2020-09-15

現実を超えたミラーワールド「メタバース」が生み出す、超感動体験の正体

バーチャルがリアルを超越する日
バーチャルリアリティ「VR」のその先。それは現実世界すべての仮想化によって生まれる“ミラーワールド”であるといわれています。これは「メタバース」と呼ばれる概念で、世界の大手テック企業も現在、そのプラットフォーム構築に力を注いでいる状況にあります。

日本では、クリエイティブ集団「PARTY」が仮想空間上であらゆるエンタメ共体験を可能にする、「ヴァーチャル パーク システム」(VARP)を開発。同集団のクリエイター3名に、「メタバースが切り拓く未来」をテーマに、お話を伺いました。


“次のGoogle”はメタバースから生まれる

クリエイティブ集団「PARTY」 Contents Producer:山中啓司さん、TD/Programmer:梶原洋平さん、Planner:眞鍋海里さん

——まず、メタバースとは何かについて、教えてください。

梶原――メタバースを一言で説明するのは非常に難しいのですが、いわば仮想空間上の“ミラーワールド”。2000年代に流行った「Second Life(セカンドライフ)」はまさに、それを具現化しようとしたものだったといえます。

しかしそれ以前、1990年代には「メタバース」という概念は存在していたと記憶しています。以来、何度もさまざまな企業が「現実世界の仮想化」にトライしてきた歴史があります。

では、なぜここに来て、再びメタバースに注目が集まっているのか。そこには、テクノロジーの進展が大きく関係しています。GPSやセンサー、ハプティクスなどの精度が高まり、仮想世界にいながら、リアルな情報や体験をビット化された情報空間を介して共有可能だからです。

現在、世界の大手テック企業は「メタバース」のプラットフォーマーになるべく、しのぎを削っています。なぜなら、そのポテンシャル、想定される市場規模は超巨大なもので、“次のGoogle”は、メタバース関連事業から生まれると考えられているからです。


山中――現在、メタバース世界の構築にいちばん成功している、といわれているのが3億5千万以上もの登録ユーザー数を誇るマルチプレイゲーム「Fortnite(フォートナイト)」です。ゲーム内では、ユーザー同士がコミュニケーションを取り、最後のひとりになるまで戦い続けます。すでにプラットフォームとして機能しており、ゲーム内で行われるイベントにも、多くのユーザーが自身のアバター経由で参加しています。

今年4月、ゲーム内で実施された、人気ラッパーのトラヴィス・スコットのバーチャルライブ『Astronomical』は、同時接続数1230万を記録。これは「未来のフェス」のカタチともいえるもので、バーチャル空間上でのライブのポテンシャルの高さを世界に示す出来事となりました。

——仮想空間上におけるライブの「ポテンシャル」とは、具体的にどのようなことなのでしょうか?

梶原――アバターを通じて、“仮想のフィジカルな場”と“時間”を「リアルタイム」に共有することで、そこに一体感と感動が生まれる。これによって、「行けなくても楽しめる」という新しい楽しみ方が実現しました。

眞鍋――私も実際に視聴したひとりですが、アーティストが巨大化するなど、バーチャル空間でしか成し得ない演出によって表現されていて、非常に感動しました。アートにも近い“新しいエンタメ”のカタチ。そんな印象を受けました。

梶原――ちなみに、ゲームとメタバースの親和性が高いのは、毎日ログインし、かつプレイ時間が長いからです。同じくメタバース的な世界観で成功している「あつまれ どうぶつの森」もやはりゲームですよね。この流れを見る限り、今後ゲームがメタバースの最大プラットフォームとなる可能性は、十分にあるといえるでしょう。

眞鍋――ひとつ補足をすると、メタバースが今後広がるであろう最大の理由は、デバイスや通信の進化にあります。つまりユーザー側の環境が整ったわけです。


バーチャルライブは、もっと身近な存在になる

——バーチャル空間上で楽しむライブは、今後広がる可能性が十分ありそうです。

山中――はい。私たちは昨年、ソフトバンク社のプロモーションの一環として、野外ロックイベント「フジロックフェスティバル」のバーチャル化を実現しました。ソフトバンク社の5G基地局を会場に設置し、自宅などどこからでもバーチャル会場を行き来でき、会場の熱気を体感できるように設計しました。

会場にはセンサーを多数設置し、会場のリアルな人数や、盛り上がりをデータ化し、バーチャル空間上にも同じように反映しました。

PARTY社が手掛けた「FUJI ROCK'19 EXPerience by SoftBank 5G


山中――さらにバーチャル空間内のステージには、YouTube Liveによる中継映像が流れるモニターを設け、ライブ映像もリアルタイムに放送。加えて、まるで現実世界を歩いているような感覚を楽しめるように会場の細部まで再現しました。結果、SNS上には「行けなかったけど、楽しめた!」といったポジティブな投稿が並びました。

このプロジェクトでは、リアルとバーチャルのどちらでも楽しめることに、こだわりました。それを実現できたのは、5Gというリッチなインフラがあったことも大きく、今後通信環境がさらに向上すれば、新たな可能性がいくつも生まれると実感しました。

