2019-05-23

インスタ映えに続くSNS上のトレンドは「エモい写真」。その魅力と拡散力の理由とは

スマホ世代にも響く「エモい」フィルム写真の懐かしさ
近年のSNSの発展に伴って、写真の価値やアプローチは大きく変化。写真の撮影・投稿によるコミュニケーションは当たり前になり、PRや広告上でも欠かせない仕掛けとなっています。人々は今、どのような写真表現に魅力を感じるのでしょうか。
出張写真撮影サービスを提供し、今年2月に書籍『エモくて映える写真を撮る方法』(KADOKAWA)を出版した株式会社ラブグラフの駒下純兵さん、村田あつみさんにお話を伺いました。


目に見えないものに価値を見出す

――近年のSNS上の写真トレンドの変遷について教えてください。

駒下――Instagramが人々に浸透した2016年頃は、彩度が高めで、キラキラ加工・ふわふわ加工などを施した、非日常的な「インスタ映え」する写真が人気でした。2018年頃からは、フィルム風の加工や海外風のレタッチによる「エモい(感情的・情緒的などを意味する『emotional』を、形容詞化した新語)」写真が注目されています。

2016年頃からのSNS上の写真トレンドの変遷

――「エモい写真」と「インスタ映えする写真」はどう違うのですか。

村田――「インスタ映え」は、背伸びをしたり、見栄を張ってみせる写真で、目に見えるものに価値を見出します。かわいいカフェのスイーツや旅行先のおしゃれなスポットを、可能な限り綺麗な形で写したり加工したりして、理想を表現する未来志向の世界です。
対して、「エモい写真」は、目の前のものから幸せを感じとり、ありのままの姿を大切にする、等身大の日常的で自然な写真で、目に見えないものに価値を見出します。過去を回想させる表現でもあり、抽象度が高くても、マスに対して潜在的な共感性を呼びます。


――「インスタ映え」から「エモ映え」にトレンドが移った背景には、どんな理由があるでしょうか。

駒下
――まず一つ目に、デバイスの変化が関わっています。スマホのカメラや画像加工アプリは年々進化して、高画質で「映える」写真がプロのカメラマンでなくても撮れるようになりました。すると、感度の高い人々は「人と違う偶発的な写真を撮りたい」と考えるようになり、フィルムや使い捨てカメラの仕上がりや味わいが再評価されました。

2018年末の駒下さんのSNSへの投稿

駒下――もう一つ関係してくるのが、世代的な背景です。SNSを日常的に利活用しているミレニアル世代は、ネットの恩恵によって生まれた時から映画、動画、音楽、美術などの大量のコンテンツに当たり前に触れています。背伸びして車や時計といった高級なものを所有しなくても充分に楽しめるからこそ、等身大の自分やその暮らしに疑問を抱きません。

かつては「今のありのままの自分っていいよね」と言うことは負け惜しみとされていましたが、今の若い世代は過去の自分と現在の自分を肯定する力があり、本当に「物を持たなくても幸せ」と感じています。だからこそ、見栄や理想ではなく、思い出や今の感情にフォーカスするエモい写真に魅力を感じるのではないでしょうか。
インスタ映えに疲れた人々に揺り戻しが起きて、エモい写真の“わびさび”が再評価されたということもあるようです。
株式会社ラブグラフ CEO & photographer 駒下純兵さん、Co-founder & CCO 村田あつみさん

――「エモい写真」の後は、どんな写真トレンドが来るでしょうか。

村田――スマホの標準カメラで撮った、無加工の写真などが注目され始めていますね。実際に、インスタでは若い世代への影響力の高い、タレントのオクヒラテツコさん(ぺこさん)などがこの手法で投稿を始めています。
韓国や台湾などでこれから誕生するトレンドも、日本に輸入されてくると思います。一方、「エモい」よりもさらに抽象的で、透明感が高く、クリエーティブな写真も求められるのではないでしょうか。


