2021-05-21

Z世代調査から見えてきた、「自分軸」視点の価値観

モノを選ぶ基準は「自分」の不安解消や成長につながるか否か
日々メディアで取り上げられるZ世代のトレンドは、彼らのどのようなライフスタイルから生まれているのでしょうか。SNSなどを通じたコミュニケーションの実態や、メディアとの接触状況などの視点から、Z世代にアンケート調査を実施。電通テックで若者研究を行っている堀かおりが、その結果を読み解きました。

(調査概要)
全国47都道府県から、3,779 サンプルを回収
男性 / 女性 3 つの年代(15歳未満、15-19歳、20-24歳)
本調査 2021 年 1月(回収期間:1/20 ~ 1/25)

※2022年4月より電通テックから電通プロモーションプラスへ社名変更しました。


複数コミュニティを横断することで、自己演出に長けたZ世代

――今回、調査を実施した狙いを教えていただけますでしょうか。

2018年より、Z世代メンズ美容メディア“Boys Beauty”の運用を通して、直接彼らと対話をしながらZ世代の消費行動やライフスタイルの研究をしています。Z世代についてメディアが取り上げる際、彼らの間での流行りモノや流行り言葉に着目されることが多いのですが、それらのトレンドを生む背景にあるものを調べるために、以前から単発で調査を行ってきました。そういった取り組みの延長として、今回からはいくつかのテーマに絞って継続的にアンケート調査を行うことを見据え、社会情勢によって結果がどのように変化していくのかを追うことにしました。

――今回のアンケートでは特にZ世代の友人関係に関する質問を重点的に行われていましたが、得られた回答から注目されたポイントはどこでしょうか。

図1 友人のタイプ別のコミュニケーション手段

友人のタイプによってコミュニケーション手段が変わるという点が興味深かったです(図1)。学校の友人や幼馴染など直接の面識がある友人に対しては、LINEのトークや電話がメインの連絡手段となりますが、SNSやオンラインゲームなどを通じて知り合った共通の趣味を持つ友人などに対しては、やはりTwitterやInstagramの割合が大きくなります。出会った場がそのままコミュニケーションに使われているのです。「SNSで知り合って会ったことがある友人」という項目では、LINEのトークの割合が再び大きく上回ります。

――「親密さ」をはかるコミュニケーション手段として、LINEが1つのバロメーターになっているということでしょうか。

そうですね。「親友」とのコミュニケーション手段は?という質問でも、LINEのトークという回答が80.2%と圧倒的でした(図2)。逆に言えば「直接会ったことがある」という経験が、互いの信頼度を高める因子として重要であることをあらためて実感しました。Z世代は大人たちと比べると、ネットを通じて人間関係を形成することに抵抗感がなくなっているかと思いますが、この辺りの認識は普遍的なんだなと。


図2 親友とのコミュニケーション手段

――今回のアンケートでは「親友」と「友人」を使い分けて意識調査されているのも、印象的でした。両者にはどのような違いが表れましたか。

「あなたにとっての親友はどんな存在ですか」という質問をしたのですが(図3)、回答の多かった項目は「何でも相談できる」、「何でも隠し事なく話せる」などで、「自分の趣味を共有できる」、「共通の趣味で一緒に盛り上がれる」という回答は思っていたほど大きくは伸びなかった。「親友」という分類において、「趣味」という要素が介入してこないことが見えてきました。


図3 親友とはどのような存在か

――趣味などの共通の話題を超えた存在が「親友」ということですね。その認識も全世代で共通する部分かなとは思いますが、「何でも相談できる」が約半分の50.2%という結果は、少し寂しい印象もありますね。

そうですね。やはり「友人」における「親友」の割合は相当絞られているのではないかと思います。今の若者たちは、例えば同じ趣味の仲間を見つけたいと思った時に、日常における家族や学校といったリアルなコミュニティの中で見つけることができなくても、インターネットで別のコミュニティから探すことができる。いい意味でいうと、選択肢が増えました。一方で、多数のコミュニティを横断する中で、軸足がどこか分からなくなってしまう。これが、「親友」のような深い人間関係を構築しにくい理由かなと思います。

――所有するSNSのアカウント数に関する質問においても、アカウントを2個以上持つことは、もはや当たり前であることが結果から見えます(図4、図5)。
図4 Twitterのアカウント数、図5 Instagramのアカウント数

複数アカウントを、とても器用に使い分けていると思います。例えば1個目のアカウントは、学校の友達などリアルで会ったことのある人用、2個目以降は趣味でつながった人用というように(図6)。普段の友達とのコミュニティの中でニッチな趣味の話題を出しても相手にとってはただのノイズでしかないので、タイムラインを汚さないために、アカウントを分けていくのです。