——リアルのバーチャル化。PARTYが開発した「VARP」もそれを可能にするものですよね。

山中――はい。現状、リアルイベントの開催が難しい状況にあります。アーティストが音楽を届けられない。それを自分たちのできるカタチでサポートできたらという思いがあり、私たちは仮想空間上であらゆるエンタメ共体験を可能にする、「ヴァーチャル パーク システム」(VARP)を開発しました。

梶原――VARPは、「Cluster」のようなプラットフォームとは違い、自由に世界観を構築できるアプリです。プラットフォームを活用するのは便利ですが、一方で制限が生まれてしまうというデメリットもあります。

たとえば、楽天市場は店舗がずらりと並びますが、フォーマットがあるため、自社のブランドの世界観は表現しづらいですよね。だからブランドによっては自社ECを展開するわけです。その発想に近いですね。

今回、私たちが目指したのはアーティストならびにクリエイターのサポートです。そのためには、世界観も自由に作れる必要があると考えました。

VARPを使えば、自分の思うライブ、そしてライブ演出をバーチャル上で表現可能です。また、バーチャル空間で行うことで、リアルでは収容できない人数の集客ができたり、遠隔からの参加もできたりと、さまざまな可能性が生まれることも魅力のひとつです。



山中――アーティストのライブだけでなく、ファッションショーやトークセッション、これまでリアルで実施できていたイベントはすべて、VARPによってバーチャル化が可能です。

ユーザーはまるでゲームで遊ぶかのような世界の中で、自分のアバターを駆使してイベントに参加し、ライブを鑑賞。課金して応援するシステムなども設定することができる仕様になっています。

先日、VARPを使ったアーティストのバーチャルライブを行ったのですが、そこでは、リッチなバーチャル体験はもちろん、リアルとバーチャルをつなげることも意識しました。

VARPを使った「HIP HOPアーティスト kZm のバーチャルライブ」の予告動画

山中――このライブでは、3Dスキャン技術を使ったアバターやモーションキャプチャー、CG映像を組み合わせてアーティストの世界観を表現。専用アプリ「kZm LIVE by VARP」をダウンロードすることで、誰もが無料で参加可能としました。

アーティストの巨大なアバターが出現したり、空間全体を演出装置として使いアーティストや曲の世界を体感できるようにしたりと、単なるリアルライブの代替品ではなく、バーチャル空間だからこそできる演出にこだわりました。また、バーチャルライブを現実の世界でも盛り上げる1000名限定のスペシャルボックス(エナジードリンク、オリジナルグッズ)を無料でプレゼントすることで、リアルとバーチャルをつなぎ、より大きな感動体験を生み出すことに成功しました。

結果、同イベントには、総ユーザー数約2万人(武道館2days分)、ピーク時には約8,000人が同時参加。SNSにも動画や写真付きの好意的な投稿が並び、VARPならびにバーチャルライブのポテンシャルの高さをあらためて、感じる機会となりました。


今後、仮想空間でのプロモーション活動も増加

――リテールメディアの国内・海外動向についてお聞きできますか。

梶原――バーチャルだけど、リアル。それをいかに作り出すかがバーチャル空間上では重要です。それさえクリアできれば、クルマなら試乗会、洋服なら試着、家具ならリアルな自分の部屋にレイアウトできるなど、拡張性は非常に高いと思います。

バーチャルライブでは、3DスキャニングされたNIKEのスニーカーをkZmが着用してパフォーマンスした

梶原――ブランドとしても、自社の商品の世界観に合ったものとコラボできますし、ブランディング戦略のひとつとして、バーチャルライブとのコラボという選択肢は今後、確実に増えていくのではないでしょうか。

眞鍋――リアルにしろバーチャルにしろ、体験には“濃度”が必要です。VARPのようなバーチャル空間上のリッチな体験は、リアル同様、ユーザーの心に「深く刺す」ことができますから、ブランド体験としても高いと考えています。

梶原――バーチャルフジロックも、今回のバーチャルライブも、あえてゲーム的な世界観にしているのは、ユーザーが入りやすいからです。ある意味、トレンドともいえるでしょう。

将来的に、もっとリアルな造形が求められるようになれば、表現技法も当然、変化します。その頃にはもっと仮想空間は私たちにとって、今のインターネットのような"インフラ"に近い存在となっているでしょうし、リアルとバーチャルのつながりはさらに強いものとなっているはずです。

その未来でも、VARPの生み出すエンタメ共体験が、多くの人たちの心に感動を届けられていたら、こんなにうれしいことはないですね。
世界が注目する現実世界の仮想化「メタバース」。その中で注目を集めているのが“ゲーム的”というキーワードです。ビジュアルや仕掛け、さらにはプラットフォームまで、現状は“ゲーム的なもの”が主流となっています。

5Gの登場、テクノロジーの進化、そして新型コロナウイルスの影響により、仮想空間の必然性や需要は今後更に加速するでしょう。「バーチャルだけど、リアル」なコンテンツや演出をいかに作り出せるか、そしてそこにはゲーム的な世界観がひとつ重要なポイントになりそうです。
Written by: BAE編集部

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