2021-03-03

移動の効率化や混雑回避への活用で注目される「モビリティデータ」の可能性

異業種のデータとの掛け合わせで生まれる新たな価値
コネクティッドカーやスマートフォンなど、様々なIoTデバイスを通じて収集・解析されたモビリティ(移動体)のデータを、交通、物流、保険、マーケティング、まちづくり等に活用する動きが広まっています。
新型コロナウイルス感染症の影響で求められる混雑状況の把握などにも役立てられているモビリティデータですが、今後どのような取り組みやビジネスに活用されていくのでしょうか。モビリティデータの活用支援によるプラットフォーム開発等を手掛ける株式会社スマートドライブの石野真吾さんにお聞きしました。


視点や目的によって価値や意味付けが変わる

——ビジネスやまちづくりなどへの活用や、「より安全でスムーズに移動したい」といった人々のニーズの増加によって、移動にまつわるモビリティデータの価値が注目されています。そもそも「モビリティデータ」とは、どのようなデータを指すのでしょうか。

簡単に言うと、車やバイクに代表されるモビリティ(移動体)を含むヒトやモノの、移動に関するデータです。例えば、スマートドライブ社では移動中の加速度や位置情報といったモビリティの動態データから、走行開始から終了地点の緯度経度、走行距離、走行時間、アイドリングの時間、急操作の内容や回数といった走行データを解析し、車両管理サービスや家族の運転見守りサービスなどを提供しています。

スマートドライブ社が有するモビリティデータのアウトプットの一例。ドライバーの移動状況や運転状況が見える化される

——データはどのように収集されるのでしょうか。

私たちが開発した専用デバイスやその他のIoT機器センサー、四輪、二輪、その他のコネクテッドモビリティ、スマートフォンなどを使って収集しています。自動車メーカーや交通事業者など、過去のデータを持つ企業も多いので、それらと組み合わせた形で利用される場合もあります。

——モビリティデータの特徴はどのような点にあるのでしょうか。

基本的には移動の様子を示したシンプルなデータですが、データの見方を変えたり、その他のデータとの組み合わせることによって、活用法や意味付けが変わることが特徴です。
例えば、営業マンの生産性向上に役立てたいと考えた場合、訪問回数と比例して売上が大きい訪問先はどこかといったターゲティングの分析や、走行履歴と顧客情報等の分析による営業エリアの最適化、商談と移動とにかかるコストの可視化など、様々な面で分析することが可能です。

視点を変えることで、売上の推進、コスト削減、CSRの推進などに繋がる多くのことがわかることがモビリティデータの特徴



データの組み合わせによって活用が拡大する

——モビリティデータは、車両管理やドライバーの安全管理、運転見守り以外には、どのように活用されているのでしょうか。

営業情報、マーケティングデータ、就労・人事情報、交通関連情報、ドライバー生体情報、車両情報、観光客や住民の行動データなどと組み合わせることによって、データの活用はさらに拡大します。
私たちも、様々な企業や法人のモビリティデータ活用を支援するため、インフラとして活用できるプラットフォームを提供しています。また、モビリティデータ解析やデータの可視化、さらには、関連する新たなソリューションの共創等も手掛けています。

例えば、大手保険会社各社では、「モビリティデータ×事故データ」に基づく運転リスクの解析や、ドライバーの運転特性の可視化といった取り組みが、状況把握や顧客サービス全般に役立てられています。
大手スーパーマーケット等における、配送最適化ソリューションも効果を上げています。具体的には、配送計画に対する遅延の有無や季節ごとの予測と実績の差異の算出、勤務実態などを含めた分析による、車両削減やルート変更等の効率化やドライバーの負担軽減、ルート上の事故をリアルタイムで監視して迂回を指示したり、遅延を自動で配送先に知らせる、等が可能なソリューションを形成し、フルパッケージで提供しています。

——モビリティデータを活用した仕組みやサービスの中で、これからより注目されていくものはあるでしょうか。

他のデータとどう組み合わせて、どう流通させるかという点は注目されるポイントです。特に、購買データとの組み合わせによるマーケティングサービス、ガソリン車からEV車両(電気自動車)への転換を後押しする“EVシフト”にまつわるモビリティデータ活用、まちづくりへのデータ活用といった次のような事例は、より求められていくものと考えています。

─ポイントカードとの連携

コンビニやスーパーでのキャッシュレス決済にも対応しているポイントカードのユーザーにデータ提供の許諾を得て、取得したモビリティデータに応じた情報やクーポンをユーザーのスマートフォンに直接配信する。移動のデータだけでなく、会員のポイント取得などに関するデータを組み合わせることで、移動の目的を把握し、ユーザーに直接メリットを寄与できる仕組みの開発を目指して実証実験を行う。

─EVシフトとの関連

ガソリン車の利用情報等を利用したEV導入後のコストのシミュレーションや、すでに法人で利用されているEVの活用を支援するサービスにおいても、モビリティデータが活用される。
例えば、EVの予約利用の最適化や、電力利用を抑えるためのエネルギーマネジメント、経路充電におけるEVの電力の算出、充電量などのコストの可視化などにモビリティデータを活用することで、EVシフトへの推進に役立てられている。

脱炭素の流れによって世界で強まるEVシフトを後押しするモビリティデータ活用の例。自動車、物流、エネルギー等のほか、インフラやカーシェアなど様々な企業が関心を寄せる

