2020-02-12

デジタルオーディオアドが切り拓く、プログラマティック広告と音声文化の新時代

リターゲティングや位置情報で耳と心に届く仕掛けに
ボイステックの普及とともに注目されている「オーディオアド(デジタル音声広告)」。移動中やスマホを見ながらでも邪魔にならず、耳から情報を伝えられることから、暮らしになじみやすく、ブランディングや認知向上に役立つメリットが買われています。
オーディオアド市場の概況から、そのメリットを最大限に生かす手法、マーケティング活用へのポイント、市場の将来性や展望などについて、オーディオアドを展開する株式会社オトナルの代表取締役社長 八木さんにお話を伺いました。


米国音声市場はPodcastを中心に急拡大

——デジタル音声広告の現在の市場について教えてください。

2018年の米国での市場規模は約22億5,100万ドル(約2,400億円)に上ります。

代理店への手数料などを抜いた広告収入額を表したデータ。成長率も60%以上と順調
※ IAB internet advertising revenue report 2016~2018 full year resultsよりオトナル社作成

一方、国内では、2、3年以内に250~300億円程度になると考えられています。米国は日本のラジオ市場規模と比較すると10倍強程度になるため、オーディオアドの聴取ニーズも日本は米国の10分の1くらいが適当だと予想されるのです。

——そもそもオーディオアドとはどのような領域でしょうか。

「オーディオアド」または「デジタル音声広告」と呼ばれる、“テクノロジーを使って音声広告を配信する領域”で、現状の広告配信先は次のように大別できます。

① サブスクで音楽を配信する「Spotify(スポティファイ)」などの音声や音楽アプリによるオンデマンドストリーミング配信
② 「radiko(ラジコ)」などで配信される地上波ラジオ局によるインターネット上でのサイマル放送や、ネットラジオ局によるライブ配信
③ Podcast(ポッドキャスト)による配信

国内で今人気なのは、オンデマンドで聴きたいときに聴ける①のSpotifyや②のradiko、米国市場をけん引しているのは、③のPodcastです。
Podcastは良質なコンテンツが増えて、配信者のマネタイズが可能になったことで国内でも人気が上昇しつつあります。
配信システムが整ってチャネルが増え、Google検索に対応してスマートスピーカーでも呼び出せるようになったことから、探しやすさ・聴きやすさが各段に上がりました。

動画などは、多くの場合プラットフォームごとにコンテンツを配信する必要があるが、PodcastはRSSで複数に自動配信される
※オトナル社作成資料より

——市場の伸びにはスマートスピーカー等のデバイスの普及も関わっているでしょうか。

長期的には関係していると思います。Adobeの調査では、2019年4月の時点で米国のスマートスピーカーの普及率は約36%と発表されています。国民の3人に1人が持っている計算ですから、今後は「各部屋に1台」の時代になり、音声コンテンツはさらに生活に浸透するでしょう。年齢別で見ると現状は35~54歳の所有率が高く、特にミレニアル世代の男性は、他の世代や女性に比べてスマートスピーカーを所有する傾向が強いようです。

日本のスマートスピーカーは米国より発売が遅かったこともあって、普及率は2018年12月の調査で約6%前後ですが、GAFAが競り合っている状況ですし、家電量販店にも普及していますから、今後も順調に伸びていくでしょう。
また、日本ではAppleのAirPodsや首にかけるタイプのワイヤレスイヤホンなど、その他のデバイスの進化・普及が進んでいます。移動中にスマホで聴く文化が着実に定着してきたことは、国内の音声市場にとって追い風になっています。


精緻なターゲティングでマーケティングに使える

——通勤中や運転、家事などを行いながらの「ながら聴き」の定着が、オーディオアドを展開する上では大きなメリットに繋がりました。その他、オーディオアドにはどのようなメリットがあるでしょうか。

「ながら聴き」以外にも、聴覚への訴求による認知拡大、共感、ブランディングへの効果が高いこと、動画のようにスキップしにくいため完全聴取率が高いこと、ユーザーが能動的に聴く傾向にあり、広告としての押しつけがましさや不快さを感じにくいことなど、様々なメリットがあります。

実際に、Spotifyのデジタルオーディオアドでは、ネット上の一般的なディスプレイ広告に比べて、ブランド想起率が24%、広告理解率が28%上昇し、関心や購買意向は2倍になったというデータ(※)があります。(※)Spotify Media Guideによる

——オーディオアドもターゲティングと効果測定が可能ですね。

はい。radikoやSpotifyではファーストパーティデータとサードパーティーデータを活用することで、年齢、性別、地域などの一般的な属性や、時間帯、天気などのほか、聴いている音楽のジャンルや、プレイリストの傾向、ユーザーが置かれているシチュエーション、好きなパーソナリティーやタレントのカラー等に基づいた精緻なターゲティングが可能です。

Spotifyオーディオアドの例。多彩なセグメントターゲティングによる広告配信が可能。「運動中で活動的な気分の人」といったシチュエーションターゲティングもできる
※オトナル社資料より

