2023-06-15

メタバース広告の現在地とこれから ── リアルと連動し、拡張する未来

ユーザーの気持ちに寄り添う、体験型広告
2022年、大きな話題となった仮想空間「メタバース」。その注目度は2023年も衰えることなく、さまざまな企業が現在、メタバースのマーケティング活用を模索する動きが続いています。

では、メタバース上に展開する広告「メタバース広告」の現在地とは、どのようなものなのでしょうか。先日、XR領域のマーケティングを専門とする合弁会社「株式会社HIP」を立ち上げた、株式会社HIKKY 代表取締役CEO 舟越 靖さん、カラメル株式会社 代表取締役社長兼CEO 渡辺 淳之介さんに、聞きました。


メタバースの市場規模に比例して、高まる広告への注目度

——HIKKYが展開する「バーチャルマーケット」は、世界最大のメタバース(VR)イベントです。参加ユーザーは世界中から100万人以上。ブース出展だけでなく、メタバース広告へのニーズも高まっているのではないでしょうか。

渡辺――まず前提として、総務省が2022年に発表したデータ によれば、メタバースの世界市場は2021年に4兆2640億円だったものが2030年には78兆8705億円まで拡大すると予想されています。そこには当然、「メタバース広告」領域も含まれます。ですから現在、全世界的にメタバース広告への注目度は上昇していると言えるでしょう。

舟越――コロナ禍によって、オンラインでのコミュニケーションニーズが高まり、メタバース(VR)は一躍、注目ワードとなりました。メタバース関連のクリエイティブに関わる若いクリエイターも続々と登場し、その輪は広がり続けています。私たちはコロナ禍前の2018年から、仮想空間上で「バーチャルマーケット」を展開し、さまざまなノウハウを蓄積してきました。バーチャルマーケット(仮想空間)上に掲出する「メタバース広告」もそのひとつです。そしてその需要は、確実に拡大しています。しかしメタバースイベントの運営と、メタバース広告の制作は、似て非なる部分があり、今回専門の会社を立ち上げることにしました。

「バーチャルマーケット2022 Winter」の出展ブースのひとつ、バーチャル名古屋駅のイメージ

渡辺――コロナ禍が収束しつつあるなかで、メタバースの役割にも変化が訪れると考えています。リアルの代替だった時代から、リアルの延長としてのメタバースへ。よりシームレスに、2つの世界がつながる未来を描いています。そのなかで、自然とメタバース広告のニーズも加速していくと見ています。


「見る」のではなく、「体験」に寄り添うメタバース広告

——メタバース広告の特徴について、詳しく教えてください。

渡辺
――メタバース広告の特徴のひとつに、3D表現が挙げられます。しかし最大の特徴は、オブジェクトの話ではなく、メタバースだから提供できる「体験価値」にあります。そしてその体験(広告)を通して、ユーザーとコミュニケーションすることで、態度変容を促すことがメタバース広告の肝だと考えています。

舟越――バーチャルマーケットの運営経験から、ただの「見る」広告より、エンタメ性の高い「体験型」広告のほうがメタバースでは効果を発揮するという実感があります。特に、ゲーム×広告の組み合わせは、とても相性が良いと感じます。

渡辺――私たちの生活が急激にデジタルシフトしたことで、ユーザーは「Web広告に疲れている」という現状があるように思います。ユーザーが、受動的かつ強制的に見せられる広告にネガティブな印象を持つのであれば、メタバース広告はその逆、ユーザーが自ら触れたくなるような広告を目指すことで、本来の目的である“つながり”を構築できると考えています。

舟越――メタバース広告が普及することで、Web広告全体にも影響を及ぼし、ユーザー起点の広告が主流となる。そんなパラダイムシフトを起こす可能性さえ、そこにはあると思っています。

