2018-08-03

五味弘文プロデューサーに聞く!「テクノロジー×お化け屋敷」による新しい体験

「超・怨霊座敷」に見る、体験を増幅するコンテンツとは
夏の定番「お化け屋敷」は、誰もが一度は体験したことのあるエンターテインメントではないでしょうか。

ルートの途中で、人間や人形を使った幽霊が登場し、参加者を驚かせるという仕掛け上、アナログな部分が多かったお化け屋敷にもテクノロジーが活用され始め、4月にオープンした「怨霊座敷」(東京ドームシティ アトラクションズ)では、チームラボによるデジタルコンテンツ(映像演出)が重要な役目を果たしています。

株式会社オフィスバーン 代表取締役でお化け屋敷プロデューサーの五味弘文さんに、アナログが中心のお化け屋敷にデジタルを導入した意図や今後の可能性、そして、人々がお化け屋敷に惹かれる理由ついてお話を聞きました。


記憶と感覚を刺激する仕掛けで体験価値を高める

お化け屋敷プロデューサー 五味弘文さん/「怨霊座敷」「超・怨霊座敷」の他、国内にある話題のお化け屋敷を多く手掛けた仕掛け人

――五味さんは1992年から、東京ドームシティ アトラクションズのお化け屋敷すべてをプロデュースしています。今回、4月からオープンしている『怨霊座敷』(現在は9月24日(月)まで『超・怨霊座敷』として営業中)では、“靴を脱ぐ”というルールがとても斬新ですね。

五味─ありがとうございます。基本的にお化け屋敷というのは、視覚と聴覚を刺激するエンターテインメントですが、そこに“触覚”も加えたいと考え、「靴を脱ぐ」という要素を加えました。

それにより、非日常感と不安感が高まり、さらにお化け屋敷の世界に入りやすくなる効果を生み出しています。
アナログ的な仕掛けですが、より体感を深めるという意味では大きなポイントです。

――新しいことを取り入れる、という点では、今回テクノロジー集団「チームラボ」とタッグを組んだ理由もそこにあるのでしょうか?

五味─そうですね。彼らとコラボレーションすることで、お化け屋敷の新たな可能性を感じられると思いました。「チームラボ」と聞くと、最新テクノロジーを活用したデジタルコンテンツの制作チームとして知られていますが、チームラボの人たちというのは、非常に“体験”を大切にされています。

彼らの作品は“見るだけ”でなく、“体験できる”ものが多いですよね。今回も、「お化け屋敷体験を、より高めるためのコンテンツを制作する」という前提に立ち、映像を考案してくれました。

詳しい内容はぜひ体験して確かめてほしいと思いますが、随所に登場する彼らが手掛けた映像は、目を奪われる美しさです。その美しさとお化け屋敷の恐ろしさが掛け合わさったことで、新しいエンターテインメントの可能性を感じられるものになっていると思います。

――映像表現(デジタル)をお化け屋敷に加える、というトライをした感想を教えてください。

五味─今回のコラボレーションは、個人的に、とても刺激になりました。私はお化け屋敷プロデューサーですから、どうしても「どうやって悲鳴を上げさせよう」という視点で物事を考えてしまいますが、チームラボのメンバーは「参加者がより世界観に没入できるように」という視点で映像演出を考えてくれました。

一番盛り上がるところから逆算して構成を組み立てることが多いお化け屋敷ですが、映像を上手く使うことで、想像力を刺激し記憶に残すことが出来き、より参加者の没入感をさらに高めることが出来たと思います。

​その映像も洗練されているため、「お化け屋敷で美しいものに出会う」という不思議な体験が実現しました。ただ、お客様は忙しいと思います。驚いたり、感動したりの連続ですから(笑)。


いつの時代でも人が惹かれる理由は「予想外のニーズ」

――デジタル時代の現代。アナログな要素も強い、お化け屋敷に来るユーザーの思考とは、どのようなものだとお考えでしょうか?

五味─現在はスマートフォンさえあれば、さまざまなコンテンツが気軽に楽しめる時代です。またネットを使えば、自宅でショッピングもできますし、家の中で多くのことができる。だからこそ、外に出る体験が以前よりも「特別なもの」に変わりました。

そうした背景によって、近年ではお客様の求めるハードルも上がっている印象があります。やはり日常的に多くのコンテンツに触れていますから、“普通”のものは受けない。さまざまな形で“驚きたい”というニーズがあるのだと感じます。たとえば、昔なら絶対にNGだった「水をかけられる」という演出があっても、現在なら受け入れられるような気がしています。

私はこれを「予想外のニーズ」と呼んでいます。家にいれば、安全に楽しく過ごすことができますが、それではつまらない。お化け屋敷はその逆で「何が起こるかわからない」面白さがあります。そこにニーズがあるのだと考えています。

