2018-12-07

“本音”を可視化する「ニューロマーケティング」とは?

脳科学を使ったマーケティング手法の活用法、可能性
ユーザーの声を知りたいと考えたとき、これまではアンケート調査やグループインタビューといった主観評価が一般的でした。そこに近年、新たな調査手法として、脳の反応を直接計測し、客観的に評価する「ニューロマーケティング」が注目を集めています。

では、ニューロマーケティングにはこれまでの手法と何が違い、どんな活用法や可能性があるのでしょうか?

東北大学と日立ハイテクノロジーズによる脳科学カンパニー「株式会社NeU(ニュー)」の脳科学コンサルテーションビジネスユニット マネージャー 岡田拓也さんにお話を聞きました。


“真のニーズ”を導き出す「ニューロマーケティング」

株式会社NeU 脳科学コンサルテーション ビジネスユニット マネージャー 岡田拓也さん

——まず、簡単に御社のことを教えてください。

弊社は、東北大学と日立ハイテクノロジーズによって昨年誕生した「脳科学」を使ったサービスを提供している会社です。脳活動の可視化を通じて、ニューロマーケティングやヘルスケアなど、さまざまな領域のソリューションを創成することを目的としています。CTO(最高技術責任者)を務めるのは、脳科学研究におけるトップランナー・川島隆太教授(東北大学)です。

弊社では日立グループが培った脳計測技術を承継し、脳活動を可視化するハードウェアの開発を行っております。そのデバイス、ノウハウを活用し、提供しているのが「ニューロマーケティング」サービスです。最新の脳科学の知見をもとに、「ヒトの潜在意識」を明らかにすることで、企業向けのコンサルティングを行っています。

このニューロマーケティングとは、人間の生体指標を測定し、商品開発や広告宣伝に役立てるマーケティング手法となります。眼の動きや心拍、表情など人体が発する信号が生体指標となりますが、中でも脳の活動に大きな注目が集まっており、ユーザーの“本音を可視化”する期待が高まっています。


ニューロマーケティングは、ユーザーの脳活動をはじめとした人間の生体指標を測定。それを可視化(数値化)することで、「人の潜在意識」を分析し、商品開発や広告宣伝などに活用する


——「ニューロマーケティング」自体は1990年代から存在していた概念です。なぜ近年、また注目を集めるようになったのでしょうか?

そこには脳神経科学の発展と脳計測技術の進歩が大きく寄与しています。当時、脳を調べるためには特別や実験室や何億円もするような医療用の巨大な装置が必要だったため、マーケティングに活用するにはコスト的にも時間的にも厳しい制約がありました。しかし、テクノロジーの進歩によりデバイスが小型化・高性能化し、日常的なマーケティングに活用できる段階に到達しつつあります。

また世界的には、2004年、特定のブランドロゴが脳の海馬と背外側前頭前野を活性化していることを突き止めたアメリカの研究が、ニューロマーケティングの端緒として知られています。同研究は飲料のおいしさを評価する際の脳活動を計測し、ブランド名を伏せた際と明かした際で、異なる主観評価が生まれる理由を明らかにしたものです。

これは、「人間の価値判断がいかに曖昧で、外的な要因に影響されているか」を科学的に解明したひとつの例となりました。生活者の主観的な評価は絶対的なものではないことが明らかになり、そこから「人間の本音を客観的・定量的に解き明かす」というニーズが生まれてきたといえます。以来、企業における「ニューロマーケティングへの期待感」は高まり続けています。

現状では欧米企業の方が導入に積極的で、日本はやや出遅れている印象がありますが、弊社への問い合わせも確実に増えてきており、いよいよニューロマーケティング時代の到来を感じています。


既存手法との違いは「客観化」と「瞬間を知る」にあり

——今年の「CEATEC JAPAN 2018」においても、「ニューロマーケティング」に対する注目度は高かったように感じました。日本ではまさにこれから、本格的に利用が拡大しそうなマーケティング手法と言えそうです。では、既存の調査法と比べ、どんな点に違いがあるのでしょうか?

頭にヘッドセットを装着し、「脳の血流」を測る

既存のアンケートやグループインタビューでは、「ユーザーの主観」を調査します。しかしニューロマーケティングでは、脳をはじめとした各種生体指標を計測することで、「ユーザー本人も自覚していない無意識レベルの反応」を数値化・客観化することが可能です。

たとえばアンケートで「とても心地よい」という回答を得たとして、それが建前なのか本音なのかを文字だけで見抜く事はなかなか難しいでしょう。ましてや異なる製品に対して「とても心地よい」という感想があったとして、その優劣の判断や、AさんとBさんの「心地よい」は同じニュアンスなのか……など判断が難しい部分も多いと思います。

しかしニューロマーケティングでは、こういった感性的な内容を数値化し、評価することが可能です。加えて、従来の主観評価は通常、“体験後”の感想ですが、ニューロマーケティングは生体信号を計測していますので、“体験している瞬間”の嘘偽りない反応を知ることができるのです。

当然ながら既存手法のすべてを取って代わるものではありませんが、生活者のインサイトを深める上で、大いに役立つ手法として期待されています。

脳機能を計測するには、いくつか方法があります。よく知られているのが、脳の電気信号を計る脳波です。弊社は光で「脳血流」を計測し、脳活動を可視化する技術(NIRS)をコアとしています。太陽光にも含まれる「近赤外光」を用いるので人体に安全で、また電気的ノイズに強いという特性があることから、日常に近い環境での計測が行えることが大きな強みです。