——他にも、リアルとは異なる、メタバース広告の特徴があれば、教えてください。

舟越――デジタルの世界ですから、取得できるデータはリアルよりも多いですね。

渡辺――アイトラッキング(視線計測)による広告のインプレッションの測定はもちろん、ユーザー(アバター)と広告の距離もわかります。またゲーミフィケーションを取り入れた広告であれば、接触時間も取得可能です。他にも、プラットフォームとして取得している性別や年齢といったユーザーのデモグラフィックデータなどのデータも取得できます。

舟越――将来的には、メタバース上での会話を分析し、特定のワードに連動して広告が表示されるような仕組みが実装できると、メタバース広告の可能性はさらに広がると考えています。しかしそこでも、バーチャルマーケットの理念「バーチャル空間を発展させ、豊かにする」を担保するために、広告がノイズになることは極力避けたいという思いがあります。そしてそれは、ユーザーの「メタバースで楽しい体験をしたい」という気持ちに寄り添うことでもあります。


メタバース広告普及、最大の課題は「時間」と「コスト」

——さまざまな可能性を秘めたメタバース広告ですが、「課題」または「ハードル」となっていることがあれば、教えてください。

舟越――
いくつかあると思います。ひとつは、そもそもメタバースへのアクセスの問題です。高性能なゲーミングPCやVRヘッドセットが必要だったり、スマホメタバースでも、指定されたアプリのダウンロードが必要なケースは多いと思います。

渡辺
――メタバース広告の課題という点では、メタバース用の広告データを作成する必要がある点が挙げられます。たとえば、店頭販促用に撮影した写真素材を、メタバース広告として使用するには、3Dデータに変換する必要があり、時間もコストもかかります。その手間を省力化するために、私たちはHIPを立ち上げたという側面もあります。

舟越――これは、バーチャルマーケットを運営するなかで、メタバース広告を希望される企業の方からも指摘されていた課題であり、メタバース広告の普及のためには、もっと気軽に出稿できる環境を整備する必要があると感じていました。

——今回、誕生したHIPでは、そうしたさまざまな課題をどのように解決していくのでしょうか。

舟越――まずアクセスの問題については、「Vket Cloud」というWebブラウザからアクセスできるメタバースサービスを構築できるエンジンを開発し、PCでもスマホでも、リンクをクリックするだけで、アクセスできる仕組みを構築しました。また、より没入感を味わいたいユーザーは、これまで通り、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の使用も可能です。この、アプリのダウンロードの手間がないというのは、想像以上に間口を広げる効果があると考えています。

ユーザー自身がオリジナルのメタバース空間を制作することもできる「Vket Cloud」。Webブラウザからアクセスできるため、容易にメタバース体験が可能となる

渡辺
――次にメタバース広告の制作に関しては、弊社でテンプレートを用意し、そこに独自の3D変換・合成技術を組み合わせることで、これまですべて一から制作していた工程を省略化することで解決します。

舟越――メタバースイベントにおける舞台は、仮想空間上の“街”であり、実は広告配信をすること自体にも、ハードルが存在していました。

渡辺――HIPでは、メタバース上での広告配信をシステム化することで、一括管理できる仕組みを構築しています。これにより、制作から配信、効果測定までワンストップでサポート。これまで難しかったスピーディーな広告出稿が可能となり、メタバース広告に「即時性」という新たな価値を加えることを実現しています。

舟越――この広告ソリューション「Parad(パラド)」によって、コンテンツ自体を広告として配信することも可能です。そこにはHIKKYが実施してきたバーチャルマーケットにおける体験設計のノウハウが詰まっています。


コンテンツ型のメタバース広告の例大の課題は「時間」と「コスト」

——「Parad」によって提供可能な、コンテンツ型のメタバース広告とは、どのようなものなのでしょうか。

渡辺
――たとえば、映画のプロモーション。恐竜映画の宣伝であれば、作中に登場する恐竜のキャラクターを、ユーザーが協力して倒すというゲームを、メタバース内に配置し、映画の世界観に触れてもらうといったことを想定しています。

