2018-09-07

「広告×オノマトペ」の親和性、その向き・不向きとは?

【対談】オノマトペ研究者・小野正弘×コピーライター 森岡祐二
私たちは普段、意識することなく、自然に擬音・擬態語(オノマトペ)を使っています。「“さらさら”と流れる」「“ぐるぐる”回る」など、日常会話はオノマトペであふれています。また最近では、会話だけでなく、広告のキャッチコピーや商品名にまで、オノマトペを見ることができます。

今回は、電通テック コピーライター・森岡祐二さんが「なぜオノマトペは広告との親和性が高いのか」を探るべく、明治大学文学部教授でオノマトペ研究者・小野正弘教授にお話を聞きました。

※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


オノマトペの強みは「親しみやすさ」と「記憶に残りやすさ」

左・明治大学文学部教授でオノマトペ研究者の小野正弘教授/右・電通テック コピーライター森岡祐二さん

森岡――まずは、「オノマトペ」の起源について教えてください。

小野――オノマトペとは、「きらり」「ドキドキ」といった擬音・擬態語のことです。その歴史は古く、日本語の場合は文献として最初に確認できるものだと、最古の歴史書『古事記』(712年)ではすでに、オノマトペが登場しています。あくまでこれは文献ベースの話ですから、その存在自体は、はるか昔からあったと考えられています。

森岡――現代的な印象ですが、歴史は古いんですね。ちなみに小野教授は、11年前に『日本語オノマトペ辞典』(小学館)を出版されています。そこには約4500ものオノマトペが掲載されていますが、これは世界的に見ても多いのでしょうか?

小野――そうですね、多い方です。外国語にもオノマトペはあるのですが、欧米は少ないですね。アジアだと、韓国は日本以上に多いともいわれていますが、正確な数は不明です。どちらにせよ、「日本がオノマトペの豊富な国」であることに変わりはありません。そのおかげで、日本語の持つ表現は、繊細でより幅広いものになっているんです。


森岡――オノマトペは何かを説明する際に、とても便利だなと思います。上手く言葉にできなくても、何となくニュアンスを伝えることができますから。ただ、英訳するのは難しそうですね。

小野――それはまさにそうで、「オノマトペでも、特に擬態語に関しては、訳すのが難しい」といわれています。

森岡――となると、日本語のオノマトペは日本人が共有できる特別な表現とも言えそうですね。ですがオノマトペは、数も多いですし、どこからどこまでがオノマトペなのか、わからなくなりますね(苦笑)。

小野――なるほど。でしたら、オノマトペかどうか判断するひとつの方法として、「同じ言葉を2回繰り返しているかどうか」は、指標になるかもしれません。

森岡――「さらさら」とか「キラキラ」とか?

小野――はい。だから2回繰り返すと、新しい言葉も“オノマトペっぽい”雰囲気になるんです。

森岡――それは面白いですね。「きゃりーぱみゅぱみゅ」なんて、まさに“オノマトペっぽい”名前ですよね。

小野――はい。さらに日本語の「ぱ行」の音を持つオノマトペ言葉には、「ぱんぱん」や「ぴちぴち」などもそうですが、軽快な明るさがあります。だから彼女の名前は「オノマトペ感×明るさ」のある名前と言えます。また楽曲も、そのイメージに沿ったものになっていますよね。

森岡――たしかにそうですね。ただ同時に、「大人の名前」という感じはしないかもしれません。

小野――それはオノマトペをいちばん使うのが子どもだからでしょうね。小さい子どもは車のことを「ブーブー」と言いますよね。まずは擬音で物を覚えていくわけです。それは小学生になっても同様で、小学1年生の教科書や、低学年向けの絵本などには、嵐のようにオノマトペが使われています(笑)。

森岡――そう考えると、「きゃりーぱみゅぱみゅ」が若い世代に支持された理由のひとつに、ネーミングのよさも関係していそうですね。

小野――はい、決して無関係ではないでしょうね。オノマトペの持つ「親しみやすさ」と「記憶に残りやすさ」、両方の効果が上手く発揮されたケースだと思います。

森岡――だからオノマトペは、広告領域でもよく使われているんですね。実際オノマトペを使ったいいコピーには、「親しみやすさ」と「記憶に残りやすさ」がありますし、さらに「価値の訴求」まで実現できている印象があります。

小野――そうですね。またオノマトペは、親しみやすいだけでなく、身近な存在でもあります。マンガやSNSなどにもよく登場しますし、日常のさまざまなシーンで遭遇する表現です。もはや私たちの生活と切り離せないと言っても過言ではないと思います。


広告領域における「オノマトペ」の生かし方


森岡――以前から、広告領域でオノマトペは使われてきていますが、学校案内とか、わりと真面目な分野では、あまり使われていない印象があります。オノマトペに向き・不向きはあるのでしょうか?

小野――そうですね。オノマトペは、臨場感を演出できるので「記憶に残りやすい」という特徴があるのですが、一方で、実は抽象性の高い表現でもあるんです。だから、たとえば本学の「個を強くする大学」というキャッチコピーにオノマトペを加えて、「個を“きっちり”と強くする大学」とすると、途端に訳のわからない印象になってしまうんです。

森岡――たしかに“きっちり強くする”って何だ? という気分になります。オノマトペには余白があるから、それが生きるケースとそうでないケースがあるんですね。

小野――はい。その余白やぼんやりした印象が、大学というアカデミズムの漂う場所にはマッチしないわけですね。

森岡――他にもオノマトペが使いづらい業種はありますか?