私たちはこの技術で、意思決定や短期記憶などを司る部位として知られる前頭前野を主な計測ターゲットとし、その反応をマーケティングに役立てています。

弊社が新開発した世界最小・最軽量クラスの脳活動計測装置は、重さわずか30グラム。手のひらサイズを実現し、誰でも簡単に脳の活性状態をスマホで確認することができます。企業のマーケティング活動だけでなく、個人のヘルスケア分野(脳の健康維持や認知症の予防など)での活用も視野にいれています。

NeU社が今年発表した、オリジナルのデバイス「XB-01」は、重さ30グラム、厚さ13ミリを誇る。


「脳に直接聞く」からこそできる活用法

——「ニューロマーケティング」は、商品開発や広告宣伝に役立てることができるとのことですが、具体的な事例を教えてください

はい。玩具メーカーさんとの取り組みでは、「乳幼児向けの知育玩具」を作るために、「ニューロマーケティング」を活用しました。

当たり前のことですが、赤ちゃんは言葉を話せませんから、玩具の使い心地を直接聞くことは不可能です。

これまではお母さんへのインタビュー調査などを商品開発のヒントとしていました。そこから見えてきたのは、「お母さん自身も、どのおもちゃを与えればいいのか非常に悩んでいる」ということでした。

そこで、のべ250人以上の赤ちゃんの脳を計測し、実際の検証結果を取り入れた商品開発をスタート。この「赤ちゃんの脳に直接聞く」ことから生まれた玩具シリーズは、新規参入から数年で年間売上数十億円という大きな成功を収めました。

私たちは、脳科学的に確かなエビデンスを持った商品開発を支援するために、日立製作所と共同で「Brain Scienceマーク」という認証制度を設けています。対象となる商品・サービスが脳科学的に有効といえるのか、検証結果を証明するために、第三者の専門家を招いて審査を実施。統計的に有意差が確認できたものだけにマークを付与することで、確かな脳科学検証の実施、効果が証明されたことを示しています。

このマークによって、商品に付加価値が生まれたことも、ヒットした要因のひとつかもしれません。

確かな脳科学検証から生まれた商品に対して付与される「Brain Scienceマーク」

——ちなみに、言語化しづらい、デザイン領域などもユーザーの反応を検証できるのでしょうか?


はい。たとえば企業のブランドロゴを例としますと、新ロゴ候補案を想定ターゲットに見せた際の脳活動を計測し、デザインの評価を行った事例があります。脳の前頭前野を計測し、「共感性」と「記憶性」の2軸で各案をマッピングすることで、数値による一目瞭然の比較評価を実現しました。旧ロゴと比較して、新ロゴのデザインが共感性と記憶性に優れていることがおわかりいただけるかと思います。

これも、ニューロマーケティングの「脳に直接聞く」という強みを活かせた事例と言えると思います。

ロゴデザインの刷新に、ニューロマーケティングを活用した例

販促物(クリエイティブ)の検証・改善にも、ニューロマーケティングは活用可能です。とある会社のチラシでは、クリエーティブに脳科学的知見を取り入れた改善案を提案し、当初のデザイン案と「脳活動を数値化して比較」しました。

A社のピザのチラシを「脳活動」で比較したもの

私たちの先行研究で「脳活動が高いコンテンツは、記憶に残りやすい」ことがわかっています。

グラフの通り、背景色を変更し、シズルカットを大きく見せたクリエーティブ(改善案)の方が、「興味・関心」「記憶」ともに脳活動の数値が高くなっていることが立証できました。

評価軸を数値化できると、すべての判断を客観的に行うことができますから、ロジカルな意思決定が実現できる点も、ニューロマーケティングの魅力のひとつです。


今後さまざまなテクノロジーと融合し、さらに発展

——今後、「ニューロマーケティング」はさまざまなテクノロジーと組み合わせることで、どんな発展を遂げていくとお考えでしょうか?

ニューロマーケティングは、マルチモーダル化(複数の生体信号の組み合わせ計測)によって、より精度の高い推測や評価が可能となります。脳の情報に加えて、眼の動き(アイトラッキング)も同時取得することなどは、弊社でもすでに実現していますが、今後は表情や皮膚電位など、さらなるマルチモーダル化が進むと考えています。

また、VRとの連携にも可能性を感じています。VR空間における人の活動はすべて記録が可能ですから、その中での購買行動分析や空間評価、コミュニケーション設計などにニューロマーケティングは非常に有効だと考えます。弊社でも、VR空間内での脳活動とアイトラッキングの同時計測を可能としたデバイスの開発などに取り組んでいます。

バーチャルリアリティ空間内の興味関心や集中・注意を評価するNeU社のオリジナルデバイス「NeU-VR」

今後さらに多くの脳活動データを蓄積し、アーカイブ化することで、購買データなどと紐づけた、AIによるビッグデータ分析が実現できる日も近づいています。そうなれば、広告の改善や効果予測はもちろん、モノづくりのセオリーやユーザーとのコミュニケーションにおいて、“新たな常識”が生まれる可能性もあります。

そのために私たちも、脳科学の知見を軸に、さまざまなパートナーとコラボレーションすることで、新しいソリューションを生み出していけたらと考えています。

現時点で「ニューロマーケティング」は、まだ発展途上の段階にあり、これからさらに進化を遂げていくはずです。ぜひ今後の展開を楽しみにしていただけたらと思います。

ユーザーの本音を可視化する「ニューロマーケティング」は、脳科学的知見と脳計測技術を組み合わせることで、“ヒトの潜在意識を明らかにする”ことを実現したマーケティング手法です。これまで聞くことのできなかった乳幼児の声を商品開発に生かせるなど、その利点、活用法は幅広いものです。今後もテクノロジーを活用した商品の企画・開発やマーケティングは、さらに広がりを見せていきそうです。
Written by: BAE編集部

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