自身の言葉と番組の内容やテイストに沿って紹介されることで、リスナーは商材への親しみを感じ、より深く理解できることが特徴で、アナウンサーなどが読み上げる広告と比べて、エンゲージメントが高いことがわかっています。

アナウンサーなどが読み上げる一般的な音声広告とホストリード広告の効果を比較すると、購買意向などが平均で50%以上高くなるという調査結果がある
※ 2020年10月「Host-Read Podcast Ads Pack a Brand Recall Punch」Nielsenより 画像はオトナル作成

言わば「音声 × インフルエンサーマーケティング」ですが、SNS等でのインフルエンサーマーケティングと比べて、背景や詳細など深いところまで理解してもらうことで買われる商材に向いています。バイラルなどはやや起こりにくいものの、長くリスナーの心に残る効果が期待できます。

――どのような事例があるのでしょうか。

例えば、海戦ゲーム「World of Warships」を、ゲーム番組の他にも、歴史解説等をテーマにした番組内でも紹介したところ、それまで展開されてきたYouTubeやSpotifyの広告ではリーチできなかった層にも認知が広がりました。

B to Bでも効果がありました。企業のDXやマーケティングテクノロジーを一つにまとめたアドビのクラウド基盤「Adobe Experience Cloud」の音声広告事例です。

この商材を、『ビジネスウォーズ』というポッドキャスト番組内で、パーソナリティの春風亭一之輔さんの読み上げによるホストリード広告で紹介したところ、汎用的な音声CMを流したその他の番組に比べてサイト訪問率が3倍高かったという結果が現れました。

ポッドキャスター(ポッドキャスト配信のパーソナリティ)は、SNSやYoutube等を運用している場合も多く、彼らのファンコミュニティと連動した成果が得られる場合も少なくありません。

オトナルでは、国内でもランキング上位のポッドキャスト内でのホストリード広告を展開する。番組の持ち味と商材の特性を生かしたマッチングがポイント
※ 画像はオトナル公式サイト ポッドキャスタープロモーションページより

――番組の長さなどについて、より多くの人に聞いてもらうためのコツはあるでしょうか。

コンテンツによる可処分時間の奪い合いが激化して、動画や音声の短尺化が進んでいます。ブランデッドポッドキャストなら、15~20分程度の番組を週1など高頻度でリリースしたほうがいいと思います。
ホストがいる人気番組なら2時間でも聴かれますが、たいていの人は30分くらいで「長い」と感じるでしょう。

ちなみに音声コンテンツは「何かしながら学ぶ」「難しいことをわかりやすく伝える」ことに向いており、実際にそのような内容のポッドキャストがランキングの上位に来る傾向にあります。この点を踏まえたコンテンツづくりを行っている配信者は多いと思います。

――パーソナリティの選定のポイントはありますか?

これについては、目的によると思います。リクルーティングがメインであれば、社内の人間が喋ったほうが雰囲気や企業風土が伝わるでしょうし、メーカーが商材をユーザーに広くアピールするのであれば、ブランドを体現する有名人の力を借りたほうがいいかもしれません。

ただ、コア商品についての開発秘話を社内の人が喋ったら抜群に面白かった、というケースもありえます。人的リソースがあるかを含めて、慎重に検討すべきでしょう。テーマに対して「熱がある人」はけっこう喋れるし、伝わると思います。




日時やエリアによる出し分けやリターゲティングで効果を最大化

――ブランデッドポッドキャストやホストリード広告の展開後の効果検証については、どのような方法があるのでしょうか。

アドテクノロジーの進化によって多様な効果計測が可能になり、結果に応じたリターゲティングやクリエーティブの調整など、PDCAも回しやすくなっています。

効果計測は目的別に数パターンがありますが、音声広告に接触した後、サイト訪問や購買に至るまでのルートを遡って計測し、成果への貢献度を計測する「アトリビューション分析」などは重視すべきでしょう。