小野――製造業とも親和性は高くないですね。たとえば、ねじやボルトのメーカーのキャッチコピーが「いつかどこかに」だとして、ここにオノマトペを加えて「いつかどこかに“ぐるぐる”と」なんてすると、途端にビジネス色が薄れますよね。そういった意味では、BtoBのキャッチコピー全般、オノマトペとの相性はよくないかもしれません。


森岡――個人的には、広告領域だと、「食」との相性はいいイメージがあります。

小野――そうですね。「食」と「コスメ」、この2ジャンルはオノマトペをよく使っています。食べ物だと“ふわトロ”とか、化粧品だと“しっとり”という表現をよく見かけますよね。

森岡――ちなみに、小野教授が、最近気になったキャッチコピーはありますか?

小野――アイスクリームのCMコピー、「パリパリ meets メロメロ」です。

森岡――あー、あのCMですね。オノマトペが主役のコピーですよね。

小野――はい。実はこのコピー、アイスクリームだなんて、一言も言っていないんです。なのに、何となく言いたいことはわかるし、妙に気になる。

森岡――わかります(笑)。

小野――これまで多かった、表現の補足として使うのではなく、オノマトペだけで商品を表現するなんて、面白い取り組みだなと思いました。

森岡――似たような事例を思い出しました。40年以上前に西村佳也さんというコピーライターが書いた「さくさくさく、ぱちん。」という非常に有名なコピーがあるんです。裁断用のはさみが置かれた白黒写真に、そのコピーが添えられているんですけど、これウールの広告なんです。「いいウール生地は、はさみで切ると音が違う」という内容だったと思いますが、布をはさみで裁断するあの心地よさが、コピーから見事に伝わってくるんです。これもオノマトペのみで、見事に商品のよさを表現した好例だと思います。

小野――なるほど。


購買意欲を掻き立てる魔法の言葉・オノマトペ


森岡――食品分野は、キャッチコピーだけでなく、ネーミングにもオノマトペがよく使われていますよね。一時期、パンの名前に「もちもち」というオノマトペが使われる商品がどっと増えた、なんてこともありましたね。

小野――はい。他に有名なところだと「オー・ザック」とか「ガリガリ君」とかですね。オノマトペが入ることで、食感のイメージがしやすくなりますから、それがプラスに作用しているんでしょうね。個人的には「ガリガリ君」はすごいなと感じています。

森岡――すごい?

小野――(ガリガリ食べられる)商品の特徴と同時に、実際に食べたときの爽快感も届けているじゃないですか。オノマトペ研究者として、大いに注目しています。

森岡――同商品が生まれたのは1981年です。当時からオノマトペの効果を期待して、ネーミングに利用したのでしょうか?

小野――私は“オノマトペを利用しようという意識なしに付けたもの”だと思っています。しかしそれが時代を経て、再評価を受けることになったのではないでしょうか。当時はネーミングにオノマトペを使うなんてトレンドはなかったのに、あとから潮流が生まれたことで「ガリガリ君」は先駆者になったわけです。

森岡――たしかにそうですね。

小野――いまは価値がなくても、ときを経て、価値が生まれる、または高まるケースもある。その代表例が「ガリガリ君」なんです。

森岡――たしかに、昭和の商品ネーミングには、語尾に「君」や「さん」をつけたものが多く見られます。いま見ると、ちょっと古い感じもするんです。たとえば掃除機だと「おそうじ君」とか。ただ「ガリガリ君」からは、本来あるはずのその“古さ”がそこまで感じられないのがすごい。宣伝キャラクターやパッケージデザインの努力もあるのでしょうが、ひょっとするとそこにも、オノマトペの持つポップな語感が、ひと役買っているのかもしれませんね。

小野――それはあるでしょうね。

森岡――さらに気が付けば、時代があとから追いついてきてパイオニアになってしまうなんて、実は「ガリガリ君」って、すごい名前だったんですね。

小野――はい、私もそう思います。

森岡――広告は相手の心に入り込み、購買を促すものですから、商品なら「食べたい」がゴールになります。オノマトペは、その欲を掻き立ててくれる効果がありますよね。

小野――そうですね、まさに“魔法の言葉”ですよ。ただ、広告的な引っかかりを作るという意味では、やっぱり「ギリギリ」なところがいちばん面白い。

森岡――ギリギリの面白さって、たしかにありますよね。その線引きは非常に曖昧で、難しく、クリエーターとしては悩ましいところですが……(苦笑)。

小野――受け手は勝手なことを言いますから、作り手は大変ですよね(笑)。

森岡――いえいえ。でもそれが同時に、仕事のやりがいや面白さだったりもしますから。

小野――でしょうね。


森岡――こうやってお話を聞くと、また、違った感覚や目線で、オノマトペのコピーが考えられそうです。

小野――それはうれしいですね。言語は、人が人である証明とも言えるものです。オノマトペには、人類の歴史が詰まっています。ぜひ宝探しをするように、適切なオノマトペを見つけてみてください。オノマトペで表現すると、今日はとても“わくわく”する時間を過ごすことができました。ありがとうございました。

森岡――こちらこそ、大変勉強になりました。日本語はオノマトペが豊富な言語だということでしたが、それは外国語に比べるとそれだけ表現の幅が広いということ。そういった意味では、日本のコピーは、複雑でやりがいがあって面白いなと思いました。本日は、ありがとうございました。

森岡 裕二
聞き手/株式会社電通テック コピーライター
国際空港を中心に展開する訪日外国人向けのインバウンド施策「JAPANESE CAPSULE TOY GACHA‐あまった小銭をオモチャに!」など、玩具・通信・飲料を中心にさまざまな分野を担当。自社開発コンテンツとして、ガチャブランド「パンダの穴」やデザイン雑貨「mikke」で、オリジナル商品の企画も行っている。

Written by: BAE編集部

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