2022-11-24

生活者の移動を革新するマイクロモビリティ。
都市を活性化させ、地域経済を潤す

世界で採用される“エコでスムーズな移動”の力
東京、名古屋、福岡などの都市部を中心に利用が広まる、電動キックボードやシェアサイクルなどの「マイクロモビリティサービス(以下、マイクロモビリティ)」。若い層を中心に人気が高まり、新たな移動の選択肢として生活者に受け入れられつつあります。

先行する欧州や米国では、シェアライド用として3~5万台のマイクロモビリティが配備されている都市もあります。人々の通勤や通学、買い物、観光等の際の足として定着しており、地域経済の活性化や、脱炭素社会に向けたEV化の推進に繋がっています。

マイクロモビリティの活用は、人々の移動や生活、また周辺のビジネスや環境に、どんな変化と可能性をもたらすのでしょうか。一般財団法人計量計画研究所(IBS)の牧村さんにお話を伺います。


人々の移動が世界中でアップデートされている

——国内でも、電動の自転車、キックボード、スクーターといったマイクロモビリティのシェアサービスが拡大してきました。利用が増えている理由はどのような点にあるのでしょうか。

コロナ禍のステイホームの後、自宅周辺など近隣の生活圏の価値を見直す動きが、日本を含む世界中で広まりました。自宅からオフィスなどへ移動する際にも、混雑や渋滞を避けて快適に移動したいという、“移動の質”が求められるようにもなっています。

そういった理由から、都市部を中心にマイクロモビリティは移動の選択肢の一つとして認知され始め、利用が徐々に拡大しています。
近隣のちょっとした移動に便利で、乗り心地が快適で、ソーシャルディスタンスを保ちやすい。また、非接触かつキャッシュレスで簡単に借りられるといった利点から、マイクロモビリティを選ぶ人が増えているのだと思います。

国内市場規模で言うと、2025年には電動キックボードのシェアリング市場だけでも約1兆円に上るという試算があります(※)。

※ 2019年8月「電動キックボード市場のご紹介」LUUPによる

国内では都市部を中心に、電動自転車「ドコモ・バイクシェア」、電動キックボード「LUUP(ループ)」「mobby(モビー)」、電動バイク「Shaero(シェアロ)」などのマイクロモビリティのシェアサービスが人気に
※ 画像は各社公式サイト

ドコモ・バイクシェアの利用状況。30地域に導入され、13,800台の電動自転車と、1,6800カ所以上のポートを有する。9年間で利用回数は300倍に増加(※2020年4月時点)。以降はさらに拡大している
※ 2020年6月「シェアサイクルの現状と課題について」ドコモ・バイクシェアによる

——先行する欧米の状況などを教えてください。

欧米では20年程前から本格的にマイクロモビリティが導入され始めました。その後は拡大を続け、コロナ禍によるステイホームなどの影響で一旦は停滞したものの、いま再び巻き返す形で急拡大しています。

現在、パリやベルリンには5万台程度、ハンブルグ、ローマ、ミラノ、ロンドン、バルセロナ、マドリード等には、3万台程度のシェア用のマイクロモビリティが配備されています。

2020年の世界のマイクロモビリティ市場規模を見ると、約391億9000万ドルに上り(※)、2028年までに693.2億ドルに達し、2021年から2028年までに13.7%成長するとの予測もあります(※※)。
ちなみに、モビリティシェアとEV化の潮流は欧州だけでなく中国や韓国などアジアの国々でも盛り上がっており、普及は日本よりも進んでいます。

※ 2021年11月「世界のマイクロモビリティ市場」Report Oceanによる
※※ 2021年8月「世界のマイクロモビリティ市場2021-2028」Grand View Researchによる


マイクロモビリティシェアの普及を示したグローバルマップ(最新のデータが獲得されていない中国を除く)。1000を超える都市にマイクロモビリティが導入されている。2021年第三四半期以降、アフリカ諸国でも初のモビリティシェア事業がスタートしている
※2022年10月 New Urban Mobility alliance公式サイトによる

とりわけ欧州では、各都市が目指す交通ビジョンやスマートシティ化の一環として、官民の協力によって導入が進められていることが、マイクロモビリティシェアのポイントです。
駅やバス停のほか、街じゅうにポートが設置されている都市や、無料で自由に乗れるフリーライドが可能な都市、1台が1日に5~7回転して、1日数十万トリップの移動が生じる都市もあります。