——WEBと連動させたリターゲティングもできるそうですね。
はい。私たちもその点に注目して、オーディオアドとWEB等のディスプレイ広告を組み合わせたリターゲティングを展開しています。これは米国ではポッドキャスト広告の活用方法として積極的に実施されている手法です。

仕組みとしては、まずターゲティングしたユーザーに対して、オーディオアドを展開します。例えば、都内在住の20代女性がSpotifyを聴くときに、Aの広告を流します。次に、その人がサイトやアプリを見ているときに、同じAのバナーや動画によって接触をはかります。
音による認知が済んだ状態でWEBやスマホで広告を見てもらい、申し込みや購入などのCVに繋げやすくする狙いです。

認知度や意識を上げた状態で、WEBから再度接触することで、ターゲットのアクションを誘発する

一般的なディスプレイ広告のクリックレートを上げるのが難しいことは、周知の通りです。しかし、オーディオアドを先行させたリターゲティングでは、0.06%のクリックレートが約5倍になったという事例があります。

例えばですが、サウンドロゴで商品名等をアピールして、数時間後ないし数日後に、パッケージと同じカラーのバナーを見てもらうといったクリエーティブを展開すれば、耳を起点にユーザーの心を動かす施策に繋がるのではないでしょうか。

——ターゲットに応じてクリエーティブを変える発想も重要ですね。

はい。例えば、昨年ある邦画の宣伝がSpotify上で展開されて、話題になりました。バイノーラル録音した主役のセリフ等を中心にした音声広告や、それに合わせたバナー画像や動画をコアターゲットである10~20代に向けて展開したところ、一般的なSpotifyのオーディオアドに比べて2倍のクリックレートを獲得できたそうです。ヘッドホンやイヤホンで聴いたときに、セリフが四方八方から聴こえるような臨場感で、ユーザーの興味を強く惹いたのでしょう。

もちろん、高品質のクリエーティブにのみこだわるのではなく、DCO(クリエーティブの自動出し分け)を活用してターゲットに合わせて呼びかけを変える(「通期中の方、お疲れさまです」「○○な人への耳より情報」など)、メッセージより先に音楽を聴いてもらうなど、メッセージ、BGM、構成、SE、サウンドステッカー(ジングル)、ASMR(立体音響)などの内容や組み合わせを変えて出し分けるだけでも、バリエーションを展開できます。

株式会社オトナル 代表取締役社長 八木太亮(やぎ・たいすけ)さん


音声のデジタル化で聴取文化は今後も豊かに

——デジタルオーディオアドは今後どのように進化していくでしょうか。

例えば、位置情報データと掛け合わせて駅前の飲食店の広告をオーディオアドを流し、ターゲティングしたユーザーがその場所に実際に行ったかどうかを位置情報データで取得し、滞在時間を計測して、地点コンバージョンを調べることなども可能です。
「東京・新橋駅周辺が職場の30代男性」といったセグメントも、すでに展開が可能ですし、IPなどのデータを掛け合わせて、より精緻なターゲティングやDCO(クリエーティブの自動出し分け)も実現できます。

ほかにも、育児に関する独自のデータをDMPから連携し、子供のいるユーザー層にむけて音声広告展開するといったターゲティングも出来ます。また、まだ精度は低いものの、何で聴いて何で申し込んだかといった、クロスデバイス上での効果検証も可能です。
私たちとしても、オーディオアドのKPIを計測するツールやそれに基づいた成果の計測ツールの展開などを模索中です。プログラマティック広告としてのポテンシャルにぜひ注目してください。

——市場の伸びも、今後も順調と見ていいでしょうか。

日本の広告市場は全体で6兆5千億円に上るという試算がありますが、実はこのうち、音声広告(ラジオ)という区分では2%しかありません。
しかし、動画、リスティング、アフィリエイト、バナーなどによって展開されるインターネット広告費は26.9%を占めています。近年の動画広告のシェアが急成長したように、音声広告もオーディオアドに進化したことでデジタルのジャンルに踏襲され、この割合を増やす大きな要素になるはずです。

※ 2019年2月28日「2018年 日本の広告費」電通による
——今後の課題や目標を教えてください。

一つは、オーディオアド全体の広告性能を上げること。リターゲティングや位置情報との掛け合わせ、効果指標を始め、様々な施策を展開していきたいと思います。
もう一つは、日本の聴取文化をより豊かにすることです。音声コンテンツはソシャゲや動画に負けないパワーがあります。デジタル化が進めば、もっとメディアとして成長できるでしょう。
海外でもラジオ局のデジタル化が進み、既存のマスの復活や、若いファンの増加など、面白い潮流が見えてきました。私たちも“聴く人”を増やす取り組みで、音声文化の発展に貢献していきたいと思います。

既存の広告形態からプログラマティック広告へと進化を遂げ、オンライン上で急拡大しているオーディオアド。ターゲットの絞り込みが可能で、マーケティングの仕掛けとしても活用できることから、今後、デジタル広告としての存在感をさらに増していきそうです。効果を最適化するには、音声広告・音声コンテンツならではの手法と魅力を理解した上で、ターゲティングに合わせたクリエーティブやDMPを展開する必要があるでしょう。
Written by: BAE編集部

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