メタバース広告ソリューション「Parad」を活用した、コンテンツ型のメタバース広告のイメージ

舟越――従来の広告とは違い、「触って楽しい」を前面に打ち出すことで、ユーザー体験を高めることに主眼を置いています。そしてそれを「ひとりではなく、誰かと協力」することを前提にすることで、広告を通じたユーザー同士のコミュニケーションの広がりにも寄与したいと思っています。 

渡辺――ゲームを通して興味が湧けば、スマホで検索するといったアクションも期待できると考えています。そのためには、情報を押し付けるのではなく、ユーザー自ら情報を取りに行きたくなるような設計にすることが重要です。

舟越――ゲーミフィケーションは、メタバースと相性がいいというのは、バーチャルマーケットでもすでに実証されており、その可能性を「Parad」によってさらに拡張していきたいと考えています。他にも、ゲームをクリアすると、リアルで使えるクーポンが取得できるといった設計も非常にマッチすると思います。

渡辺――メタバース上での広告体験がポジティブであれば、リアルでの行動喚起にもつながります。メタバースからリアル店舗への送客、ブランディングといったことは十分に可能だと考えています。

メタバース内のゲームで遊びながら、現実世界で使えるクーポンを取得するイメージ


メタバースで触れて、リアルで購入する時代へ

——今後、リアルとメタバースを行き来する時代が訪れたとして、そのときメタバース広告が果たす役割とは、どのようなものだとお考えでしょうか。

舟越
――メタバース広告の魅力は「体験」にあります。たとえば「バーチャルマーケット2022 Winter」では、2027年開業予定の「リニア中央新幹線」の試乗を提供し、大きな話題となりました。これも体験の一種、擬似体験ですよね。擬似とはいえど、触れたものへの期待感は高まりますし、興味も湧きます。リアルの前に、メタバースで試す(体験する)というのは、地方創生などにも効果を発揮する活用法だと思います。他にも店舗のオープン前に、バーチャル店舗をオープンして事前に反応を見るといった、テストマーケティング的な活用も可能かもしれません。今後、メタバースで認知(体験)し、リアルで行動に移すといった流れは加速していくのではないでしょうか。

「バーチャルマーケット2022 Winter」では、2027年開業予定の「リニア中央新幹線」の試乗が大きな話題となった

渡辺――冒頭にも申し上げましたが、コロナ禍の収束は、メタバースの終焉ではなく、むしろ始まりだと考えています。SNS同様、リアルとは別のコミュニティ、メタバースでだけつながるコミュニティの形成など、独自の世界観が構築されていくと見ています。そのなかで広告もまた、メタバース広告ならではの進化を遂げると考えています。そしてメタバースの経済圏が拡大すれば、障害のある人の雇用機会を創出するといった、社会課題の解決にも寄与できる可能性があると考えています。

舟越――このように、メタバース活用にはさまざまな可能性があります。だからこそ、最近は自治体や省庁からのお問い合わせも増えています。今年7月29日(土)・30日(日)に、弊社としては初となる、メタバースとリアルのハイブリッドイベント「バーチャルマーケット2023リアルinアキバ」(※)を開催します。ここでもメタバースとリアルを連動させた、新体験のメタバース広告を仕掛ける予定です。ぜひそちらもチェックしてもらえたら、うれしいですね。

※イベントページ:https://event.vket.com/2023Summer/real

株式会社HIKKY 代表取締役CEO 舟越 靖さん(左)、
カラメル株式会社 代表取締役社長兼CEO/株式会社HIP 代表取締役社長 渡辺 淳之介さん(右)
リアルにはリアルの、メタバースにはメタバースの流儀があります。メタ―バース上でのコミュニケーションにおいて、キーワードとなる「エンタメ性」。イベント全体、そして広告に至るまで、メタバースだからこそできる体験や施策と、いかに「楽しい体験」を提供できるかが、メタバースイベント成功の鍵となりそうです。

Written by: BAE編集部

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