Z世代が最も信頼する基準の一つが「オーセンティシティ(真実性)」です。彼らは、誇張された表現や見栄えを良くするための虚飾、そして作られたフェイクに対して非常に敏感であり、強い嫌悪感を抱く傾向があります。今まで好きだったブランドや人に対しても、少しでもフェイクの要素が見えると、信頼を失い、顧客が急速に離反する可能性を秘めています。
ソーシャルメディアの例としては、加工された画像ではなくリアルな日常を共有する「BeReal.」の人気が挙げられます。これは、従来の「映え」文化とは異なり、ありのままの姿が価値として見いだされている証拠です。また、Z世代はPR表記にも敏感で、「#PR」と明記されているだけで、その投稿を見ない人もいると指摘されています。彼らにとっては、「何を言うか」よりも「誰がどう語るか」「それが本物らしいか」という基準で、商品やサービスを選別する姿勢が顕著です。
画像は「BeReal.」公式HPより
広告の面でも、この真実性は重要です。例えば、とある飲料メーカーのCMでは、女優の実際の友人が登場し、自然な会話や生活の文脈の中に商品が登場する構成が、オーセンティシティを感じさせると評価されました。また、某大手ゲーム会社の家庭用ゲーム機のCMも、実際にゲームを楽しんでいる人々の姿を映すことで、真実性が伝わり、購買意欲に繋がりました。
オーセンティシティは、トライアル購入とロイヤリティ維持の両方において、価値の基盤となります。共感を呼ぶコンテンツや友人からの推薦、漠然としたポジティブな感情(「なんか好き」)が最初の購入に繋がるかもしれませんが、ブランドを継続的に利用し、ロイヤルカスタマーとなるためには、真実性に基づいた信頼と一貫したポジティブな関係性が不可欠です。企業側は、誠実なコミュニケーションとブランド運営を徹底し、この真実性を基盤とすることが求められます。
「AIネイティブ」のα世代が今後、購買主体となっていくことを見据え、AIが生活者に与える影響について考慮することが必要となってきます。実際、AIの浸透は、Z世代の消費行動に既に変化をもたらしています。具体的にどのような変化が起きているか、それに対して企業はどう対応していくべきなのか、次でご説明したいと思います。
つまり、「AIにおすすめされる=売れる」とは一概に言えません。ですが、目に触れる機会が増えることで、結果的に売れる可能性が高まるというのも事実です。これはSEOの仕組みにも似ています。SEOも検索結果で上位に表示されてもモノが必ず売れるわけではありませんが、多くの人の目に留まることで、興味を持たれる機会が増え、購買に繋がる可能性は高くなります。
こうした背景から、近年ではSEOに代わる概念として「AEO(アンサーエンジン・オプティマイゼーション)」が注目されています。AEOは、AIに対して信頼性が高く、わかりやすい情報を提供するための最適化手法です。従来のSEOではキーワードやタイトルの工夫が重視されていましたが、AEOでは正確性、信頼性、一貫性、一次情報、最新性、そして明快な構造といった要素が重視されます。つまり、AI時代に対応するには、これまでとは異なる視点で情報を設計する必要があるのです。
以上を踏まえ、企業はAIで変化する生活者に対して以下の戦略が求められます。
(1)パーソナライズと訴求文脈の最適化
企業は、AIが「この商品を買うべきだ」とレコメンドしてくれることをゴールと仮定し、ペルソナを深く研究する必要があります。そして、そのペルソナに対してAIがおすすめしやすいような商品の訴求文脈を構築し、AIが学習できる形で情報を展開していく必要があります。
(2)情報発信の多角化とポジティブ情報の浸透
AIはインターネット上のウェブサイトやSNSのデータを学習するため、ポジティブな訴求情報がSNSを含むあらゆる参照元メディアに広く浸透していることが重要です。SNS上にネガティブな情報があふれると、AIがそれを参照し、企業にとって不利な情報を出す可能性があるため、望ましい解釈に誘導するためにポジティブな情報をあらゆる場所で発信していく必要があります。
(3)AIの多様化への対応
AIは今後さらに多様化し、さまざまなAIが使われる世界が予測されます。企業はそれぞれのAIの用途やアルゴリズムをしっかり研究し、そこでおすすめされるような戦略を立てる必要があります。AIは比較検討のフェーズを担うため、最終的な購買までを一気通貫でサポートする役割を果たすようになると考えられています。
(4)最適解の時代にこそ光る「偏愛商品」
AIの最適化が進むことで、効率性やパーソナライズはさらに高度化し、多くの商品が「最適解」として提案されるようになります。AIネイティブのα世代には、万人受けする「80点」ではなく、一部の層に刺さる「120点」の尖った商品が求められます。「みんなの70点、誰かの120点」となる“偏愛商品”の開発が鍵です。その実現には、従来の枠にとらわれないN1分析と、高速なPDCAによる柔軟な戦略が必要です。
Z世代やα世代の消費行動は、効率性と感情的価値、テクノロジーとの共存といった多層的な特性を持っています。企業は、彼らの価値観や行動様式を的確に捉え、AI時代に即したパーソナライズ戦略と偏愛を生む商品設計に取り組むことが重要です。若年層の今を見つめることが、未来の市場を切り拓く第一歩となります。
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