2019-06-13

浮かび上がる映像に“触れる”。空間内に新しい価値を生み出す「ミストディスプレイ」

目線を惹きつける霧のスクリーンと新感覚の映像体験
見る者に新しい驚きと感動を与えてくれる、最新の映像技術。近年は、既存のモニターやスクリーンとは異なる形式のディスプレイも次々と登場しています。
例えば、ポーランドのレイアディスプレイ社は、ミスト(霧)を薄い平面状のまま垂直に落下させ、映像などを表示する「ミストディスプレイ」の進化を実現。表面に触れて操作できるインタラクティブ性をプラスするなどの独自性が評判を呼び、国内外のイベントや展示会での活用が広がっています。
ミストディスプレイの国内展開を手掛ける、コーンズ テクノロジー株式会社の和島以久美さんにお話を伺いました。


誰もがつい足を止める、新感覚の映像空間

——純水でできたミストを垂直に落下させて、画像や映像を映すという発想は大変ユニークですが、一般的な大型ディスプレイとの違いは何でしょうか。

水面やミストに映像などを映すディスプレイは昔からありましたが、ここ数年のうちに技術が向上して、ミストディスプレイの活用が広がりました。使い方などは通常のディスプレイと変わりませんが、「映像が空間に浮かび上がっているように見せられる」「触れられる・通り抜けられる」という点が最大の違いです。国外では、すでに展示会やイベント等の入場ゲートなどに多数利用されています。

霧の粒子の量や大きさの調整、安定した平面を保つ技術には飛行機の推進力(気流の制御・活用)に関するテクノロジーが応用されている
(出典:Leia XL X-300/PWPW SA社イベント参考映像)

コンサートなどの入場口に設置して、演者が歓迎している映像などを流すといった使われ方が人気です。ファンはそこで記念写真の撮影が楽しめますし、このゲートを通り抜けるといよいよ会場に到着――というワクワク感が味わえますよね。これは、通常の大型ディスプレイやスクリーン等では、難しい演出でしょう。

企業展示会などでは、ロゴなどを表示したゲートの設置も人気があります。ほの暗い空間に、映像が浮かび上がって見えるという今までにない不思議さで、目をひきます。関係のない方でも、足を止めて興味を示される例は非常に多いですね。

また、通常のディスプレイなどを設置すると、どうしても空間にペタッとした平面が生まれ、スペースも必要です。視野角なども計算する必要がありますが、ミストディスプレイには空間になじみ、ミスト自体を透明に設定すると、映像が空間に浮かび上がっているように見せることができるという利点もあります。

ミストは超微細な粒子で、触ると微風のような感触。通り抜けても、体や服が濡れることはない

——映像とディスプレイの先の設置物を、同時に見せることもできますね。

その通りです。ミストの量や粒子の大きさを調整すれば、映像の透過度を変えることも可能です。
例えば、過去に「カーテンの向こうに、リアルな宝物が現れる」という演出に使われたことがありました。ディスプレイ上に映るカーテンが中央から開くと、奥に宝物が現れて、それを取りに行くことができる、という楽しい仕掛けでした。

同様に、大きなミストディスプレイに、扉の映像やゴーサイン・ストップサイン等を表示すれば、人の動きの誘導にも使えるでしょう。

3D映像と、リアルな物体が組み合わされて展示された例(出典:Leia Display K-42参考映像)
独自のきらめきや浮遊感、立体感によって空間を演出。触れる体験もプラスできる


ミストの質感とインタラクティブコンテンツが好相性

——ミスト状のディスプレイだからこその光の美しさや、立体感を表現できることも大きな魅力ですね。

はい。炎や波など、揺らぎやきらめきのある映像は、とりわけ美しく見せることができます。ダンスの背景や舞台美術に用いれば、踊り手が映像を通り抜けたり、映像と動作をシンクロさせたりといった演出などが可能です。ミストを使っているため、ディスプレイの下のほうには、設置場所の風の流れや人の動きによって若干の“揺れ”が生じるのですが、そこをあえて生かしたコンテンツを作成して、面白く見せることもできるでしょう。