図6 Twitterアカウントの具体的な用途

また、比較すると興味深いのですが、TwitterとInstagramでの使い分けも、アンケートから見えてきました。1個目のアカウントの用途を比べていただきたいのですが(図6、図7)、リアルな友人とのコミュニケーションの割合が、Instagramの方が圧倒的に多いんですよね。Twitterはほぼ真逆の結果で、リアルが3割くらいなのに対し、情報収集や趣味友達との交流用が7割ほど。ここから言えることは、Instagramは日常に紐づいていて、リアルな世界で自分をどのように見てほしいか、その輪郭を示す場所、Twitterは、ビジュアルではなく、テキストコミュニケーションであることも一因かと思いますが、自分のより深い、内面的な部分を示す場所、という印象があります。

図7 Instagramアカウントの具体的な用途

――アカウントの使い分けだけでなく、SNSごとの使い分けもしているとなると、日常のライフスタイルにも影響がありそうですね。

はい。私も日頃Z世代の若者たちと接する機会があるのですが、コミュニティごとにキャラクターを使い分けることに慣れているせいか、自己演出というか、自分プレゼンがうまいという印象があります。その場その場に応じて、相手を不快にさせないようにコミュニケーションができる。こんなことを言ってほしいんだなということが分かれば、相手が望んでいるような受け答えもできる。こういった能力は、例えば就活の場などにおいて彼らの強みにもなるのですが、自分の中に確立された1つの自分が無いということで、社会に出たタイミングでアイデンティティについて悩んでしまう子が多い。それと同時に、1つのコミュニティで深い人間関係を築けないので、いざという時に本当に頼れる人がいない。それこそ、今回のコロナ禍で一人暮らしの大学生が孤立してしまうというのも、そういった状況が影響しているんだと思います。


音声情報を取得するチャネルが多様化してきている

――メディアとの接触時間についてもアンケートをとられていますが、思いのほか、テレビが見られているようにも感じます。
図8 【平日】各メディアとの1日当たりの接触時間、図9 【休日】各メディアとの1日当たりの接触時間

そうですね。やはりスマホは90%以上が平日休日ともに1時間以上接していて圧倒的ではあるんですけど、テレビがこれだけ強い理由は「ながら見」ができるからではないでしょうか。雑誌や新聞は集中して読む必要がありますが、テレビは半分BGM的に音楽のように垂れ流すことができる。また、ドラマなどの番組をリアルタイム視聴しながら、Twitterで盛り上がるという新しい楽しみ方が生まれているのも、テレビがいまだ根強く視聴されている理由かなと思います。

――とはいえ、動画配信サイトなどで好きな番組を好きな時間に見るというスタイルに慣れたZ世代には、テレビの視聴スタイルはもはや合わなくなってきているのではないでしょうか。

それを踏まえても、基本は朝なんとなくニュースを流しておく、夜暇だからバラエティ番組を流しておくという「ながら見」スタイルで、どうしても見たい番組はTVerやAmazon Prime Videoで追って好きな時間に視聴するという感じでテレビを見ています。アーカイブを利用できるようになって、テレビも柔軟に楽しめるようになってきています。

――ラジオの視聴時間が、新聞や雑誌をやや上回っているようです。最近では音声SNSも注目されていますが、音声メディアは若者たちにはどのように受容されているのでしょうか。
若者たちの間で、音声メディアや音声SNSが特別盛り上がっているという印象はありません。というよりも、音声情報に接するためのチャネルが多様化しているということではないでしょうか。例えば勉強をする際のBGMとしてYouTubeで集中できる音楽を探してくるといったように、動画プラットフォームを音声メディアとして利用するという使われ方は増えているんです。好きなアイドルや芸人さんが出演するから聴く、それがたまたまラジオであったというだけで、その時一番アクセスしたいプラットフォームを状況に応じて選んでいるだけです。

――音声で情報を得るという状況は変わらず、その視聴スタイルが変わっているということですね。
そうですね。Z世代に話を聞くと、本を読んでいたり手を動かしたりしている時に、周囲が無音だとストレスを感じるというか、「耳が暇」「耳が空いている」という感覚になるようです。そこを埋め合わせたくて、音楽やラジオを聴くというアクションにつながるということがあるかもしれません。そういう意味では音声情報には依然として需要はありますし、音声メディアの可能性はあると思います。あとはコンテンツ力の勝負になってくるのではないでしょうか。