マイクロモビリティは、世界中で都市の環境と人々の移動をアップデートする主役になっていると言っても過言ではありません。

世界中で、人々のラストワンマイルの移動を支えるマイクロモビリティ。自家用車ではなく、マイクロモビリティを使ったスマートでクリーンな移動を選ぶ人が増えている
※ 画像は「Lime」「Cityscoot」「YEGO Mobility」「Bird」各社 Instagram 公式アカウントより

——欧米でそれだけ普及が進んでいる背景には、どのような課題があるのでしょうか。

とりわけ欧州では、①都市の移動と経済を活性化させ、コロナ禍からの復興を推進する、②生活者のニューノーマルなライフスタイルを実現する、③自家用車を持たない人々、持てない人々に安価な移動方法を提供し、市民の移動の機会の公平性を担保する、といった課題への対策として積極的に活用されています。

再生エネルギーを活用することで、グリーンエコノミー(サステナブルな開発や発展を実現するための経済活動)を推進し、環境負荷を低減するためのEVシフト政策の一環としても、大変重視されています。

地下鉄の駅付近への新たなモビリティハブ(ステーション)の開設を知らせる、ウィーン市交通局の公式Twitter
ベルリンの公共交通機関「Jelbi(イェルビ)」に新たなモビリティハブの開設を知らせるベルリン市交通局の公式Twitter

シェアライドの利用に不可欠なマルチモーダル(包括的)なMaaSアプリの進化・普及や、データを活用した車両の配備の効率化、交通ルールの設定や街路空間の再編成なども進み、マイクロモビリティはどんどん台数を伸ばしてきました。
車両自体も日々進化しており、常にニーズにマッチしたモビリティとそのサービスに触れることができるという点も、生活者にとっての大きな魅力となっています。
この流れを受けて、「モビリティハブ(e-Mobility Hubs)」というスポットも政策のトレンドになっています。

フィンランド発MaaSのパイオニア「Whim(ウィム)」。縦割り行政や、オープンデータ活用にまつわる法制度などが一元化されたことで誕生。Whimのビジネスとコンセプトは世界各地に広がり、日本でも不動産会社と連携してサービスを開始した


マイクロモビリティの利用が近隣での消費を増やす

——「モビリティハブ」とはどのようなスポットでしょうか。もう少し詳しく教えてください。

モビリティハブとは、様々なマイクロモビリティやシェアカーのポート、それらの充電ステーション、情報端末などを集約させたスポット(ステーション)のことです。
先述の通り、欧州を中心に、鉄道の駅やバス停、大型商業施設の周辺、住宅地の空きスペースなどへ次々と導入されています。MaaSアプリ等のバーチャルなMaaSとの組み合わせで、リアルな移動価値と移動機会を創出する取り組みです。

サイズ等は様々で、交差点の端や住宅街の中心に数台のシェアカーと電動自転車だけを並べた小規模なモビリティハブもあれば、鉄道駅やバス停へのアクセスのよい開けた場所に、シェアカー、キックスクーター、EVバイクなどが何十台も並ぶ大規模なモビリティハブもあり、カフェや宅配ボックス、緑地などが併設されているケースもあります。多くは無人で24時間利用できます。
また、地域や自治体が展開するMaaSブランドに統合された形でのハブの運用も広がっています。

環境に優しい移動サービスが集約されたモビリティハブのイメージ。周辺に暮らす生活者の移動の利便性の向上とサステナブルな暮らしに繋がる
※ 画像はINTERTRAFFIC公式サイトより


——モビリティハブがトレンド化している理由を教えてください。都市の中で、どのような役割や価値を持っているのでしょうか。

地域経済を潤す効果や、グリーンエコノミーを促進する効果が期待できることが、モビリティハブの最大のポイントです。カーボンフリーの移動サービスをスムーズに提供できれば、生活者にエコな移動を推進し、脱炭素への行動変容を促すことができるでしょう。

便利なモビリティハブができると、周辺に暮らす人々のライフスタイルも変わります。例えば、今までは自宅とオフィスの間を自家用車かバスで直線的に移動するだけだった人が、自宅付近で電動スクーターを借りて電車で通勤し、帰りは再び電動自転車を借りて、スーパーやカフェに立ち寄る――といった形です。

実際に、モビリティハブの導入を通じてマイクロモビリティの利用が拡大することで、人々の移動の速度が遅くなり、移動の範囲も地域密着型になりやすいため、周辺の住民による環境整備や美化への関心が向上したり、消費の機会が増えることなどが分かっています。