もちろん、通常のディスプレイと同様にディスプレイに触れて映像の中のオブジェクトを動かしたり、タッチパネルを表示するといった、インタラクティブ性もプラスできますよ。

既存のディスプレイやPC、タブレットと同様の操作で、表面にタッチしてオブジェクトを動かしたり、文字や絵を描くことなどもできる

ホログラムディスプレイのように、3D映像などの立体表現にも向いています。ミストに触れて立体映像を回したり動かしたりできるので、マウスによる操作やVR上での操作とは違って、自分の手で動かしているような感覚が味わえますね。
実際に、美術品の紹介や、建物などの立体物のプレゼンなどに使用された例もありました。ディスプレイでありながら、見るだけにとどまらない新鮮な楽しさや感動による、新しい体験価値を提供するツールにもなり得るでしょう。

建築物の3Dモデル映像の展示例(出典:Leia Display S-95参考映像「Building360」)

——映像などのコンテンツの制作には、特別な技術が必要でしょうか。

一般的なキネクトのプログラムができれば、コンテンツの開発は容易です。基本的なインタラクティブ動画の制作と変わりません。ただ、透明・半透明を美しく見せるには、やや薄暗いほうが適していますので、設置場所の明るさやライティングなどはプランに入れる必要があるでしょう。

——ディスプレイのサイズや、設置する高さなども変えられるのでしょうか。

はい。大型のスクリーンタイプや、箱型の什器タイプなど、いくつかのサイズを用意しています。小さいサイズなら、ミストを上に向けることもできますし、横に数台繋げても使えますよ。

機材を高い位置に見えない形で設置して、上空に映像やメッセージのみを浮かび上がらせるような利用法も

コーンズ テクノロジー株式会社 電子通信ソリューション営業部 和島以久美さん


空中ハプティクス技術との融合などの可能性も

——その他のテクノロジーとの融合や、画質の向上も可能ですか。

はい。実際に、空中ハプティクス技術などとの相性を模索しています。ミストに触れたときに、触感のフィードバックがあれば、よりインタラクティブな体験が可能でしょう。タッチパネルとして使う際や、文字や絵を描くときに筆のタッチなどが加われば、操作性も向上すると考えています。

画質については、プロジェクターの品質や精度によるところが大きいですね。中でも輝度は重要で、1万ルーメン以上がベターです。「リアルな高画質の追求」という点では、既存のモニターやディスプレイのほうが適しているでしょう。ただ、ミストディスプレイの場合はむしろミストの粒子感を生かしてフィルム風の映像として映し出したり、わざとブレを生じさせたりといった表現が可能です。

上手に活用していただくには、やはり、通り抜けられることや、独特の揺らぎや浮遊感、立体感を感じられることを含めて、ミストディスプレイの特性や表現力に合わせたコンテンツの作成がポイントになってくると思います。

ミストディスプレイ独自の表現力にマッチしたコンテンツが求められる

——通信面がクリアになれば、ライブ配信などにも活用できるでしょうか。

はい。5Gの拡張による通信速度が上昇すれば、ライブ配信など、即応性が求められるシーンでの活用も広がるでしょう。今後は、国内のスポーツイベントやライブ会場、アミューズメント施設でのコンテンツや店舗、ショールームなどの空間演出など、より幅広いシーンで活用されることを期待しています。

一般的なディスプレイやサイネージはもちろん、ホログラム技術や空中ディスプレイ等とも異なる特性を持つミストディスプレイ。独自性と表現力に、よりマッチしたコンテンツの制作が求められます。ライティングや映像のモデリングなどとの組み合わせによっては、今までにない空間演出に加えた、新たな体験の提供が可能となりそうです。
Written by: BAE編集部

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