地に足のついたZ世代に響く「自分軸」目線のアプローチ

――アンケートからは、Z世代にサブスクリプションサービスが思いのほか浸透していないことがうかがえます。よく言われるのが、学生はクレジットカードを持っていないから、サブスクの利用率が低いという言説です。

図10 サブスクリプションサービスの中で、利用しているサービス

それもあると思いますが、自由に使えるお金が少ないというのが大前提にあると思います。必要な時に必要なものだけ購入するというスタイルに慣れている分、毎月固定で支払わなければいけないサブスクは短期的にはコスパが悪く感じられてしまう。ただ昔のように車やブランド品など、モノを所有することに価値があった時代と比べると、今の若者はそこまで“所有”に対して執着はないので、潜在的にはサブスク需要はあると思うんですよ。

――若者にサブスクを利用してもらうためには、割安感を演出することが鍵でしょうか。

そうですね。現段階では将来の顧客と見越して、まずは学生プランなどでサブスクのシステムに慣れてもらって、コスパのよさを感じてもらい、社会人になってからも利用してもらえればいいのではないでしょうか。

――最後に、今の生活への満足や、将来への希望についてのアンケートのことをお聞きできればと思います。「今の生活に満足していますか」「5年後の未来に希望を持てますか」といった質問項目があるのですが、思っていたよりも満足度が高く、将来にも希望を抱いているという印象がありました。

回収期間が2021年1/20 ~ 1/25と、一部地域では緊急事態宣言の只中にあり学生たちも大変な状況ではあったと思いますが、そこまで悲観的ではないのかなと思いました。ただ感覚としては、今の生活に満足しているというよりは、大きな不満はない、マイナスポイントがないから、まあ満足かなくらいのフワッとしたものかなと思います。

図11 今の生活に満足しているか、図12 5年後の未来に希望を持てるか

――今の状況に不安や不満を感じていて、もっと上を目指したいといったような向上心の強い若者はいないのでしょうか。

むしろもっと地に足のついた考え方をしている印象があります。モデルやインフルエンサーの子に会っても、この仕事はいつか賞味期限が切れるから、ちゃんとスキルを身につけて次の仕事につなげたいと言う子が多いですね。ある意味勘違いしないで、客観的に自分を見られているといいますか。

それに関連してお話しすると、私もよく、Z世代にモノを買ってもらったり、サービスを利用してもらったりするにはどうすればいいのか、と企業から聞かれることがあるのですが、Z世代の中で「自分」というのが大きな判断軸になっていると思っています。5年後の未来に希望を持てないと答えた方に「何に対して希望を持てないのか」と聞いたところ、1位が「自分自身」(67.6%)という結果になりました。

図13 5年後の未来、何に対して希望を持てないのか

つまり、今の自分が将来、社会の中で生き延びられるのかなという不安が大きいと思うんですよ。
そのため、企業がZ世代にアプローチをしていくとしたら、その商品やサービスを利用することで、今不安に思っていることを取り除いてくれるのか、自分の成長につながるのか、といったことが分かりやすく説明されていることが、大事なのではないかと思います。例えば就活用の自社サイトでも、会社の知名度、規模、実績といった要素よりも、Z世代が気にしているのは、入社してから受けられる研修の内容とか、取れる資格とか、どんな技術を身につけられるかということ。「自分軸」というポイントをおさえてアプローチすることが、Z世代とのコミュニケーションに求められているのではないでしょうか。

一方的に自社や自社の商品の良さをスピーチしても彼らにはなかなか届きません。彼らの人生・生活のどの場面でどう役立つのか、彼らの悩みをどう解決して結果どう良くなるのか、を彼ら自身が想像する必要がないわかりやすく解説をしてあげることが、コミュニケーションにおける重要なポイントです。

今回の調査から、さまざまなコミュニティを横断して生きているZ世代のライフスタイルが実際の数値とともに浮き彫りとなりました。「自分」という軸が揺れているZ世代だからこそ、商品やサービスをプロモーションする上でも、キーワードとなるのは「自分軸」。地に足をつけて将来を見据えている彼らにとって、それを得ることでどのようなメリットがあるのか、できる限り具体的に伝えてあげることが大きなポイントとなりそうです。


堀 かおり(ほり かおり)
株式会社電通テック +tech labo研究員
2014年電通テック入社。店舗運営や外資系企業のプロモーションに携わる。2018年5月より未来志向の開発型組織+tech laboの研究員となり、Z世代とSNSをテーマとして日々開発業務を行う。2018年末よりZ世代男子の美容に対する意識の高さに注目しており、彼らに向けて美容情報を発信するInstagramアカウントBoys Beauty(@boysbeauty_jp)をLIDDELL株式会社と共同で運用している。

Written by: BAE編集部

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