また、カーシェアの利用者なども、自家用車等の利用者に比べて地元のショップやスーパーで買い物をする傾向が強いといった報告もあります。


「駅から5分」で行ける距離と可能性を広げる

——モビリティハブのような取り組みは、今後国内でも増えていくでしょうか。

まず、今後の規制緩和などの影響によってマイクロモビリティそのものの普及が拡大することは間違いないので、必然的に、複数の移動手段を束ねたモビリティハブの導入も進むはずです。
海外のように、複数のシェアライドをまとめたポートが登場したり、規模や存在感もコンビニくらいにサイズアップした流れになっていくと思います。

駐車場や住宅街などの空きスペースの活用には最適ですし、例えば、駅や商業施設の周辺、幹線道路に多い車のディーラー、ガソリンスタンドなどにモビリティハブを設置すれば、モビリティシェアの拠点として、新しいサービス等を普及していく交流拠点として、また、モビリティのEV化を推進する拠点としても、大きなポテンシャルがありそうです。

様々な店舗やサービスと、多種類のシェアモビリティの組み合わせを変えることで、都市ごと、街ごとのオリジナリティを打ち出していくことなども可能です。
実際に、横浜(神奈川県)、平泉(岩手県)、大谷(群馬県)などでは、観光と連携したモビリティハブ設置の実証実験が行われていますし、さいたま(埼玉県)でも市民に新たに提案されるライフスタイルの一つとして、実装が進められています。
また、「道の駅」などをモビリティハブ化していく取り組みなどもあり、交流人口、関係人口を増やすサードプレイスとしての役割が期待されています。

EVカーなどを開発する、eLoadedによる、モビリティハブの開発イメージ。「未来のガソリンスタンドは、サステナビリティの高い要素を備えたモビリティハブに代わる」というアイデア
※ 画像はeLoadedリリースより

——今後、国内におけるマイクロモビリティの可能性は、どのように拡大していくでしょうか。

日本には“ママチャリ”で移動する文化がありますから、シェア型のマイクロモビリティもごく自然に全国へと浸透していくでしょう。MaaSアプリのプラットフォーム等も統合やアップデートによって使いやすくなるでしょうし、モビリティに乗る際の“物理鍵”としても、身近になっていくと思います。

より多くの人々がマイクロモビリティで気軽に出かけられるようになれば、不動産や商圏の見方や価値などにも、変化が起きるでしょう。
実際に、都内を電動キックボードに乗って移動してみると、自宅や駅から徒歩25分圏内くらいの場所にも5分ほどでスムーズに行けるので、「ちょっと遠い」という感覚がなくなってきます。マンションや店舗などにモビリティハブを誘致すれば、バリューアップにも繋がると思いますし、駅から遠い物件の価値も激変するかもしれません。

速度規制などの交通ルールや、道路の使い方などについては、先行する欧州に豊富な事例や研究が存在しますから、国内でもそれらに習い、コストを抑えながら安全な移動環境をうまく整備していくことは十分に可能です。

例えば、欧米ではモビリティシェアの営業許可の条件として、事業者から行政に利用実績等のデータ提供が求められているケースが一般的です。利用路線やエリア、路線ごとの走行速度実績、乗降場所の実績等を官民で共有し、双方で走行空間や乗降空間の設定を行うなど、安全な運行と利用の推進に取り組んでいます。
鉄道やバス等とは上手に連携することで、双方の利用が増えるという報告もあります。
マイクロモビリティの普及は、今後国内でも都市と経済を支える一つのカギになるものとして期待しています。

一般財団法人計量計画研究所(IBS) 研究理事 研究本部企画戦略部長 モビリティデザイナー 
牧村和彦(まきむら・かずひこ)さん
特に若い層からの人気が高く、フードデリバリーなどにも利用されているマイクロモビリティシェア。店舗や商業施設といった場所にも、ポートやモビリティハブを誘致する、駐車しやすいスポットを整備する、駐車場自体をリデザインするなど、マイクロモビリティにフレンドリーな環境をつくっておくことで、近隣の活性化はもちろん、来店客の促進なども狙えるかもしれません。
欧米ではすでにカーフリー、マイクロモビリティシェアといったMaaS付き住宅の開発・普及も進んでいます。今後、空間活用の新たな一手としても導入が進みそうです。

Written by: BAE編集部

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