「写真+タグ」の力で、まず同じ価値観の人に届ける

――「エモい写真」を撮るための、手法などはあるでしょうか。

駒下
――簡単にマス受けを狙うなら「フィルムカメラで撮る」ことでしょう。または、デジタル撮影でも、加工でフィルムっぽさを出します。具体的には、画面をやや暗めにして粒子を乗せる、水平を壊す、わざとブレさせる、自然な表情を映し出す、といった写真です。頭の中で過去を思い返すとき、イメージは鮮明でないことのほうが多いと思います。そんな風に記憶と結びつけたり、過去を連想するようなフィルムテイストがマスの思う「エモい」を生み出します。

――「エモい」写真で世界観やメッセージを表現する際に、多くの人に共感を得るためのポイントはあるでしょうか。

駒下――ポイントの一つは、写真にストーリー性を持たせることです。私たちもSNS上で、いきさつや時系列がわかるように複数枚を使ったり、連続写真を使います。「点の写真ではなく、線の写真」です。
連続でつながる一連の流れや、時間軸の変化を読み取ってもらえる置き方・見せ方を工夫すると、見る人の感受性に訴えかけることができ、関心や共感度が上がるでしょう。

留学する親友のために、他の二人がラブグラフに依頼をして撮影された連作(撮影:Photographer 遥南 碧)

村田――SNS上でも、ポスターなどでも、キャプションや文字も重要な要素です。例えば、今までに当社のクリエーターが仕掛けて、SNSのトレンド入りしたタグの一つに「#バイバイ制服」があります。卒業を控えた中高校生達の姿を写真、映像、言葉で表現するというものです。

「卒業」というライフイベントによる事象や既存のイメージを「#バイバイ制服」というわかりやすいコピーに集約して発信することで、新しいコンテンツとして直感的に認識してもらうことに成功しました。同様のテーマとコピーで、通信企業や音楽企業の広告にも採用されています。

「#バイバイ制服」の写真とタグに心を動かされた多くの中高生が、同じテーマでSNS上に写真を投稿してブームに(企画:photographer マルチクリエイター わたらいももすけ)

村田――タグがイベント化して拡散された理由は、「#バイバイ制服」というシンプルな言葉によって一連のテーマに再現性が生まれ、誰でも真似しやすかったことと、「一生の友達との写真を残したい」という中高生側の明確な“WHY”があったからでしょう。同様の手法を広告に利活用するには、このWHYをどう引き出せるかが鍵になると思います。
それには、シンプルでわかりやすく、オシャレでありすぎず、共感を呼べるようなコピーのセンスを鍛えることが求められます。カップルやファミリーの出張撮影を行っている当社のテーマの一つである「#幸せな瞬間をもっと世界に」も、1カ月で1万PV以上を獲得しましたが、これもわかりやすさが力になっていたと思います。仕掛ける側のクライアントや制作チームが、コンセプトを強く共有する必要もあるでしょう。

――今後、SNS上の写真を使ったコミュニケーションはどう変わっていくでしょうか。

駒下――近年、SNSを日常的に活用する人々のリテラシーは非常に高くなり、誇張した広告等は嘘だと見破られます。過度な押し付けや、上から物を言うスタンスも受け入れてもらえません。
既存の広告やCMなどで「買いたい人に直接売ろうとする」だけでは続かない時代になりました。「売れた・売れない」にこだわりすぎず、「エモ映え」のような手法でまず同じ価値観を持つ人に届けたり、理解してもらうことを優先することが、今後ますます重要になるのではないでしょうか。

スマホ世代に「エモい写真」が響く理由は、戦略的なプラットフォームの設定ではなく、誰もが内包する思い出や懐かしさといった価値観や感覚の共有にありました。目に見えない価値をどう表現し、うまくコミュニケーションを作るか。同じ価値観の人に届く世界観やメッセージで関心や共感を生み出すことが重要です。

Written by: BAE編集部

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