─まちづくりの事例

――リテールメディアの国内・海外動向についてお聞きできますか。


静岡市の地域コンソーシアム「静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト(しずおかMaaS)」において、住人の許諾を得た上で自家用車の移動データ、交通系IC、バスの移動データ等の利用状況を把握。需要にあった交通網の策定・整備を目指して利活用される。今後、交通系ICの購買情報やAIオンデマンド交通などのデータとともに総合的に分析され、さらなる交通の効率化や交通手段の互換性の検証などが実施される。

——高齢化や人口減少といった社会的な課題に対応するモビリティデータの利活用も注目されていますね。

ニーズは大きいと感じています。まちづくりやインフラの面から見ると、高齢者の方の移動をサポートしたり、免許の返納によってマイカーの運転を卒業した後にも、支障なく移動するにはどういう手段が有効かといったことを検討する際にも、モビリティデータが役立ちます。
例えば、高齢者の運転状況から、安全な運転を継続することが可能か、といった検討をする際にも役立ちます。実際に、高齢者自身が自分のデータを見て現在の運転リスクを知り、免許の返納を決めるというケースも増えています。「見える化」することが、まちづくりや暮らしの安全にも繋がっているのです。

——新型コロナウイルス感染症拡大の影響などによって、混雑状況を知るためのデータを求める声なども増えているでしょうか。

「混雑状況の可視化」という課題は以前から浮上していましたが、この1年でニーズが加速したと感じています。人々の考え方が、単に「混雑を避けたい」というだけではなく、「空いているけど、目的を達成できる場所に行きたい」「より安心して移動したい」という方向へ変わってきているのではないでしょうか。

ニューノーマルの時代においては、リアルタイムに活用できるデータの価値は向上しています。リアルタイムでの混雑状況の配信サービスとの連携や、交通混雑情報などと連携した取り組みなどにおいてモビリティデータを利活用する場合には、過去のデータの分析だけではなく、情報やデータの即時性が重要になるのです。
継続的にデータを取ることで、いわゆる“3密”にならない状態を作りながらいかに経済発展を続けていくかという点でも、大いに貢献できる取り組みだと考えています。

混雑データの可視化や混雑を避けるルートの最適化等へのニーズは増えている


移動の目的や直接的なメリットを生むことがカギ

——モビリティデータをビジネスに利活用していく上で、注意すべき点などがあるでしょうか。

様々なデータ活用の方法が思い浮かぶと思いますが、「とにかく膨大なデータを集めて統計化する」という考え方ではなく、目的やサービスに応じて必要なデータを収集・解析することが望ましいでしょう。
また、移動の状況がわかるデータですから、WEB上の行動履歴のデータ等と同様に、データの管理や加工には充分な注意が必要です。必ず提供していただく相手側に意味やメリットを理解してもらい、許諾を取った上で取得する必要があります。

——モビリティデータ活用の今後の拡大のポイントは、どのような点にあるでしょうか。

MaaSで注目されるような“移動の効率化”だけではなく、“なぜ移動するのか”といったデータとの結びつきには大きな可能性があると考えています。
移動データと、先述のポイントカードの事例のような会員情報やポイントに関する情報や、購買データ等を統合して利活用を進めれば、分析の精度の向上や、よりよいサービスの提供に繋がります。

また、その先の移動の目的を作ることや、行動変容を促すこと、移動そのものの体験価値の変化にも関わってくるでしょう。データに基づいたサービスの連携を増やせれば、例えば、企業側は「ショッピングセンターにどのくらいの頻度で来て、どの店をどのくらい利用しているか」といったことがわかります。すると、ユーザーに対して、「移動先を変えることで、早く欲しい物が買えることを知らせる」「空いている時間にクーポンを発行し、来店を促進する」といったアプローチが可能になるでしょう。企業側とユーザーとがメリットを享受できるやりとりを増やせるはずです。
移動の目的が可視化されるとデータの解像度が上がり、点でしか見えにくかったユーザーの行動を線で繋げることも可能になります。今後は、電車での移動と購買の両方に使われている、交通系ICカードのデータなどとの連動にも期待が持てそうです。

ユーザーの側が目的のために移動するのではなく、Uber Eatsなどに代表されるように、モノ・コトの側が移動するサービスやビジネスが増えているという点にも、ヒントがあるかもしれません。

——企業側の考え方としては、どのような点がポイントになってくるでしょうか。

先述の通り、まずはっきりとした目的を持ってモビリティデータを活用すること、また、一社単独でゼロからデータを獲得・分析し、収益に繋げるというのは難しいと思いますので、どんな法人や自治体とパートナーシップを組んで、データの共有などに取り組み、サービスや施策を展開していくかということがポイントになってくると思います。事業継続性をどのように担保していくかという点も、非常に重要です。
私たちも、モビリティデータにまつわる様々なノウハウやアセットの提供によって、移動の進化に貢献していきたいと思います。

株式会社スマートドライブ 先進技術開発 ディレクター 石野真吾(いしの・しんご)さん
モビリティデータを活用した運転安全性の向上や、配送ルートの効率化といったto Bのビジネスはもちろん、行列や混雑が一目でわかるサービスや、移動の実状に応じた情報の提供など、to Cに関連した取り組みも、今後も拡大していくでしょう。行き先などに影響を与えるリアルタイム情報の提供などは、混雑の緩和や来店の促進などにも一役買っていきそうです。

Written by: BAE編集部

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