で、実際に体験してみると、声を出したりするせいか、どこかスッキリした気分になれる。またそのなかで、悲鳴を上げるなど、普段の自分ではない自分に出会うこともできます。そうやって自分を解放しながら、リフレッシュできるのがお化け屋敷ならではの魅力でもあります。

これは科学的にも証明されていて、「人々は不安や緊張が緩和されたときにある種の“快楽”を覚える性質がある」んです。その快楽が、「怖い体験をするのに、なぜかお化け屋敷に足を運びたくなる」理由とも言えるかもしれません。

アトラクション内では、本物と見紛うほど精巧な人形とアナログな仕掛け、そしてチームラボによる美しい映像表現に出会うことができる

――今後、お化け屋敷にもテクノロジーが融合することで、想像性や体験価値も向上しそうですね。

五味─はい。現代は、映像コンテンツがあふれている時代ですよね。その壁をひとつ乗り越え、新しい表現として「VR」があると思っています。それでもやはり、お化け屋敷というコンテンツにおいては、現状「VR (バーチャルな表現)は、リアルな表現が与える恐怖感には、勝てない部分も多い」と感じています。

双方のメリットを惹きだすためには、映像コンテンツ(デジタル)にするもの、リアルで表現するもの(アナログ)のバランスはとても重要だと思います。今回は、怖い映像を使っているわけではなく、美しい表現を取り入れています。バランスもですが、使い方も重要です。


想像力を膨らませ、期待感を高めるキーワード設定

――アナログによる仕掛けが中心のお化け屋敷ですが、実はSNSとの相性はいいそうですね。

五味─はい。お化け屋敷の特性「体験してみないとわからない」ことが、SNSとの親和性を高くしています。体験後に、誰かに感想を伝えたくなるようで、SNSへの投稿は非常に多いです。また、お化け屋敷内は基本、写真撮影が禁止ですから、投稿を見た人も出てくる情報が少なく、「何が待っているんだろう?」と興味をそそられるのではないでしょうか。

そこで効果を発揮するのがキャッチコピーのわかりやすさなんです。今回は「靴を脱いで入る」「足首に縄を掛けるミッションがある」というのが大きなキーワードになっています。この2つの事実を知るだけでも、何だか怖いイメージが湧いてきますよね。

するとユーザーは、「靴を脱いで体験するお化け屋敷とか、マジ怖い!」と発信してくれるわけです。つまり、SNS時代だからこそ、一言で伝えられるネーミングやストーリーにすることが重要なんです。それもあって、昔よりタイトルや仕掛けは、よりキャッチーで説明しやすいことを意識しています。また、事前にキーワードを共有することで、想像力も膨らみ、体験への期待感を高めることもできます。

加えて、ストーリーがあり、お化けにも名前や背景があるからこそ、その世界に没入できます。『怨霊座敷』も『超・怨霊座敷』も、ミッションを設けているのは、ユーザーが物語の主人公となって、当事者としてお化け屋敷を巡ってもらうためです。これも、体験価値を高めている要素のひとつですね。

『超・怨霊座敷』の出口付近に設置されている、SNS連動型自撮りサイネージカメラ「チームラボカメラ」の『怨霊カメラ』バージョン。サイネージの前に立ち、ボタンを押すと自動的に撮影が始まり、SNS投稿用の画像を取得できる仕組みになっている

――最後に。五味さんが思い描く「お化け屋敷の未来像」について教えてください。


五味─ホラーは、世界的に人気の高いジャンルです。このお化け屋敷に関しては、日本だと学園祭の出し物としても定番だったりと、非常に身近なエンターテインメントとして存在しています。これは他の国とは異なる点です。つまり、日本人は昔からお化け屋敷が好きな人種なんですね。

お化け屋敷には、自分を解放し、リフレッシュできるという特有の魅力、価値があります。今後はその価値をさらにどう高めていくかが課題です。最近では、水族館を利用したお化け屋敷や、入り口から出口まで1時間くらいかかるものが登場していたりと、新しい形も誕生しています。
触覚を感じることができるテクノロジーなど、様々な最新技術が出てきているので、リアルとテクノロジーを組み合わせれば、現実を超えたリアルを表現できる可能性もあるかもしれませんね。

今後も既成概念にとらわれず、さまざまな新しい要素を加えながら、お化け屋敷をさらにアップデートし、多くの人に楽しんでもらえるエンターテインメントを提供し続けていけたらと思っています。

『怨霊座敷』(超・怨霊座敷)は、アナログ要素の強いお化け屋敷に、デジタルの要素を加えることで、体験価値を高めました。その背景には、「不安や緊張が緩和されたときにある種の“快楽”を覚える」という今も昔も変わらない人の性質があるようです。特にお化け屋敷は振り子のように怖さと安心が連続し、その体感が深まるのかもしれません。エンターテイメントに限らず、性質や感情を刺激するコンテンツ設計、世界観に没入させるためのツールの組み合わせが人を惹きつけるのではないでしょうか。
Written by: BAE編集部

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