基本的に、音声広告はWEB広告と違って、その場でクリックされる(直接コンバージョンする)ことはありませんが、広告を聞いて時間が経ってから別ルートから検索され、購入されているケースなどは多いため、コンバージョンまでの経路を遡れる分析は重要です。

米国では、「パーソナリティが番組内でキーワードを読み上げて、WEBからの注文時にそれを入力してもらう」といった計測方法もよく採用されています。一見地味な手法ですが、確実なデータを取ることができます。

アトリビューション分析の仕組み。加えて、音声広告に接触したリスナー(ユーザー)に対して、WEBサイト上のバナー広告などを表示してコンバージョンを誘うリターゲティング等も可能
※画像はオトナル作成資料より


消費財や大規模なナショナルクライアントのブランディング等においては、音声広告に接触した人としていない人の、認知や購買の差異を分析する検証法がよく活用されます。
ポッドキャストではなく、radikoやSpotifyといったデータが取れる媒体に限られますが、かなり正確に広告接触を判別できます。

WEBや店頭で実際に購入されたか、金額の変化はあったかといった検証が可能に。配信エリアやコンテンツの内容を変えて検証するなど、ABテストのような形でも活用できる
※画像はオトナル作成資料より


アトリビューション分析のような間接コンバージョン計測、ブランドリフト調査、購買リフト調査以外にも、KPIに合わせて、ターゲットへのリーチ数、SNSでの反響などの調査が可能です。

位置情報や属性に関するデータの獲得や活用が難しくなっているという課題はありますが、日時、曜日、エリア、天気・気温、デバイス、またリターゲティング、動画広告との連携、どのプラットフォームのどの番組で展開するかという出し分けと組み合わせて効果を最大化していけるのが、デジタル音声広告のポイントです。

――音声広告の活用は、今後どのように広がっていくでしょうか。

音声メディアはイヤフォンなどを通じて聴覚という五感の一つに、1 to 1で、専有的かつダイレクトにリーチできるメディアです。情報過多の時代において貴重なメディア体験を生み、使い方しだいでは非常に高い没入感を創出できる強みがあります。

例えば、好きなタレントやアニメのキャラクターに、耳元でささやかれるようなコンテンツを想像してください。まるで目を閉じれば隣にその人がいるような感覚に陥るはずです。

これはホストリード広告が、音声広告の中でも特に効果が高いこととも関係しています。身近に感じられるパーソナリティが伝える内容を「聴く」ことで、まるで知り合いとの会話の中で紹介されるような、独自の体験を創ることができるわけです。

周辺のアドテクノロジーやデータ活用も進歩していますが、実はバナーや動画といった他の広告フォーマットに比べて、広告接触者の「感情」と強いむすびつきを生む手法だということが、デジタル音声広告のもっとも評価されるべき点でしょう。

このような音声メディアならではの強みや活用方法が理解されることで、デジタル音声広告の活用は、さらに増えていくことが予想されます。
実際に、米国ではデジタル音声広告は、リスティング、ディスプレイやバナー、SNS、動画広告とは別の、第5のデジタル広告フォーマットとして定義されつつあります。

とりわけ、ブランドへの愛着やユーザーとの繋がりなどを高めるための施策やキャンペーンには、当たり前に組み込まれる手法になるでしょう。今後も、デジタル音声広告の未来にぜひ注目してください。

株式会社オトナル 代表取締役 八木太亮(やぎ・たいすけ)さん
動画広告やWEB広告よりもユーザーに受け入れられやすく、ブランディングやファンづくりの効果が高いことで知られる音声広告。ブランデッドポッドキャストやホストリード広告のような、“深く親しみやすく伝わる手法”を活用した音声広告に取り組む企業は、今後も増えていきそうです。
動画、WEB、屋外広告等と組み合わせてシナジーを生む手法についても、様々なバリエーションが登場するでしょう。

Written by: BAE編集部

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